インバウンド特集レポート

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第8回 2014.12.23

フードツーリズムの新しい動き 「食」はインバウンドのキラーコンテンツか?

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訪日観光での人気が高いのはショッピングと飲食。日本の飲食店は世界的にもレベルが高いと言われ、まさに我らが誇るキラーコンテンツだ。ミシュランの星の数も合計すると世界トップレベル。しかし、インバウンドに関して死角はないのか? 飲食店の新しい取り組みを追った。

目次:
●日本食体験が、訪日観光のキッカケ?
●飲食のおもてなしは簡単ではない!
●日本はベジタリアン対応の後進国?
●食×体験で新しいニーズを掘り起こす!
●飲食店のインバウンドの取り組みに終わりはない!
●料理教室で日本の食文化を体験!
●マーケットインの考え方が、外国人には重要!

 

日本食体験が、訪日観光のキッカケ?

2014年12月8日に、クールジャパン機構が、博多ラーメン店チェーン「一風堂」の運営会社、「力の源ホールディングス」(福岡市)に、欧米や豪州での海外展開資金として計20億円を支援すると発表した。
日本のラーメン店の海外出店が相次ぎ、次第に人気が高まっているが、海外では出店コストや人材確保のハードルが高い。そこで、同機構の活用となったのだろう。

タイの訪日数の伸び率の高さについて、以前、タイ事情に詳しい旅行作家の下川裕治氏のこんなコメントがあった。
「バンコクでの日本食レストランの増加が、タイ人に日本との距離を縮めさせました。基本、タイ人は味については、保守的です。しかし、現地の日本食レストランで食べ慣れたこともあり、きっと本場の日本で食べたらもっと美味しいに違いないとタイ人の声を耳にしました。実際に日本に旅行した人たちが、本場の味を自慢するのですね」

まさに「食」の取り持つ縁が、訪日数を押し上げている要因でもあるようだ。

そういった状況を反映して、アジア各地では日本の食をテーマにしたイベントが昨年の2013年から始まっている。
「Japanese Restaurant Week」というタイトルで、「日本で本場の和食を体験しよう!」をコンセプトに、訪日促進イベントとして、ぐるなびが主催している。
シンガポールで2013年9月(57店参加)、2013年12月(80店参加)、 2014年10月(110店参加)、バンコクで2013年9月(31店舗参加)、さらに台湾で2014年12月(117店参加)に開催して、好評だったようだ。

現地での日本の食文化の実体験を通じ、訪日意欲の醸成と訪日観光客の拡大を図っている。

 

飲食のおもてなしは簡単ではない!

一方、受入体制の遅れを指摘するのが、訪日観光客専門のフードプロデューサーとして活躍する【Oicee‼Japan~おいしぃジャパン~】代表、片岡究氏だ。本場の味だから、必ず外国人が喜ぶわけではないと同氏。
現地の旅行会社からは、東京は沢山の飲食店があるけれど、使えるお店が少ないと聞くそうだ。

東京は星付きレストランの数でいえば、世界でもトップクラス。
しかし、世界に誇りうる日本の飲食店であっても、満足度をあげるのは並大抵ではないそうだ。

特に団体でのレストランの受け入れについて、発展途上にあるという。単純に予約を入れば済むという話ではない。

片岡氏は、現地旅行会社の要望をコーディネートして、手配したレストランで満足度の高い結果を出している。一番手間のかかる交渉業務を担っているのだ。

その極意についてうかがうと、「出す段取り」と「メニューの組み立て」の2つだという。

これがないから、現地の旅行会社からは、東京には使えるお店が少ないと言われてしまうのだ。

「出す段取り」を心得ていなければ、最悪、飲食店は旅行会社からのクレームにもなりかねない。
例えば、団体旅行の食事が、居酒屋利用の際に起こる事例。通常の宴会メニューは2時間を想定しているが、行程上、実際は1時間以内で済ませないとならない場合がある。このようなオペレーションに慣れていない飲食店は、戸惑い、時間が足りなくなる。

そこをあらかじめ、ホール担当や調理場と事前打ち合わせをして、段取りをアドバイスする。受け入れ方を事前にコンサルしているのだ。片岡氏は、実際に飲食業界の現場に身を置いた経験があるからこそ、的確なサポートをする。

団体だと提供のスピードが違うので、いかにして調理場は対応すべきか、事前に細かい調整をする。

次に「メニューの組み立て」について。ベジタリアン、ハラル食などなど、団体のお客さんの要望は多い。ニーズがまちまちで、通常、1割以上が団体の共通する料理以外になる。
ベジタリアンにも様々なタイプがあり、五葷~ごくん~(※ネギ・にんにく・にら・らっきょう・あさつき)を食べない方へのメニューも別途レシピが必要だ。匂いの強い食材を使えないので、味付けには工夫がいる。
またボリュームについても、問題になると指摘。特に中華圏の食文化は、食べきれないぐらい出すのが当たり前で、懐石料理のような少なめの量だと、満足感があがらない。そこにもメニューの工夫が必要だ。

