インタビュー

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2008.02.10

観光カリスマ 山田桂一郎氏

観光の魅力とは⌈地域性·個性·創造性⌋

「世界のトップレベルの観光ノウハウを各地に広めるカリスマ」 として全国各地を駆け回る観光カリスマ、山田桂一郎氏にインタビューをしてまいりました。観光に対する熱い情熱と、日本が取り組むべき今後の課題等についてお話いただきました。

■山田氏略歴
1965年 三重県津市生まれ
1987年 ツェルマット観光局
日本人対応インフォメーション、セールス、プロモーション担当
1992年 JTIC.SWISS(日本語インフォメーションセンター)設立
1996年 環境省環境カウンセラー(事業者部門)として登録
ヴァレー州観光局日本・アジア向けプロモーション担当
1999年 Mt.6(ベスト オブ ザ クラシック マウンテンリゾート)
環境政策とCS(顧客満足度推進)顧問就任
2003年 環境省環境カウンセラー(市民部門)として登録
2004年 特定非営利活動法人 日本エコツーリズム協会 理事
2004年 まちづくり観光研究所 主席研究員
2005年 内閣府、国土交通省、農林水産省認定 観光カリスマ

以下、インタビューの内容です。

Q1.山田氏の経歴について教えてください。

【豊かさを考える】

観光カリスマ山田桂一郎氏私は小学生の頃から競技でヨットをやっていました。20歳過ぎの頃、同期にオリンピックへ出場した者と日本選手権で優勝した者がいて、私だけがノンタイトルだったこともあり、ヨット競技でプロデビューをしようと思い切って渡豪したのです。それが1986年頃ですから、私がまだ学生だった時の話です。その頃というと日本はまだ「豊かさ=物の豊かさ」という時代でした。私自身がオーストラリアでの生活を通して感じたのは、国民がお金やモノだけに依存しない「本質的な豊かさ」を享受している姿でした。この時に「人としての豊かさ」について改めて考え、そして、その本質を知るためには自分の足でいろいろな地域の国へ行き、そこで暮らす人たちと直接コミュニケーションをとってみなければわからないと思ったのです。無謀なようですが、そこから私のロンドンから日本へのヒッチハイクの旅が始まったのです。

 

【ツェルマットとの出会い】

ヒッチハイクの旅では途中で全財産を盗まれたり、地域紛争に巻き込まれそうになるなどハプニングとトラブルの連続で大変な思いをしました。そんな旅の途中でスイスのツェルマットにたどり着いたのです。初めて訪れたときの印象は、マッターホルンが独立峰として、すごくきれいだということもありましたが、アルプスの山奥にあるとんでもない田舎で、馬車や電気自動車しか走らない町が自治体として経済的に成り立っているということに驚きました。また、地元の人に話を聞くと、行政制度から何から何まで日本とは違い、自分たちの力で町の自然環境や景観保全、自動車乗り入れ禁止まで、自主ルールを作り、守ってきた、その後、そのルールが法制化されたということも知りました。発電所までが自前で、社会福祉、医療、教育のあり方まで、官民としての連携と協働の仕組みなど、その当時の日本では全く考えられないような世界だったのです。

当初、私はツェルマットにはマッターホルンという有名な山があるから多くの人が訪れているのだと考えていましたが、後になって、この山は宣伝・PRには効果はあるが、これだけでは多くのリピーター客を獲得できないこともよくわかりました。例えば、外国人が日本できれいな富士山を一度見たら、もう一度必ず日本に来たいと思うでしょうか?恐らく富士山を一度見ただけではもう一度来ようとはあまり思わないはずです。他にも日本にもう一度来たくなる理由や動機付けがもっと必要です。

ツェルマットではホテルの大規模な改装改築工事や大型化施設の建設ができないので、今以上にベッド数を増やすことはできません。この町は何十年も前からホテル全体のベッド数はほとんど変わっていないのです。稼働率アップに頼ることで売上を伸ばすことができないにも関わらず、年間の売上高は毎年上がっています。これは客の消費単価が年々上がっているということです。そして、お客様のリピート率も年々増加しています。では、なぜこれほどまでにリピート率が高いのでしょうか?

まずは、滞在して頂いたお客様の満足度が極めて高いということ、そして、事前期待を上回る事後評価を頂くだけのサービスの質の高さと進化があります。特に物見遊山の仕組みだけでは、先程の山を見るだけと同じでリピーターを獲得し続けることは困難です。お客様に四季を通じて、このフィールドで素晴らしい体験や経験をして頂き、満足して頂くことを地域全体で考えています。

ここでは馬車や電気自動車しか走ることができないことや、水力と太陽光の発電設備、町の景観など、エコリゾートとしての取り組みが観光に大きく影響していますが、実はもともとこれらの取り組みは観光のためだけに始められたものではありませんでした。地域の人たちが自分たちのライフスタイルや自然環境等を守るために取り組んできたことだったのです。きれいな自然とおいしい水と空気があることが最も大切なことだという、これまでのライフスタイルの普遍的な豊かさを維持することにより、人にとっての本質的な豊かさの本質貴なものが町や人々にもしっかりと根差しています。

ここで重要なのは、あくまでもその土地に住む人々が自ら責任を持って決断、実行しているということです。地域のビジョンやコンセプト等から町の運営までを外からの人間だけで決めてやろうとすると地域振興やまちづくりは必ず失敗します。また、一部の産業の事業者だけの取り組みも失敗します。例えば、観光事業者だけがやろうとするまちづくりは、観光ビジネスしか考えないようなまちづくりになってしまうのからで、地域全体のデザインや産業バランスが悪くなりがちです。ツェルマットのように住民の生活満足度を最優先にする地域をつくり、育てていくと、住んでいる人たちはものすごく元気で生き生きとし、豊かさが生活に溢れます。観光客や外から来た人間からすれば、明らかに素晴らしいところだと実感するわけです。観光だけの仕組みというのは必ず飽きられてしまいますが、ライフスタイルとして提供されるものはいつまでも感動と共感を得ることができますから、何度でも来たくなり飽きられません。

