インバウンド特集レポート

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第4回 2014.07.29

インバウンド先進国タイに学ぶ観光戦略 世界から旅行者を集める10のポイント

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訪日旅行者が注目されているタイは、観光立国としても文字通りアジアのリーダーとして躍進している。2013年の国際観光客到着数は2600万人、世界観光機関のランキングで10位に躍り出た。2012年に10位だったマレーシアを抜きさり、アジアで1位に輝いたのである。2014年は政情不安により影を落とすものの、2015年は3000万人を達成する目標を掲げている。幾度の危機的状況に際しながら、世界から旅行者を集めるタイの観光面の優位なポイントを検証。今年6月に開催された旅行博TTMや取材を通して「学ぶべきポイント10」をピックアップしてみた。

目次:
●外国人目線、観光での危機管理、タイアップキャンペーン
●安全対策、体験を通してタイを知る、アフター7市場
●宿泊施設施設の充実、ショッピング天国、メディカルツーリズム、団体の受け入れ
●タイと日本のツーウェイツーリズム

 

外国人目線、観光での危機管理、タイアップキャンペーン

①タイ国政府観光庁(TAT)のプロモーションが徹底した外国人目線

タイの魅力を世界にプロモーションするタイ国政府観光庁(以下TAT)は1960年に創立。現在、日本には東京、大阪、福岡の3ヵ所に事務所がある。世界各地15の事務所を設置し、対象国にあった細やかなマーケティング、プロモーション戦略を展開してきた。対象国のターゲットも細かく分類し、メディアや強いエージェントを選定、タイ舞踊や食をPRする一般向けのイベントも直に行ってきた。

日本では20年以上前から「Amazing Thailand」のコンセプトを掲げ、カオスと寺院のバンコク、エレガントなビーチリゾート・プーケット、古都チェンマイなどを中心にプロモーションを展開。周遊観光のパッケージ旅行、OLのシティ&リゾートステイ、ゴルフ、最近はロングステイなどのマーケットを開拓してきた。2013年には訪タイ日本人は150万人を超え、全体の第4位(中国、マレーシア、ロシアに次ぐ)、その7割がFITという多様性を帯びた市場に成熟させている。

特に、日本においてはエリアごとのイメージビジュアル、ガイドブックなどの素材を日本のメディアや日本人クリエーターに作成させていることが多い。複数回の取材により「日本人目線」を反映して、ツボを押さえた内容になっている。通常は現地で用意した内容を翻訳することが多いこれらの情報を対象国の目線で創りあげていることは評価されるポイントだ。

 

②観光での危機管理が地道かつスピーディー

マレーシアのエージェントにTAT撮影班がインタビュー。これも動画にアップ

5月31日に撮影された中国からの旅行者の動画。安全性を語っている

TTMのランチやディナーの際には、必ずムスリムコーナーが設けられている

近年、タイの観光はたびたび危機的状況に陥った。04年のスマトラ島沖地震の津波被害、08年の空港占拠事件、11年の洪水被害、そして今年の軍部によるクーデター、戒厳令と続いた。旅行者が増加して順調かと思いきや、重大な危機が起こり、旅行者が激減するサイクルを繰り返す事態に。TATは観光客を呼び戻していく施策に注力せざるを得なかった。

TATのHPなどで現状を頻繁に発信し、タイを訪れている旅行者のインタビュー動画をアップ、各国のメディアをファムツアーで招待し、生の情報を現地で発信してもらった。

実際に日本でも東日本大震災~放射能汚染の際には、同様のことを必死に行った。このような危機のときには打ち手は同様で、地道に情報発信し、旅行者自身の口コミを広めていくしかないと考えられる。

例えば今年6月のタイの旅行博(※1)は通常通り行い、エージェントやメディアを世界中から招待。日本現地では各地で一般旅行者向けセミナーや業界向けロードショーを行いながら、7月下旬にもまたメディア招待を行っている。そのスピードと招待人数などボリュームも徹底している。

※1:Thailand Travel Mart。タイのB to B旅行博のこと。
「TTM+2014(Thailand Travel Mart 2014 Plus)」
クーデター、戒厳令発令によりまたもや観光では危機的状況となった6月4日~6日にタイのB to B旅行博「TTM+2014(Thailand Travel Mart 2014 Plus)」は開催された。
中国、英国やオーストラリア、インド、遠くは南アフリカなど45ヵ国から343名のバイヤーが参加、ホテルや観光施設、旅行業者などのセラーとアポイント制による商談会を行う。ここには、世界各国のメディアも招聘(「やまとごころ」は日本のメディアとして招待され取材を行った)。