店舗側もこれまでは、通常メニュー以外のイレギュラー対応は断ってきた。しかし、日本では会社の飲み会や宴会などの居酒屋需要が減っていくなか、各社生き残りをかけてインバウンド受け入れへの転換を図ろうとしている。

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実際に、海外でも居酒屋というジャンルに関心が高まり、外国人のニーズもある。特に大きなキャパを持っている居酒屋はインバウンドに向いていると片岡氏。また飲み放題メニューは、海外ではないので、珍しいと好評のようだ。

このように受け入れようと方針が決まったものの、どう対応して良いか困っている飲食店も珍しくない。そこで、片岡氏のような現場を知る飲食のコンサルタントが必要になってくる。現地とのパイプ役であるが、一緒に店舗の強みを活かしつつ、外国人が好むメニュー開発もする。外国人は、既存のメニューでは満足できないからだ。

現地のエージェントの飲食手配は、飲食の知識が少なく、料理などのノウハウを持たない若い担当が圧倒的に多い。
そのため片岡氏が運営する【Oicee‼Japan~おいしぃジャパン~】には、現地旅行会社から急なオーダーも頻繁にあるそうだ。ホテル手配で慌ただしく、レストランまでは手がまわらないというのが現状らしい。最短で、既に来日されている団体が、前日にオーダーがくる場合も。
また、個人旅行やインセンティブツアーのオーダーもあるため、マメに全国のレストランの情報収集を心掛け、参加人数や構成、好みに応じて対応できる体制を整えている。

既存のメニュー構成でも可能性はあるが、【顧客に合わせた柔軟な対応】つまりプロダクトアウトよりも、マーケットインの考え方こそが、インバウンド受入れを求める飲食業界にはより有益であると片岡氏。

ある大手居酒屋チェーンも、最初は、既存メニューをいかに海外に売り込むかを考えていたが、片岡氏の指導により、各国の嗜好に合わせたメニューにいかに迅速に対応するか、そこを一番に変えた。
結果、訪日観光客受け入れ数も急増しているそうだ。

飲食は、訪日旅行の楽しみとして大きな位置を占めているので、決しておろそかにはできない。

 

日本はベジタリアン対応の後進国?

さて、マーケットインの考え方から、現地のニーズにどう向き合うべきか。
ここ最近では、ハラルへの関心の高まりで、モスリムフレンドリーの飲食店も増えた。実際に日本で完全ハラル対応は、困難であるので、可能な範囲でのハラル対応の飲食店だ。

一方、ベジタリアン対応が遅れているとの指摘もある。
欧米では、ベジタリアン対応が、ここ20年で急速に伸びたという声がある。

11月にベジタリアンに関するイベントが開催され、満席となるほどの盛況ぶりだった。
それは、Tokyo Smile Veggiesのキックオフイベントで、My Eyes Tokyoの共同開催で、東京の西日暮里にある「フロマエcafe&ギャラリー」で開催された。

マクロビオティックという体に優しい食生活を指向されている女性が集まり、トーキョー・スマイル・ベジーズを立ち上げ、東京のレストランにベジタリアンメニューを広めることをミッションとしている。

参加メンバーは、普段は会社員として勤務しながら、週末利用しての女性たちだ。以前、体調が優れなかったが、マクロビオティックの“ベジ食”に出会い、体質改善ができたという面々だ。そのマクロビオティックを勉強している仲間と立ち上げたという。

この団体のコンセプトは、「東京にベジなおもてなしを!」とあるように、訪日外国人にもベジ食を気軽に楽しめるための飲食店の普及活動だ。決してベジタリアン専門店を増やしたいわけではなく、一般のレストランに一食でもベジタリアンメニューを増やしてもらえるような取り組みだ。
とかく、ベジタリアンというだけで、食事のお誘いが減ってしまうようだ。ベジタリアンも肉が好きな人も魚好きの方も一緒のテーブルにつき、食事を一緒にしたいという。

イベントに参加されていたイギリスのインディペンデント誌の女性ジャーナリストによれば、イギリスでは25%がベジタリアン。肉を毎日食べたい人は少ない。イギリス全部のレストランには、ベジタリアン向けのメニューがあるそうだ。ステーキのベジタリアンフードもある。
つい20年前にはなかったにも関わらず、ここまで普及したのだ。かつて欧米でもベジタリアンメニューは、サラダぐらいしかなかったが。