世界中の人達から住んでみたいと思わせる「クオリティ オブライフ」の高さがスイスにはあります。その背景があるからこそ、あらゆるスイス製品はナショナルブランドとして質の良さを認められて世界中で売れるのです。全ての商品がスイスの築いてきた「品質管理」への信用信頼と「生活文化」の豊かさを表しています。スイス国内のあらゆる産業が観光産業と一緒に世界中へPRを行い、ブランディングに成功してきました。観光による他産業への経済波及と相乗効果でスイスは経済的にも成長してきました。貿易収支の約20倍もの経常収支を誇るスイスは、ものづくりだけではなく金融や観光で国の経済を支えているのです。このような国の力を総合化させることでスイスを始めとしたヨーロッパの国々は生き残っているのです。住民がそれぞれの地域を自ら作り上げ、育て、本質的に豊かな生活をおくることが出来、毎回の調査で国民の生活満足度が世界一を誇る「スイス」という国に私は魅了されたのです。

観光カリスマ山田桂一郎氏

 

【ツェルマット観光局長との出会い】

その後、観光関係の仕事をしようといろいろと模索している時に、当時のツェルマットの観光局長とスイスで知り合うことになりました。その時もツェルマットのベッド数に限りがある中で、いかに売上を上げていくかという話になりました。キャパシティに限りがある中で、年々、売上を伸ばすためには客単価を引き上げることが絶対的条件になります。また、お客様の総消費単価を引き上げるためには、観光の場合、お金を使わせる仕組みというよりは、いかに1分でも1秒でも時間を使わせることができるかが重要なポイントとなってきます。滞在日数を延ばすことで、食事や宿泊、買物等で自然とお客様の消費を地域内で増やすことになります。その時間消費の仕組みの中に、お客様の満足度を獲得すること、農業、商業等の他の産業にもどういう経済波及効果があるかを考えること、その仕組みを構築する上で官と民がお互いのやるべきことをしっかりとやりながら、地域全体にとってのベストの経営判断をしなければなりません。その様な、地域が連携と連動、協働をしながら観光リゾート地を築いてきた場所に、私は20年ほど携わってきたのです。

 

【観光統計について】

現在、日本の観光目標数値というのはほとんどが人数だけです。訪日外国人旅行者数も目標が1000万人と人数を軸に考えられていますが、本来、観光で重要な数字は、「宿泊者数」と「リピート率」だと思います。さらに、どれだけの消費をしたのかと、その波及効果、そして、あらゆる観光の満足度の調査をせめて 5段階評価で調べることができれば、今後の観光施策には非常に参考になると思います。

 

Q2.山田氏が現在取り組んでいることについて教えてください。

【日本の観光】

私は現在スイスに在住ではありますが、頻繁にスイスと日本を行き来しています。年間の国際線と国内線を合わせたフライト数は平均170回になります。 私が日本に通い、何を目指しているのかといいますと、最終的ゴールは、日本の「国民生活満足度指数(Life Satisfaction)」を世界1位にすることです。採点は10点満点なのですが、世界で唯一8点以上を取れるのはスイスであり、それ以下は北欧やヨーロッパ諸国が続きます。では日本は何位なのかといいますと、6.3点の23位でいつも6点台前半です。これは経済力や武力だけで世界の覇権争いをしていてもスコアが良くなるものではありません。この指数は本当にそこに住む人々の豊かさを表しているものです。日本はG8だからと言っても、実際に国民が豊かな生活や満足な暮らしをしているわけではないのです。

先日、観光の国際競争力というものが発表されましたが、実は国民生活満足度指数と比例し、スイスが1位で、日本は23位だったのです。まさしく、これは「国民の生活満足度=真の豊かさ」と、国民の生活文化とライフスタイルと共に心の豊かさが問われる観光産業の成熟度が見事に一致している証拠だと思います。

最近になって日本は先進国として生きていくために、観光に力を入れていかなければならないという状況にようやく気づき始めた段階だと感じています。目を外へ向けてみると、日本が抱えている少子化や高齢化などの先進国としての多くの問題に対して、ヨーロッパの国々は50年ぐらい前からすでにぶつかっていました。そして、それを解決してきた形や仕組み、地域のあり方が、今のEU諸国やスイスを形成しています。では、その問題にぶつかった時、スイスや欧州国は何を優先して、どのようなことをやってきたのかを考察すれば、今後、成熟した国に日本がなれるかどうかの重要な指標を見出すことが可能です。この指標となるポイントはいろいろとありますが、最も重要なことは先程から言っている通り、国民の真の豊かさとは何であるかを考えた国づくりを前提に、産業構造としては観光と他の産業を上手く連携させて総合産業化を図ることです。
また、後程詳しく説明をしますが、そうしなければ、先進国として雇用を確保した上で、賃金を払うことができないことや、産業全体に経済効果を波及できなくなるからです。そして、外から人がやってきてお金を国内で使ってもらうためにも、インバウンド政策も更に進めなければ国内消費の減少に歯止めを掛けることもできなくなります。

私は、日本が欧州並の成熟した先進国家であるためには観光立国として成り立つことが大事だと考えています。だからこそ、「住んでいる人が本当に豊かでないとだれもその地には来ない」=「観光立国には成らない」と考えているのです。

 

【スイスという土地】

ではスイスという地を見てみると・・・
・大きさは約4万1千キロ平方メーター。日本の九州くらいしかない
・多民族・多文化・多言語(公用語は独語、仏語、伊語、ロマンシュ語の4つ)の国家で、人口の5分の1(約20%)は外国人
・海も無く、周りはヨーロッパ列強諸国に囲まれている
・国土の7割がアルプスの山々。平野部は少ない
・他の国々と比べて、圧倒的に天然資源が少ない

