インタビュー

東洋大学 国際地域学部 国際観光学科 准教授 島川 崇氏

2010.08.10

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”被災地観光”による東北復興への道を切り拓く

プロフィール

日本の大学卒業後、JAL に入社。退社後、松下政経塾に入り、観光事業の重要性を知る。London Metropolitan University に留学し、Tourism & Hospitality で MBA を取得。現在、東洋大学国際地域学部国際観光学科の准教授。

1998年 JAL を退社。松下政経塾で政治を学び、観光制作の重要性に気づく。
1999年 London Metropolitan University Business School (Tourism & Hospitality) に入学。
2000年 同大学で MBA を取得し、その後韓国観光公社に採用される。
2001年 参議院選挙に出馬。惨敗する。
2002年 再び上京し、日本総合研究所に入社。
2005年 東北福祉大に講師として採用。
2009年 東洋大学国際地域学部国際観光学科の准教授となる。

被災地観光ツアーを推進し、リアルな現状を伝えていく

村山

現在、先生が注力されているのは、どのような研究なのでしょうか。

島川

東日本大震災後の“被災地観光”に着目して活動を進めています。元々、東北福祉大学に在籍していたこともあり、震災直後から東北再生のために何かできることはないだろうかと模索していました。そんな折、安否を心配していた石巻の友人から連絡が入り、「とにかく元気な顔を見せに来てよ」というのです。

当時は、TVをはじめとするマスコミの論調として「物見遊山の感覚での訪問はやめてくれ」となっていたのですが、5月になって被災地を訪問し、友人の話を聞くと「もっと現状を知ってもらいたい」というではありませんか。

TVの中では、無理に美談にされている部分もあり、作られた映像を通してではなく、リアルな現実を見てもらいたいと。そんな話を聞きながら、被災地観光への想いが高まっていったのです。

村山

なるほど。確かに震災直後には、マスコミを中心に、自粛ムードみたいなものがありましたね。

島川

自治体が地域の混乱を避けるために、そのような情報を流していることがわかったんです。地元の方々の話を聞きながら、観光の世界で生きている人間としては、伝えるべきこと、そして観光のプロとしての支援の方法があるのではないかと思ったのですね。

私が被災地観光を言い出した当初は、旅行会社も難色を示していたのですが、戦場カメラマンの例を出して説得したのです。彼らは批判を受けながらもプロの伝え手としての使命感を持って、戦場の悲惨な状況をカメラで切り取っている。

我々も堂々と観光を促進して、実際の目でしっかり状況を見てもらうべきなんじゃないかとね。それで、学生や国際観光学会の重鎮たちを岩手に連れて行ったのですが、誰もが心動かされたようで、かなりの手ごたえを感じました。

村山

大変、行動的でいらっしゃいますね!

島川

インバウンドでも生かせると思うのですよ。 綺麗な部分だけでなく、リアルジャパンを見せていきたい。被災地の瓦礫の中からもう一度這い上がっていく姿など、同じく地震・津波の脅威を感じている東南アジアの方にとってはかなり共鳴を受けてもらえるでしょうし、復興の過程を見せることでリピートに繋がっていきます。もちろん、観光客を呼ぶことで経済効果も生まれるでしょう。実は、昨年の10月から東京工業大学の大学院に通い始め、都市計画の要素を含めた被災地観光の研究を深めているところです。

官僚主導の航空業界に疑問、政治の道から再び観光の世界へ

村山
そもそも、島川先生が観光と出会ったきっかけはどのようなものだったのでしょう。

島川
大学を卒業して、日本航空に入社。そこで仕事をしていると、たとえば運賃を決定する際にも、会社が運輸省の規制に縛られていて、身動きとれない状況にあることが徐々にわかってくるわけですね。業界でも国際競争が激しくなりつつある時代。
この官僚主導の体制に疑問を持って退社しました。そして、いまさら官僚にはなれませんから、官僚を動かすことのできる政治家になって民間をサポートしたいと考え、松下政経塾に入ったのです。

村山
すごいご決断ですよね。

島川
そこで外交を学んでいたのですが、イメージとして日本って外交下手と思われているでしょ。しかし、ODAなどを見てもEUやアメリカよりも、その地域にとって役に立つものをたくさん作っているのにも関わらず、ちゃんと伝わっていないのですよ。
気づいたのですが、要するに日本人は海外旅行に行くけれども、外国人は日本に旅行に来ない。だから、本当の日本の姿をそこに住む日本人のことを良く知らずに、間違った教育や情報からのみイメージを作っている。
正しい日本の姿を伝えるという目的でも、外交の一環として観光を位置付けるべきと考え、インバウンドという形にこだわったのです。

