インバウンド特集レポート

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第24回 2016.05.18

自転車とインバウンドの可能性を探る ニーズはあるが、課題も山積みだ

特集レポート

地方のインバウンドの起爆剤に自転車がなりそうだ。ショッピングの次なるニーズは体験だという。すでに自転車で集客に成功しているところがある。それは日本全国どこでも通用するのだろうか。地域活性化に向けた可能性と課題について考える。

目次:
世界に誇るサイクリングロード「しまなみ海道」をきっかけに変化する
自転車を文化として瀬戸内に根付かせたい
景色の良い田舎のツーリングが人気になってきた!
秋葉原を拠点に、下町の路地裏を自転車で駆け抜ける
京都のサイクリングツアーに注目が集まる、その戦略とは?
サイクルツアーには課題が山積みだった?
自転車に乗ってお買い物をエンジョイする外国人

 

世界に誇るサイクリングロード「しまなみ海道」をきっかけに変化する

1999年に完成した「西瀬戸自動車道(瀬戸内しまなみ海道)」は、瀬戸内海を跨ぎ愛媛県今治市と広島県尾道市をつなぐ。日本で一番外国人に有名なサイクリングロードと言っても過言ではないだろう。自転車好きの外国人が、ここを目的に日本にやって来る。海の上や国立公園内の島々を自転車で橋を渡りながら楽しめるコースは、世界にはそう多くはない。
本州と四国に架かる3つの橋で、ここが唯一、自転車が走れるのだ。瀬戸内海の有人島を経て、また、しまなみ海道は生活道路としての特色もある。

「しまなみ海道」で、アクティビティとして自転車を活用した観光振興に注力し始めたのは約5年前。台湾の自転車メーカー「ジャイアント社」や関連団体等と提携することにより、台湾からも、しまなみ海道サイクリングを目的に多くの自転車愛好家が訪れるようになった。


今治市は元来、産業の町だが、日本人はもちろん、外国人旅行者と接する機会が増え、観光にも力を入れるようになった。

サイクリストの受け入れ環境整備のため、行政は、多言語版のサイクリングマップの作成をはじめ、地元とサイクリストが交流できる拠点「しまなみサイクルオアシス」の整備、しまなみ海道沿線の公共施設へのサイクルスタンドの整備、自転車タイヤチューブを販売する自動販売機の設置、県境を跨ぐ当日の手荷物配送サービス、2次交通の結節点(JR駅等)への自転車組立場の整備、サイクルトレインの運行などを行っている。

また、しまなみ海道開通当初から運営しているレンタサイクルについても、軽快車(いわゆるママチャリ)からスポーツサイクル(クロスバイク等)を中心とした車種でのレンタサイクルへと転換し、より快適にしまなみ海道をサイクリングできるよう、サイクリスト目線での変化を遂げている。

自転車を文化として瀬戸内に根付かせたい

今治市、尾道市、上島町及び関係団体等で構成する「瀬戸内しまなみ海道振興協議会」ではサイクリングマップを作成して、県内外で提供している。日本語のみならず、英語、中国語(簡体字、繁体字)、韓国語など多言語版も作成しており、日本における自転車ルール等も明記。

今治市のみならず、愛媛県全体でもサイクリング施策に注力している。
「サイクリングは人に“健康”と“生きがい”と“友情”を与えてくれるツール」を基本理念とした自転車新文化を県内に定着させ、その開花により新たな需要を生み出すことで観光及び地域活性化の起爆剤にしていこうと積極的だ。
県全体にサイクリスト目線によるコース設定をし、しまなみ海道の効果を県全体に広げていこうと、県・市町・関係団体等が役割分担をし、各種施策に取り組んでいる。

今治市の観光課にうかがうと、愛媛県と連携し、自転車を楽しめる環境づくりを県全体に広げたいと今後の抱負を語る。地元経済界からも、サイクルスタンド、自転車、ヘルメット等の寄附をはじめ、空撮画像による映像を制作していただいているなど、官民連携により取り組みを進めているとのこと。

また、2015年10月から今治市観光地域おこし協力隊2名を採用し、自由な発想のなかでサイクリングを切り口とした観光施策に取り組んでもらっている。条件としてスポーツ自転車に乗れること、英語ができることだった。そのスタッフは現在、地元をまわり、情報収集及び各種課題解決に向けた取り組みを進めている。

 

景色の良い田舎のツーリングが人気になってきた!

