インバウンド特集レポート

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第18回 2015.10.29

日本の自然は魅力多いが課題も山積み 登山、自然散策、花めぐり、外国人に人気のコースを探った

特集レポート

「新・観光立国論」を著書に持つイギリス人のデービット・アトキンソン氏は、観光立国になるには、4つの条件が必要だと提唱。気候、自然、文化、食事だという。火山列島にある日本は、四季に恵まれ、自然も豊富だ。ショッピングだけがインバウンドではないのだ。日本の自然の素晴らしさに気づいた外国人旅行者は、どんどん自然に入っていき、その感動をSNSでも発信している。しかし、対応が追い付いていないなど、課題も多い。

目次:
富士山の頂上でご来光を仰ぐコースは完売状態
既に個人旅行者は険しい登山コースに足を延ばす
国立公園もインバウンド対策が始まっている
上高地は団体向けの人気コースになっている
登山よりも敷居の低い自然散策コースが増加
文化体験を融合させるコースが価値を高める
九州オルレの登場で、素朴な田舎の散策も観光資源になった

富士山の頂上でご来光を仰ぐコースは完売状態

富士山の山頂。輝く朝日が顔を出した。日の出に向かって参加者から喜びの声がもれる。 この頂上を目指して、暗い登山道を上がってきたから、感動はひとしおだ。ツアーに参加したのは、オーストラリアやアメリカなど欧米豪からの約30人ほどだった。山岳ガイドと通訳案内士が同行している。

ツアーを企画しているのは、株式会社JTBグローバルマーケティング&トラベルだ。 担当のマーケティング&プロモーション推進課長の池田良孝氏によると、富士山登頂ご来光ツアーは、訪日観光の夏の人気商品に育っているという。

シーズンの参加者合計は、一昨年は、350名、昨年が500名と大きな伸びとなった。今年も昨年同様の人数設定で発売をしたところ、早々に完売。ニーズはあるものの、受け入れの山小屋の割り当て数が限界となっており、これ以上の販売大幅増は難しい状況となっているため、次年度は別の方法での参加者の枠を広げる施策を検討中だという。

このコースは、東京発着の1泊2日のご来光ツアーだ。着地型ツアーで、個人旅行者が申し込んでくる。 朝の7時に新宿の京王プラザホテル前に集合、バスで河口湖方面に向かい富士スバルライン五合目に昼に到着する。 午後1時から登山開始となり、夕方には8合目の山小屋に到着。 ここで休憩して、午前2時に登山再開。日の出前に、頂上に到着して、ご来光を仰ぐ。 頂上で朝食を採った後、午前中は下山。 昼には麓の日帰り温泉で休憩して、夕方ぐらいに東京に戻るというコースだ。

催行期間は、7月から9月まで。週に3回実施となった。 今年の参加者は、国別として、オーストラリア人が多く、次いでニュージーランド人、アメリカ人と欧米豪からの利用者が占めている。アジアは少ない。 今年は中国語ガイド付きというコースを設定したところ、狙い通り中華圏の香港、台湾からの利用者が増えた。 しかし、このようなアクティビティ度が高いコースは、まだまだ欧米の人気が高いようだ。 担当されたガイドからは、満足度の高いツアーだと聞くと池田氏。

募集については、いくつかの販売チャネルがある。一番、集客が多いのは、ジャパニカンという着地型ツアーを扱う外国人向けB2Cサイトだ。あと海外旅行会社向けにGENESIS(ジェネシス)というB2Bサイトでも販売を行っている。この2つ以外には、他のOTA(オンライン・トラベル・エージェント)からの流入、店舗のカウンターからだ。

この富士登山コースについては、長い実績がある。最近の変化としては、参加者の意識が変わってきたことだと池田氏。 登山のための装備をしっかりと準備して参加されている。 以前は、短パンとTシャツというラフな服装の方がときどきいた。簡単に登れると思っての参加だ。しかし、頂上付近は、朝方は、気温が0度まで下がり、足場が悪い箇所もある。それなりの装備が必要だ。 インターネットなど、事前情報が多くなったせいか、しっかりと準備されてくる。もちろん募集ページでも、軽装での参加は危険であることを伝えている。

ところで残念ながら、全員が登頂できるわけではない。高山病になる方もいるからだ。 また天候に左右される部分もあり、ご来光を迎えられるかどうか、満足度のポイントがそこにある。

