インタビュー

楽天トラベル株式会社 代表取締役社長 岡武 公士氏

2011.02.10

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世界と戦える価格競争力を付与、インバウンドに拍車を掛ける

プロフィール:1959年12月1日東京生まれ。
1984年3月龍谷大学経済学部卒業。
同年4月、日立造船情報システム株式会社入社。
1996年4月「ホテルの窓口」プロジェクトマネージャー。
2002年8月楽天トラベル株式会社代表取締役社長に就任。
2007年10月楽天トラベル株式会社代表取締役社長兼国際事業本部ソウル事務所所長
及び楽天バスサービス株式会社代表取締役社長に就任。
現在に至る

 

早期にインバウンドへ取り組み、着実に体制作りを進めていった

 

村山

御社のインバウンドへの取り組みの状況をお聞かせいただけますでしょうか。

岡武

インバウンドへの取り組みは、ずいぶん早い時期から行っていました。まず、1999年に、世界最大級のホテル予約サイトである「ホテルズドットコム」と提携。互いのデータベースを横断するシステムを構築しました。これによって、当社のお客様がアメリカのホテルを予約したら「ホテルズドットコム」の在庫を見に行けるようになり、その逆で、海外のお客様が、当社の在庫を見に来て、そしてご予約を入れて下さっていましたから。

 

村山

1999年といったら、インバウンドの取り組みとしては、かなり早い方ですよね。

岡武

そうですね。残念ながら、その連携は2年で終了してしまったのですが、アウトバウンドは好調でしたので、2002年から中国や韓国、アメリカなどに支社を展開。併せて英語はもちろん、ハングルサイト、中国語サイトを開設していきました。そして、まず日本の観光客を各国へとお連れし、その後、中国や韓国の方の国内旅行を展開。それを発展させるような形で、外国人観光客を日本へお連れするようになっていきました。要するに、アウトバンドと同時に、インバウンドの在庫を活用する形で仕組みが出来上がったということなのです。

 

村山

なるほど。とても自然な流れで、なおかつ着実に取り組まれてきたのですね。

岡武

順調に推移していたのですが、震災によって、ご存じのように外国人観光客の数が減少。一旦、人のリソースも含めて国内旅行へとシフトし、インバウンドには注力してこなかった時期がありました。とはいえ、必ず戻ってくるという確信もありましたので、落ち着いている時期に、システムの大幅な変更を実施。利用者の方々が外国の方を呼びやすいモノへと進化させたのです。

 

村山

どのような変更だったのでしょう。

 

岡武

一番大きな事は、国内と同じ商品を1クリックの簡単設定でインバウンド旅行者にも販売できるようシステムを改善した事です。今までインバウンド向け宿泊プランを販売する際には、国内とは別にインバウンド向け商品を設定するという手間のかかる作業でしたが、これを大きく改善する事で宿泊商品数が、以前の2倍に増えました。他にも外国人旅行客専用のプラン内容や料金をカスタマイズできる機能も充実させました。

 

システムの提案と同時に利用者の意識も啓蒙していく

村山

システムを変更してからの反響はいかがでしたか。

岡武

もちろん、反応は上々で、提携数も急激に伸びています。しかし、システムが出来上がったとしても、受け入れる側はすぐに体制を変えることはできません。これまで団体客を送り込んで利益を上げていた海外エージェントも黙ってはいませんし、言葉の問題もありますしね。特に緊急時の対応に不安を抱く方が多いのです。これまでのような団体客であれば、現地エージェントが近くにいますから、彼らにまかしておけば良かった。しかし、当社のサイトを通じてやってくるのは個人客ですからね。この辺の問題を解決していけば、さらに飛躍していくものと思いますが。

 

村山

なるほど。システム作りだけではなく、利用するホテル・旅館サイドへの啓蒙も進めていかなくてはならないわけですね。

 

岡武

おっしゃる通り。例えば、今の緊急時対応の話であれば、コールサービスを提供している企業を紹介しますし、当社のコンサルタントも180人態勢で臨んでいますから、かなり力の入った提案をさせていただいています。毎年開催している楽天トラベルカンファレンスなどのイベントでも、必ずインバウンドがらみのブースを用意。方法論だけではなく、意識レベルでの啓蒙も必要だと実感しているところです。

 

村山

意識レベルでの啓蒙とはどのようなものでしょうか?

