インバウンドコラム

第6回 「JR九州のアジア戦略 ~クルーズトレイン『ななつ星in九州』~」

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九州の各地を走る観光特急列車はその卓越したデザインとオリジナルのサービスにおいて全国的に有名で、外国人旅行者にも人気だ。
2013年10月には、世界中でも類をみない豪華寝台列車クルーズトレイン「ななつ星in九州」を運行する。
これには、「東アジアや欧米で知られていない九州の知名度をあげていく」という狙いもある。旅行業の夢をぐっと凝縮したこのプロジェクトに注目し、インバウンドでの影響を考えてみる。

目次
1.日本が世界に誇る豪華寝台列車 クルーズトレイン「ななつ星in九州」の登場
2.「和」と「洋」の融合を徹底的に追求
3.日本での人気で、海外での販売はどうなる?
4.韓国人にも人気の「ゆふいんの森」号や観光列車でJR九州レールパスも販売拡大

 

1.日本が世界に誇る豪華寝台列車 クルーズトレイン「ななつ星in九州」の登場

旅行業の本質の一つに、お客さまに「非日常の時間」、「夢」を提供することではないだろうか? 景気や政治問題の影響をストレートに受ける旅行業界において、しぼみがちな志向になりがちだが、この目的を忘れては本末転倒だと思う。

そういう観点で見ると、JR九州は、常に「お客さまに楽しく夢のある旅」を提供することに挑戦してきたといえる。
斬新な色使いでオリジナリティあふれる観光列車は、デザイナーの水戸岡鋭治氏のこだわりのコンセプトが随所に施してあり、単なる“移動”ではなく、旅を楽しむことができる。テレビや雑誌で目にされた方も多いと思うが、最初から成功していたわけではない。今までの常識ではありえない細かなデザインの仕様は、車両技術者からは技術的な理由でNOをつきつけられることも多かったという。当初は赤字覚悟だったが、トップが全面的に信頼を置き、課題を一つひとつクリアしていく形で、次々と「観光列車」が九州を駆け巡るようになった。

そんな挑戦を続けるJR九州が次に挑むのが、豪華寝台列車クルーズトレイン「ななつ星 in 九州」。来年2013年10月15日から運行を開始する。

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「私たちは今まで経験したことのない、とんでもない世界に足を踏み入れようとしています。世界の中で戦おうとしているのです」
と10月1日に開催されたクルーの就任式において、唐池恒二代表取締役社長は、決意を新たにするように述べた。

加えて、7つのすばらしい世界一を提供するのだと語る。

 

 

①世界一の空間(車両)
②世界一の時間の移ろいを目と耳と体で感じることができる
③九州の豊富な食を提供
④車窓の風景~何も考えずにキャビンからぼんやりと物思いにふける素敵な時間
⑤九州各地の魅力あふれる観光
⑥世界一のおもてなしの心をもったクルーのサービス
⑦新たな人生にめぐり逢う旅 自分自身の人生を発見する旅を提供

 

私は、タイ~シンガポールのイースタン・オリエンタル・エクスプレス3泊4日の旅をしたことがある。
確かに、鉄道の旅の素晴らしさは、車窓からの見える風景を何も考えずに眺めて、時間の移ろいを感じることだと同感する。
ヤシ林が続くかと思うと、広がる水田にはゆっくりと水牛が歩く。
夕暮れから夜にかけて紫に染まるようなヤシ林の輪郭が、夜になると闇の中でおぼろげな輪郭となってうとうとと眠りにつく。
豪華列車の旅はハードだけではなく、時間、空間そのものが最高に贅沢だと感じた。
ななつ星の由来は、旅の方向を定める北斗七星、九州の7つの県、車両が7両、九州の主な観光素材(自然、食、温泉、歴史文化、パワースポット、人情、列車)を表現している