村山
なるほど。そして、政治の世界へと進まれたのですね。

島川
まず、ロンドンメトロポリタン大学ビジネススクールにMBA留学し、ここで観光学を徹底的に学びます。その後、国家レベルにおいての観光政策がしっかりしている韓国観光公社に入社。その2カ月後に、地元・愛媛県の方々から参院選への出馬要請がありました。

観光公社の上司にも後押しされて決意し、野党として選挙戦を戦ったのですが、例の小泉ブームで敗退。それからは、本当に色々な事業に着手してはうまくいかずに、悶々とした日々を送ることになりました。

行き詰っていたある時に妻が、「原点に戻りなさいよ。あなたがやりたかったのは、観光で日本を変えることでしょ?大学院の博士課程にでも行って勉強しなさい」と言い出したのです。しかし、勉強するにもお金が必要です。すると、彼女がこれまでにコツコツと貯金していてくれたお金を出してきたんです。

村山
素晴らしい奥さんですね!

島川
そこで目が覚めました。さすがにそのお金は使えなかったんですが、もう一度、東京に出て再スタートを切ろうと、そして日本総研の観光コンサルタントとして、観光の世界へと舞い戻ってきたのです。さらに3年後には縁あって、東北福祉大学に講師として招かれ、教鞭を執ることに。その後、東洋大学で国際地域学部国際観光学科の准教授として採用され、現在では「文学と観光」をテーマに研究を進めているところです。赤毛のアンの舞台、カナダのプリンスエドワード島もフィールドです。

被災地観光とインバウンドを繋いでいくことの意義

村山
先生が執筆された書籍に「サスティナブル・ツーリズム」について言及された記述がありますが、この考え方との出会いは、どのようなものだったのでしょうか。

島川
先ほどご説明した、ロンドンメトロポリタン大学で教鞭を執っておられたデビットハリソン先生からご教示いただきました。
日本でサスティナブルというと、エコツーリズムとかグリーンツーリズムなどのニューツーリズムのことを指す言葉のように受け止められています。団体旅行はダメというステレオタイプの認識が蔓延しています。
しかし、総量ではなくキャリング・キャパシティの問題であり、一時的なブームを起こしたり、身の丈から外れたものがサスティナブルではないというのが本来の考え方なのです。

村山
ブームを作るためのキャンペーンやイベントを活用して集客することに問題があるということでしょうか。

島川
イベントが悪いということではありません。大切なのは継続性であり、平準化だと思うのです。集客ができない季節にイベントを打つことで平準化する。これは非常にサスティナブルだと思います。そういった意味で、文学をモチーフとした観光対策などは、まさに一時的なブームに終わらず、息の長いものとなり得るのです。

村山
なるほど。
先生から見て、現状のインバウンドにおける問題点とはどのようなものでしょう。

島川

観光庁とJNTOの役割のすみ分けがしっかりできていないのが問題です。
ノウハウがあるのは実働部隊であるJNTOなので、権限を委譲すればよいのです。要するに、観光庁が誕生する以前の体制に戻せばいい。
韓国などはその良い例です。観光公社の自由度が高く、予算も任されているので、成果をあげることができるのです。

あとは各地方に任せて画一化しないこと。頑張るところが頑張っていけばいいのです。中央からの方針で統一すると、各地方の特色が薄れ、面白みがなくなってしまいますからね。

そういった意味では、東北の復興の道筋の中で、インバウンドを取り入れていくことは大変意義もあるし成果をあげていく可能性もあると思うのです。

村山

なるほど。東北の方が頑張れば、成果があがり、そして復興に繋がっていきますからね。

島川

こういう時こそ、旅行会社を巻き込んで、ガイドをつけたり、地元の方の話が聞けるような機会を作ったりするなど、個人では体験できないようなツアーを提供すべきでしょう。
私も所々で旅行会社に対し「何をひるんでいるんだ!」とけしかけていますから、最近では修学旅行先として学校に東北を勧める旅行会社も出てきて、少しずつ手ごたえを感じているところです。
そして、観光に行って、地元の料理を食べれば、生活地に戻ってからも風評被害もおさえられますしね。

村山

最後に、今後の先生の展望についてお聞かせください。

島川

とにかく、末長く東北とつきあっていくことです。言葉だけの支援ではなく、引き続き、実際の行動で示していきたいと思います。

村山

先生の行動は、東北の方にとってはもちろん、すべてのインバウンドに関わる人間にも大きな勇気を与える、意義あるものだと感じました。
今後も頑張ってください。今日はお忙しい中、ありがとうございました。

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