Tokyo Smile Veggiesによると、年間の訪日外国人は1000万人を超えているが、欧米では12%がベジタリアンだという。
それに対し、東京都内における飲食店9万店舗のうちわずか500店舗ほどがベジタリアン対応を行っているものの、これらのほとんどが「ベジタリアン専門店」だ。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けたおもてなしとしては、残念ながら遅れているとしか言えない。

ところで、ベジタリアンについてあらためて説明しよう。ベジタリアンの種類は16種類(※1)とも言われており、ビーガン、ラクトベジタリアンなどと呼ばれ、食べる食材で分かれている。肉だけではなく、魚や動物性のオイルなど、タイプによってまちまちだ。
なぜベジタリアンになったのかも個人により異なる。殺生を嫌う、体質、宗教、環境保護、アレルギーの問題で制限がかかるなど動機も多彩。
(※1:ベジタリアン分類については諸説あり、例えばお肉の中でも鳥肉だけは食べる「ポゥヨゥ・ベジタリアン」をベジタリアンに含めるか否かで見解が分かれるようで、定義する団体によって数は微妙に異なってきています)

Tokyo Smile Veggiesの今後の活動としては、ベジタリアンマップを作成し、ベジタリアンマークを飲食店に貼ってもらいたいという。さらにベジタリアンメニューの提供も考えている。シェフを呼んだワークショップを構想中で、クラウドファンディングを活用しての実現を目指している。

おいしいおしゃれなベジタリアンメニューが全国に増える日も近いかもしれない。

日本には精進料理があり、土壌としてはベジタリアンメニューの相性が高いはずだ。どれだけ本気で取り組むかで普及の速度が変ってくる。

 

食×体験で新しいニーズを掘り起こす!

さて、次に紹介するのは、飲食と体験をテーマにした取り組みだ。

寿司握り体験が欧米人に人気だ。築地の玉寿司では、おもに個人旅行者の参加が多い。東京の台所・築地市場を見学した上で築地の新鮮な魚介類を使って自らにぎり、その寿司を食べるというもの。

そして11月に、アジアの団体をターゲットにした寿司握り体験が六本木の「しゃぶしゃぶ・すし八山」で始まった。

12月4日には、昨年の訪日ビザ免除を受けて、訪日旅行者数が増加しているタイから、現地有力旅行会社を東京へ招き、都内観光地の視察や、都内観光事業者等との商談会を開催した。そこに寿司握り体験を加えたのだ。日本担当者(6 社6名)の方が寿司握りに挑戦した。

最初は難しく、シャリを多く取りすぎ、またワサビをたくさん載せ過ぎていた。しかし手つきも慣れてきて、だんだんと上手になった。手巻きを2本に握り寿司を8カンが並び、そこで写真を撮って楽しむ。

こちらのしゃぶしゃぶ・すし八山を運営するのは、全国に飲食チェーンを展開するクリエイトレストランツホールディングスの子会社で、日本料理ブランドを展開するクリエイト吉祥。これまでインバウンドにも力をいれきたが、新しく寿司にぎり体験への挑戦だ。

まずお店で、はっぴに着替えてもらう。お祭り気分と衛生面の配慮。
最初は、寿司のストーリーを描いた紙芝居で説明する。寿司の歴史などを分かりやすく図で解説。
次に寿司職人の握りの技を目の前で披露。これほど間近で見ることは珍しく、歓声があがるそうだ。
それから、いよいよ寿司握り体験となる。手巻き寿司2本に、握り寿司8カン。
お客さまによっては、ネタを変えることも可能。また試食会のお食事セットのしゃぶしゃぶを天ぷらへの変更もできる。

最後には、オリジナルの手拭いをプレゼントし、さらに寿司体験の認定証を渡すというプログラムだ。
4名からの催行で、2日前の予約で一人の参加費は5000円だ。

昼は営業していない店舗なので、マックス90名の対応が可能で団体客に向いている。完全に予約制であるため、時間の変更も柔軟に対応できる。

同社がインバウンドを本格的に参入したのが、2010年の10月だ。これまでのノウハウも十分に考慮されている。

 

飲食店のインバウンドの取り組みに終わりはない!