このように挙げてみると、スイスという国は人々が集まるような魅力的な国のようには見えませんが、実際、多くの人々がこの国に魅了されています。 その理由は、前述のようにこの地に住む人々の豊かさと生活の質の高さに結びつきます。

 

【日本の現状】

現在の日本人は将来的な不安と社会的な不安が多いため、国民がお金をあまり使えません。それに比べるとスイスや北欧諸国は年金制度や社会保障制度がしっかりしていて、退職後の生活や、もしもの時の社会的な不安や心配がほとんどなく、社会で働いている現役世代が老後の生活や社会に対してあまり心配をする必要がありません。日本ではこの不安要素が大きいためにどうしても消費行動よりも貯蓄にお金が向かいます。現役世代が働いて稼いだお金をある程度自由に使えるということも、本当の豊かさを考える上で重要な問題です。たくさんお金を儲けるということではなく、普通に使えることすら日本では難しくなっています。だからこそ、国としての年金や社会福祉、医療等の制度の確立は非常に重要であると考えます。

また、今後、日本は経済力だけで世界で勝負をすることも生き残ることもできません。元々、日本は武力で世界覇権を目指しているわけでもありませんが、経済力においても、特に製造業については、今後、人件費の安い中国や東アジア諸国と争っても意味はないのです。そこで、日本国内で雇用を確保しようとなると「観光・サービス」を伸ばすしか方法がないのです。というのは、観光というのは手間ひまがかかり、旅館でも土産物屋でも流行れば流行るほど、人の手が必要になってきます。産業の構造として雇用と直結しています。また、国内や地域内だけのお金の循環ではなく、外からもお金が入ってくることで経済的な効果が生まれます。ヨーロッパの小さな村にも必ず観光局があるのは、外からお金を稼ぐことと、雇用を生み出すという2つの使命があるからです。逆に、その地域に観光の仕組みがなければ地域の経済活動は縮小するだけで町も自立できません。雇用も無く、人口が流出していく一方になってしまうからです。

 

【地方、僻地の格差と経済活動】

日本では今、都市部と地方では地域間格差があると言われていますが、正直、それは本当でしょうか。実際に沖縄の離島の方では、この「観光」を軸とした経済による効果で地域が成り立っており、八重山諸島だけの経済成長率はこの4年間10%以上で伸びています。それは決して他の地域ではまねできないものではないと思っています。どこの地域においても観光産業を中心に総合産業化で自立を目指すことが出来、スイスのような生活満足度の高い地域をつくることが可能だと思います。

 

【経済の仕組み】

ここで少し経済の話をしますが、ここにも実は大きな落とし穴があるのです。大きな問題の一つとしてほとんどの企業の給与ベースが近年、全く上っていないことがあげられます。普通、企業収益が上がると、給与ベースも上がるのですが、日本企業の場合、ボーナス等でごまかし給与ベースがなかなか上がりません。先進国の中でユニット・レイバー・コストが唯一マイナスなのは日本だけです(普通は企業収益が上がれば、比例して給与ベースも上がる)。ただでさえ、社会不安、将来不安があるなかで、給与が上がらないことにより多くの人はお金を使わなくなってしまいます。 例えば、なぜバブルがはじけた後も、日本の経済成長率がほぼ横ばいで済んだかというと、それは単純に、消費を引っ張る20~59歳の現役世代がバブル後も 200万人ほど増えたからです。GDPの約6割は国内消費ですから、この世代が増えたことによって消費の下支えをしたとも考えられます(GDPに占める輸出産業の割合は約14%しかない)。そして今、大手企業の国内販売や売上が伸び悩んでいるのは、逆に20~59歳の人口がピーク時(1995年)よりも現在は推定で300万人も減っているからです。つまり、一番購買力のある層がごっそりと減ってしまったために、現在の消費が伸び悩むような状況になってしまっているのです。このような経済の仕組みにも気づかなければいけません。

では、欧州の先進諸国はどうでしょうか。彼らは観光を含め世界にいろいろなものを売っています。例えば、輸出品もスイス、イタリア、フランスは日本に対し、農産品からブランド品、スーパーカーまで全産業の製品と商品のありとあらゆるものを売り、対日貿易で黒字を出しています。ちなみに、スイスは貿易収支の約20倍も経常収支があります。だったら、資源豊富な日本もこれらの国々のようにいろいろなものを世界へ売っていくことで経済的にも豊かな国へと変化していくのではないでしょうか?

 

【スイスの観光の歴史】

もともとスイスの観光の歴史は浅く、昔は大した産業も無く、冬になると雪が多くて住む人も放牧農家くらいのものでした。この土地自体にそれほど興味を持つ人もいなかったのです。19世紀半ばに入り、ようやくイギリスの貴族やお金持ちがスイスの山の初登頂を目指したことがきっかけとなり観光が盛んになりました。しかし、この短期間でスイスは観光・リゾート地として大成功を収めることになります。当初、スイスはお金持ち向けの商売しかしていませんでした。それはある意味運が良かったのですが、お金も時間も含めて、モノの豊かさと贅沢を経験しているお金持ちが求めていたのは、心の豊かさだったのです。むしろ豪華な設備を用意できないスイス人にとって誇れるものは、普段そこに存在する美しい自然やありのままの生活だったのです。それらはロンドンのような都会には無かったものです。お金持ちに対して豪華さで対抗するのではなく、自分たちにとって一番大事だという普遍的で本質的な地域の魅力そのものと、素朴ではあったのですが、おもてなしの心で精一杯のサービスをしたというところが、観光・リゾートとして成功した大きな要因だと思います。

また、先程も説明をしましたが、観光に

よるサービスの質の高さ、そして、スイス国民の生活の質の高さが世界中の人々に伝わることにより、誰もが認めるスイスのナショナルブランドの担保となっているのです。だからこそ、時計や装飾品からチーズやチョコレート、製薬や金融商品までも、スイスの製品や商品は質が高いというイメージがあり、スイス国旗がついているだけで、世界中であらゆる製品や商品が売れていきます。

これらのことを見ていくと、雇用や賃金の問題にしろ、貿易の問題にしろ、解決策には「観光」を抜きには考えられません。となると、日本も今後はますます「観光」をまじめにやらざるを得ない状況だといえます。

 

Q3.山田氏の考える質の高いサービスとは何でしょうか?

