インバウンドコラム

第20回  タイ人誘客の起爆剤になるか? タイドラマ『きもの秘伝』北部九州ロケ

今,九州はタイでの映画やドラマ、プロモーションビデオで注目を集めている。
特に今年5月に北部九州で撮影が行われた「きもの秘伝」はタイの大物俳優バード氏が17年ぶりに主演を務めることで話題になっている。
今回は来年2月の放送を前に、誘致から撮影、その後の受け入れ体制の強化についての先取り現場レポートをお届けする。
※タイトル写真は、主役のバード氏(トンチャイ・メーキンタイ)とヒロインのチョンプー氏(アラヤ―・ハーゲート)。

目次:
1.LCC効果とタイでの映画、PV人気で盛り上がる九州
2.映画、ドラマロケをきっかけに誘客~受け入れを整える自治体
3.覚悟を決めて地域全体で効果をあげていく

 

1.LCC効果とタイでの映画、PV人気で盛り上がる九州

7月の訪日外客数が単月過去最高の127万人を超し、その中でもタイ人は42900人と7月では過去最高を記録し、42%の伸びになっている。
特に九州は6月下旬にLCCのジェットスターが福岡 – バンコク線を就航し、タイからの集客が追い風になっている。8月19日に福岡空港でチェックインの状況を取材すると、搭乗客の6割以上はタイ人で、大きな荷物や土産を手にしている。ファミリーや若者が多く見受けられるのも特徴的だ。

まだまだタイ人には知名度が低い九州だが、映画やプロモーションビデオの公開で、徐々に注目を集めている。

2013年はドラマ「ラックン・タオ・ファー(空の高さまで愛してる)」のロケが福岡市内で敢行された。これで急激に増えたというわけではないが、知人のタイ人女性は「タイ人に福岡ときくと知らないけど、このドラマのロケ地だと伝えるとわかってくれる」と話していた。

2013年10月に公開されたホラー映画「ハシマ・プロジェクト」は、長崎県の軍艦島でロケを行ったことから知られることになった(ちなみに軍艦島は2012年「007スカイフォール」のロケ地でもある)。

また、6月末から7月にかけて公開された人気ポップバンド・ラオンフォン(La Ong Fong)のミュージックビデオ(MV)で、長崎を訪れるタイ人も増えているという。全編長崎で撮影されたMV「キット」はまるで長崎のプロモーションビデオのよう。全編日本語のMV「いますぐ あいたい」は、長崎市内の保育園で収録、園児も参加してほんわかとした気持ちにさせる。もともとは5月にインターネットの旅番組のレポートで訪れたメンバーが長崎県内を巡り、気に入ったことから撮影が決定した。あまりの人気に7月26日にバンコクで長崎市の観光大使に任命。長崎はかなりの成功例だといえる。

 

2.映画、ドラマロケをきっかけに誘客~受け入れを整える自治体

そんな中、今年5月に九州で話題を集めたタイのドラマロケがあった。タイの国民的人気歌手であり、俳優である通称バード氏(トンチャイ・メーキンタイ)が17年ぶりにドラマ主演を務めることで話題になっている。タイ地上波最大手のBECが史上最大級の予算をかけて制作することでも注目されている「きもの秘伝」だ。

このドラマは株式会社Journal Entertainment Tribute (ジャーナルエンターテインメントトリビュート 以下JET)が Broadcast Thai Televisionの要請をうけて、日本への誘致が実現。数あるロケ地の中から「北部九州」を提案し、今回のロケが決定した。
JETは、まず九州経済連合会、北九州フィルムコミッション、JTB九州、九州観光推進機構にドラマ撮影の相談をし、佐賀県フィルムコミッション、福岡市フィルムコミッション、福岡県観光連盟、熊本県観光連盟などに協力を仰いだという。

来年2月から24回、12週にわたって放送される予定で、「伝説の未完成の着物」をめぐってふたつの名家が対立するラブ・ファンタジーという内容。実は主人公のバード氏は400年の時を超えてきた鶴の精霊であるなどタイ人の大好きなドラマティックな要素を取り入れながら、九州の美しい景色を背景に展開される。タイの人気作家ポンサトーン氏は、鶴が7年7か月かけて布を織ったという日本の民話をモチーフにして書き下ろしたという。キャストのほとんどが着物を身に着けるシーンがあり、それもタイ人にどのように映るか楽しみなところだ。

