インタビュー

日本アセラル商事 代表取締役社長 千葉弘樹氏

2014.06.26

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ハラル商品のオンライン販売で、日本の良いものを世界のムスリムへ

東南アジアを中心に日本を訪れる観光客が増えるなか、日本と異なる宗教的戒律をもつムスリム客へのおもてなしのあり方が関心を呼んでいます。イスラム教徒向け食材を提供する専門商社の日本アセラル商事は「日本のいいものを世界のムスリムへ」を合言葉に、4月初旬、オンラインショップ「ハラルストア」を開設しました。その狙いや今後の展望は?代表取締役社長の千葉弘樹氏にお話をうかがいました。

目次:
ハラルストアとは
日本製ハラル食品について
日本のハラルを取り巻く現状
ハラル・ジャパン協会について
まずはインバウンド客にアプローチ

3月4日から販売をスタートしたハラルストアとはどんなサイトですか?

ハラルストアは、日本製ハラル商品に加え、ハラル認証を取得していないものの、豚由来の成分が入っていない、またアルコールが添加されていないNPNA(ノンポーク・ノンアルコール)食品を販売する日本初の専門サイトです。日本語版と英語版を設け、国内及び海外で販売を始めたばかりです。

ハラルストア
http://www.halal-store.net/

ハラール(HALAL)とは、イスラムの教え(シャリーア法とイスラム原理)で許された「健全な商品や活動」のことの全般を意味します。東南アジアを中心に日本を訪れる観光客が増えるなか、彼らに聞くと、日本食が大好きで、寿司やてんぷら、ラーメン、焼肉を食べたいといいます。ところが、そのネックとなっているのが、ハラルです。

イスラム教徒は世界人口の4分の1にあたる約19億人、食品市場だけで60兆円ともいわれますが、日本製の食品は現地でほとんど流通していません。こうしたなか、海外に日本製のハラル食品を輸出したいと考える企業も増えてきました。

日本製ハラル商品の専門商社である弊社は、昨年6月から国内在住のムスリムや訪日客の受け入れを行うホテルやレストランなどに卸販売を手がけてきました。ハラルストアは、そのオンラインショップといえます。「日本の良いものを世界のムスリムへ」を合言葉に、国内だけでなく、インドネシアやマレーシア、シンガポール、ドバイへの海外配送も行います。

日本製のハラル食品にはどんなものがありますか?

日本にもマレーシアハラルコーポレーション(東京)など、認証および関連団体はいくつかあります。

現在、日本のハラル認証商品は約50〜60品目。醤油やカレー粉などの調味料、日本茶やゆずドリンクなどの飲料です。ただし、実際には認証がないと売れないのではなく、前述したように、豚由来の成分が入っていない、またアルコールが添加されていないNPNA(ノンポーク・ノンアルコール)食品であれば問題がないと考えるムスリムの方も多いため、ハラルストアでも約300点のNPNA商品を扱っています。

NPNA商品には、ミソやソースなどの調味料から、おかきやせんべいなどのお菓子類、そばやうどんなどの麺類、日本食のレトルト食品などいろいろあります。

日本のハラルをめぐる現状をどうお感じですか?

この1年で急速にハラルに対する理解が広がっています。キーワードは、「尖閣」「竹島」でしょうか。政治的リスクを回避するため、アセアンと中東へ目を向けようという機運が国内で一気に盛り上がりました。2012年秋のことです。さらに、昨年7月東南アジア各国に対する観光ビザの緩和が相次いで行われ、9月には2020年東京オリンピック招致決定、12月には和食の世界無形文化遺産登録と、数ヵ月おきにハラルブームを後押しする出来事が起こりました。

その結果、物珍しさから日本製ハラル食品はメディアに取り上げられる機会も増えましたが、話題先行気味です。現実とのギャップが大きい。いくら話題になっても、商品が実際に売れなければ意味がありません。

理事をされているハラル・ジャパン協会について教えてください。

設立は2012年10月1日。ハラルに関する啓蒙活動や市場調査、各企業が自社商品のハラル認証を取得するためのアドバイス、ハラル商品の販売支援、インバウンド支援などを行っています。

