特集レポート

第29回 2016.10.14

お寺に泊まろう! 仏教体験がインバウンドのキラーコンテンツ

特集レポート

日本ならではの宿泊体験を求めて、宿坊に泊まりたいというニーズが高まっている。ゴージャスな5つ星であっても、世界中どこも同じ。その反対に日本の文化が垣間見られる宿坊が人気なのだろう。ここ最近は、お寺に泊まる、さらには禅道場に泊まるなど、裾野が広がりつつあり、その現状を報告する。

高野山の宿坊体験の人気が続く

高野山は、弘法大師によって開かれた真言密教の修行道場で、高野山真言宗の総本山でもある。標高約900メートルの山上に広がる盆地には、117もの寺院が立ち並び、その半数が宿坊を兼ねている。

宿坊を利用する外国人が増加傾向で、内訳としては、1位がフランス人、2位がアメリカ人、3位がオーストラリア・ニュージーランド人と、圧倒的に欧米で人気となっている。
通常は1泊で帰るそうだ。

やはり宿坊に泊まることが、高野山の歴史・文化に触れると共に日本文化体験そのものになっている。例えば、畳の部屋、美しい襖絵、歴史を感じる調度品。精進料理によるもてなし。どれもホテルでは経験できない。
ある宿坊では、毎朝6時から7時15分まで朝の勤行を行っていて、般若心経を一緒に唱える。護摩を焚く宿坊もある。

かつて、ロンリープラネット(※1)の紹介では、高野山は足を延ばしていく場所として小さな囲み記事がある程度。それでも、好奇心旺盛な京都や奈良滞在の欧米人バックパッカーが訪ねてくるようになった。
(※1:欧米圏で圧倒的人気を誇るバックパッカー向けのガイドブック)

その後、口コミで人気が高まり、ミシュランガイドブックでは、「わざわざ訪れる価値のある場所」として3つ星を獲得。「浮世と全く違う時間が流れている。西洋人にとって神秘的」と紹介された。

それを反映するように、人気のスポットが「奥の院」だ。開祖の弘法大師空海を祀っている。
この空気感に外国人旅行者が、感動するという。
特に夜、灯籠の灯りを頼りに、御廟に参拝にいく。夜の静けさに、言葉にはならない畏敬の念を抱く。口コミで夜の「奥の院」詣でが人気となっていった。
通常は、奥の院にある燈籠堂の中へは17時以降は入れない。建物の外を回周し大師御廟へ参拝する。

このように夜の奥の院を体験するには、やはり宿坊に泊まる必要がありそうだ。
やはり宿泊してこそ、その精神性に触れられる。

欧米人が増えつつあるお遍路宿

高野山と同じように、弘法大師空海のゆかりの聖地といえば、四国八十八カ所のお遍路だ。
「外国人による四国お遍路」の研究をしている徳島大学のモートン氏によると、ここ数年外国人観光客が増えているという。お寺に併設された宿坊を利用するケースも多いのだ。

しかし、急激に外国人が増えたため、宿坊の受入整備としては課題も多いと言う。
モートン氏の外国人お遍路への聞き取り調査によると、以下のような不満点が浮かび上がってきた。もっとも日本人とのシェアで比較すると1%にも満たないため、要望をすべて対応するかどうかは悩ましい判断と言えるが。

  • フリーWiFi設置
  • 洗濯機、乾燥機、アイロン等の使い方の英語表記
  • 休憩所の椅子等の増設
  • 安価な宿泊施設の増加
  • 緊急の場合の連絡方法
  • 外国人向け霊場のパンフレットの準備

ところで、モートン氏による伸び率調査については、香川県さぬき市にある「前山おへんろ交流サロン(※1)」で行われた。入場されたお遍路さんが記入する名簿帳があり、2007年は年間約70名だが、2012年ではその倍を超える150名、そして2015年には400名と急伸している。

また館内には、自由にコメントを書けるノートがある。モートン氏が記入者99名を調べたところ、内訳は、フランスが21名と最も多く、米国15名、オーストラリア13名、ドイツ9名とつづくそうだ。

最近では、中国からのお遍路ツアーも増えつつある。四国の山間の小さなお寺であっても、国際化の波が来ているのだ。今後の対応、またはそのサポートが望まれる。

永平寺がZENの里として宿坊も生まれ変わる!

福井県にある永平寺が宿坊を拡充する動きがある。
現在整備を進めている新しい宿泊施設のコンセプトは、福井県からの要請があり、外国人対応を含め、一般の旅行者が泊まることができるスタイルを想定している。まだプランの段階だが、旅館と境内にある大部屋スタイルの宿坊の中間的な施設を目指し、座禅や精進料理といった禅寺ならではの体験もしてもらうものだ。

この動きは、永平寺の門前町の活性化事業と歩調を合わせる形で進んでいる。
永平寺の参拝者数は、1989年の141万人をピークに、2014年は3分の1の47万人まで減少している。そこで、地元では頭を悩ませていて、2011年、打開に向けて、門前地区が中心になって新しい組織が立ち上がった。
それが地域主体の「禅の里」まちづくり実行委員会だ。
これは、永平寺、門前地区、永平寺町および地域住民が座組みに加わり、永平寺の賑わい復活を目指すというものだ。

そして、2012年、永平寺門前再構築プロジェクトが立ち上がった。役割を分担し、境内・宿泊施設をお寺、参道を町、川を県が担当することになった。

地域を上げて、ZENの故郷としてブランディングを目指していて、永平寺の中に、魅力的な宿坊が登場するだろう。開業が楽しみである。

 

そして、2012年、永平寺門前再構築プロジェクトが立ち上がった。役割を分担し、境内・宿泊施設をお寺、参道を町、川を県が担当することになった。

地域を上げて、ZENの故郷としてブランディングを目指していて、永平寺の中に、魅力的な宿坊が登場するだろう。開業が楽しみである。

OTERA STAYで特別な感動体験を外国人旅行者に提供!

