観光カリスマ 山田桂一郎氏 - インバウンド業界インタビュー


モリサワ

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観光カリスマ 山田桂一郎氏

「世界のトップレベルの観光ノウハウを各地に広めるカリスマ」 として全国各地を駆け回る観光カリスマ、山田桂一郎氏にインタビューをしてまいりました。観光に対する熱い情熱と、日本が取り組むべき今後の課題等についてお話いただきました。

■山田氏略歴
1965年 三重県津市生まれ
1987年 ツェルマット観光局
日本人対応インフォメーション、セールス、プロモーション担当
1992年 JTIC.SWISS(日本語インフォメーションセンター)設立
1996年 環境省環境カウンセラー(事業者部門)として登録
ヴァレー州観光局日本・アジア向けプロモーション担当
1999年 Mt.6(ベスト オブ ザ クラシック マウンテンリゾート)
環境政策とCS(顧客満足度推進)顧問就任
2003年 環境省環境カウンセラー(市民部門)として登録
2004年 特定非営利活動法人 日本エコツーリズム協会 理事
2004年 まちづくり観光研究所 主席研究員
2005年 内閣府、国土交通省、農林水産省認定 観光カリスマ


観光カリスマ山田桂一郎氏

以下、インタビューの内容です。

Q1.山田氏の経歴について教えてください。

【豊かさを考える】
私は小学生の頃から競技でヨットをやっていました。20歳過ぎの頃、同期にオリンピックへ出場した者と日本選手権で優勝した者がいて、私だけがノンタイトルだったこともあり、ヨット競技でプロデビューをしようと思い切って渡豪したのです。それが1986年頃ですから、私がまだ学生だった時の話です。その頃というと日本はまだ「豊かさ=物の豊かさ」という時代でした。私自身がオーストラリアでの生活を通して感じたのは、国民がお金やモノだけに依存しない「本質的な豊かさ」を享受している姿でした。この時に「人としての豊かさ」について改めて考え、そして、その本質を知るためには自分の足でいろいろな地域の国へ行き、そこで暮らす人たちと直接コミュニケーションをとってみなければわからないと思ったのです。無謀なようですが、そこから私のロンドンから日本へのヒッチハイクの旅が始まったのです。

【ツェルマットとの出会い】
ヒッチハイクの旅では途中で全財産を盗まれたり、地域紛争に巻き込まれそうになるなどハプニングとトラブルの連続で大変な思いをしました。そんな旅の途中でスイスのツェルマットにたどり着いたのです。初めて訪れたときの印象は、マッターホルンが独立峰として、すごくきれいだということもありましたが、アルプスの山奥にあるとんでもない田舎で、馬車や電気自動車しか走らない町が自治体として経済的に成り立っているということに驚きました。また、地元の人に話を聞くと、行政制度から何から何まで日本とは違い、自分たちの力で町の自然環境や景観保全、自動車乗り入れ禁止まで、自主ルールを作り、守ってきた、その後、そのルールが法制化されたということも知りました。発電所までが自前で、社会福祉、医療、教育のあり方まで、官民としての連携と協働の仕組みなど、その当時の日本では全く考えられないような世界だったのです。

当初、私はツェルマットにはマッターホルンという有名な山があるから多くの人が訪れているのだと考えていましたが、後になって、この山は宣伝・PRには効果はあるが、これだけでは多くのリピーター客を獲得できないこともよくわかりました。例えば、外国人が日本できれいな富士山を一度見たら、もう一度必ず日本に来たいと思うでしょうか?恐らく富士山を一度見ただけではもう一度来ようとはあまり思わないはずです。他にも日本にもう一度来たくなる理由や動機付けがもっと必要です。

ツェルマットではホテルの大規模な改装改築工事や大型化施設の建設ができないので、今以上にベッド数を増やすことはできません。この町は何十年も前からホテル全体のベッド数はほとんど変わっていないのです。稼働率アップに頼ることで売上を伸ばすことができないにも関わらず、年間の売上高は毎年上がっています。これは客の消費単価が年々上がっているということです。そして、お客様のリピート率も年々増加しています。では、なぜこれほどまでにリピート率が高いのでしょうか?