自転車を専門にした外国人向け旅行会社がある。ここ最近、売り上げを伸ばしているという。
通訳案内士の岡朗(おか あきら)さんが、自転車で旅行する魅力に引かれ、サイクリング専門の旅行会社を立ち上げたのだ。
サラリーマン時代、岡さんはイギリスにビジネスで駐在していた。そこで、休みの際に夫婦で自転車に乗ってのどかな田舎を走ってみた。するとツアーとして旅している人を多く見かけた。もともと中学生のときから自転車が好きだったので、これが商売になることに希望を感じたのだ。

帰国後、通訳案内士の資格を取り、旅行会社のライセンスを取得した。
岡ツアーズは2006年3月に設立され、ツアー募集の開始など本格稼働は2007年からだ。

日本は、ヨーロッパに負けない美しい景色があり、道路状況も良い。日本は絶対に自転車好きな外国人に喜んでもらえると確信があったと、岡さんは当時を振り返る。
しかし、最初はまだ認知度が低く年間20名程度しか集客できなかった。一般ツアーでの通訳案内士業務を請け負い、何とか食いつないだそうだ。

数年前までは、日本のイメージとして都心のゴミゴミした雰囲気や物価の高さなど、ネガティブな情報が多く、自転車で快適に走るイメージがなかった。
さらに海外では、アメリカやイギリスの自転車ツアーの専門会社が既にあり、そこが先行していて、無名の会社には太刀打ちできない。彼らは多くの自転車好きの顧客を持っているので、毎年、いろいろなディスティネーションを提案できる。例えば、今年はオランダ、来年はインドネシアなど。

しかし、2013年あたりから、自転車のポジティブな情報が伝わったのか、申し込みが徐々に増えてきたという。外国人は、安全な道、景色、自動車の運転マナーに感動し、地元の食事も喜ばれた。

予約は、ダイレクトブッキングのみで、口コミなど、少しづつ知ってもらえるようになった。
欧米の方は、かなり早い時期から予約を入れる傾向だという。なかには1年前から予約が入る場合も。基本、前金を10%預かり、残金は21日前に入金してもらう。

参加者の国別は、当初はヨーロッパ、アメリカが多かったが、最近ではオーストラリア人やシンガポール人も増えた。またインドネシアの富裕層もいて、自転車は自分のものを持ち込むそうだ。それは1台が100万円を超える場合もあり、やはり自分の自慢の自転車で走ってみたいのだろう。一般的には出入国の手間を考えて、ほとんどの外国人は、レンタルをするが。

ツーリングの人気コースは、能登半島を巡ってから金沢、福井に抜け、三方五湖、若狭湾、さらに京都に至るコースだという。中級者向けのコースで、自然や伝統文化の見どころが多く、8泊9日のコースで小さい日本旅館に泊まる。日本の食事や和風の旅館がエキゾチックで、ウケが良い。
岡さんは、参加者を東京から飛行機で引率して能登に向かう。
一方、伴走スタッフは全員の自転車をワゴン車に搭載して、東京から陸路で能登に行き現地で合流。伴走スタッフがいることで、もしも何かあったときには安心だ。ロードタイプの自転車はタイヤが細いのでパンクしやすい。チェーンが切れたりもするので、バックアップは大切だ。

また初級者向けのコースもあり、それは、瀬戸内をまわるコースだ。大阪に集合して、小豆島など香川県をまわり、愛媛県に入り道後温泉を経て、しまなみ海道を渡り尾道市や広島市とまわる。7泊8日のコースだ。

2015年には、目標の年間100名を達成したが、一人でガイドをやっているので、今後の増えるニーズにどうこたえるかが課題だという。通訳案内士のガイドで、自転車ツーリングできる人材が少ないのだ。
やはり今後を考えると、パートナーが欲しいという。
通訳案内士の資格を持ち、自転車好きで修理ができるのが条件だが、東京に住んでいる必要はなく、地方から現地で集合というやり方もある。

秋葉原を拠点に、下町の路地裏を自転車で駆け抜ける

ところで、岡さんは一昨年前から田舎をツーリングするコースだけではなく、都内の観光地のみをまわるコースも加えた。
秋葉原駅から徒歩3分程度のところに、ガレージを借りて自転車を保管し、それを外国人観光客に貸して、都内ツアーとして巡る。2コースがあり、いずれも20kmを走る。
Aコースは
秋葉原、上野公園、東大の赤門、根津、千駄木、国立博物館、浅草、スカイツリー、両国、浅草橋を走る。