商談会によるビジネスマッチングを狙うとともに、「タイは全土にわたり安全で、ディスティネーションとしての魅力は変わらない」ということを世界に示していく場でもある。会場内では各国のバイヤーやメディアに対してインタビューが行われ、TATのホームページでアップされてい
る(http://theitravelchannel.tv/category/shows/ttm-2014/)。

 

③対象国現地での細やかなタイアップキャンペーン

カニと卵のバランスが絶妙のプーパッポンカリー。10年以上前から日本でも有名に(Epochana)

先述したようにTATの現地事務所では当該エリアでの積極的なエージェント、メディア、消費者向けのプロモーションを行っている。7月には大阪でも天神祭とタイの水の祭典である「ロイクラトン」とのタイアップキャンペーンを開催するなど、日本でもエリアごとにタイの文化性が深く浸透する仕掛けを頻繁に行っている。

なかでも福岡事務所では「クッキング・パパ」の作者・うえやまとち氏を取材旅行に招待し、プーパッポンカリーと、当時日本ではあまり知られていなかった隠れた名店を漫画のストーリーに登場させるなどきめ細やかな打ち手が日本人スタッフによってなされている。

安全対策、体験を通してタイを知る、アフター7市場

①旅行者専用の安全対策

旅行者の安全管理においては、今回の政情不安の以前から“旅行者専用のツーリストポリス”がある。通常の警察とは別に、繁華街や観光スポットに駐在所が設置され、24時間のコールセンターもある。特に、今回の政情不安においては、このコールセンターの電話番号を旅行者に伝え、不安の解消につながっている。

日本も2000万人、3000万人を目指していく際にはこのような専門の安全管理システムも必要となってくると思われる。

 

②タイならではの体験 – 「Thainess」の進化

タイのここ数年のプロモーションコンセプトは「Thainess」。文字通り「タイらしさ」を味わうということだが、TAT東アジア局長・シースダー・ワナカピンコーサック氏は、「ただ観光する、ということから、体験により深い魅力を知ってもらうこと」と語った(※TTM日本記者懇談会より)。
例えば、おいしいグルメを味わうだけでなく、料理教室により食材が持つ効能やヘルシーさを学ぶ。エレファント・トレッキングを楽しむだけなく、象とタイの人々との生活がいかに結びついているかを知る。ムエタイ観戦だけではなく、実際に自身で体験し、そこに息づく精神性を学ぶ。これらは、リピーターが多い成熟したマーケットで求められることであり、旅行の醍醐味の本質的な部分である。

タイのホテルでは、クッキングクラスを体験プログラムとして行っているところも多い。
日本では、着物着付けや茶道体験といったところだろうか。
「○○らしさ」を体感させる手法は、ツーリズムの本質的な部分である。対象国相手にトライをしながら、追求していくと間違いなく満足度はあがっていくだろう。

グリーンカレーの素材の特徴を学びながらのクッキング教室。イタリア人もトライ。島全体がリゾートのSantya Kao Yaoで

③アフター7が充実

「アジアティーク」では、欧米人はパブで盛り上がっている姿をよく見かける

「日本は夕食後、ショッピングや散策、ショーを観るなどの場所が少ない」とアフター7の過ごし方は課題となっている。

タイはその点「夜こそ暑さもしのいで観光本番」とばかりに街がにぎわう。ショッピングでは22時ころまで開いているデパートやモールも多く、夜店で有名なパッポンストリートやマッサージ店も深夜までオープン。ショーやライブなどのエンターテインメントも随所にある。

2012年にできた人気のショッピングスポット「アジアティーク」。チャオプラヤ川に面するここは、小さな店が立ち並び、22時過ぎまで買い物が楽しめ、フードコートやパブ、レストランもある。地元タイ人にも大人気で、平日でも多くの人が詰めかけ、週末はごった返すほどの人気だ。

ここにはニューハーフショーなどのシアター「カリプソ」が常設されている。華やかで、コミカルなショー構成もさることながら、日本人には「川の流れのように」を、韓国人には「アリラン」を感動的にみせていくなど、観客が多い国別に盛り上がる演目を工夫している。この手のエンターテインメントショーが日本にはまだまだ少ない。ノンバーバルに楽しめるカジュアルなショーということで、ロボットレストランが人気になっているのかもしれない。