5月5日福岡空港への一行の到着から5月14日までの間に北部九州の各地でロケが行われた。5月5日には私も福岡空港で一行を待ち受けたが、キャストやスタッフに加え、日本現地のコーディネート、制作会社スタッフが揃い、総勢40名を超える。
大型バスやマイクロバス、大型タクシーなどに分乗し、移動をするなど大がかりなロケを思わせるものであった。

ロケは北部九州全域におよび、福岡市中心部天神で主人公が琴を弾くシーン、水郷・柳川では白無垢で川下りをするシーン、北九州の河内藤園では藤の花の満開の中で、着物をまとったキャストが演じる非常に幻想的なシーンも撮影できたそうだ(河内藤園は私立の藤園で、Facebookや口コミで評判をよび、海外からの旅行者を集めている)。

5月14日には佐賀県鹿島市の祐徳稲荷神社で公開取材が行われた。あいにくの雨模様であったが、多くの取材陣が集まり、タイから10人ほどのファンも駆けつけていた。
「佐賀をはじめ九州には、城があり、花があり、日本の伝統的な風景がそのまま残っている。ドラマのスピリットを体現しているかのような美しいところ」と語るバード氏。エグゼクティブ・プロデューサーのArunosha氏も「何度も日本を訪れている中でも九州が一番気にいっている。今回のドラマのヒットで来年の今頃は九州に多くのタイ人観光客が訪れていると思う。この祐徳稲荷神社にも人がたくさん訪れるはず」と自信満々に語った。

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当日は古川康佐賀県知事も激励に訪れ、ヒット祈願も一緒に行った

 

佐賀では他に温泉の入浴シーン(嬉野)なども撮影されている。特に今回は熱心な誘致で実っただけに期待も大きいようで「タイ人の観光客が増えるのを期待している。今後外国人旅行者向けのコールセンターを設置するが、タイ語も加えていく予定」と語った。

佐賀県では実際に「外国人観光コンシェルジュ事業」を平成26年からスタート。9月には24時間の多言語コールセンターで英語、韓国語、中国語、タイ語の4言語の電話、Skypeでのサービス提供を試験的に開始する(本格稼働は平成27年1月予定)。また、平成27年1月には、佐賀県内を楽しめる観光アプリを日本語・英語・韓国語・中国語(繁体字・簡体字)・タイ語で発信していく予定である。

いち早くタイ語を取り入れた形となっており、来年2月の放送開始以降に訪れるであろうタイ人旅行者に手厚い対応となっている。

 

3.覚悟を決めて地域全体で効果をあげていく

これらのビジュアルは多くの人の目に触れれば、プロモーション効果はもちろん絶大である。しかし、協賛やサポートした映画やドラマがすべてヒットするとは限らない。一般的に「映画誘致は最低でも2000万円」といわれているが、多額の協賛やサポートをして失敗した例も見聞きしている。だから、ターゲットと旅行者の流れを見極めて、覚悟を決めることが必要になってくる。

また、これらの協力サポートの依頼は、観光部局あるいは「フィルムコミッション(以下FC)」に最初に入ることがほとんど。「きもの秘伝」の場合は、北九州FC、福岡FC、佐賀県FC、柳川FC、阿蘇市、熊本県観光課などがロケ現場の調整、エキストラや炊き出しなどボランティアの協力などを行っていた。

佐賀県フィルムコミッションは国内外のロケに対して精力的な支援を行っていて、タイでは、2014年2月公開の映画「Timeline」もサポートしている(今年9月からのアジアフォーカス国際映画祭でも公開される)。http://www.saga-fc.jp/

プロモーションも受け入れも、地域の連携した協力やおもてなしがなくては成功にはつながらない。2009年韓国でドラマ「アイリス」がヒットし、秋田に多くの韓国人旅行者が訪れたときも、「地域にその情報が共有されていれば、もっと受け入れ環境整備をすすめることができたのに」と地元の観光業者が話していた。自治体の関連部署のなかではもちろん、観光関連や地元住民でどういう内容であったか、現地でどんな状況なのか、自分たちの地元ではどのように楽しんでいるのか、困っているのか、改善点は何かなどを共有し、協議できる場が必要だと思われる。

今回の北部九州のロケ地の多くは、タイ人の心に刺さるポイントになっていると思う。
(参考:やまとごころ特集「タイ人の日本旅行ブームは本物だ~タイ人の心に刺さる意外な魅力」http://www.yamatogokoro.jp/report/2014/report_03.html
放送開始されてからの反響や観光施策への効果も追跡してみたいと思う。

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公開取材の場となった祐徳稲荷神社。タイ人に好まれるカラフルな色彩に彩られている

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