インバウンドビジネス入門! 業界の現状や歴史を解説

2023.05.01

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インバウンドとは?

いまやビジネスを語る上で欠かせないキーワードとなったインバウンド。本来的には、「入ってくる、内向きの」を意味しますが、ここでは「訪日外国人観光」を指します。この言葉が使われるようになったのは2010年代はじめ、政府が観光立国を目指すと宣言した2003年からはしばらくたっていました。その後2015年には流行語大賞のノミネートに入り、市民権を得ました(ちなみにその年の大賞はインバウンドに関連深い「爆買い」でした)。なお、日本人が海外へ出かける場合はアウトバウンドと呼びます。

 

インバウンドの現状

2020年3月に世界保健機関(WHO)が「新型コロナウイルス(COVID-19)はパンデミック」宣言を出すと、世界のほとんどの国が鎖国状態になりました。以来、早いところでは1年足らずで渡航制限を撤廃するなど、国・地域により開国の時期に差はありましたが、2023年の春、世界は再び外国人旅行者に門戸を開いています。

ここで、日本の水際対策の動きを振り返ります。欧州では2021年6月に、アメリカでは同年11月に海外旅行が段階的に再開するのを目の当たりにしながらも、日本政府の動きは鈍く、ようやく2022年の春から段階的な緩和がありました。まず、4月に1日当たりの入国者数の上限を7000人から1万人に引き上げました。6月に入ると、添乗員つきのツアー客に限定する形で外国人観光客の受け入れをおよそ2年ぶりに再開。1日当たりの入国者数の上限も2万人に引き上げました。9月からは1日当たりの入国者数の上限を5万人に引き上げ、観光目的の外国人の入国について添乗員を伴わないツアーを認めました。そして、10月11日からはさらに大幅な緩和が行われ、個人の外国人旅行客の入国が解禁され、短期滞在のビザの取得免除や入国者数の上限が撤廃されました。

それから半年以上の間、日本政府は、入国者に対してワクチン接種証明書か出国前72時間以内の陰性の検査証明書の提出を義務付けていましたが、5月8日から新型コロナウイルス感染症の感染症法上の分類を「2類相当」から「5類」に移行するのに伴い、上記のいずれも提示が不要となり、一切の規制が撤廃されました。     

日本は2019年に3118万人の外国人観光客を迎えましたが、JTBによると、2023年はインバウンド再生元年として、2019年の6割程度まで戻ることが期待されます。

それではここで改めて日本のインバウンドのこれまでを振り返ってみましょう。

インバウンドの歴史

明治時代に、民間のインバウンド専門機関が誕生

遡ること130年以上前の1893年(明治26年)、日本で初めて外客誘致専門の民間機関「喜賓会」が誕生しました。当時の日本を代表する実業家、渋沢栄一が国際観光事業の必要性と有益性を唱え、訪日外国人をもてなす目的で設立したもので、海外の要人を多数迎え入れ、各種旅行案内書の発行などを行いました。

1912年(明治45年)には後に日本交通公社、JTBとなるジャパン・ツーリスト・ビューローが創設され、鉄道省の主導のもと、外国人への鉄道院の委託乗車券の販売、海外での嘱託案内所の設置など、訪日外国人観光客の誘致を行いました。こうした明治中期以降の日本におけるインバウンド施策は、世界の名だたる観光立国と比べて遜色のないものでした。

戦後も外貨獲得のために外国人旅行者の誘致に重きを置き、1964年(昭和39年)の東京オリンピック開催に向け、外国人旅行客を受け入れるインフラが整備されました。

高度経済成長期の海外渡航自由化で盛り上がったアウトバウンド市場

ところが、先進的だった日本のインバウンドビジネスは、1970年(昭和45年)を境に成長が鈍化しました。その要因は大きく二つ。一つは、日本の観光業界が国内市場に重点を置いたこと。もう一つは、1964年に観光目的の海外渡航が自由化されたこと。高度成長期には海外へ出かける日本人(アウトバウンド)が増加。1964年に22万人だったアウトバウンドは1971年(昭和46年)には96万人に達しました。

インバウンドについては、大阪万博開催の1970年にピークの85万人となりましたが、翌年の1971年にはアウトバウンドが逆転しました。以降は円高の影響もあって、インバウンドよりもアウトバウンドの市場が大きくなり、1995年(平成7年)にはアウトバウンドが1530万人、インバウンドは335万人とアウトバウンドが5倍近くに増えました。