唐池社長は海外での販売にも意欲的だ。
「将来的には日本国内5割、アジアのお客さまで5割にしたい。知名度が圧倒的に低い“九州”をブームアップさせるためにこの列車を知ってほしい。例え、乗車する機会がなくても『あの豪華列車が走っているのが九州。九州に行ってみたい』というように、憧れを喚起し、知名度アップにつながるといいと思う。そのためにも、クルーにはおもてなしの心はもちろん、各国の語学もある程度習得させていきたい」

つまり、世界最高峰の列車の旅を提案し、世界からのお客さまを九州に集めることにある。

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10月1日のクルー就任式。クルー25名は社外から航空会社の客室乗務員やホテル経験者など13名、社内から12名採用された。1年をかけてサービスや英語のほか語学も研修するとのこと 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2.「和」と「洋」の融合を徹底的に追求

それでは「クルーズトレイン ななつ星 in 九州」今までの豪華列車とどこが違うのか?
それは、デザインからサービス、行程にいたるまで、徹底して「和」のエッセンスがちりばめられている点ではないだろうか?
四季がある日本の美しさをとりこむ工夫が随所に施され、九州・日本でしか体験できない
和のクルーズを実現しようとしている。

古代エンジ色をまとう列車は、機関車と客車7両の編成(ラウンジカー、ダイニングカー各1両で客車は5両)。

部屋数は14室ですべてスイート仕様で、うちデラックススイートが2室ある。
デザインテーマは和と洋、新と旧の融合で、和を感じる家具や調度品で落ち着いた雰囲気に。デラックススイートでは畳の間も入る予定。

ジャパニーズモダンな雰囲気が漂うラウンジカーでは、昼は大きく開き放たれた窓から九州の大自然を望み、夜はバーがオープン。ピアノの生演奏などが行われる。

このプロジェクトのリーダーであるJR九州 クルーズトレイン本部次長 仲義雄氏は、目的と現在の進行状況を語ってくれた。

これはデザイナーの水戸岡先生と唐池社長の夢の集大成。やれると思ったのは観光列車の成功からです。観光列車を成功させるために必要なのは、地元をその気にさせること。
例えば“A列車で行こう”という熊本駅~三角駅を運行する観光列車は天草までの船と連動するもので、『上手くいくわけがない』と言われたが、市長など将来を見据えている人と直接かけあって、連携を行ってきたことが効を奏してきました。

 

『ななつ星~』が運行する地域は、すでに今まで連携してきた下地があるエリア。そういう意味では、応援体制はできています。

この列車の目的は『九州をPRするための列車』。
プロモーションは今から、九州の各県や地域の方が出られるイベントなどに一緒に出かけていきたいと思います。
食事は旬の素材を活かした料理をダイニングカーで楽しんでいただくとともに、地元で人気のレストランも利用します。

九州各地の素材を『ななつ星』を通して紹介していくことで、それがハイクオリティな『ななつ星ブランド』になるよう考えています。
運行する地域だけでなくて、九州全体を表現していきたい。地域の雰囲気を列車の中で感じて、それが売り上げにつながる。それを地域に還元する。九州をPRするとともに、元気にしていきたいのです。

『オリエント急行』のようにアガサ・クリスティの小説に登場するような、有名で歴史がある列車ではありませんが、例えば、有田焼の酒井田柿右衛門の器を使うといった地域の歴史と伝統を物語るストーリーを詰め込んでいきたいのです。

ベジタリアンは対応する予定で、ハラルフードについても考えていこうと、お客さまが喜ぶことに柔軟に対応し、本当の価値をわかっていただいて世界中のファンを魅了する列車にしていこうと思っています」。
(クルーズトレイン ななつ星 in 九州:http://www.cruisetrain-sevenstars.jp/index.html)

 

3.日本での人気で、海外での販売はどうなる?