【質の高いサービスを提供する意味】

観光にはサービスが付きものですが、果たして日本はどの程度のサービスを提供できるのでしょうか?東京のような大都市や一部の地域では本当のラグジュアリー層の顧客を満足させられるようなサービス提供ができるようになってきました。しかし、地方には、まだまだ足を再び運びたくなるような質の高いサービスを提供できているところは多くはありません。やはり、豪華さやモノで表現する物質的な豊かさではなく「心の豊かさ」の提供ができる質の高いサービスがなければならないのです。
サービスの大前提として、顧客を満足させることが基本にあると思います。私自身、旅館やホテルの再生事業に携わると、どの旅館やホテルの経営者もまずは部屋の稼働率を上げなければならないと言います。でも、そのためには何が一番重要かというとリピート率を上げることを優先する取り組みなのです。リピート率が上がらなければ絶対に稼働率も上がりません。どんな商売でも新規顧客だけを開拓して維持できる産業はないのです。そのために必要なことは、顧客がいつも心から満足するような質の高いサービスの提供を続けることです。そして、もう一度来たいと思わせることです。これができなければ、結局一時的な稼働率を上げることができても、決して長続きはしません。

 

【日本が提供できる豊かさ】

昔のスイスは豪華な装飾品や部屋、建物をお客様に提供することはできませんでしたが、お金持ちの持つモノの豊かさとは違う本質的な心の豊かさを伝えることで人々を魅了してきました。では、日本でも提供できる本質的な豊かさとは一体何でしょうか?お金をかけたからといって、必ずしも質の高いものが提供できるとは限りませんし、それ以前にそのものが日本の豊かさにつながっているのかというところがあります。その豊かさを提供するためには、私はどんな観光商品でも「地域性・個性・創造性」がないと売れないと思っています。

まずは「地域性」ですが、これはその土地の「らしさ」です。その土地でなくてはならないものや表現できないものです。その次に、その地域の事業者の方々が独自の「個性」を出せるかどうかになります。そして、付加価値を上げるためや、サービス内容の進化をさせるための「創造性」が必要になってきます。これら3つの要素を見れば、その商品やサービスが売れるか売れないかの説明がつくのです。ただし、いくらこの3つの要素があり、オンリーワンやナンバーワンのものだからといっても、お客様にその価値を認めてもらわないことには、買ってもらえませんし、来てもらうこともできません。

 

【口コミの効果】

昔は情報伝達の方法がほとんど無かったため、主に人から人へ伝えられる口コミが大きな役割を果たしていました。それはスイスでも大きな役割を果たしましたが、そこにはお客様一人ひとりを確実に満足させるサービスがあったからです。口コミをしてもらうには、ただの満足ではなく、本当に心から大満足してもらうことが必要になります。今は様々な媒体を使った広告や広報が可能ですが、それでも口コミによる効果には勝てません。有名なアマン・リゾートが約20年で16万人以上の顧客を獲得できたのも口コミだけです。

 

Q4.日本が訪日外国人旅行者数ばかり気にするのはなぜでしょうか?

日本が目先の数値ばかり気にしている原因として、国の長期的な計画が立てられていないということが挙げられると思います。だいたい日本が行う施策は3~5 年の短期的な計画ばかりで、50年、100年先を見据えた計画がなされていないというのが現状です。50年、100年先に国が目指す目的・ゴールがある中で、観光をどうしていくか、産業をどうしていくかというところから本来は考えなくてはなりません。長期的で明確な目的や目標が無いのに、中途半端な目標数値しかないということは、そこにたどり着くまでのプロセスをつくりあげることができません。たかだか、数年の短期的な計画しか立てられないのならば、目に見える結果を示すために単純な数値目標しか掲げられないのは当たり前のことです。
ヨーロッパの国々がそういった部分で強いのは、観光としての目的や目標設定だけではなく、その地域がどうあるべきかを考えた上で、長期的、中期的、短期的な段階に分け、施策が実行されているからです。しっかりとした理念や哲学が変わらずにあるからこそ、時代や社会、価値観が変わったとしても、途中でその変化に対応できる力があります。日本のようにたった数年後だけを目標にしても、その目標が達成された後、成功しても失敗をしても、次にするべきことが見えてこなくなってしまうのです。

 

Q5.日本が長期的な計画を立てられない理由は何ですか?

それは日本の理念、ビジョンがあまりにも抽象的でわかりにくいことだと思います。例えば、安部前総理のときに「美しい国、日本」という理念を掲げましたが、では美しい国とは何ですか?どのように美しい国なのですか?というところまで踏み込んでいっていません。それは地方の市町村でも同じで、例えば「笑顔の溢れる街」や「子供たちが誇れる街」と理念を挙げたところで、どうしたら笑顔が溢れるのか、どうしたら子供たちが誇れるようになるのかという詳細なところまでは誰も考えていないので、将来の明確な姿が見えてこないのです。明確な将来の目指す姿が想像もできず、見えていないということは、現状の認識も全くできていないということです。ゴールもスタートラインもわからなければ走り出すことはできません。 

 

Q6.長期的な計画を立てられないのは、何が原因だと思われますか?

おそらく、日本人の考え方の特性と、政府観光局・自治体の仕組みどちらにも原因があると思います。国や地域、組織としての長期的な目的や明確な目標が決まっていて、それが住民から支持されていれば、トップや担当者が変わろうと、その時々の状況に合わせた多少の変更はあったとしても、基本的には計画の通りに進みます。ただし、日本の場合、人が変わってしまうと、それまでの計画が白紙に戻り、また、一からやり直しをするという風になってしまうのです。 最近は、国としても、観光立国推進基本法のもと、閣議決定された観光立国推進基本計画ができています。観光施策については、これまでのやり方とは少しずつ変わってきていると思いますが、それでも、日本の国はいったいどこへ向かって進んでいくのかという根本的な部分はまったく明確にはなっていないと思います。

 

Q7.なぜ、人が変わるたびに計画が白紙になってしまうでしょうか?