まずは、滞在して頂いたお客様の満足度が極めて高いということ、そして、事前期待を上回る事後評価を頂くだけのサービスの質の高さと進化があります。特に物見遊山の仕組みだけでは、先程の山を見るだけと同じでリピーターを獲得し続けることは困難です。お客様に四季を通じて、このフィールドで素晴らしい体験や経験をして頂き、満足して頂くことを地域全体で考えています。

ここでは馬車や電気自動車しか走ることができないことや、水力と太陽光の発電設備、町の景観など、エコリゾートとしての取り組みが観光に大きく影響していますが、実はもともとこれらの取り組みは観光のためだけに始められたものではありませんでした。地域の人たちが自分たちのライフスタイルや自然環境等を守るために取り組んできたことだったのです。きれいな自然とおいしい水と空気があることが最も大切なことだという、これまでのライフスタイルの普遍的な豊かさを維持することにより、人にとっての本質的な豊かさの本質貴なものが町や人々にもしっかりと根差しています。

ここで重要なのは、あくまでもその土地に住む人々が自ら責任を持って決断、実行しているということです。地域のビジョンやコンセプト等から町の運営までを外からの人間だけで決めてやろうとすると地域振興やまちづくりは必ず失敗します。また、一部の産業の事業者だけの取り組みも失敗します。例えば、観光事業者だけがやろうとするまちづくりは、観光ビジネスしか考えないようなまちづくりになってしまうのからで、地域全体のデザインや産業バランスが悪くなりがちです。ツェルマットのように住民の生活満足度を最優先にする地域をつくり、育てていくと、住んでいる人たちはものすごく元気で生き生きとし、豊かさが生活に溢れます。観光客や外から来た人間からすれば、明らかに素晴らしいところだと実感するわけです。観光だけの仕組みというのは必ず飽きられてしまいますが、ライフスタイルとして提供されるものはいつまでも感動と共感を得ることができますから、何度でも来たくなり飽きられません。

世界中の人達から住んでみたいと思わせる「クオリティ オブライフ」の高さがスイスにはあります。その背景があるからこそ、あらゆるスイス製品はナショナルブランドとして質の良さを認められて世界中で売れるのです。全ての商品がスイスの築いてきた「品質管理」への信用信頼と「生活文化」の豊かさを表しています。スイス国内のあらゆる産業が観光産業と一緒に世界中へPRを行い、ブランディングに成功してきました。観光による他産業への経済波及と相乗効果でスイスは経済的にも成長してきました。貿易収支の約20倍もの経常収支を誇るスイスは、ものづくりだけではなく金融や観光で国の経済を支えているのです。このような国の力を総合化させることでスイスを始めとしたヨーロッパの国々は生き残っているのです。住民がそれぞれの地域を自ら作り上げ、育て、本質的に豊かな生活をおくることが出来、毎回の調査で国民の生活満足度が世界一を誇る「スイス」という国に私は魅了されたのです。

観光カリスマ山田桂一郎氏

【ツェルマット観光局長との出会い】
その後、観光関係の仕事をしようといろいろと模索している時に、当時のツェルマットの観光局長とスイスで知り合うことになりました。その時もツェルマットのベッド数に限りがある中で、いかに売上を上げていくかという話になりました。キャパシティに限りがある中で、年々、売上を伸ばすためには客単価を引き上げることが絶対的条件になります。また、お客様の総消費単価を引き上げるためには、観光の場合、お金を使わせる仕組みというよりは、いかに1分でも1秒でも時間を使わせることができるかが重要なポイントとなってきます。滞在日数を延ばすことで、食事や宿泊、買物等で自然とお客様の消費を地域内で増やすことになります。その時間消費の仕組みの中に、お客様の満足度を獲得すること、農業、商業等の他の産業にもどういう経済波及効果があるかを考えること、その仕組みを構築する上で官と民がお互いのやるべきことをしっかりとやりながら、地域全体にとってのベストの経営判断をしなければなりません。その様な、地域が連携と連動、協働をしながら観光リゾート地を築いてきた場所に、私は20年ほど携わってきたのです。

【観光統計について】
現在、日本の観光目標数値というのはほとんどが人数だけです。訪日外国人旅行者数も目標が1000万人と人数を軸に考えられていますが、本来、観光で重要な数字は、「宿泊者数」と「リピート率」だと思います。さらに、どれだけの消費をしたのかと、その波及効果、そして、あらゆる観光の満足度の調査をせめて 5段階評価で調べることができれば、今後の観光施策には非常に参考になると思います。