毎月「ハラルビジネス講座」を開催しています。2日間でハラルの基礎からマーケティングまで学んでいただく。都内のモスクや在日ムスリムの経営するハラルショップなどを見学し、理解を深めます。モスクでは、イスラムの教えを直接うかがいます。

2008年頃、イスラム教徒向け食材市場の存在を知り、仲間と勉強会を始めたのが最初です。2010年、マレーシアに視察に行くと、「なぜ日本人は食材を売りにこないのか?」といわれました。ただし、現地で日本食品を販売するためにはハラル認証が必要なことを知りました。帰国して、在日ムスリム関係者に会い、彼らの協力のもとに国内の市場調査などを進めました。

現在、同協会の主な会員は、食品や化粧品メーカー、ホテル、商社などが多いです。

ハラルに関心のあるインバウンド業界の方たちにアドバイスをいただけますか。

現在、インドネシアやマレーシアなど東南アジアはもちろん、南アジアのインドやパキスタン、バングラディッシュ、中東のサウジアラビアやUAE、トルコ、アフリカなどからも日本に観光やビジネスで多くのムスリム客が訪れています。ですから、我々もまずインバウンド客への取り組みを通して海外での販売につなげていきたいと考えています。ハラルビジネスは、インバウンドの周辺から動くはずだと。

ムスリム客対応としていきなりハラル対応を行うことは非常に困難です。まずは第一歩として、ホテルやレストランに必要なのは、ノンポーク&アルコール料理のメニューを用意することでしょう。また近隣のモスクやハラルレストランの情報を提供すること。客室にマットやキブラシール(メッカの方向を示すマーク)、コーランというお祈りグッズを貸し出すことも大切です。弊社では、ハラル商品の卸販売だけでなく、お祈り用マットやキブラシール(メッカの方向を示すマーク)の販売も行っています。またムスリム客対応のためのスタッフ教育として認証団体や講師の斡旋など、トータル的にサポートしています。

旅行会社に対しては、「ハラルデリ」というハラル対応のお弁当の宅配サービスを行っていますので、ご利用いただけるとよろしいかと思います。観光やビジネスで訪れたムスリムのお客様の接待やツアーバスでの食事提供など、さまざまなシーンでご利用いただいています。

まずは、毎月1回開催している「ハラルビジネス講座」にご参加いただき、ムスリム対応の基礎を学んでいただくことをおすすめします。

株式会社日本アセラル商事
東京都台東区上野2-12-18
http://aselal.jp
一般社団法人ハラル・ジャパン協会
東京都豊島区南池袋2-49-7 池袋パークビル1F
http://halal.or.jp

<取材後記>
にわかに盛り上がったハラルブームですが、イスラムの戒律と聞くと、厳しくて難しそうという印象がつきまといます。実際、ハラルのわかりにくさは、イスラムの教理が基本的に寛容であることによるのだそうです。もともと個別のモスク周辺に暮らす住民に対してローカルの宗教指導者が地元に合った食のルールを伝えたのが始まり。「これで安心だよ」という地元のみで通用するお墨付きのようなもので、戒律が寛容というのはそういうことだとか。その結果、ハラルのルールは、宗派はもちろん、国や地域によって内容が相当違う。そのため、一律の基準を決めるということ自体に無理があり、個別のケースごとに異なる対応を迫られるため、日本人には難しく感じられるのです。

たとえば、中国のように国内に当たり前にムスリム(回民、ウイグル族)が生活するような社会であれば、ハラルは日常生活の中に根付いています。最近、日本の大学でもムスリム留学生向けにハラル食を出す学食もでてきていますが、中国の大学では、回民食のコーナーは以前から当たり前に存在していました。

日本の社会にこれまで存在しなかった異文化のルールを採り入れるというのはそう簡単なことではありません。しかし、関係者の話を聞く限り、求められているのは、必ずしも厳格なものばかりではなさそうです。そういう意味でも、我々がムスリム客に対してできるおもてなしは、“ムスリム・フレンドリー”な対応でしょう。「私たちはあなたがたを心より歓迎しています」というメッセージを込めたおもてなしということです。そのためには、ハラルの基本を頭に入れておくことは欠かせないといえます。(中村正人)

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