セミナーレポート 第36回やまとごころ勉強会&交流会レポート

第36回やまとごころ勉強会&交流会レポート 「観光立国スイスに学ぶインバウンドビジネス戦略」 鈴木 勝氏

① はじめに―国際観光の活性化と観光立国ニッポンへの方向転換―

今日はスイスのインバウンドビジネスがテーマですが、個々のビジネスというよりも、チーム・ジャパンとしてオール・ニッポンとしてどう取り組むべきかという観点からお話します。

ツーリストをいかに自分の国に呼び込むかというマーケティング戦略については、世界のランキングで上位にいるスイスと比べ、日本は遅れています。

昨年の訪日外国人は1300万人を超えましたが、旅行会社の利益率は4~5%と低く、その意味ではインバウンド・ビジネスには余り貢献していないと言えます。今後、観光産業の高度化で、訪日外国人が2000万人、3000万人となったとき、日本としてはどうすればよいか、そのヒントはスイスにありました。

日本は最終的にはツーウェイツーリズムを目指すべきであると考えています。

私は、Tourism Expertとして、年に3回、日本のインバウンド、アウトバウンドに関する統計なども含め、国連世界観光機関(UNWTO)にレポートしていますが、これが少しは世界観光競争力ランキングに影響しているのでしょうか。ところで、国際観光客到着客数は依然としてヨーロッパが多いのですが、今後は北東アジア・東南アジアが急速に伸びると予想されています。

日本のインバウンドとアウトバウンドの比較については、「飛躍のインバウンド」、「停滞のアウトバウンド」という現状が読み取れます。最新のデータによれば、昨年の訪日外国人1341万人の内訳をみると、アジアからの割合が8割近くに上昇しています。人数ベースの統計ですが、スイスでは泊数ベースの統計を中心にしているので、今後は日本も泊数ベースの統計も合わせて分析するとよいと思います。 

 

② 世界観光競争力ランキング上のスイス&日本

世界経済フォーラム(WEF)の世界観光競争力ランキングでは、2013年と2015年を比べると、日本は14位から9位に上昇し、スイスはトップから6位に後退しています。これまでは人口に比例した指標数値をとっていたために人口の少ないスイスなどの小国が上位にくる傾向がありました。2015年では人口の多い中国(前年の45位から17位)や日本が上昇しましたが、統計のベースがかなり変わったこともあり、それだけでスイスの優位性が下がったと解釈することはできません。

勿論、日本も官民ともに努力をし、2011年の東日本大震災後に落ち込んだ訪日外国人数が急激に復活、2013年には初めて1000万人を超えたという点もかなり評価されています。しかし、わたしはスイスが依然として1位ないし2位と考えています。

スイスと日本の比較で特筆すべき点としては、人材と労働マーケット(スイス1位、日本15位)、情報・通信技術環境(スイス8位、日本9位)、観光・旅行の優先性(スイス12位、日本20位)、価格競争力(スイス141位、日本119位)、文化資源(スイス28位、日本6位)などがあり、順位はスイスの方が下位にあるものもありますが、上手に対応しており、日本としても学ぶべきであると思っています。

たとえば、情報通信は日本もベストテンに入っていますが、実際に旅行者として本当に便利かというと、スイスの方がはるかに上位にあるというのが実感です。

 

③ スイスに学ぶ、日本のインバウンドビジネス戦略

スイスパス(今年からスイストラベルパスへの名称変更)は、旅行者の行動に基づいて数種類のパスが発行されています。鉄道、バス、クルーズ&フェリーなどの交通機関ばかりではなく、全国で約500か所の美術館なども入っています。空港からの交通は、不便な成田空港に比べると大きな差があり、ホテルに泊まっても、市内の交通機関のクーポンをもらいました。スイス国内/国際バゲージサービスと銘打った、トランクなしの旅行を意識したサービスも提供しています。ウォーキングやサイクリング利用者に配慮し、荷物を目的地に別途届けるサービスもあり、多様なバゲージサービスを日本も真剣に考えていく必要があると思いました。

世界遺産については、スイスは数では日本より少ないのですが、利便性の点では日本よりも競争力があると感じています。世界遺産が沢山あっても、実際に行きにくいのであれば、競争力は机上の空論になってしまいます。例えば、知床は距離的に遠いだけではなく、女満別から羅臼までバスが片道3200円もかかります。世界遺産の数だけではなく利便性も考えていく必要があります。

白神山地、石見銀山、富岡製糸場なども国際路線につなげてできるだけ安く便利に行けるようにすることも考えるべきです。

スイスパスは、1か月有効期間中、4日間利用でき、実際に利用する日付を乗る前に入れる仕組みになっており、利用できる4日はいつでもよいことになっています。日本では決められた有効期間=利用日数内に続けて動かないと損をする仕組みだけのパスになっています。つまり、同じ場所に連泊して交通機関を使わないとパスが無駄になるということです。今後は日本のパスも利用するときだけ使えるようにする工夫も必要ではないかと思います。また、ネット上での購入も簡単にできますし、若者をターゲットとしたユースパスや使うときだけ自由に選んで購入できるSwiss Flexi Passなど種類も豊富です。

日本でも瀬戸内や四国などエリアパスは増えており、このほど観光庁が発表した7つの「広域観光周遊ルート」でマーケティング戦略が取られていくと思いますが、地域だけではなく国家全体で考えないと、他国に負けてしまうのではないかと思います。

パスの使える範囲についても、韓国の釜山や中国の青島まで使えるようにすれば、逆方向の観光客も増えて双方にとってよいのではないでしょうか。 

マーケティング戦略の効率性については、スイスは世界で第9位であるのに対し、日本は57位ですので、学ぶ点も多いと思います。2008年から官民が公共機関と連携して取り組んでいる「スイス・モビリティ」は、環境に配慮したアクティビティー(サイクリング、ハイキング、マウンテンバイク、インラインスケート、カヌー)を国家が推進しており、かなり効果を挙げています。日本も7つの地域で独自の取り組みを考えながら、国として共通した幾つかの政策を打ち出せば面白くなるのではないかと思いました。

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