ツアーには、登山ガイドと通訳案内士の2名をあて、列の先頭をガイド、最後を通訳案内士が歩くという体制だ。

安全管理が重要と考えていて、このコースは、なるべく同じガイドを当て込んでいる。やはり慣れていて熟知している方は安心だ。一方、通訳案内士は、適した人が少ないのが課題。通訳案内士は、一般的に女性の方が多いからだ。

外国人向けの登山コースに関しては、現在は富士山しかない。 他の標高の高い山は、安全管理という視点から主催ツアーを造成するのは敷居が高い。まず登山ガイドの確保、登山に慣れた通訳案内士の確保が課題となるからだ。 一方、富士山は、残念ながらこれ以上の山小屋のキャパが見込めない。

既に個人旅行者は険しい登山コースに足を延ばす

ツアーとしての登山は、主催会社の安全管理の懸念ということもあり、伸ばしていくのは難しいだろう。 しかし、プライベートツアーなど、個人手配というやり方なら、伸びしろがありそうだ。 既に、個人での登山への挑戦が増えているからだ。

北海道の夏場の大雪山系では、多くの外国人登山客と顔を合わせることができる。欧米が多く、ここ最近増えているのが、台湾からの友人同士の登山だ。 途中までロープウェイを使って、1日で上り下りができる旭岳、さらに黒岳への縦走が人気となっている。さらに、トムラウシや十勝岳まで縦走する強者もいるという。 さらに、知床半島の斜里岳の外国人による登山も珍しくない。 知床羅臼町観光協会では、旅行商談会を通じて、海外の旅行会社に対して、知床半島の自然の素晴らしさを伝えている。世界各地の登山経験がある方でも、手つかずの知床の自然の良さに満足してもらえると自信を持っている。

いずれの地域も、個人が自己責任によって登っていくため、地元の観光協会によると正確な実数につての把握は難しいようだ。 しかし、自己責任といって放置しているわけではない。環境省としては、国立公園内での登山事故を防ぐために、看板などの多言語表記を進めている。今後、さらに増えることを見込んでの対策も求められてくるだろう。

環境省では、2013年の国立公園における訪日外国人利用者数の推計を行い、約255万7千人と算出した。「国立公園」が訪日外国人にとって、重要な観光コンテンツの1つであると同省としては認識したのだ。

また、日本の国立公園に対する外国人の興味やニーズ等を把握するため、15か国(地域)在住の外国人2,200人に対し、WEBアンケートを実施。この中で、「自然豊かな場所に旅行したいか」という問では「はい」が93%を占めた。 特に訪日意向がある人に対し、日本旅行で体験したいことを尋ねた項目では、「自然や風景の見物」が2位となり、日本の自然や風景に対する関心が高いこともわかった。

国立公園もインバウンド対策が始まっている

国立公園内にある上高地は、環境省の管轄である。昨年から、ここ最近増加傾向の外国人の受け入れ体制に向け、看板とHPの多言語を進めている。

遊歩道の看板に英語、中国語、ハングルの表記を進めている。登山に関しては、韓国の方が多く、ハングルははずせない言語だという。韓国では、登山が人気になっているものの、あまり高い山がないことから、日本での本格登山を楽しみたいニーズがあるのだ。

ビジターセンターのHPの言語表記をも昨年から英語、中国、ハングルが加わった。 バスターミナルのあるインフォメーションセンターでは、タッチパネルの内容も多言語になっている。

また民間の宿泊施設やカフェなども、積極的に外国語表記を進めている。

日本の観光情報が充実している多言語サイトの「ジャパンガイド」でも、上高地は、ユーザーから高い評価を得ている。

先日、やまとごころと共同調査したジャパンガイドの満足度ランキングによると、 1位が京都、次いで八重山諸島、屋久島、富士山が並び、日本アルプス、上高地もランクインしている。 幅広い年代層で、手つかずのありのままの自然に対しての評価が高いようだ。
http://www.yamatogokoro.jp/research/2015/08/top20.html

イギリス人で元ファイナンシャル・アナリストであるデービット・アトキンソン氏は、その著書「新・観光立国論」において、観光産業の重要性を訴えている。
観光立国になるには、4つの条件が必要だとあげているのが、以下の項目だ。
・気候
・自然
・文化
・食事
まさに、日本の自然が、インバウンドにとっての重要なコンテンツになることを示している。

上高地は団体向けの人気コースになっている

上高地にある環境省 上高地自然保護事務所によると、外国人の「登山」と「自然散策」の人数を比較した場合、圧倒的に団体による「自然散策」が多いと回答。 コースは合羽橋付近を歩く。 黒部アルペンルートのコースに、ここに立ち寄るプランで、一般の外国人旅行者に日本の自然を楽しんでもらっている。 また往復6時間の自然遊歩道を横尾山荘まで往復される個人客もいる。台湾、香港、さらにタイ人も増えてきた。