それは、日本人の地域に対する愛着心が薄いことが影響していると思います。自分たちのこともわからないし、現状の認識がまったくできないので、理念も目的も目標もできないという先程の話と同じです。自分たちの地域を知らないのに愛着心が芽生えるはずがありません。 先進国の中で、義務教育課程の中に「地域学」がないのも、唯一日本だけです。「地域学」とは、その地域の成り立ちから学び、学年が上がるにつれて、自然環境、歴史、伝統、生活文化、町の産業構造の仕組みや税収の話などに広がっていきます。自分たちの地域を深く知る機会があるのです。日本も最近ようやく、総合学習やゆとり教育の一環でそういった授業を盛り込んでいこうという流れができてきているのでいいことだと思います。

 

Q8.「地域学」を教えるには、どのような人物が適任だと思いますか?

【地域学の取り組み】

実際、私のいるツェルマットではこの「地域学」を教えているのは教師ではなく、地元で働いている様々な職業の人たちです。皆さんがそれぞれの学年と内容に合わせて、その地域の歴史から、街の経済の成り立ちまでを教えています。自分たちの地域がどうなっているのかということを知ることにより、愛着心も出来、例え、一旦街を離れることがあっても、再び戻ってきてこの地域で商売を始めたり、より地域を活性化させるためにするべきことを一緒になって考えるようになります。子供の頃から地域があるべき姿を共有することができているのですごく強いと思います。日本も今はご当地検定がブームになり、地域学の研究等行われているようですが、結局は表面的なものが多く、もっと地元の方々が自分たちの地域を知るためにも、もっと地元へ落とし込んでいく必要があると思います。私の場合、全ての観光プロモーションはまずは内側から行っていくべきだと考えていますので、地域の住民、そして、子供たちにその地域の価値を見出してもらわなければなりません。そのためにも学校の教育課程の中に地元のツアー・プログラムなど組み込んでいけないかどうかなど、教育の見直しにも力を入れています。

 

【地域とボランティアガイド】

また、観光立国推進基本計画の中にボランティアガイドを倍に増やすという計画がありますが、それについても、年配の方のボランティアガイドだけを増やすのではなく、地元の子供たちに任せてみてはどうだろうかと考えています。これならば、子供たちに地域のことを知ってもらうことができますし、先ほど話したような流れに持っていくことが可能となります。逆に、年配の方だけでボランティアガイドを増やしたとしても、現在のように年金もきちんともらえて時間にも余裕があればいいのですが、これだけの社会と将来不安の中で、果たして同じ条件で高齢者の方々が将来に渡って対応できるのかという問題もあり、継続性を保つのは難しいと思います。

今、私が関わっている地域で観光満足度のリサーチをすると、実はボランティアガイドの評価だけがあまり良くないことがあります。これはボランティアガイドが自分の話したいことだけを優先して、お客様の立場に立ったサービスを提供できていないところに原因があります。お客様の満足度を優先せずに、自分の満足度を優先してしまっているのです。また、一つの問題として、ボランティアガイドの仕組みでは若い人材が入っていけません。これはエコツーリズムや環境教育の世界でも同じことですが、ビジネスとして若い人たちがお金を取れる仕組みにしていかなければ、地域として持続可能な形にはなりません。ただ、だからといって年配の方たちを追いやるというわけではなく、お客様の満足を考えるプロのガイドになっていただくか、もしくは、そういった方たちは名人、達人と呼ばれる知識が豊富な方々が多いので、若手ガイドを育成する講師のほうにまわっていただくといいと思います。

国がボランティアガイドを増やそうとしている中で、このような方向に持っていくことが出来れば、地域にとってもきっと良い結果を導き出すことができると考えています。

 

Q9.これらができれば「観光」を成立させることはできるのでしょうか?

そうです、これらのことができれば、世界遺産のような特別な資源がなくても「観光」を成立させることはできます。日本は幸い、歴史や伝統、文化や生活等、どこも地域特有のスタイルを持っています。必ずしも特別な資源が必要だとは思いません。どちらかというと、他とは違う異日常性が際立った生活文化のリアリティの方が重要です。たとえば、沖縄の離島のようなところは海がきれいだからという理由だけで人が集まっているわけではありません。なぜなら、同じきれいな海だけが目的ならば、もっと安くいけるグアム・サイパンへホテル付のツアーで行くはずです。では、グアム・サイパンではなく沖縄の離島に行く理由は何でしょうか。それは、その島に残る伝統や生活文化、自然環境、そして、それらのフィールドを活かした様々なツアーやプルグラム等はどれもリアリティに溢れ、他のどこにも無い商品であり、そして、そこに住む人々の豊かさに触れ、生活に憧れて行くのです。やはり本質的で豊かなライフスタイルが「観光」には大きく関わっています。

 

Q10.観光で成功している地域で出来ていることは何でしょうか?

