インタビュー

2016.11.22

ブランドUSA 日本代表 アジア地区担当ストラテジーディレクター 早瀬 陽一氏

アメリカ合衆国の観光プロモーション、日本のDMOがそこから学ぶべきこと

 

「ブランドUSA」はアメリカ合衆国政府によって設立され、インバウンドの増加と、それに伴う経済成長や雇用の創出を目的として活動している団体。国外からの旅行者数を増やすべく、世界各国でのマーケティングや観光プロモーションに取り組んでいる。早瀬氏はその日本代表で、アジア地区における戦略ディレクターも務めている。この業界での経験も豊富な早瀬氏に、米国のDMOの特徴や日本との違い、アメリカから見た日本のインバウンドの状況、DMO成功へのヒントなどについて、お話を伺った。
<2016年11月22日>

1:「ブランドUSA」の活動内容と役割を教えてください

ブランドUSAはオバマ大統領のもと2010年に成立した「旅行促進法(TPA)」に基づいて設立された団体です。海外からアメリカへの渡航者数は90年代にピークでしたが、その後、渡航者の数が下がってしまった背景には、9.11以降、旅行先としての市場占有率が急激に下がってしまったことがあげられます。観光事業を国全体の重要な産業として盛り上げ、アメリカというブランドの価値を高めていこうという意図が、アメリカ合衆国観光局というような名称ではなく、ブランドUSAという名前にも表われています。国外からの旅行者を増やすことにより、経済成長と雇用の創出を目的とし、具体的には現在、インバウンド数が8,000万人ののところ、2021年までに1億人にするという目標を掲げています。また、国レベルの観光促進団体として、世界最高峰を目指すというのが、組織のビジョンでもあります。

現在、アメリカのインバウンド市場の約90%を網羅する世界40カ国にて、マーケティング活動を行い、内14カ国ではTVCMやデジタル広告、ソーシャルメディアなどで一般消費者に向けたB to Cのプロモーションを展開しています。国によっては旅行業界や展示会などへのB to B、あるいはその両方の活動を行っているところもあります。

私は日本と韓国、中国におけるプロモーション活動を担当しているのですが、アメリカへのアウトバウンドがすでに成熟市場の日本や韓国と、新興市場である中国とでは、当然アプローチの仕方も違います。例えば日本のマーケットでは、渡航先の7割がハワイ・グアムという比率をもっと本土へ誘導すること、また日本人はゲートウェイの都市だけに集中するので、それ以遠の南部・中部への誘導が課題となっています。それに対して中国市場は商品自体が少ないので、B to Cのプロモーションよりもまず旅行会社に働きかけ、アメリカへのツアーを増やしてもらうことに注力しています。

2:アメリカにおけるDMOの歴史や特徴は? 現在はどのような状況でしょうか?

実はアメリカが国としての観光プロモーションを始めたのは、ここ最近のことなのです。それまでのDMOは国の主導ではなく、ハワイ、カリフォルニア、フロリダなどや、NYC、LAなどに代表される観光収入が多い州や都市が主体でした。現在では、アメリカ旅行業協会に登録しているDMOの数は500団体以上にのぼります。国よりも先に、すでに自治体レベルでの歴史があり、相当の経験値やノウハウが蓄積されてきました。ハワイ州観光局がそのよい例で、日本でももう長い間プロモーションを行っていて、今では当然のことのように思われていますが、観光がメイン産業となり州の財源を潤しているのはDMOの顕著な成功事例だと言えます。そのように自治体レベルで先行していたことにより経験値やデータも蓄積されているので、目標設定も細やかで現実味があり、いかに効果性のあるプロモーションにお金を使うか、ということに対してとても敏感です。ブランドUSAでも、最終目標である1億人のインバウンド達成のため、最も効果性の高いPRに投資するという点では、成熟市場である日本やヨーロッパよりも、右肩上がりに伸びている中国、インド、ブラジルへのプロモーション活動に、最も力を入れて予算を投下しているのが現在の状況です。

 

 

3:日本のDMOとの違いはどのような部分でしょうか?

