インバウンドセミナー・イベント

第44回やまとごころ勉強会サマリーレポート

東日本大震災から5年

今こそ再考「観光地の危機管理~インバウンド編~」

日時2016年3月8日(火) 15:00~17:30
場所新宿三丁目貸会議室
主催株式会社やまとごころ
講師株式会社JTB総合研究所 常務取締役・観光危機管理研究室長 高松正人氏
南三陸町国際交流協会 理事 佐藤金枝氏

 

 

 

 

第一部「インバウンドにおける観光危機管理」
株式会社JTB総合研究所 常務取締役・観光危機管理研究室長 高松正人氏

観光危機管理の定義は、「観光客や観光産業に甚大な被害をもたらす観光危機を予め想定し、被害を最小化するための「減災対策」を行い、観光危機発生時における観光客への情報発信、避難誘導・安全確保、帰宅支援等を計画、訓練し、危機発生時には計画にもとづく迅速な対応を行うとともに、風評対策、観光産業の早期復興、事業継続支援等を組織的に行うこと」である。

 

 

 

自然災害、人的災害・危機(火災、交通事故、ホテル災害、テロ、ハイジャック、停電)、健康災害(食中毒、感染症)などが起こると、観光客にさまざまなリスクや被害が生じたり、交通機関や通信など地域の機能が混乱し、情報収集や帰宅が困難になったりする。観光地や観光施設で危機時の避難誘導体制ができていることは、土地勘のない観光客にとって大切で、観光地としてのブランド力を高めることにもつながる。また、観光業界は、危機や災害に伴う風評の影響も受けやすい。観光客・旅行者の安全を守るだけでなく、危機・災害時に観光関連事業者の事業や従業員の雇用を守ることも同様に重要である。その意味で、地域や業界としてのBCP(事業継続計画)も必要である。訪日外国人が急増し、観光に影響を及ぼす災害リスクが高まってきている今日、これまで以上に観光危機管理が必要になっている。
観光危機管理では、「減災」(Reduction)=最大リスクを想定することによって「想定外」を減らすこと、「危機への備え」(Readiness)=危機が発生した時に、迅速かつ的確な対応ができるよう予め準備しておくこと、「危機への対応」(Response)=危機発生時の的確な避難誘導、情報収集・情報発信、帰宅支援など、「危機からの回復」(Recovery)=危機後に観光事業の通常営業と観光客の来訪をいち早く回復すること、以上「4つのR」が基本となる。
観光地、観光施設はテロや犯罪の影響も受けやすい。東京オリンピック・パラリンピックに向けてリスクの高まりが予想される。ロンドンでは、危機管理がしっかりできていたため、オリンピック直前に発生したテロの際も的確に対応し、オリンピック開催への影響はほとんどなかった。危機管理の重要性を再認識したい。

第二部 「台湾人の目線で考える災害時対策・インバウンド施策」
南三陸町国際交流協会 理事 佐藤金枝氏

外国人として東日本大震災を経験したことから、非常時の際に観光客に不安を感じさせないようにすることが最大のおもてなしになると実感した。
震災当時、外国人120名がおり、うち半分が定住者。佐藤さんは結婚して、事務を手伝いながら、日本語と中国語を教えていたが、震災後、名簿がなく把握ができない状態で、唯一外国人の情報を持っていたのが日本語教室だった。
翌日、観光客は送り帰したが、定住者は、地図を頼りにようやく小学校に避難。避難経路、避難場所、避難所などの言葉の意味から学ぶ必要を感じ、日本語能力だけではなく、コミュニケーション能力と情報の多言語対応が必要だと感じた。
在留外国人や多言語を話す日本人が防災知識を積極的に習得し、いざという時に外国の観光客を誘導することができれば、安心・安全を提供できる。南三陸町では、パンフレット、ヘルプガイドや、災害時の対応などを多言語で案内している。南三陸町が危機を乗り切り、観光特区となってより多くの観光客に来ていただきたいと思っている。

 

【編集後記】
危機管理とインバウンドビジネスは直接結びつかないと思われるかもしれない。しかし高松氏が強調していたように、「備えあれば憂いなし」なのであって、いざという時に「想定外の事態が生じてしまったのでどうしようもない」という対応では、信頼を失うこととなり、一度失った信頼は二度と取り戻すことができない。また、完璧な危機管理体制はありえず、常にPDCAを回して改善する姿勢が大事であることも学んだ。
今回は勉強会の冒頭には各自が自己紹介する機会も設け、交流会では講師を挟んでかなり濃密な意見交換ができた。
また、外国人の目線で東北大震災を見た金枝さんの話は、日本人では考えられないエピゾードが盛り沢山で非常に有益であった。特に、災害時に外国人の安否を如何に迅速かつ正確に確認するかという問題は、政府による情報収集体制の成否がかかる重要な課題であり、一日も早く具体的な措置がとられることが望まれる。(文責:高橋周平)

当日の開催概要はこちら▶︎http://www.yamatogokoro-ac.jp/program/20160308/