Bコースは
秋葉原、神田、竹橋、千鳥ヶ淵、二重橋、日比谷公園、銀座、築地、佃島、越中島、茅場町、人形町、浅草橋を走る。
自転車は8台あり、台湾のジャイアント製だ。街中を効率的に巡れ、空気を感じて心地良い。

都内は年間200名程度の集客で、先行している他社はもっと多いと岡さん。
やはり見どころが同じなので似通ってしまい、差別化が難しい。その結果、トリップアドバイザーの口コミ件数が多いところが有利に働く。

都心のコースは、裏道が楽しいという。普段の生活を感じるからだろう、ローカルさがウケ、そこを走ること自体が体験になる。また観光地を効率的に回れるのも魅力だ。
多くて8人の参加人数で、その際には、サポートメンバーに最後尾を伴走してもらう。安全面の確保のための対策だ。また子供でも乗れる小さい自転車も準備してある。

京都のサイクリングツアーに注目が集まる、その戦略とは?

街中サイクリングといえば、京都が人気だ。街のサイズもちょうど良い。
外国人向けサイクリングツアーとレンタルサイクルを営む有限会社京都サイクリングツアープロジェクトがある。15年前の設立だ。
観光と自転車の融合が目的に、欧州の発想を取り入れた。代表の多賀一雄さんは、自転車のフットワークに注目し、欧州での留学時、その日本との活用や環境の違いを見てきた。
順調に売り上げを伸ばし、他の自治体からも視察に来られるほど、注目されている。
同社の森田英一マーケティング&セールスディレクターに話をうかがった。

同社では、自転車ツアーを「プロダクト」と考えている。だから、プロダクトを良くするために、商品力を磨くこと、そして販売チャネルの開発に重点を置いている。

商品力に関しては、コース設計について、季節やニーズに応じて臨機応変に提案できるよう、情報収集を怠らない。さらにガイドの質の担保も重要だ。
京都サイクリングツアープロジェクトでは、通訳案内士の国家資格を持つガイドが、10数名所属している。その教育には、道路交通法、マナー、安全な走行技術など基礎的な知識を学ぶ座学の研修制度があり、次に走行研修では、法律に則った走行や危険ポイントでの安全回避などを伝授していく。その後テストがあり、合格者のみ正式登録される仕組みだ。ツアー後には毎回レポートを書いてもらい、情報を共有して知識を蓄積している。参加者の国によっての求めるものが違うので、対応を考えるためには、重要な資料になる。

安全には気を配り、市内ツアーにおける参加人数は、1人の自転車ガイドにつき6名がマックスだ。ガイドが安全に参加者をコントロールできる範囲はその程度が限界になるからだ。

次に販売チャネルについて。
ここの特徴は現地の旅行会社やランドオペレーター、さらにホテルを通す「B2B」営業を大切にしていることだ。自転車ツアーをセットプランにした販売もしてもらっている。例えばJTB系のサンライズツアーでも商品提供を行っている。
街中サイクリングツアーを観光業界として根付かせたいという想いから、B2Bに力を入れているのだ。

森田さんは、もともとホテルでインバウンド営業の仕事をされていたので、インバウンド業界の全体像や旅客の流通を把握している。だから的確な販売ルートの開拓ができるのだ。

また、あくまでも旅行商品としての位置づけを変えない。山や海をツーリングしたいというニーズはもちろんあるが、旅行商品としてはマーケットが小さい上、旅行商品レベルでの安全対策などを完全に出来ない。サイクリストではない一般の外国人旅行者が、ジーンズで楽しんでもらえるものを目指しているのだ。
例えば、インセンティブツアーで、自転車を組み込むとサプライズ感があって喜んでもらえた。ただし、あくまでも体験なので、しんどいのはNGだ。半日以上はきつい。そこで2時間以内にコンパクトにまとめるようにアレンジした。その土地の風を感じて、京都の原風景を訪ね、満足度が高かったという。

しかし、B2Bが主体のツアー販売に注力するばかりもリスクだと森田さん。欧米ではそうでもないが、アジアの場合は、低価格志向のため、安さ勝負になってしまう。一方、中国はじめ東アジアや東南アジアのFIT(個人旅行)は、伸びしろが高く、特にレンタサイクルの販売においてダイレクトなB2Cを見据えた取り組みも検討中だ。

 

サイクルツアーには課題が山積みだった?