その翌年、1996年(平成8年)に、訪日外国人旅行者数を2005年(平成17年)時点で700万人に倍増させることを目指した「ウェルカムプラン21」を運輸省が策定しました。また、2002年(平成14年)の日韓ワールドカップサッカー大会開催はインバウンドに追い風になりました。それでもアジアへのアウトバウンドが増加するなど、両者の開きは拡大する一方でした。

訪日外国人数と出国日本人数の推移

2003年より「観光立国」に向け国を挙げての加工振興に取り組む

そこで、2003年(平成15年)、政府はビジット・ジャパン・キャンペーンを立ち上げ、国を挙げて観光の振興に取り組み、観光立国を目指す方針を示しました。それから10年たった2013年(平成25年)、訪日外国人客数が目標であった年間1000万人を突破すると、新たに2020年までに2000万人、2030年までに3000万人にするという目標が掲げられました。

同年に2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催が決定し、円安も追い風となり、2015年(平成27年)には訪日外国人客数1973万7000人を記録。2000万人まであと一歩に迫ると同時に、大阪万博が開催された1970年以来45年ぶりに、入国者数が出国者数を上回りました。

2016年、目標上方修正。2020年4千万人、2030年6千万人を掲げる

訪日外国人客数が予想を上回るペースで増加していることから、政府は2016年(平成28年)春に、「2020年に4000万人、2030年に6000万人」と目標を上方修正。2016年に初めて2000万人を突破、2018年には3000万人を突破しました。

このように順調な伸びを示しながら迎えた2019年はラグビー・ワールドカップの開催で欧米豪の訪日客は増えましたが、日韓関係の悪化の影響で韓国からの訪日客が激減したこともあり、前年からの伸びは2.2%増にとどまりました。

現在のインバウンド

インバウンド停止、コロナ禍の空白の3年間

2020年は東京2020大会の開催もあり反発が期待されましたが、新型コロナウイルスの感染症の拡大で3月以降減少傾向は続き、最終的に年間の訪日客数は411万6000人と、1998年の水準に戻ってしまいました。コロナ禍が続く2021年はさらに減少し、24万5900人でした。2022年は6月に団体旅行、10月に個人旅行が解禁されたこともあり、終盤にかけてインバウンド客が戻り、383万1900人でした。前年と比べると大きく増えたものの、2020年の数字にも及びませんでした。

「質の向上」軸に、2025年までにインバウンド回復目指す

2020年までに訪日外国人旅行者数4000万人、訪日外国人旅行消費額8兆円という基本目標を掲げた観光立国推進基本計画。観光立国の実現に関する基本的計画として2017年に閣議決定されましたが、本来、2021年3月末で計画期間が終了となり改定される予定でした。しかし、コロナ禍で観光を取り巻く環境が見通しづらいということで延期が続き、2023年3月、6年ぶりに改定されました。          

今後の観光政策の方向性については、「持続可能な観光地域づくり」「消費額拡大」「地方誘客促進」の3つのキーワードを掲げ、大阪・関西万博が開催される2025年をめどにインバウンド回復、国内交流拡大に集中的に取り組むとのことです。

気になる目標ですが、質の向上を目指すとともに、今後の世界的なコロナの収束見通しが不透明であることも踏まえ、人数に依存しない指標を中心に、いずれも2025年目標として設定されています。

・持続可能な観光に取り組む地域数 100地域
・訪日外国人旅行消費額単価 20万円/人(2019年の25%増)→訪日外国人旅行消費額5兆円の早期達成
・訪日外国人旅行者一人当たり地方部宿泊数 2泊 (2019年の10%増)
・訪日外国人旅行者数 2019年水準(3,188万人)超え

なお、「明日の日本を支える観光ビジョン」で掲げた2030年に6000万人15兆円の目標は引き続き維持されています。

一方、観光庁の2023年度予算では、インバウンド関連として下記の2本柱を決定しました。

・観光立国復活に向けた基盤の強化【130億9400万円】
・インバウンド回復に向けた戦略的取組【170億5700万円】

前年度より38%増加し、307億300万円となった予算の中には、「文化資源を活用したインバウンドのための環境整備」「国立公園のインバウンドに向けた環境整備」「戦略的な訪日プロモーションの実施」「円滑な出入国の環境整備」など、インバウンドの本格的な回復に向けた施策が多く入りました。

また、令和4年(2022年)度第2次補正予算では、インバウンドの本格的な回復に向けた集中的取り組みを実施しつつ、観光地・ 観光産業について持続可能な形で「稼ぐ力」を高める取組を強力に推進し、インバウンド消費5兆円超の速やかな達成を目指すとしており、以下の予算が成立しています。

