インバウンド特集レポート
今回の特集では、これまで中国の2大電子マネーの決済システムについてみてきた。Part1では、電子マネー化が進む中国市場について、Part2では中国で2大モバイス決済サービスのアリペイ、Part3ではもう一つのWeChat Payを紹介した。Part4(本編)では、欧米で人気がある決済サービスPayPal(ペイパル)について取り上げる。昨今、日本でも導入する店舗が増えているPayPalについて、広報を担当する新保氏にお話を伺った。
世界200カ国以上、100の通貨に対応しているPay Pal
PayPalは、料金を支払う側と受け取る側の間に立ち、支払いを代行するオンライン決済サービスだ。
利用方法はとても簡単だ。登録時に銀行口座とクレジットカードを記入するとアカウントが発行される。買い手側は、商品購入時にPayPalのアカウントにログインして支払いボタンをクリックするだけで支払い決済が完了する。アカウントに残金がない場合は、クレジットカードから引き落とされる。一方、店舗側へは買い手が支払った代金がすぐに登録したアカウントに一旦入金され、そこから必要に応じて登録した銀行口座にお金を移すことができる。別件で支払いがある場合は、そのアカウントから支払いもできる仕組みとなっている。
PayPal決済は、世界で200以上の国と地域にある1700万店以上の店舗で利用できる。利用は全世界で2億1000万アカウント、100の通貨に対応している。さらに、支払い画面は、利用者の言語に合わせて自動的にカスタマイズされるため、海外展開にも便利なツールだ。なお、日本のPayPalでは22の通貨と対応可能となっている。
宿泊施設での利用が増える理由は、双方にとっても利便性
PayPalは、インターネットオークションによる決済をサポートするサービスとしてスタートしたシステムだ。アメリカで誕生した世界最大のインターネットオークションサイト「eBay(イーベイ)」に2002年に買収されたが、その後2015年に独立した。
過去にeBayに買収された経緯もあり、主な取引は越境ECを中心に国際的な物販取引での利用が主だったが、2015年に独立してからは、宿泊施設でも利用されるようになり、利用シーンの幅が広がった。
その理由の一つとして、外国人観光客のニーズが増えているのが理由だという。担当者によれば、これは日本のみの現象だという。日本の宿は後払い文化で、先払い文化の外国人観光客は、デボジットだけでも払いたいと考えるそうだ。その際にPayPalで支払いする人が増えているという。
また、宿泊施設での利用が広がっている理由は、施設がクレジットカード対応をしていなくても、PayPalを導入することで実質クレジット決済ができるようになること。さらに宿泊費用は、PayPalが用意するアカウント間でやり取りするため、宿泊者側は宿泊施設にクレジットカード情報を伝えることなく決済でき、宿泊施設側も顧客のカード情報を管理する必要がない。
さらに、宿泊施設業界では、Webサイト経由での予約比率が高まってきていることを受けて、予約ごとに手数料がかかるOTA(オンライントラベルエージェンシー)経由での予約から、手数料のかからない自社サイト経由での予約を強化していこうとしている。その流れで自社サイト経由での予約にあたって、クレジットカード決済の導入を進めている。ところが、決済導入にあたっていくつか課題がある。
その一つに、ヒルトンやハイアットといった世界中で知名度の高いチェーンのホテルと比較すると、日本の宿泊施設は、たとえ世界的に有名なチェーンのホテルと同程度、あるいはそれ以上のサービスを提供する高級旅館であっても、海外での知名度はほとんどない。そうなると、お客さんが、自分のクレジットカード番号を入力することに躊躇し、予約につながらないというケースもある。そこで、PayPalが決済の仲介をすることで、個人情報を送ってもらわずとも、予約と決済が可能になるのだ。
旅行者にとっては、PayPal決済が利用できる宿泊施設が増えれば、宿泊先の選択肢が広がるというメリットがある。
また、宿にとってもPayPalを導入することで、事前に宿泊代金を受け取ることができるため無断キャンセルによる宿泊代金を回収できない、というリスクを回避できる。外国人の場合、当日支払いにすると、実際に宿に現れない「No Show(ノーショー)」が起きるリスクが高まる。特に旅館では、宿泊代金が回収できないだけでなく、用意していた食事代まで無駄になるため損失が大きい。それらを回避するため、事前にデポジットを確保したい、というのが宿泊施設経営者の本音だ。
基本的には、宿泊施設が自社サイトでPayPal決済を導入するためには、予約システムの開発が必須となるが、PayPalは国内の宿のダイレクトブッキングシステムを展開している8社と決済面に関して提携しているため、この8社のシステムを使えば、一から開発せずともPayPal決済が利用できる。
越境ECとの親和性も高いPayPal
また訪日外国人が日本での旅行から自国へ戻ってから、買い損なった物などをやっぱり購入したいと思うとき、PayPalで支払いうことができる。例えば、土産物店で荷物になると面倒で買わなかった物のオーダーや、旅館で使って気に入った食器や着物など。それらを帰国後、購入したい際の決済が本人がその場にいたり、カードがなくとも簡単にできるので、越境ECとの親和性も高い。
海外では現金のやり取りではなく、電子マネーが当り前になっていくなか、インバウンド業界でも迅速な対応が求められている。今後はPOSシステムにいかに統合するか、誘客支援につなげるかなども含め、電子マネーは今後ますます発展していく可能性に満ちている。
(Fin)
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