自転車を軸にインバウンドを盛り上げようという動きが全国各地で起こりつつある。
日本の魅力を違う視点で紹介できるのは、喜ばしいことだが、手放しでは喜べないと、実際に関わっている方々の懸念する声も耳にする。

そもそも、日本における自転車のルールが曖昧だということがあげられる。
自転車は、車両なのか、歩行者なのか。車道を走るのかガードレールの中を走るのか。ヨーロッパでは自転車文化が根付いているため、定義が明確だ。日本は曖昧なままだ。
だから、最初に日本の自転車事情を説明しないと、外国人客は戸惑うらしい。

「レンタサイクル店としては、安全の確保が難しいにも関わらず、専門的な許可もなく誰でも営業ができてしまう。専門的なメンテナンスやルール違反への啓蒙、保険の拡充など、業界の課題は多いが何ら規制がない。
サイクリングツアー会社としては、インバウンド増でニーズは高まるが、無資格ガイドや、とても安全とは思えないツアーも見かけるようになった。」と森田さん。
京都サイクリングツアープロジェクトでは、レンタルサイクルとツアーを合わせた利用が年間4万人、延べ50万人以上もの旅客を受け入れたが今のところ大きな事故がない。だからといって、このまま制度が放置されていることに不安を感じるという。

制度設計が遅れていることを認めつつ、独自の手法で、安全面という課題に向かっている取り組みが、「しまなみ海道」にあった。それは、愛媛県今治市と広島県尾道市をブルーラインで結ぶことだ。
このブルーラインは、案内表示として、車道の外側線に沿って青い線を描き、この線をたどると、初めてしまなみ海道を訪れても迷わず走れるのだ。
このブルーラインは、途中、ピクトグラムでキロ数が表示されていて、案内表示もある。

次に自転車観光へのマーケティングに疑問の声がある。

「自転車観光というと、ツーリングを好むサイクリストに注目が行きがちだが、実数としては少ない。」と岡さん。街中サイクリングのほうが、人数の単純比較では、人気が出てしまっているそうだ。

地方の自治体では、少ないサイクリストに向けて、大きな予算をかけたところで、リターンが少ないのではないかと懸念がある。

そもそもサイクリスト人口は、アジアでは少なく、一部の富裕層のみだ。また、サイクリストは、健脚な人で、1日に100キロぐらい走るので、素通りされてしまう。なかには150キロも走る人もいる。

「やはり街中サイクリングが、おすすめだが、自然の多い郊外も魅力的。ただ、高低差がきついエリアは体力も要し一般客には不安がある。」と森田さん。
アジアのお客さんの場合、自身は乗れると思われていても実際は自転車に乗れない人がいることも肝に命じて欲しいと言う。自転車のリテラシーには開きがある。
参加当日、自転車に乗れないことが判明し、急遽、街歩きのツアーに切り替えることもしばしばという。日本では誰でも乗れるが、それ以降、「自転車に乗れる人が対象」と、ツアー商品として当たり前のことも明記するようにしたのだ。

自転車に乗ってお買い物をエンジョイする外国人

一方、「ショッピングとの相性が良い。」と森田さんの話が続く。
路地裏を走り、京都ならではの専門店を見つけては、どんどん入っていく。なかには、着物や絵画などの即売会で、数十万円分も買った方もいるそうだ。
ハイエンドや富裕層にも好まれるアクティビティであるため、品質の高い自転車やサービスを提供することが必要だ。
お饅頭を買ったり、自動販売機のジュースを買ったりと日本らしいものを楽しみ、さらにスイーツ巡りも可能だ。

また、今治市の観光の担当者によると、サイクリストでもいいものがあれば、お金を落とすと言う。サイクリストはあまり買い物をしないので、経済効果が低いという意見も多かったが、実はそうでもないのだ。
今治タオルでは、コンパクトで薄手なフェイスタオルが彼らに人気だ。またタオル地のバッグ(サコッシュ)も人気という。
しかし、欲しいと思える商品が少ないという意見が多いのも事実。今後は彼らに合った商品開発が課題だと担当者。ニーズを探ってものづくりを考えることが必要だろう。

最後に、自転車のニーズの高まりを受け、質の低下も懸念材料だ。
自転車は道路での事故のリスクが高いことを忘れてはいけない。活性化のためには、積極性は大事だが、そのリスク対策も合わせて考えるべきだろう。

森田さんは、昨今観光業界や行政事業では「サイクルツーリズム」という言葉をよく耳にするが「自転車と観光の専門性の2つのバランスを持つことが重要だ」と述べた。

今後、観光スポットを巡るツールとして、いかに自転車文化を大切に育てていくか、課題と向き合いながら、質を高めていくことを期待する。

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