インバウンドの本格的な回復に向けた集中的な取組等【約257億円】
地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化 【複数年度計約1,500億円】
訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業 【約243億円】

世界の観光マーケットと、輸出産業としての日本の観光市場

世界の観光マーケットにおける日本

コロナ禍の世界の観光マーケットはあらゆる面でマイナス成長だったため、ここでは、2019年時点の世界の観光マーケットにおける日本のポジションを見てみましょう。

国連世界観光機関(UNWTO)が発表した2020年の国際ツーリズムの統計では、日本は2019年の海外旅行者数(国際観光客到着数)で世界11位、アジアでは中国、タイに次ぐ3位でした。世界10位のイギリスとの差は約730万人、アジアで日本のライバルと言われるタイとの差は760万人となっています。

国際観光客到着数ランキング2019

国際観光収入ランキングでは、2017年に初のトップ10入りを果たして以来順調にランクアップしている日本が、全体の7位、アジアではタイに次ぐ2位に順位を上げました。

観光立国の御三家とも言える、フランス、スペイン、アメリカとは旅行者数でも、観光収入でもはるかに及びませんが、今後も推移には注目していきたいところです。

国際観光収入2019

観光産業は日本の輸出産業で3位

また輸出産業という側面で見ると、日本の観光産業は、自動車産業、化学産業に続く、第3位の規模を誇っています。その観光産業は今後もさらなる成長が見込めるインバウンドが牽引していると言っても過言ではありません。

訪日外国人旅行消費額の製品別輸出額との比較2019

インバウンド消費額の重要性

「インバウンド消費額」とも呼ばれる訪日外国人旅行消費額は、2015年に飛躍的な伸びを示して初めて3兆円を突破すると、2017年には4兆円を超えました。その後伸びは緩やかになりましたが、2019年は前年比6.5%増の4兆8113億円でした。

2019年の訪日外国人旅行者の1人当たりの旅行支出は、15万8458円でした。日本人の1人当たりの宿泊旅行が5万5054円でしたから、単純に見ても1人当たり日本人の3倍を支出している形になります。外国人旅行者は日本人旅行より経済効果が高いと言われる所以です。

訪日外国人旅行消費額

日本を訪れる外国人はどの地域からが多いのか

日本を訪れる外国人観光客トップ6

2019年の訪日外国人客を国・地域別に見ると、1位の中国が全市場で初めて900万人台を達成、韓国は激減するも558万人で2位を維持、これに台湾、香港を加えた東アジア4市場で訪日外国人客全体の70.1パーセントを占めました。また、前年に東南アジア市場で初めて100万人を突破した6位のタイは2019年も好調でした。

ちなみに訪日外国人客数が激減した2020年の国・地域別入国者数では、中国(106万9256人、前年比88.9%減)、台湾(69万4476人、前年比85.8%減)、韓国(48万7939人、前年比91.3%減)、香港(34万6020人、前年比84.9%減)、タイ( 21万9830人、前年比83.3%減)、アメリカ( 21万9307人、前年比87.3%減)がトップ6で、以下は20万人未満でした。

訪日外国人数2019

以下は2000年からの訪日外国人客数の推移を示したグラフですが、これを見ると、2013年までは韓国が訪日客トップの市場でしたが、2014年に台湾が首位に浮上し、そして2015年には中国がナンバーワン市場になると、以後首位の座を守り続けていることがわかります。

最後に、JNTOが2021年にアジア、欧米豪・中東諸国において実施した各市場の旅行者の意向等に関する独自調査「22市場基礎調査」から、地域ごとの訪日旅行の特徴を示したグラフをご紹介します。

ここでは、訪日旅行と日本以外への海外旅行での割合の差に着目しています。旅行タイプとして、「都市滞在」「周遊旅行」「ウィンターリゾート滞在」「テーマパークなどの訪問」「文化・スポーツイベント、祭り等」「ウェルネス、スパリゾート滞在」ではおおむね訪日旅行が日本以外への海外旅行を上回っていることがわかります。一方、日本以外への海外旅行では「都市滞在」「周遊旅行」に次いで多い「ビーチリゾート滞在」は、訪日旅行ではかなり少なくなっています。

インバウンド客にはそれぞれ国によって特徴があります。個人旅行か団体旅行か、日本をどういうルートで旅行し、どこへ行きたいか、目的はショッピングか体験かなど。また、滞在日数や訪問先にも違いが見て取れます。インバウンドビジネスを始めるにあたっては、ターゲットにする国・地域の特徴を把握するようにしましょう。

 

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