インタビュー

元JNTO理事 安田彰氏②

2008.02.13

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Q5.観光庁の設立で期待することは何ですか?

JNTOはインバウンド専門でやってきましたが、ツーリズム振興という立場で言うなら、これまでも旅行会社や旅行業界でも様々な取り組みが行なわれてきました。例えば、ホテル・旅館などの連盟や、JATA、ANTAなどの旅行業協会などが、それぞれの活動をしてきました。また、各省庁においても国土交通省だけでなくそれぞれに広義のツーリズムに対する動きがありました。そういったばらばらになっている個別活動を、広い視野から一つの方向に統括できる存在が観光庁であると思います。観光庁が指揮をとり、それぞれ動いている政策の方向性を大きくまとめていくことができるのではないでしょうか。

また、海外旅行の販促をめざすビジット・ワールド・キャンペーン(V.W.C)が2000万人達成に向けJATA(日本旅行業協会)を中心に始まりますが、そのときにも観光庁設立を機に、予算措置等を含めていろいろとサポートできるということになります。さらに宿泊統計のようなものは今まで各都道府県、自治体が自前で行っていましたが、日本全体での統一的な統計に関しては基準もなく不十分なところがありました。それも今後は充実してくると思います。このような部分での期待は非常に大きいと思っています。

Q6.インバウンド観光振興に向けての日本の課題をどのようにお考えでしょうか?

日本はキャンペーンの成果として訪日外国人客の数こそ伸びていますが、様々な取り組みをしている割にはインフラ整備の部分に関してはまだまだ課題があります。現在観光景観を良くしようとか、環境に配慮した街づくりをしようという動きが強まっていますが、国の道路整備にしても、在来型の高速道路の単なる延伸ではなく、このような環境・景観配慮型の道や歴史的な立ち寄りスポットを考慮した整備・建設であれば、結果として住む人にも優しい、また訪れる人にも好まれるきれいな地域づくりが進みます。このように自然や歴史に配慮したインフラ整備により、まずは日本人に人気のある観光地になり、それを受けて外国人にも人気がでてくると思います。例えば飛騨高山や白川郷のような、これまでは交通の利便性がさほど良くはなかった場所でも、魅力的で美しい場所であれば多くの観光客が集まります。それは東京や京都や大阪といった大都市の活気や利便性とはまた違った、歴史と風土に根ざした魅力があり、こうして日本人が求める人気の観光地には自然と外国人も集まるようになります。つまり日本人にも納得できる「本物」をつくることが外国人を惹きつける大きな要因だと思います。

Q7.また、その課題を解決するためには何か必要でしょうか?

国や自治体それぞれが動いている方向性を「ツーリズム」というプリズムを通して一つに寄せ合っていくことが必要だと思います。インフラ整備にしても各省庁が「美しい日本」、お国自慢に足る地域振興という視点を忘れずに、街づくり国づくりに生かしていってほしいと思います。今排出CO2の問題もありますし、今年開かれる「洞爺湖サミット」も環境問題をとりあげたものです。そういった環境、景観、自然などについて各省庁それぞれの立場から考えていけたらいいのではないでしょうか。

しかし地方自治体にとって、自らの政策をこうした同じ方向に進めていくには少し課題もあるのではないでしょうか。今「道州制」とか「地方分権」とかいう理念が動いていますが、地域が本当に自分の知恵と力で自分の町を作れるのか、果たしてお金だけあれば活性化できるのかということは、いま試されているところです。それには国からの助成金依存ではない、主体的な取り組みを各自治体の人が自覚して行なう必要があります。そのうえで各省庁も協力しながら、一緒になって地域を興していければいいと思います。

ただ最近は官民一体で広域の観光推進母体ができつつあります。細分化された地域ごとに勝手に活動するのではなく、行政の範囲を超えて、むしろアクセスや人の流れを意識して、地域が互いに協力し合い振興活動していくという形ができつつあります。そういうものにもやはり国がサポートして、先ほど申し上げたような環境などの視点を取り入れながら、地域独自の文化を生かした観光振興ができてくるのではないでしょうか。