衣装やステージの演出にも工夫が凝らされている「カリプソ」




6月5日木曜日21時半に行くと、お祈りするタイ人、それをみる観光客が広場にあふれていた
バンコクの街中にも必見のスポットがある。「恋愛の神様」として若者に人気のパワースポット・セントラルワールド伊勢丹前にあるトリムルティの祠だ。昼夜問わず広場にお祈りの人が集まるが、特に夜が多い。一番効力があるという木曜の21時半に行ってみると、赤いバラと赤い蝋燭を9本ずつ供える人たちは広場にあふれ、その光景を一目見ようと世界からの観光客も集まっていた。ここでは毎日お祭りが繰り広げられているといってもいいだろう。旅の面白さは、現地の人では当たり前の、しかしそこでしか体験できない生活文化を垣間見ることにある。タイでは、アフター7にそれが楽しめるスポットも多い。

 

宿泊施設施設の充実、ショッピング天国、メディカルツーリズム、団体の受け入れ

①ホテルの豊富さ、サービスアパートメントの充実

一流、老舗のホテルから中流、コストパフォーマンスが高いビジネスホテル、そして最近はサービスアパートメントまで宿泊施設のレンジが多彩で、豊富な点もタイの素晴らしいところだ。特にサービスアパートメントは、長期滞在向けだが、agodaなどで一泊から予約ができ、最近は朝食を出すところも出てきた。団体、FITでも使いやすい形になっている。

また、バンコクやリゾートでは現代アートを随所にちりばめたラグジュアリーホテルも登場し、世界各国からの人気を集めているという。

 

バンコクのPullmanG Bankokはフランス人アーティストの作品が随所に展示されている。最近はタイ人のウェディングが集めているとのこと

 

②ショッピング天国・タイ

これは香港も該当すると思うが、ショッピング好きの国民の自国には、さまざまなタイプのショッピング施設があふれている。次々と新しいショッピングコンプレックスができて、今後完成予定も目白押しだ。

今年完成した「セントラル・エンバシー」には、ふたつの巨大な吹き抜けを中心にした回廊に高級ブティックやショップが並ぶ。ここには、「ONITSUKA TIGER」やラーメン「一風堂」(8月オープン)、寿司屋など、日本にゆかりのある店も多く出店している。

ここで驚くのは、高価なブティックショップで、タイ人がバンバン購入していることだ。

ブランドごとに比較してみると、日本の方が2割~3割くらい安いものが多い。日本製のもの、あるいは日本が安い品は日本で買ってくれるはずだ。

写真はCentral Embassy。タイのみならず東南アジアでは吹き抜けをメインにした巨大ショッピングコンプレックスが多い。また、タイ人は靴も好きでディスプレイが購買意欲をそそられる

 

 

③病院のサービスレベルが高い

この視点は、前回の特集で登場した現地在住・イオンクレジット顧問の石亀智氏からの情報によるもの。海外旅行保険でのキャッシュレスサービス、24時間受付、各国の通訳が常勤しているという旅行者にとって安心のシステムがある。日本人医師も在籍する病院や日本語対応ができるタイ人医師のいる病院もある。しかも病院自体も清潔で設備の充実しており、対応も迅速とのこと。この点は一朝一夕にはできないので、日本においても首都圏だけでなく地方でも拡充していきたいところだ。

 

④団体旅行向けのサービス施設が多数

これはまさしく日本が不足している点。大型バスはもちろん、団体向け食事ができるレストランが豊富に揃っている。日本人をはじめ、団体旅行を受け入れてきた歴史が長いゆえにオペレーションもスムーズとのこと。今では、中国人団体を乗せたバスが頻繁に行き来しているのをよく見かける。

 

タイと日本のツーウェイツーリズム

前回のタイの特集と今回を通して、タイと日本はお互いにひかれあう両想いの関係にあることを検証してきた。やはり恋愛でも旅行でもどちらかが片思いばかりだと長続きしない。そういった意味で、タイと日本は永続的に旅行者が行き来しあう関係を続けていけるのではないかと思う(ただし、お互いの努力が必要である)。


バンコクのH.I.S。タイ人向けに日本のツアーや航空券を販売している。対面式のカウンターがあり、盛況だった
今回の政情不安で、日本人観光客は減少したが、航空路線はタイ人旅行者の増加によりむしろ拡充されている。JTBやHISなどの日本発の旅行代理店はインもアウトも行いながら、より発地側の視点にたった 商品を提供し、タイ人の人気を集めている。

また、微笑みの国・タイのおもてなしは、日本の精神性と通じるおおらかな優しさがあり、お互いに心地よさを感じるのではないだろうか。
その関係性に安住することなく、もっと日本ファンになってもらうために、タイ人の声をさらにきいて関係向上に努めていきたい。

 

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