まずは、住民が自分たちの地域を誇っていることです。そして、中にはいろいろな問題を抱えながらも外に向かっては一枚岩に見えるほど地域が一体となった行動をしています。
それは地域内の「エゴと利害」を自分たちで乗り越えているからです。つまり、個々が自己最適化を図り、独りよがりにならずに、地域全体としての運営ができるということです。地域内の連携ができているので、観光としても付加価値の高い商品をつくることもできます。何事も、個々でやるには限界がありますが、連携先が増え、仲間が増えるほど、アイデアも含めて付加価値が高まります。例えば、地産地消を進めるにしても、観光事業者だけでは限界があります。やはり、地元の農業や漁業、商業の方たちや様々なアイデアを出す人達と連携したほうが良い商品が生まれます。そして、その価値の高さで客単価を高めることもできるのです。

 

Q11.ではその地域のまとめ役を誰が担うのが理想的でしょうか。

基本的には民間ですが、今の日本の現状として、民間事業者だけでは難しいというところがあり、ある程度は行政のお手伝いが必要かと思いますが、そのためにも、大事なのはやはり現状認識だと思います。例えば、利害があってまとまらないならば、実際、どう利害があるのかを明白にするべきです。多くの人は自分の地域内の噂や思い込み等の誤った認識でしか物事を考えていないことが多く、実際にどこまで本当に利害があるのかを正確にとらえていません。だからこそ、そこに現状を明白にした答えを導き出すことが必要です。

そのために私がよくやるのは「お金・モノ・人」の調査です。地域内と外とのつながりを「お金・モノ・人」の動きから調べるのです。この結果で、お互いがビジネス上でどう関係しているか、地域としても何が地元にとって貢献度が高いのか等がはっきりとわかります。これが分かった上で、今度はお互いに協力することによりメリットを双方に生み出す仮説を立てて、それを実証することです。

 

Q12.それを実証させるためのデータはどのように収集しているのでしょうか?

世の中で発表されているデータには信用できるものもあれば、信用できないようなデータも存在します。その部分については、公の正確な数字を使うようにしています。もちろん、地域によっては個別で改めて調査をする場合もあります。

正確でないデータといえば、観光の入れ込み数があります。場所によっても調査方法がバラバラで、毎日実施しているわけでもなく、正確なカウントとは思えません。また、その数字だけでは本当に観光地として活性しているかどうかもわかりません。 それよりも、観光地としての繁栄と衰退を見るのならば、観光は流行れば流行るほど人手が必要になりますので、産業構造の中の人口比率の中に、サービス業と商業人口が増えるはずです。その次に観光が流行ると増えるのは社会人口です。つまりIターンやUターンに拍車がかかり流入人口が増えるのです。このサービス業・商業の就業者人口の増減と社会人口の増減を見れば、観光地として伸びているのか落ちているのかがはっきりとわかります。しかも、この数字は国勢調査ですから信用できます。

※参考資料
商業・サービス業人口の増減と社会人口の増減

商業・サービス業人口の増減と社会人口の増減
(資料提供:日本政策投資銀行 藻谷浩介参事 からの提供、共同作成)

 

Q13.では、現実的にどうしていけばいいのでしょうか?

現実的に、その地域本来の姿を保つために、地域のオリジナルの姿を全て保っていくことは難しいと思いますが、ヨーロッパの街などを見てみると、建物や街並、景観など昔のままに上手く保って活用しているところもあります。そして、そのような地域には多くの人が訪れています。逆に、その地域らしさを崩してしまった観光地は観光客数が落ちているのが事実です。このためには、先程からお話をしている地域のあるべき姿やこれから向かうべく方向性を決めることや、地域全体が連携しなくてなりせん。地域内の利害をはっきりさせ、仮説を実証することも必要ですが、もう一つは「エゴ」をどうするかということです。ほとんどの地域がエゴや利害関係のために、共通のテーブルにつけないでいます。その時に、共通のテーブルとして、共通の認識を持たせるものが地域にとっての「環境問題」だと思います。例え、どんな人でも「この地域の環境をよくしましょう」という提案に表立って「ノー」という人はいません。これにより大きなくくりではありますが、一つのテーマで地域をまとめることが可能です。そこから地域のあるべき姿や今後の方向性を示していけば良いと思います。観光産業的には、「エコツーリズム」という考え方もあります。地域のエゴを解決するためにも、エコツーリズムは事業者や住民の方々に地域の環境保全と自立のための産業構造を考えるきっかけになります。そして、それは地域の普遍性のある本質的な魅力と地域本来の姿を考えることにもつながってくるのです。

 

Q14.自立した地域を増やすためには何が必要だと思いますか?

道州制や地方分権の流れや国からも自立を促されている中で、本当にこのままで自分たちの住む地域が自立できるのかどうかを真剣に考えるべきです。基本的にはほとんどの自治体には自立できるほどの財政力はなく、経済的に苦しいのははっきりしています。 その中で、住民が行動をしようとすると、先程話した「エゴと利害」が絡み合います。地域によっても違いと差がある問題ですが、地域の方々が自分たちの力でその問題を解決していかなければなりません。私がやっていることは、地域自らがそれらの問題を解決し、自分たちで責任を持って、決断と実行ができる力を育成することです。そのためには、第三者が、どこに問題があるのか、どういうビジョンでやらなければいけないのかというアドバイスも必要です。自立するために必要なポイントを明確にしてあげることが重要だと思います。

 

Q15.スイスにおける着地型のツアーはいかがでしょうか?

日本では、インバウンドにおいて着地型のツアーが十分ではありませんが、スイスでは、観光・リゾート地は現地発着のツアーやプログラムが充実しています。お客様の大半は現地で何ができるのか、何が経験、体験ができるかという理由で場所を選んでいます。ただし、そのツアーやプログラムには地域の良さを伝えて、お客様を満足させ、もう一度来たくなるような仕組みが必要です。 私自身が実際にガイドをするときの自然や歴史等の解説や話でも、大事なのはお客様に満足してもらってリピートしてもらうことですから、例えば、冬に山や氷河、動物の話をするだけではなく、同じフィールドの夏の良さを想像してもらうために、高山植物の話をすることもあります。夏にもう一度来て、このガイドと一緒に歩きたいと思ってもらえるようなガイディングをします。これはその地域をよく知っているからこそできるもので、「地域学」というのは観光の中でも大きな役割を果たします。

また、ツアーやプログラムの商品構成としては、レベルが高く内容が深い、料金的にも高いものから、初心者レベルを対象とした安くて手軽なものまで、ピラミッド型に揃えてあることが理想だと思います。まずは、手軽にできる入門的なもので誘い込み、どんどんと内容が深くて濃いものへ引き込む流れをつくるのです。日本の場合、入門編の簡単なツアーやプログラムほど新人のガイドが担当しますが、ヨーロッパの場合は、そういったツアーほど熟練のベテランのガイドが行います。それは、その入門編でお客様を大満足させないと、もう一歩踏み込んだところへお客様が入って来てくれないからです。

※参考資料
ラーメンで例えるマーケット戦略

ラーメンで例えるマーケット戦略
(資料提供:日本政策投資銀行 藻谷浩介参事 からの提供、共同作成)

 

Q16.日本の観光の仕組みで不十分だと思われる点は何でしょうか?

