インタビュー

印刷用ページを表示する

2010.10.10

株式会社ファイネックス 代表取締役社長 桑原 信彦氏

12万部発行の外国人観光客向けフリーペーパーでインバウンドを加速化

プロフィール

立教大学卒業後、1976年、株式会社日本リクルートセンター([現]株式会社リクルート)入社。
中途採用事業に携わり、1982年創業間もない株式会社リクルートフロムエーでアルバイト情報誌事業の立ち上げに参加。1989年、大阪支社長としてフロムエー関西版創刊を行う。
その後、経理部長、経営企画室長、取締役フロムエー事業部長として経営全般に関わる。
短期アルバイト派遣会社株式会社リクルートフロムエーキャスティング設立時には代表取締役社長として創業に関わりアルバイト派遣事業を開始。
2000年4月リクルートグループ退社後、株式会社ファイネックスを起業。
2001年4月訪日外国人向けフリーペーパーatt.TOKYOを創刊。
2003年にatt.JAPANに改称し、英語に中国語を加え、マルチリンガルフリーペーパーに。
2009年att.JAPAN 中国語(繁体字)版を台湾にて創刊。
現在、多言語フリーペーパーatt.JAPANは日本国内をはじめ、世界各国の50数都市で配布。
中国語(繁体字)版は台湾の訪日旅行代理店50社の他、日系書店で配布中。

 

学生時代から観光業に興味を抱き、リクルートから独立し思いを遂げる

村山

まずは、起業に至るまでの経緯からお聞かせください。

桑原

学生時代は経済学部で学んでいたのですが、観光産業に興味を持っていたので「ホテル研究会」というサークルに在籍し、観光やホテルのサービスについて研究を重ねていました。卒業後はホテル・観光業界ではなく、当時、ベンチャー企業のはしりであったリクルート社に入社し、人材ビジネスに携わることとなるのですが、実は観光産業への想いは捨ててはいなかったのです。

村山

なるほど。リクルートさんでは、どのような業務をご担当されていたのですか。

桑原

リクルート社では、中途採用事業の創業間もない時期から「フロムA」など情報誌の立ち上げをいくつか経験し、編集責任者や子会社の経営も任されるなど、活躍できるフィールドを経験させていただきました。仕事には満足していたのですが、現在の自分の立場から、観光産業の世界で頑張っている学生時代の仲間たちにエールを送りたかったんですね。そこで、この「att.JAPAN」と同じような情報事業をリクルートフロムエー社内で提案し、プロジェクト発足までこぎつけたのですが、リクルートグループのような大規模な企業にとっては、当時はマーケットのサイズが小さいとみなされて頓挫。ならば、個人でやろうと自ら起業をしたのです。

村山

勇気のいるご決断ですよね。

桑原

今考えると、ずいぶん冒険したな、と(笑)。
しかし、やってみたいという強い思いがあったのですよね。当時は、日本を訪れる外国人観光客は約400万人強。外国人観光客の受け入れ数のランキングでみても世界で36位という位置にありました。GDPが当時世界第2位という立場にありながら、さすがに地位が低すぎるのではと思いましたね。その理由は明白というか、単純に日本人が海外に向けて情報発信をしていないわけで、我々が何らかの形で発信できないものかと考えたのです。

また、その頃からすでに少子化社会が予測され、国内マーケットがしぼんでいくと考えた時に、今後は国内の各企業が海外に打って出るか、外国人を呼び込んで経済効果を高めるしかありません。私が興味のあった観光産業においては、やはり後者を推進するしかないと考えたわけです。

村山

そこで、外国人向けの情報誌を制作しようと考えられたのですね。

桑原

そうです。起業から約一年の準備期間を経た2001年4月に創刊号を発行するに至りました。当初は、「att.TOKYO」という名で、日本にやってくる外国人の約6割の方が訪れるという東京にフォーカスして誌面を構成していたのです。

 

外国人観光客はもちろん、在日外国人からの需要も高まる

 

村山

創刊されてからは、その事業は順調に推移していったのでしょうか。

桑原

フリーペーパーなので、当然、広告が収入源となるのですが、今でこそ「インバウンド」という言葉が浸透しているものの、当時はまだまだ外国人をマーケティングの対象として意識している企業自体が少なかったですからね。国内の自治体も、現在ほど積極的に取り組んではいませんでしたし、当初は経営的に厳しい状況が続いていました。

しかし、2002年に開催が予定されていた日韓ワールドカップを機に、一気にインバウンドへの注目が集まるだろうと予測し、流通体制の基礎を固めていったのです。

 