Q2.山田氏が現在取り組んでいることについて教えてください。

【日本の観光】
私は現在スイスに在住ではありますが、頻繁にスイスと日本を行き来しています。年間の国際線と国内線を合わせたフライト数は平均170回になります。 私が日本に通い、何を目指しているのかといいますと、最終的ゴールは、日本の「国民生活満足度指数(Life Satisfaction)」を世界1位にすることです。採点は10点満点なのですが、世界で唯一8点以上を取れるのはスイスであり、それ以下は北欧やヨーロッパ諸国が続きます。では日本は何位なのかといいますと、6.3点の23位でいつも6点台前半です。これは経済力や武力だけで世界の覇権争いをしていてもスコアが良くなるものではありません。この指数は本当にそこに住む人々の豊かさを表しているものです。日本はG8だからと言っても、実際に国民が豊かな生活や満足な暮らしをしているわけではないのです。

先日、観光の国際競争力というものが発表されましたが、実は国民生活満足度指数と比例し、スイスが1位で、日本は23位だったのです。まさしく、これは「国民の生活満足度=真の豊かさ」と、国民の生活文化とライフスタイルと共に心の豊かさが問われる観光産業の成熟度が見事に一致している証拠だと思います。

最近になって日本は先進国として生きていくために、観光に力を入れていかなければならないという状況にようやく気づき始めた段階だと感じています。目を外へ向けてみると、日本が抱えている少子化や高齢化などの先進国としての多くの問題に対して、ヨーロッパの国々は50年ぐらい前からすでにぶつかっていました。そして、それを解決してきた形や仕組み、地域のあり方が、今のEU諸国やスイスを形成しています。では、その問題にぶつかった時、スイスや欧州国は何を優先して、どのようなことをやってきたのかを考察すれば、今後、成熟した国に日本がなれるかどうかの重要な指標を見出すことが可能です。この指標となるポイントはいろいろとありますが、最も重要なことは先程から言っている通り、国民の真の豊かさとは何であるかを考えた国づくりを前提に、産業構造としては観光と他の産業を上手く連携させて総合産業化を図ることです。
また、後程詳しく説明をしますが、そうしなければ、先進国として雇用を確保した上で、賃金を払うことができないことや、産業全体に経済効果を波及できなくなるからです。そして、外から人がやってきてお金を国内で使ってもらうためにも、インバウンド政策も更に進めなければ国内消費の減少に歯止めを掛けることもできなくなります。

私は、日本が欧州並の成熟した先進国家であるためには観光立国として成り立つことが大事だと考えています。だからこそ、「住んでいる人が本当に豊かでないとだれもその地には来ない」=「観光立国には成らない」と考えているのです。

【スイスという土地】
ではスイスという地を見てみると・・・
・大きさは約4万1千キロ平方メーター。日本の九州くらいしかない
・多民族・多文化・多言語(公用語は独語、仏語、伊語、ロマンシュ語の4つ)の国家で、人口の5分の1(約20%)は外国人
・海も無く、周りはヨーロッパ列強諸国に囲まれている
・国土の7割がアルプスの山々。平野部は少ない
・他の国々と比べて、圧倒的に天然資源が少ない

このように挙げてみると、スイスという国は人々が集まるような魅力的な国のようには見えませんが、実際、多くの人々がこの国に魅了されています。 その理由は、前述のようにこの地に住む人々の豊かさと生活の質の高さに結びつきます。

【日本の現状】
現在の日本人は将来的な不安と社会的な不安が多いため、国民がお金をあまり使えません。それに比べるとスイスや北欧諸国は年金制度や社会保障制度がしっかりしていて、退職後の生活や、もしもの時の社会的な不安や心配がほとんどなく、社会で働いている現役世代が老後の生活や社会に対してあまり心配をする必要がありません。日本ではこの不安要素が大きいためにどうしても消費行動よりも貯蓄にお金が向かいます。現役世代が働いて稼いだお金をある程度自由に使えるということも、本当の豊かさを考える上で重要な問題です。たくさんお金を儲けるということではなく、普通に使えることすら日本では難しくなっています。だからこそ、国としての年金や社会福祉、医療等の制度の確立は非常に重要であると考えます。

また、今後、日本は経済力だけで世界で勝負をすることも生き残ることもできません。元々、日本は武力で世界覇権を目指しているわけでもありませんが、経済力においても、特に製造業については、今後、人件費の安い中国や東アジア諸国と争っても意味はないのです。そこで、日本国内で雇用を確保しようとなると「観光・サービス」を伸ばすしか方法がないのです。というのは、観光というのは手間ひまがかかり、旅館でも土産物屋でも流行れば流行るほど、人の手が必要になってきます。産業の構造として雇用と直結しています。また、国内や地域内だけのお金の循環ではなく、外からもお金が入ってくることで経済的な効果が生まれます。ヨーロッパの小さな村にも必ず観光局があるのは、外からお金を稼ぐことと、雇用を生み出すという2つの使命があるからです。逆に、その地域に観光の仕組みがなければ地域の経済活動は縮小するだけで町も自立できません。雇用も無く、人口が流出していく一方になってしまうからです。