クリエイト・レストランツ・ホールディングスはインバウンドについて積極的だ。2010年当時は、インバウンド売り上げは年商1億にも満たなかったが、昨年の2013年は3億円の売り上げを達成した。今年は目標の4億強に対して、達成しそうな勢いだと営業推進部の瀧本由佳氏。

もともと、お台場のヴィーナスフォートのポルトフィーノという洋食レストランに外国人が訪れていて、個人・団体と、直接、店舗に予約が入っていた。口コミで人気になったようだ。
そこで、インバウンドが今後も伸びると見込んで、会社として積極的に取り組むようになり、新しくインバウンド担当として瀧本氏が抜擢された。

外国人が多く訪れる地域に絞り、まず当時は、都内の10店舗からスタート。店舗情報を整理したパンフレットを作成し、都内の旅行会社を中心に足を運んだ。ランドオペレーターへの営業である。立地、メニューなどが明記された営業ツールなどを配布。

東日本大震災や尖閣諸島問題などで、中国からの観光客が減り、当初は売り上げとしては伸び悩んでいた。しかし、2012年から需要が回復。
現在は、全国の観光地にインバウンドの強化店として40店舗まで増やした。

当初は、店舗のスタッフがうまくコミュニケーションを取れなくて困ったそうだ。責任者もインバウンドへの理解がなかった。
最初は簡単なマニュアルを作成し、初めて受け入れる店舗は、瀧本氏が同行してサポートした。
外国人の需要が増えてきたことで、スタッフも慣れていったようだ。ガイドさんとコミュニケーションもうまく取れるようになった。

同社では、ビュッフェが人気だという。日本の料理はボリュームが足りないことが要因かもしれない。
次の取り組として、台湾そして東南アジア各国のお客様向け、カニとしゃぶしゃぶ食べ放題の特別プランを営業強化している。通常よりも料金が高めの設定になっているが、日本を代表するメニューとして人気が出るだろう。

食べ放題を強みとしているが、新しい試みとして、「飲食×体験」を始めたのだ。
着実にインバウンドの業績を伸ばしている飲食店といえども、新しい取り組みに余念がないようだ。

 

料理教室で日本の食文化を体験!

飲食店とはやや異なるが、家庭で行う日本食の料理教室が人気になっているとトリップアドバイザーの広報担当。これも「飲食×体験」と通じるものがある。

その一人、松田有加さん(”Cooking School YUKA MAZDA” )は、東京の港区の自邸で料理教室を開催し、トリップアドバイザーで高い評価を誇っている。料理研究家として書籍も出されている方だ。

元々は、日本人向けの料理教室をしていたが、外国人向けも始めることに。
きっかけは、日本はグローバル化といいながら、準備が整っていない現状にはがゆさがあり、そこで自分にできることはないかと考え、英語と料理となったそうだ。
海外生活もあり、そこでは、外国人を受け入れる環境が整っていて、たとえ田舎の路地裏であっても歓迎の心遣いがある。いっぽう、日本は閉鎖的と感じていた。

自分ができることとして、始めた外国人旅行者向け料理教室。
最初は、ホテルに案内をして、その後、口コミで別のホテルからもオファーが増えた。参加されたお客様からアドバイスをもらい、トリップアドバイザーにも掲載するように。

メニューは、日本の家庭料理。天ぷら、寿司、肉じゃが、焼き鳥などを教える。原材料には良いものを使い、必ず自分で買い物に行って吟味する。

肉じゃがには神戸ビーフを使い、神戸の観光についてもレクチャーするそうだ。その後、神戸に行かれた方もいたとか。京風に白味噌を使う場合、京都の食文化について説明するなど、解説も深いのだ。出汁の取り方について、国に帰っても再現できるように、きめ細かいアドバイスをする。包丁の研ぎ方も教え、その後、日本の包丁を買われて帰る方もいるようだ。まさに料理を通した食文化の架け橋をされている。

海外から料理のプロの方も来られ、幅を広げるために学ぶそうだ。また日本食料理屋さんを始めたいという方も。
今後、ますますニーズが高まりそうだ。

 

マーケットインの考え方が、外国人には重要!

ところで冒頭で述べた「博多一風堂」であるが、最後に言及すべき点がある。ベジタリアンメニューも開発しているのだ。
横浜のラーメン博物館で「NARUMI-IPPUDO」を2014年10月下旬に開店。ここで提供するのが、野菜のみで完成させたスープだ。一風堂の代名詞でもある「とんこつ」を“封印”した。
それは「『まさか…!』のコクと深み~ベジタリアンヌードル~」というメニューで、880円で売り出し、外国人客にも人気だという。
スープを一口すすった瞬間、「これは本当にベジタリアンラーメンなのか?」と驚くコクと深みがある。

10月にロンドン1号店を出したほか、来夏にはパリにも進出する計画だ。まさにヨーロッパに向けたベジタリアン対策もしていたのだ。

現地側がどんなニーズがあるのかを掴み、日本食のさらなる進化をさせる。それこそが、食のインバウンドにつながるのかもしれない。日本食が世界無形遺産だからといって、決してあぐらをかいてはいられないのだ。

Text:此松武彦

 

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