地元の上高地観光旅館組合もインバウンドに力を入れ始めている。運営しているWEBサイトが多言語になった。そこが、主催してモニターツアーを昨年実施して、欧米とアジアからの外国人が約10参加。フィードバックをして改善点を検証した。

今後も増加が予想される外国人旅行者に対して、自然保護事務所では、環境保護を維持するためにも、5つのルールをいかに徹底させるかが課題だという。

以下が、ポスターで掲示されている。
◆ 採らない / No collecting
植物や昆虫などの生きものを採らないでください。
Please do not collect plants or living creatures, including insects.

◆ 与えない / No feeding
野生動物にエサを与えないでください。
Please do not feed the wild animals.

◆ 捨てない / No littering
ゴミはすべてお持ち帰りください。
Please take all your litter with you.

◆ 持ち込まない / No bringing in
ペットや外来生物を持ち込まないでください。
Please do not bring pets or alien species.

◆ 踏み込まない / No stepping into
歩道を外れて歩かないでください。
Please stay on the path.

このルールの意味をしっかり理解してもらうことも大切だと自然保護事務所では考えている。

登山よりも敷居の低い自然散策コースが増加

上高地の場合もそうだったが、登山よりも敷居の低い自然散策が外国人旅行者にはニーズが高い。では、どのようなコースが人気になっているのだろうか。

富士登山ツアーで実績を上げている株式会社JTBグローバルマーケティング&トラベルの池田氏によると、「花」をテーマにしたコースが、アジアからの旅行者に反響が高いという。

例えば、ひたち海浜公園の初夏のネモフィラという花、足利フラワーパークの藤の花、本栖湖の芝桜など、花を軸にしたコースだ。さらに近隣の果物狩り、またアウトレットモールも加える。盛りだくさんな内容にすることで、参加者はより喜ばれる。

一方、ニーズが多様化しているので、より自由度の高い商品もそろえている。宿泊+電車というスケルトンタイプのツアーの売れ行きが良い。こちらも訪日外国人旅行者向け宿泊・ツアー予約サイトJAPANiCAN.com(ジャパニカン)やジェネシスで販売している。

同社では、自然をテーマとしたツアーを今後、商品開発していく意欲はあるが、現地の受け入れ体制整備が課題だという。そこでJTBが持つ国内旅行のインフラ・ノウハウを活用して、自然を堪能できる着地型ツアーを今後も積極的に造成していきたいという。

文化体験を融合させるコースが価値を高める

花という切り口での自然散策もあるが、やはり日本の強みは、文化体験との融合だろう。

これで成功しているのが、熊野古道だ。 熊野古道のある田辺市では、「巡礼旅」というテーマに絞った海外プロモーションを実施し、効果をあげている。

熊野古道は、山深い紀伊半島の森の中を歩くコースだ。それは、歴史と文化に裏打ちされた山の道であり、近隣住民も大切に保存してきた。それは、巡礼の道だからだ。

2009年7月に世界遺産熊野本宮館オープンし、そこには、サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼道の常設展示。サンティアゴ・デ・コンポステーラの業者向きガイドブックの共同のプロジェクトなど、相互のプロモーションを実施している。

付加価値の高い自然散策路になっているのだ。ここを歩くことを目的に外国人旅行者が、年々増加しているのがうなずける。

九州オルレの登場で、素朴な田舎の散策も観光資源になった

一方、九州では、もっと素朴な田舎道を散策するコースが韓国人に人気だという。 それは、九州のオルレだ。

九州オルレとは、韓国の済州島で始まった田舎歩きのこと。その九州版だ。

オルレを開発された方が、済州島に移り住んでコースを作成し、ボランティアや地元の人の協力を得て広げていった。スタートからわずか5年間で年間200万人が集まり、人口100人の村にも観光客が訪問し、一人暮らしのおばあちゃんが旅人のために出した食堂(カフェ)も登場。民宿(ゲストハウス)も各地で300軒できたという。