日本の場合、第三者からの評価制度がないと思います。自己評価とお客様からの評価の仕組みはありますが、第三者が公平に評価するところがありません。欧米では、これらの仕組みが確立されているので、旅行者が選択する場合の目安になります。例えば、スイスでも、ホテルを星の数でカテゴリーに分けることや、Qマークでクオリティ評価をしています。日本の宿泊施設だと外観写真と料金だけしか判断できない場合があります。
事業者の都合で出す情報ではなく、旅行者が欲しい情報を正確に提供できないとミスマッチが起こる原因となります。誰から見ても公平で公正な評価をする第三者的な機関や制度の確立が日本でも必要だと思います。

 

Q17.お客様を満足させるためにはどうしていけばいいのでしょうか?

お客様の個々の満足を獲得するためには、そのお客様の旅の目的、理由、テーマ、要望、欲求をしっかりと捉えることが重要です。そして、後は、それを満たすためには何をすべきかを判断して実行するだけです。リピーターになればなるほど、お客様から多くの情報を引き出してCRMを徹底すべきです。そうしないと、お客様が要望する先を読み取ることもできません。事前期待を超えるには「感動」という事後評価が必ず必要です。

また、地域全体としては、トータルの地域力を上げていくしかないと思います。それはインバウンドだけのことではありません。どうのようなお客様が来ても地域全体で満足させて帰すというユニバーサルツーリズムの根源的な考えです。そして、最も重要なのは、その地域に来てもらうためのお客様にとっての明確な理由と目的を提案することです。
ただの物見遊山ではなく、お客様が心から行ってみたいと思う理由や目的になる体験や好奇心を満たす商品が必要になります。まずは、地域全体で何をテーマ、コンセプトにしていくのかを決め、ターゲットにしたマーケットに則したこだわりの商品構成を用意しなくてはなりません。

 

Q18.ご多忙な毎日の中で、限られた時間をうまく利用する方法は何ですか。

(山田氏と親交の深いJNTO理事である安田氏より、類まれなる行動力で日本の地域活性化に邁進される山田氏の時間管理についてのご質問を頂きました。)

プライオリティ(優先度)をはっきりすることだと思います。そして、自分のやれることだけをやる、ということです。つまり自分だけで全てをやろうとするのではなく、自分の持つ人的ネットワークをうまく活用することです。やはり、ここでもネットワークとコミュニケーションによる人との関係が大切です。

 

Q19.人的ネットワークを作るうえで気をつけていることはありますか?

実際に会って話をすることです。人にはいろんなうわさやイメージがつきまとうものですが、私はその人に会うまでは事前情報による先入観を持たないことにしています。実際に会って、そこで初めて自分で判断をします。それと、「ギブ アンドギブ」です。何かをやってもらおうと期待してネットワークを作らないほうがいいと思います。そして、仕事以外の人間性の部分も含めてお付き合いができるかどうかだと思います。

 

Q20.日本の魅力とは何でしょうか?

日本は、地域それぞれに魅力があり、それを地域の人々が誇ることができることが一番重要で最大魅力だと思います。そうしなければリアリティのある魅力やメッセージ性も出ません。ただ、今のところは上手く誇ることができない地域が多いだけです。また、観光の魅力は最終的には「人」だと思います。「おもてなし」とは「お持て成し」と書きますが、それは地域の人々が地域力を持って、お客様に対して、心から成す(結果を出す)ことです。この言葉を持つ日本はとっても魅力的です。
あとは、他の言語に直接他の言語に訳すことが難しいのですが「粋」が日本の魅力だと思います。

 

Q21.山田氏にとって「観光立国」とは何でしょうか?

まさしく、成熟した先進国として生き残るための一つの目標であり、国民が心から豊かな生活を送るための手法、手段でもあります。ただし、日本はまだ、その戦略の部分がはっきりと決まっていないので、やるべきことがまだまだあるといえます。

 

Q22.今後のテーマなどありましたらお教え下さい。

今まで、世界中のいろいろな地域に携わってきましたが、本当に素晴らしいといえる地域には、人の3つ条件があります。一つは、その地域の子供たちが自分の地域のことをよく知っていて、その地域を大好きで、元気があることです。二つ目は、その地域の女性の豊かな感性を活かして使えているかどうかです。女性は男性に比べ豊かな感性を持っているので、それをうまく使うべきだと思います。そして、3つ目は、お年寄りの身の処し方がきれいだということです。日本のようなお年寄りによる老害やエゴは困ったものです。今後は、これらの条件が揃う地域を育てていきたいと思っています。

そして、「エゴ」でも「エコノミー」でもない「エコツーリズム」の更なる普及です!

