インタビュー

藤田観光(株) 上原優氏・小宮山誠氏

2011.02.26

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「箱根小涌園」、「椿山荘」、「フォーシーズンズホテル椿山荘 東京」、「ワシントンホテル」などを運営する藤田観光。日中国交正常化となった1970年代から、また外客誘致が産業として認知される以前から中国とのパイプを持ち、中国人客の受け入れを行っている企業です。日本のインバウンド政策が本格化するにつれて同社では新たにどのような戦略を打とうとしているのかを聞きました。

目次:
50年前から中国市場を受け入れてきた経緯
インバウンドに対して取り組んでいること
外国市場を取り込むための重要なポイント
今後のインバウンドの発展について

御社では「インバウンド」という言葉が世に知れ渡る以前、日中国交正常化の時代から中国市場の受け入れを行っていると伺いましたが、その辺りのお話しを聞かせていただけますか?

日中友好協会など諸機関との交流の縁もあって、1960年代から中国の政府要人が来日するたびに当社が所有・運営する箱根小涌園に泊まっていただいていました。以来約50年にわたり、中国政府関係者の方々は日本に来ると小涌園にお越しいただいています。

このおかげで中国の方々が何を望んでいるのか、どのようなサービスを喜ばれるのかというノウハウを学ばせていただきました。ノウハウと言っても、「お茶は蓋付きの器で出す」といった小さなことなどですが、でもその小さなことが、先方にとっては「きめ細かいサービス」として心に残ります。

また小涌園では中国の要人の方がいらっしゃるたびに、芳名帳にサインをしていただいてきたのですが、今年5月、北京で「揮毫展」として50年分のサイン(=揮亳)の展示会を開きました。
中国人にとっては50年に渡る中国政府の歴史的人物の直筆が一堂に見られるとあって、現地のメディアが取材に来るなど、評判も上々でした。「藤田観光」「小涌園」の名を中国市場に印象付けるいい機会になったとも思います。

現在インバウンドに対して御社で取り組んでいることがあったら教えていただきたいのですが。

藤田観光では2010年1月に「中国営業部」を新たに創設しました。スタッフ10人のうち5人は中国人です。現在上海に事務所をおき、現地目線で情報収集しながら、藤田観光グループとしての、総合的なPRと集客を目的としています。

これは従来まで「椿山荘」「ワシントンホテル」「小涌園」など各ホテルが独自に取り組んできたものを「藤田観光」として一本化し、当社のプロパティを総合的にPRし、顧客、ことに今後一層大きな伸びが期待できる中国市場を取り込むのが狙いです。

藤田観光は現在北海道から沖縄までホテルは53拠点、温泉やゴルフ場などを含めると国内に65拠点の施設があります。またカテゴリーもビジネス、ラグジュアリーなど幅広い。そうした点を前面に押し出し、藤田観光グループとして、日本の全てを使った旅をトータル・プロデュースできるような方策を考えています。

 

中国あるいは外国市場を取り込むために重要だと考えるポイントをお聞かせ願えますか?

中国社会の仕組みを考えると、もっとも大切なのは現地とのパイプであり、人脈だと思います。小涌園などで築いた窓口を通しての人脈はもとより、北京での揮亳展や旅行博等イベントに積極的に出展し、現地とのコネクションの構築にも努めています。

ただ、インバウンドが産業として認知され、数的には中国人客は確かに伸びています。当社も2009年の中国人宿泊客は藤田観光グループ全体で7万人、2010年はおそらく13万人と見込んでいます。

ただ、確かに数は伸びましたが、格安のグループツアーばかりでは収益は上がらないのがホテルとしては大きな問題です。

グループを誘致する傍ら、商用、政府関係などで訪れる富裕層を獲得していかなければホテル産業としては厳しいでしょう。
そのためにも小涌園で培った人脈を大事に育てて、「きめ細かいサービス」を積み重ね、リピーター獲得につなげていきたいと考えます。

 

今後のインバウンドの発展について重要だと思う点など、ご意見を伺えますか?

中国人グループ客にスポットの当たっている昨今ですが、先ほども申しましたように、収益につながらないとホテルとしてはビジネスになりません。またホテルとしては「リピーターを作る」というのは重要なポイントのひとつです。

果たして現在一般的な中国人が行っている格安ツアーでリピーターが育つのか。価格志向の激安ツアーで日本にがっかりして帰国する中国人客も少なくない。これはホテルだけでなく日本の観光産業にとっても重要な問題だと思います。

あくまで私の考えですが、今後のインバウンド発展のためには「日本の旅行の質」というものを維持しなければリピーターは育ちません。そのためには格安旅行であれ、その「日本の旅行の質」を維持するためのガイドラインを設けてもいいのではないでしょうか。
この点は観光庁が介入しても定めるものではないかと思います。

藤田観光株式会社
http://www.fujita-kanko.co.jp/

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