岡武

受け入れる側の方の中には、外国人観光客を入れると、日本人のお客様が減るのではないかと考えている人もいます。ちょっとした噂レベルの話がすぐ大きくなってしまうことってありますよね。ある一人の外国人の方が、石鹸をつけたまま湯船に入ったら、その国の方全員がそうだとみられてしまったりするじゃないですか。まだまだ、ちょっとした偏見が存在しているのは確かです。恐らくですが、まず受け入れ体制が出来上がって外国人観光客の方の利用が増えていけば、そういった誤解は解消されるような気がします。

 

村山

まずは利用者の拡大ということですね。他にも外国人向け予約サイトがいくつかありますが、それらと差別化を図っている点はあるのでしょうか。

岡武

ホテル側が独自の「プラン」を設定できるのは、当社のシステムだけです。やはり海外の方も単に“朝食付き”だけではなく、多彩で魅力的な「プラン」を利用したがるもの。だから、
旅行の楽しさを訴求する力が違うのです。あとはマーケティングですね。現在は各国のサイトでリスティング広告を地道に展開していますが、来年はさらに強化を図り、認知度をあげ、集客につなげていくつもりです。

 

マルチリンガル対応からアウト・トゥ・アウトへ

村山

今後も、楽天トラベルさんのインバウンドへの取り組みは加速していきそうですね。

 

岡武

そうですね。新しいシステムの導入で、ようやく勝負ができる金額を提示できるようになりましたので、これからが本当に楽しみですよ。もちろん、提携先へのコンサルティングを強化しながら、二人三脚で実績をあげていきたいですね。そして同時に、さらに使いやすいシステム作りも進めていくつもりです。

 

 

村山

具体的にはどのような計画が用意されているのでしょうか。

岡武

「プラン」を売っていくために、外国人にとってわかりやすいユーザーインターフェイスを整えていく必要があります。まずは中国語・韓国語・英語のマルチリンガル対応とし、ベースができあがったところで、積極的なマーケティングを展開します。
マルチリンガルになると、もはやインバウンドだけではない。韓国で中国のプランを販売したり、その逆も可能になる。すなわち「アウト・トゥ・アウト」といった新たなスタイルの販売も可能となるのです。

 

村山

旅行業界で、アウト・トゥ・アウトをやられている企業は日本企業としては珍しいのではないでしょうか。さらなる楽天トラベルさんの飛躍が期待できそうですね。ところで、受け入れる側の啓蒙がうまく進んだとして、日本のインバウンド推進を妨げる壁というものは他にないのでしょうか。

 

 

 

 

岡武

そうですねー、例えば道路標識の問題ですかね。外国の方がいらっしゃっても、日本ではレンタカーの運転が難しいでしょう。日本人だって、出身地が違えばわからない(笑)。こればかりは、政府にお願いするしかありませんが。

 

村山

確かに(笑)。それでは、最後に今後の御社の展望についてお聞かせいただけますか。

岡武

先ほど申したように、マルチリンガル化とその後のマーケティング。まだまだやるべきことはたくさんあります。それらを着実に進めていくことが第一ではあります。

あと、それとは別に、現在観光庁に提言しているのが、日本に訪れる留学生への金銭的な補助。日本には魅力的な大学が多く、海外からも注目されていますが学費が高いため、なかなか招致しきれていないのが現状でしょう。多くの留学生が来て、学業の合間に観光や食事も楽しんで、日本の良さを感じてもらえれば、自分の家族や彼女を連れてきたいと思うようになります。大分県別府市の立命館大学など、いい例ですね。留学生の家族がやってきて、別府温泉に立ち寄っていくわけですから。地方都市だったら、街そのものが大きく変わっていくのです。旅行ばかりがインバウンドではありませんからね。

 

村山

本日は、ありがとうございました。

 

 

 

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