【地方、僻地の格差と経済活動】 日本では今、都市部と地方では地域間格差があると言われていますが、正直、それは本当でしょうか。実際に沖縄の離島の方では、この「観光」を軸とした経済による効果で地域が成り立っており、八重山諸島だけの経済成長率はこの4年間10%以上で伸びています。それは決して他の地域ではまねできないものではないと思っています。どこの地域においても観光産業を中心に総合産業化で自立を目指すことが出来、スイスのような生活満足度の高い地域をつくることが可能だと思います。

【経済の仕組み】
ここで少し経済の話をしますが、ここにも実は大きな落とし穴があるのです。大きな問題の一つとしてほとんどの企業の給与ベースが近年、全く上っていないことがあげられます。普通、企業収益が上がると、給与ベースも上がるのですが、日本企業の場合、ボーナス等でごまかし給与ベースがなかなか上がりません。先進国の中でユニット・レイバー・コストが唯一マイナスなのは日本だけです(普通は企業収益が上がれば、比例して給与ベースも上がる)。ただでさえ、社会不安、将来不安があるなかで、給与が上がらないことにより多くの人はお金を使わなくなってしまいます。 例えば、なぜバブルがはじけた後も、日本の経済成長率がほぼ横ばいで済んだかというと、それは単純に、消費を引っ張る20~59歳の現役世代がバブル後も 200万人ほど増えたからです。GDPの約6割は国内消費ですから、この世代が増えたことによって消費の下支えをしたとも考えられます(GDPに占める輸出産業の割合は約14%しかない)。そして今、大手企業の国内販売や売上が伸び悩んでいるのは、逆に20~59歳の人口がピーク時(1995年)よりも現在は推定で300万人も減っているからです。つまり、一番購買力のある層がごっそりと減ってしまったために、現在の消費が伸び悩むような状況になってしまっているのです。このような経済の仕組みにも気づかなければいけません。

では、欧州の先進諸国はどうでしょうか。彼らは観光を含め世界にいろいろなものを売っています。例えば、輸出品もスイス、イタリア、フランスは日本に対し、農産品からブランド品、スーパーカーまで全産業の製品と商品のありとあらゆるものを売り、対日貿易で黒字を出しています。ちなみに、スイスは貿易収支の約20倍も経常収支があります。だったら、資源豊富な日本もこれらの国々のようにいろいろなものを世界へ売っていくことで経済的にも豊かな国へと変化していくのではないでしょうか?

【スイスの観光の歴史】
もともとスイスの観光の歴史は浅く、昔は大した産業も無く、冬になると雪が多くて住む人も放牧農家くらいのものでした。この土地自体にそれほど興味を持つ人もいなかったのです。19世紀半ばに入り、ようやくイギリスの貴族やお金持ちがスイスの山の初登頂を目指したことがきっかけとなり観光が盛んになりました。しかし、この短期間でスイスは観光・リゾート地として大成功を収めることになります。当初、スイスはお金持ち向けの商売しかしていませんでした。それはある意味運が良かったのですが、お金も時間も含めて、モノの豊かさと贅沢を経験しているお金持ちが求めていたのは、心の豊かさだったのです。むしろ豪華な設備を用意できないスイス人にとって誇れるものは、普段そこに存在する美しい自然やありのままの生活だったのです。それらはロンドンのような都会には無かったものです。お金持ちに対して豪華さで対抗するのではなく、自分たちにとって一番大事だという普遍的で本質的な地域の魅力そのものと、素朴ではあったのですが、おもてなしの心で精一杯のサービスをしたというところが、観光・リゾートとして成功した大きな要因だと思います。

また、先程も説明をしましたが、観光によるサービスの質の高さ、そして、スイス国民の生活の質の高さが世界中の人々に伝わることにより、誰もが認めるスイスのナショナルブランドの担保となっているのです。だからこそ、時計や装飾品からチーズやチョコレート、製薬や金融商品までも、スイスの製品や商品は質が高いというイメージがあり、スイス国旗がついているだけで、世界中であらゆる製品や商品が売れていきます。

これらのことを見ていくと、雇用や賃金の問題にしろ、貿易の問題にしろ、解決策には「観光」を抜きには考えられません。となると、日本も今後はますます「観光」をまじめにやらざるを得ない状況だといえます。

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