インバウンド特集レポート

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第55回 2017.09.06

民泊の時代に日本の宿はどうあるべきか ~若き宿経営者たちの模索~(中編)

訪日外国人の数は増えているのに、宿泊者数が伸び悩んでいる。なぜなのか。日本のホテルはすでに供給過剰なのだろうか。議論は分かれるが、民泊の影響も否定できない。民泊新法が施行される来春をふまえ、日本の宿はどうあるべきなのか。

前編では、訪日者数の伸びに対して、鈍化する宿泊統計の実態に迫り、外国人旅行者と日本の宿のニーズのミスマッチの現状を分析。中編では、民泊市場が急成長する中で、新しい試みで外国人観光客を取り込もうとするゲストハウスの取り組みを紹介する。

 

若いオーナーたちが目指す新しい日本の宿

◆古民家を改装したゲストハウス:toco.

2010年10月に台東区下谷の築90年の古民家を改装したゲストハウスtoco.を開業したBackpackers’ Japanの宮嶌智子さんも「民泊の影響は必ず出てくるだろう」と話す。 

大学時代の友人4人で設立した同社では、都内に3軒と京都に1軒の個性的な宿を運営している。

宮嶌さんは1号店のtoco.を開業する前に3ヵ月かけて海外のゲストハウスの調査の旅に出ている。印象に残っているのは、ブルガリアの首都ソフィアのホステルだそうで「マネージャーやスタッフのゲストに対する声かけが心地よかった」という。ホステル経営で大事なのは「ゲストに安心感を与えること」と彼女は語る。

同社の宿のゲストの8割は外国客だという。海外のゲストハウスと同様に、複数の見ず知らずのゲストが寝起きを共にする2段ベッドが並ぶドミトリー式の部屋と個室の2タイプがある。

だが、最も特徴的なのは、単なる宿泊施設ではなく、さまざまなイベントを通してゲストと日本人が交流できる共有スペースを有していることだ。

◆バーが併設、生演奏も聞ける宿:CITAN

今年3月に東日本橋に開業したホステルCITAN(シタン) では、地下1階をバーとして運営し、ライブ演奏などのイベントを定期的に行っている。

b 背中に大きなバックパックを背負った欧米の若い女性がチェックインする都心の宿だ

7月末の週末の午後、ハーモニカ奏者によるライブがあった。そこでは、ゲストではない日本人客とともに、同ホステルのゲストである若い欧米客も演奏に耳を傾けていた。若いオーナーらによる、これまで日本になかったタイプの新しい宿が生まれているのだ。

c 地下1階のカフェで開催された「八木のぶお ハーモニカライブ」。エントランスフリーなので、誰でも気軽に参加できる

 

◆次の目的地が決められる宿:Planetyze Hostel

今年2月、同じく東日本橋に開業したホステルPlanetyze Hostel(プラネタイズホテル)もユニークな志向性と理念を掲げた宿だ。支配人の橋本直明さんによると、この宿の特色は「次の目的地が決められる宿」であること。どういう意味だろうか。

Planetyze Hostelのターゲットは欧米のバックパッカー。彼らの日本の滞在日数は平均2週間から6週間と長く、じっくり日本を旅してくれる人たちだ。ところが、彼らの多くは日本のどこを訪れるのか、ノープランのケースも多い。日本に来てから、面白い場所を探して旅に出かけるという人が多い。

そこで、オンライン旅行ガイドブック『Planetyze.com』をベースに、日本中の観光地の動画を作成。それをホテル内のモニターを使ってみることができる。ここで自分の行きたい旅先を決めてもらえるようになっているのが、最大の特徴だ。

d 「Planetyze.com」に掲載されている観光スポットの映像が、フロント正面にある42型のモニターを4面接続した巨大なモニターに映し出される

橋本さんが代表取締役を務める株式会社トラベリエンスは、2013年に通訳案内士と外国客のマッチングサイトである「Triplelights.com」(トリプルライツ)を立ち上げている。

同サイトでは、外国客が自分に合った通訳ガイドを選択できるように、登録ガイドの紹介動画を用意し、それぞれのガイドは趣向を凝らしたオリジナルなツアーをサイト上に紹介。そのツアーに興味を持ってくれた外国人からサイト経由でメールの問い合わせが届くと、日程を調整し、仕事を受けることになる。

たとえば、スノーモンキー(野生のサルが露天風呂に入ることで有名な長野県下高井郡山ノ内町の地獄谷温泉)のような外国人には訪れずらい場所でも、いったん広く知られると、どっと彼らは訪れる。

このことからわかるように、アクセスは問題ではない。どうやって彼らにそれを見つけてもらうか、そのための情報をきちんと届かせるためのチャネルとなることが、ホステルを開業した目的だったとのこと。

同ホステルでは、英語と日本語に堪能な外国人スタッフが宿泊客の旅程相談に乗ってくれるという。同じ若い世代同士、ゲストのニーズに合った日本全国の観光スポットを紹介してくれるというわけだ。

e スタッフは橋本さんを除くと全員若い外国人。国籍はタイ、台湾、ブラジル、アメリカの4名

 

◆とんかつ屋がゲストハウスに⁉:シーナと一平

豊島区椎名町の商店街に昨年3月に開業したゲストハウスシーナと一平も、長く空き家だった元とんかつ屋をリノベーションして…

(後編へ続く)

 

 

筆者プロフィール:
中村正人(なかむら・まさと) 
参与観察家。出版社勤務を経て2004年独立。インバウンド関連ビジネス全般を扱う株式会社エイエスエス所属。専門はインバウンド・ツーリズム。主に参与観察しているフィールドは、訪日外国人旅行マーケットの動向

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著書:

『ポスト爆買い』時代のインバウンド戦略(扶桑社刊)
インバウンドの明暗を統計データや観光業界の長期的観察から読み解いた一冊。外国人観光客をめぐるストレスや葛藤の解決策が満載

ブログ:

ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

 

 

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