コースを決める厳格な基準があり、これは九州でも守られている。

【選定基準】
①子どもや老人、女性ひとりでも歩ける(危険なコースを通らない)
②アスファルトをできるだけ避け、幅の狭い小道を主とする。
③コースにテーマや物語性がある。
④歩いてでしか見られない景色や見どころがある。
⑤1コースの距離は15Km前後。道草をしながらゆっくり歩いて8時間前後
⑥始点、終点への公共交通がある。
⑦中間地点からのエスケープルートがある。(2キロ以内に駅やバス停がある)
⑧宿泊地から公共交通でいける。
⑨地域交流ができる。

九州オルレの利用者は、2012年からスタートして、昨年の3月時点で約5.7万人、うち韓国人が約4.1万人(日本人1.6万人)だ。そして今年の2015年3月時点で、累計12万5千人となった。うち韓国人は8万人を超えて、いっきにこの1年間で倍になった計算だ。

スタート時は、4コースしかなかったが、現在は15コースまで増えた。リピート率も高く、そのあたりが押し上げた要因だろうと、九州観光推進機構の李唯美さんは言う。 年内には、2つ増える予定があり、来年以降も増やしていくそうだ。

九州でこれほどの結果を出せた理由として、自然の豊かさがあがる。もちろん、阿蘇など有名な観光地は既に知っている。その近郊にも素晴らしい自然があることが知られた。 地元の人しか行かなかったような場所に、コースができたことで安心して歩けるようになったのだ。 さらに地元の方との小さな触れ合い、文化や歴史など、プラスアルファの部分が満足度を増す。

日本に来た際に、2つのコースをまわるために滞在日数を増やす方もいる。1カ月かけて15コースをすべて回った方もいた。日本語を話せないが制覇したという。 個人で来る場合もあれば、ツアーを組んで来るケースも。会社や学生の研修として利用する場合もあり、機会はさまざま。

日本人の利用も増えていて、50歳代から60歳代がコアになる。一方、韓国人は幅が広い。一般的なレジャーとして浸透しているからだろう。家族連れや30歳代のカップルなども珍しくない。もともとコース設定として、5歳の子供から80歳のお年寄りまで楽しめるようになっている。

コースは最初の4コースから毎年増えている。しかし認定されるまでには、そう簡単にいかないのだ。それが、ブランド価値を保っている要因だろう。

4月に九州各県に募集項目を出し、そこから各地域に連絡がいく。 県内で審査をして選ばれたものが最終選考に残るのだが、(社)済州オルレの審査が厳しい。 10回も修正が入り、コースを改善した場合もあった。 例えば、なるべく舗装されていない自然の道を多く使う、トイレがない、店がない、景観が2、3キロメートルごとに変わるかなど、細かい配慮が必要だ。

つまり、ブランドを維持していくためのクオリティコントロールが、成功の要因だろう。

現在、人気のコースは、佐賀県の武雄だ。14.5kmを約4時間かけて歩く。九州オルレのスタート時に設けられた。 コース:JR武雄温泉駅~池の内池~武雄神社~塚崎の大楠~桜山公園 特徴:福岡からJRや自動車で1時間程度とアクセスがよい。四方を山に囲まれた静かな温泉郷で、樹齢3000年の神秘的な大楠や1300年以上の歴史ある温泉、400年以上の伝統を誇る90の窯元がある。

また新しいコースでは大分県の九重が人気だ。登山に来られた方がついでに歩く場合も。12.2kmを約4時間で歩く。 コース:九重“夢”大吊橋~筌の口温泉~ミルクランドファーム~音無川~九重自然観?九重やまなみ牧場~白水川の滝~長者原・タデ原湿原 特徴:牧場があったり、古い町並みがあったり、雄大な景観を楽しめたりとコースの多彩さが人気だ。

九州の強みは、本場の済州島と比べて温泉があることがポイントだと李さん。やはり、汗をかいたあとには、温泉で汗を流してさっぱりする。

コースが増えたことで、各地の宿泊の需要が伸びている。例えば佐賀には武雄、嬉野など3つのコースがあり、訪日期間中に一気にまわりたいということで、佐賀に宿泊するのだ。

今後の課題としては、コースにお店が少ないことだと李さんは指摘する。 九重が人気の理由に近隣のお店の存在があるという。牧場脇にソフトクリーム屋さん、カフェがあり、休憩に立ち寄れるのだ。売店やカフェ・レストラン、ゲストハウスなど増えてくれるとコースの魅力が増す。 済州島では、オルレがきっかでお店が増えたという。まさに地元の雇用にもつながる。

外国人による自然散策がきっかけで、日本の田舎が見直される可能性が高い。その場合、地元にお金が落ちる仕組みを作っておかないともったいない。地元と手を携えた商品開発が今後は望まれる。

Text:此松武彦

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