アメリカのDMOが日本と大きく違うポイントは、次の4点が挙げられると思います。

①財源
まず一つ目は財源です。ブランドUSAに関して言うと、その活動資金はESTAと旅行業界の捻出金です。ひとり当たり14ドルのESTA料金のうち、10ドルがブランドUSAの予算に当てられます。つまりアメリカに来る観光客からいただいたお金を、また次の観光客の誘致に使うという、循環型のとても賢いシステムだと思っています。住民からの税金が予算だと、プロモーション内容がどうしても八方美人的なものになりがちですが、国民の税金を使わない分、自由度も高くなります。

②効果測定
二つ目に挙げられるのが、効果測定主義です。市場調査が徹底しており、何でも数字にしてしまうのがアメリカの特徴とも言えます。実施したプロモーション活動によってどれだけの効果があったか、第三者である外部の調査機関によって客観的かつ透明性の高い効果測定をきちんとしてもらう。それを毎年継続することでベンチマークとなって、去年よりどれだけ良くなったのかという、合理的な議論が可能になるのです。

③セルフプロモーション
そして三番目は、積極的なセルフPRに長けているという点です。効果測定の結果が出た時に、今度はいかに外に向かって上手く訴求するかということです。例えばブランドUSAではYOU TUBEチャンネルを使って、私たちがいかに効果的であるのかというのをきちんと説明する機能を持っています。そうすることによって、そのDMOの存在価値に対する疑問を解消しているのです。これについては、日本の文化的なところもあると思うのですが、自己PRがアメリカ人に比べて苦手であるという現実があり、組織の運営を見ても国民性が反映されているなと感じるところです。

④アウトソース
最後が、アウトソースです。海外でインバウンドのプロモーション活動をする際に、自分たちが出て行くのではなく、その国の人、その市場をよく分かっているプロに任せるというのが、アメリカのDMOのやり方です。ブランドUSAはESTAの予算を使うにあたり人件費を抑えるという命題もあって、ワシントン本部の人員はたったの50名程度。そのため、海外での活動はどんどんアウトソースしています。

4:日本におけるインバウンドの状況、DMOを成功させるための秘訣はなんでしょうか?

日本のDMOはまさに始まったばかりで、まずは参加するので精一杯の感がある。一方インバウンドの数は飛躍的に伸びていて、それはとても羨ましい状況でもありますが、急激な変化にいかに対応していくかで、たいへんな時期なのだろうとも思います。マーケティングだけの話ではなく、観光地としてのプロダクトやインフラ整備の課題もありますよね。今、大阪でホテルの客室数が不足している問題ですが、昨今ニューヨーク市でも同じ状況があり、ブルックリンやクイーンズなどのマンハッタン周辺エリアを積極的にプロモーションするという方向転換をしています。そのようにDMOの戦略によって解決していく事例もあります。

成功のヒントは、前述の4つにも集約されると思いますが、ただ漠然とやらないこと、数字に落とし込むこと、そしてマーケットに合わせて戦略的に、というのが私の私見です。外から見た日本は、国によってすべて違います。タイの人が考える日本、求める日本と、中国の人が求める日本は違うということです。一括りに「クール・ジャパン」と表現するのは簡単ですが、各市場を理解して、それぞれの求めるものを反映するのは、面倒臭いけれども高い効果が望めます。市場理解にはアウトソースが有効ですが、今はまだどこに頼めばいいかもわからない状態だと思います。ただ言えるのは「とにかくやってみないとわからない」ということ。マーケット別の戦略やアウトソースに関しても、それぞれのDMOでノウハウを蓄積しそれをお互いに共有していくことで、日本のDMO全体のポテンシャルは今後どんどん高まっていくと思っています。

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