Q8.安田氏が考える日本の魅力を3つ教えてください。

「自然」「食」「匠」だと思います。 まず「自然」ですが、例えば同じ時期を捉えても、沖縄と北海道では大きな気温差があり、もちろん自然環境もまったく異なります。カリフォルニア州ひとつと変わらない広さの「日本」、これを一つの言葉や概念で捉えようとしても、その中にある自然は様々であり、四季によっての変化も大きい。景観美にしても、温泉の魅力や楽しみ方にしても四季に応じて「雪月花」は変幻自在であり、ひとつの国としてみた細長い日本列島の自然は大変豊かで、これは世界にとってもユニークなものだと思います。

次に「食」ですが、和食と限らず「日本の食」として食生活を考えると驚くべきバラエティーです。日本には世界中の食が集まっており、かつその質は一流です。それは日本人のメンタリティや本物志向というものによってこれだけの洗練を極めるに至ったわけで、その意味で日本の食のレベルは文化そのものだと思います。例えばカレー一つとっても、カレーはもともとインドの調味料で、それを使ったのがインド料理ですが、カレーとご飯を合わせたカレーライスは日本独自のものに変化していますし、カレーうどんやカレーパンといった奇想天外な食品もあります。こういった本来の外国の料理にしても日本の料理として生まれ変わったものもあり、それがまたおいしいというのも、日本の誇るべき文化の一つだと思います。

最後に「匠」ですが、中国におされ気味の感無きにしも非ずですが、最近の話題では、日本は技能オリンピックで若者が金メダルをいくつもとっています。あるいは伝統工芸士の技や焼き物、紙すき、染色から始まり、寺大工や世界に誇る中小企業の職人さんの技術などに至るまで、広い意味での「匠」はまだまだ健在です。このようなありとあらゆる「匠」の技と作品は世界に売り込んでいけると思います。

Q9.これまでの旅行で最も印象に残っているものを教えてください。

やはり最も印象に残っているのは若いときに経験したことです。特に初めて経験したことというのは新鮮で、26歳頃に行った初めてのヨーロッパ旅行で、朝の霧に包まれたコペンハーゲン町の自転車通勤風景が今でも印象に残っています。

それから、今は難しいでしょうが、「古代オリエントツアー」としてイラン(ここへは今も行けますが・・・)・イラク・レバノンに添乗員としていったことがあります。ペルセポリスやイスファーハン、バグダードやバビロン、ベイルートなど古代文明の粋が集まっています。当時はまだ平和だったため行くことができたという貴重な体験ですが、そういった平和であった時代のことを思い出しますと、「平和」や「安定」といったものがあって初めてツーリズムが支えられているんだなと痛感します。

若者が旅行をしなくなっているといいますが、旅をしていろいろなものを見、感受性を豊かにするということはとても良いことだと思います。ぜひお勧めいたします。

Q10.今後旅行者のニーズはどのように変化していくと思われますか。

私が若かった頃はバックパッカー作家の書いた海外旅行記などが大変よく売れ、またそういった本を読みながら海外に対する憧れを抱いたものでした。しかし時代が変わり、現在はいろいろな電子情報がたくさん入ってきます。日本にいながらにして、様々なことを映像や音楽から体験することができてしまうため、海外に対する憧れというものが少なくなってきているのではないでしょうか。 ですので、ただ単に現地に連れて行くだけの目的性のない旅行ではもはや人を惹きつけることができなくなってきています。訪問目的やテーマを持った旅行の需要、いわゆるSIT(Special Interest Tour)が今後増えていくと思います。これまでのような価格競争本位のスケルトンタイプの商品ではなく、多少は割高でも体験内容のはっきりした、個人旅行では経験できない様々なテーマ性のある旅行が、これからの旅行者の求めていくものになると思います。そういった意味では旅行業者にとって量販ビジネスは大変やりにくくなってくるのではないでしょうか。

(Part 3へ続く)

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