インタビューへのご協力誠にありがとうございました。

また、以下の内容はデータが示すマーケットの現状です
。 正確なデータを読み取り現状を把握することが必要だと山田氏はおっしゃっていました。

そして、最後には今回の取材にご協力くださいました、通訳案内士高宮暖子さんからのコメントが寄せられておりますので、そちらもぜひご覧ください。


■データが示すもの

【アジアからの旅行者】
東アジアの出生率(資料提供:日本政策投資銀行 藻谷浩介参事 からの提供、共同作成)
東アジアの出生率(資料提供:日本政策投資銀行 藻谷浩介参事 からの提供、共同作成)

実は、日本よりも他のアジア諸国のほうが出生率は低くなっています。中国に関しては政府のホームページでも2020年以降は人口が激減すると発表しています。このことを考えると、将来的に東アジアのマーケットからの大量集客の仕組みには限界がくることが目に見えています。近年、東アジアマーケットも個人旅行化とリピーター化が進んでいます。これまでの団体旅行の姿はいつまでも続きません。でもこの現状を知っている人はほとんどいないというのが事実です。

【国内マーケットの限界】
日本の人口増減(資料提供:日本政策投資銀行 藻谷浩介参事 からの提供、共同作成)
日本の人口増減(資料提供:日本政策投資銀行 藻谷浩介参事 からの提供、共同作成)

日本のモノが売れていた時代は単純に日本の人口が過去、爆発的に増えていたからです。戦後、これまでは年間約100万人ずつ増えていた人口が、今後は平均して年間約80万人ずつ減っていくのです。このことが意味するのは、人口減少と共に市場が急速に縮小するということです。今後は、国内マーケットだけで消費を上向かせることは無理なのです。そして、すでに激減しているのが年齢20~59歳までの世代人口です。この世代は、基本的に自分たちでお金を稼ぎ、消費し、税金を納める人たちです。この世代人口が1995年のピーク時には約7100万人いたのですが、後2年後の2010年には約600万人減ってしまい6500万人になります。この結果、自動車産業へも大きな打撃を与えています。世界中で車を売り、1兆円企業となったトヨタでも、この数年間はダイハツの軽自動車を合わせた国内の新車登録販売台数が減っています。19歳以下と60歳以上は基本的に新車を購入しないマーケットです。更に後12年後の2020年には、この世代人口が約6000万人にまで減少をします。国内で消費が将来的に減少していくのは明白です。観光産業も例外ではありません。今後は、本格的にインバウンドをやっていかなければいけないという状況にきていることがわかります。

20~59歳の人口増減(10年前)20~59歳の人口増減(現在)20~59歳の人口増減(15年後)
20~59歳の人口増減(左から10年前→現在→15年後)
(資料提供:日本政策投資銀行 藻谷浩介参事 からの提供、共同作成)


今回、山田氏への取材を実現させていただいた通訳案内士高宮暖子さんよりコメントをいただきました。どうもありがとうございます。

観光カリスマ山田桂一郎氏と通訳案内士高宮暖子氏

このたび、山田桂一郎さんのインタビューにご一緒させていただきました、通訳案内士の高宮暖子です。やまとごころインタビューを記念して、心ばかりのコメントを寄せさせていただきます。

まずは観光、なかでもインバウンドツーリズムにかつてない注目が集まっている今のこのタイミングで、山田さんのお話が掲載されたことを大変うれしく思います。というのは、山田さんのお話にインバウンドを持続的に成功させるキーがあると確信し、一日も早く、お一人でも多くの方に共有していただけたらと願うからです。

私が山田桂一郎さんに初めて出会ったのは、今から二年近く前のこと。「九州発見塾」とうい地域観光のイベントで山田さんのご講演をお聞きしたのがきっかけでした。以来、地域振興やインバウンドの分野を中心にご指導いただいています。そして今回、ポータルジャパン社様のご尽力のもと、山田さんに日本のインバウンドについて語っていただくことが、ついに実現しました。

これまで各地で山田さんのご講演をお聞きするたび、私は仕事観、人生観が180度変わるような強い影響を受けてきました。それまで何の問題意識も持たず、細々と通訳ガイドの仕事を受けていただけだった私が、総合産業としてのツーリズムのあり方や、お客様本位のホスピタリティ、本当の豊かさ、何がお客様を惹きつけるのかと考え始め、大義をもって仕事に臨めるようになったのです。それに、九州は九州でよいと思えるようになった・・・。これらはすべて、山田さんのおかげです。

ご講演での山田さんは、大変なご多忙にも関わらず、毎回エネルギッシュでテンポよく、新鮮で魅力的なお話をされます。周囲の方からよくお聞きする感想は、「実践に基づいているので説得力がある」、「データに裏打ちされている」、「時間の経過をまったく感じない」などで、私も大いに共感します。更に尊敬しているのは、語学業界で例えるならば、通訳にも翻訳にも耐えるコンテンツをお持ちであること。つまり、瞬発力と緻密性が両立する・・・これはカミワザ!ですね。

山田さんからいただいた数あるメッセージの中で、最も影響を受けたのは、「人に会うときは真っ白な状態で」。これは仕事上、特にホスピタリティ業界での人間関係において大切なヒントを含んでいます。国籍、見かけ、評判などでレッテルを貼らない、勝手にフィルタリングしない。おひとり、おひとりの人格を大切にする・・・。

嬉しいことに大抵の場合は、ネットやどこかで聞いた情報よりも、実際に自分の目でみる姿のほうがはるかに良く、観光の魅力はまさにそこにあると思うのです。人の、街の、そのときだけ、そこだけの瞬間的な輝きをお客様と共有し、明日を生きるエネルギーに転化できる・・・こんな素晴らしい仕事は他にない!と。

さて、この特集をお読みいただいている皆さまは、漏れなく、何らかの形で観光に携わっていらっしゃいます。観光に携わるというのは、何も特定の観光業に就いているということだけでなく、地域のコミュニティに参加していたり、日々の暮らしを大切にしていたりという日常的な営みも含みますから、皆さま、漏れなく全員、です。

山田さん曰く、’観光は感幸’、日本を豊かな国へと導く解決策であり、幸せになる術、私たちの生き様そのもの。ぜひ手を取り合って、日本の魅力を再発見し、育み、磨き、誇り、伝えていきましょう。

最後に、このようにすばらしいインタビューを実現し、お話をまとめてくださったポータルジャパン社の村山慶輔さん、加瀬雅彦さん、そしてご協力いただいた山田桂一郎さんに、心より感謝申し上げます。どうもありがとうございました。

 

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