村山
それは、狙い通りの結果となったのですか。

桑原
はい。2002年には爆発的に売れましたが、本当に一過性のものでした(笑)。しかし、ワールドカップをきっかけに継続的な取り組みを始めた企業様とのお付き合いも生まれましたし、自治体からの需要も少しずつ増えていきました。ここ数年の間に見られるような飛躍的な展開、というわけではありませんが、粛々とやってきた感じでしょうか。この11年の間には、2003年のSARSとイラク戦争、2008年には新型インフルエンザやリーマンショックが発生。そのような大きなアクションが起こるたびに影響を受けてしまうビジネスなのだな、と実感しながら、何とかここまでやってきたというところです。

村山
今や、外国人観光客向けのフリーペーパーとしては老舗であり、第一人者としての地位を獲得しているかのように思えますが、この「att.JAPAN」の編集方針や流通先について教えてください。

桑原
単に情報を並べるだけではなく、読み物仕立てにしようという思いがあって、他誌よりもテキストの割合が多くなっています。読むことで仮想体験をしていただき、興味を深めたうえで実際にその観光地へ行ってみようという動機づけができればと。現在は国内・海外で12万部発行し、ホテルや観光案内所などはもちろんのこと、これは私たちが意図していたことではないのですが、観光客ではなく、在日の外国人の方からも支持を集めているようで、区役所や外国人向けスーパーやレストラン、米軍基地からの要望より、こちらから配布しています。

村山
米軍基地ですか!? それはすごい。

桑原
私たちが営業したわけではないのですが、たまたまこれを手にした米兵の方が、軍に掛け合ったようです。要するに、在日の方のコミュニティ内においては、生活情報は入手できても、日本国内の観光情報は少ないわけです。彼ら自身が読むのはもちろん、母国から家族や友人を招いた時に活用するようなのですね。ここ数年では、ホテル業界でも関係者の間で口コミが広がり、おかげさまですっかり認知度が高まり、日本各地のホテルから発送依頼を受けることになりました。前号など、部数が足りなくて…。本当にうれしい悲鳴です。

情報誌の生命は信頼度安心できる観光環境の提供を推進

村山

最近では、株式会社ファイネックスの経営のほかに、日本インバウンド・メディア・コンソーシアムを設立され、理事長としてご活躍されているともお聞きしておりますが、そちらではどのような活動を進められているのですか。

桑原

かねてからインバウンドに関わっている人間の間では、業界自体がニッチであり、我々の存在自体がどれだけ社会の役に立っているのかどうかがわからないという中、お互いに力を合わせた活動を進めたいという声があがっていました。また、最近では新規の参入者も増え、中には継続的意思があるのか、目的や狙いがなんなのかがわからない媒体も登場しています。我々としても、そのような媒体と同等のものと考えられるのは不本意ですし、そもそも情報誌の命は信頼度だと思っているので、その信頼度が揺らいでしまっては、外国人の方が安心して観光を楽しむことができない、と考えたのです。そこで、協会を設立し倫理要綱を作成。私たちの協会に加盟していただくことで、信頼性を獲得できるような、そんな仕組みづくりを進めているところです。

村山

なるほど。それは大変意義のある活動ですね。次に貴社の今後の事業展開について教えていただけますか。

桑原

現在は「att.JAPAN」の編集発行、私たちの経験の中から得てきたノウハウのインバウンド事業者への提供、および翻訳事業という3本柱で事業展開をしています。まだまだ、これらの提供範囲が限られているので、より多くの自治体や民間企業様に紹介し、ご利用を促進していきたいと考えています。また、時代に適応した正しい情報発信方法に準じ、効果的かつ、多くの人々に感動を与えることのできるコンテンツを提供し、さらに諸外国の方々が日本に興味を持つように仕掛けていきたいと思います。

村山

最後に、現在の日本におけるインバウンドの現状に対し、提言をいただければと思いますが。いかがでしょうか。

桑原

まだまだ、限られた観光事業者だけが対応しているように思えます。理想としてはすべての日本人が海外の方へのアレルギーを持つことなく、本来の日本の美しい資質である”おもてなしの心”を広げていければと。そのためには、日本人が日本のことをもっと知らないとだめですよね。私もこのビジネスを始めて、改めて日本の良さを再発見することも多く、知ればやはり、諸外国の方に教えてあげたいという気持ちになります。その気持ちからこそ、真の国際交流が生まれるのではないかと思うのです。それは必ずしも言葉ではなく、気持ちが通じ合っていれば良い。そんな環境が作れることで、さらに日本のインバウンドが充実してくるはずです。

村山

本日は、ありがとうございました。

最新のインタビュー

バックナンバー

2017年

2016年

2015年

2014年

2013年

2012年

2011年

2010年

2009年

2008年