お寺や神社に滞在する、泊まれるというプロジェクトが進んでいる。それが、「OTERA STAY」だ。社寺体験は、外国人にとって最高の日本体験になるという想いで始まったプロジェクトだ。

この「OTERA STAY」というプロジェクトを立ち上げたのは、株式会社シェアウィング代表取締役シェア社長の佐藤真衣さん。きっかけについてうかがうと、たまたま知人に町田のお寺の方がいたのが大きいという。何度か誘われてそのお寺に遊びに行ったが、広い庭、広い畳の本堂、明るい縁側が心地良かった。またお坊さんとの語らいなど、普段の生活では得られない時間に感動したのだ。

それを外国人にも提供したら、お寺を通して日本文化の理解が深まり、今後リピーターになる、または口コミで他の人に広まる可能性が高いと考えた。

ところで、宿坊は、簡易宿泊所の登録が必要だが、こちらは民泊という扱いで、外国人観光客に泊まってもらおうというもの。

シェア社長がもう一人いて、10年以上の付き合いのある友人だ。お互いの気心がわかっているので、わずか1カ月で事業プランが立ち上がり、2016年6月にスタートした。全国の観光地にあるお寺との提携を目指している。

課題として、お寺との提携が想定以上に時間がかかることがわかってきた。それは、住職だけの判断では決まらず檀家の代表者等、決定権者が多いからだ。

まずは年内に3、4か所程度から進めたいと考えている。

2通りの販売チャネルを想定していて、一つは、大手旅行会社を通した販売、もう一つは、airbnbという世界の民泊サイトに登録した販売だ。いずれも窓口対応を担う。

提携が30件を超えると、一気に促進すると見ていて、来年、ブレークする可能性が高い。宿泊形態の新しいスタイルとして、今後の展開に目を離せない。


サイトはこちら
http://oterastay.com/

 

大森の山王エリアに宿泊もできる隠れ家風「座禅道場」がオープン

外国人向けに禅を体験できる施設が大森にこの10月に完成する予定だ。そこは、そのまま宿泊もできるというのだ。(事前予約により40名まで可能)

そのプロジェクトに参画しているのが、株式会社ZenLifeの前田観慧さんだ。
前田さんによると、海外では”ZEN”は、心身の調和を目的として欧米でも人気を高めている。仏教学者である、鈴木大拙氏が禅についての教えを英語で著し海外に広まったことがきっかけにより、最近ではアップルコンピュータの創業者、故スティーブ・ジョブズ氏が影響を受け、参禅し、商品開発のヒントになったということで注目が高まった。現在でもシリコンバレーのIT技術者の関心が高い。

ZENについて、欧米ではシンプルな考え方だと解釈されていて、クールというニュアンスが含まれている。精神性に関わる言葉だ。

ZENは、宗教ではなく、心身を癒すメディテーション(瞑想)という発想から、欧米では受け入れやすい環境なのではと前田さん。似たようなマインドフルネスというリラクゼーションの方法が人気となっていて、それは呼吸に意識することで、心の内側を見つめるというものだ。
つまり、心と体の調和を目指すメソッドとしてZENにも関心があるのだろう。

だから宗教にこだわらない道場として、大森の建物は、誰もが禅を体験できる施設となっている。

座禅体験の冒頭に、前田さんが制作したDVDを見てもらう予定だ。
座禅の作法と効用が解説され、わかりやすい映像と英語での説明が加わっている。短い時間でいかに禅の意味していることを感じてもらえるかに苦心したという。
その映像では、心のありようは、思い方で変わると説明。
泥水を心の迷いの状態と例えており、泥水は、泥と水をかき混ぜている状態で、混ぜるのを止めると水と泥に分かれていく。つまり、立ち止まることによって見えないものが見えてくるという。

禅で重要なのは、感じてもらうこと。

座禅は、自然の“あるがまま”の姿を感じ、自分と向き合うことにより、心が自然と調っていくのです。まずは、一度立ち止まり感じること。

日本は移り変わる四季のあるがままの自然と共生し、暮らしの中に禅的思考があった。

だから道場は、都会にあっても、自然を感じられるつくりになっているのだろう。ここでは、座禅のほか、禅食、茶道、書道、禅ヨガといった禅に関わるいろいろな体験ができる。まさに禅リトリートの道場を目指す。
日本ならではの和の心を感じてもらいたいと抱負を語る。

宿の形態に関わらず、禅の体験にフォーカスした新しい取り組みだ。日本文化の体験と共に心を養う禅の精神性というものに、外国人も参加しやすいかいもしれない。
今後の展開が楽しみだ。

以上のいくつかの事例のように、お寺、または仏教に関連した宿が増えていく様相だが、エキゾチックな体験を外国人に提供できるのではないだろうか。

Text:此松武彦

最新の特集レポート

バックナンバー

2017年

2016年

2015年