実際のクルーズトレインの商品は観光、食事、宿泊をすべてセットにした
3泊4日、1泊2日のコースが設定されている。
客室タイプはすべてスイート仕様で、スイート12室、DXスイート2室。中学生以上しか申し込むことができない。

3泊4日のコースは、福岡・由布院(大分)・宮崎・鹿児島・熊本をまわり、沈壽官窯での絵付け体験などの選べる観光や、霧島温泉郷で有名な高級旅館「天空の森」ほか高級旅館での宿泊を含んでいる。旅行代金は2名1室利用の場合の1人380,000円~550,000円となる。

1泊2日コースは、九州の北西部を堪能するルートで、福岡・佐賀・長崎・熊本・大分の5県をめぐり、長崎駅での歓迎セレモニーやまち歩き、阿蘇、由布院といった見どころを抑える内容になっている。旅行代金は2名1室利用の場合の1人150,000円~220,000円。

10月1日から2013年10月~12月末までの第一期の申し込みには、
3泊4日コース413件、1泊2日コース401件の計814件の応募があり、抽選で決定している。
当該期間の設定部屋数112部屋に対してなんと7.27倍の平均倍率となっている。
海外からの申し込みも3組あったそうだ。

海外の販売はJR九州と契約を結んだ販売代理店により、2014年1月運行分から販売する予定。現在は、提携先代理店と詳細についての交渉を行っているという。 このように日本人からの需要が多いと、なかなか海外で販売できる枠が少なくなるのではないかと心配してしまうが、海外の反応はどうだろうか?

プロジェクトチームは、本年9月に上海で開催されたILTM(International Luxury Travel Mart)に出展し、世界各地の富裕層を顧客にもつ旅行社にアプローチを行った。

先出の仲氏によると、台湾、香港、シンガポール、タイマーケットは概ね好評で、関心も高いという。

特に、香港、台湾は日本に何度も行っているリピーターが多い。
温泉は台湾にもあるので、そこまで心に刺さらない。
新しいスタイルとして「鉄道の旅を提案する」、そのディスティネーションが九州というアプローチがいいのではないかという意見もきかれた。
「台湾一周と九州一周は似ている」という観点から、商品化の話も持ち上がったという。

気になる料金については「もっと高くていい」と言われることも。
「この旅はヨーロッパの方が売れるのでは」との海外旅行社の声もあって、12月にはフランスのカンヌで行われたITLMへの出展も行ったとのこと。

「日本人は由布院の有名旅館の夕食でも素晴らしいと想像できるが
海外の人には『なぜこれが価値があるのか』をもっとクリアにわかりやすく伝える必要がある。その点では国内とはコミュニケーションの仕方に工夫が必要かもしれない」
とJR九州上海事務所所長・相良氏は語る。

韓国では、現地の担当者が日本での商品説明会に参加するなど、注目度も高い。
『国内5割、アジア5割』の予想図は、日本人向けの運行を開始し、多方面の修正を行ったうえで、表現を工夫しながら到達できる目標なのかもしれない。

 

4.韓国人にも人気の「ゆふいんの森」号や観光列車でJR九州レールパスも販売拡大

インバウンドに有効なのは、クルーズトレインだけではない。

博多~由布院を結ぶ観光特急列車「ゆふいんの森」号では、乗客を見渡すと韓国人客が多いのにも気づく。壮大な風景を大きな窓から体感する展望ラウンジなどの設備、滝などの名所付近でみどころ説明が入り、日本語のほか韓国語も入るサービスも人気だ。

韓国では観光列車が珍しいので、それを目当てに乗車する旅行者も少なくない。
(JR九州の観光列車:http://www.jrkyushu.co.jp/trains/index.html

「JR九州レールパス実績は今年、対前年150%の伸びで売れています。」という
JR九州 鉄道事業本部 営業部 販売課のレールパス担当 鄭 東均さん。

 

北部九州 3日間 7,000
エリア版 5日間 9,000
全九州 3日間 14,000
エリア版 5日間 17,000

 

 

 

http://www.jrkyushu.co.jp/train/railpass.html

JR九州レールパスの実績目標を設定したのが平成21年で、まずは5万人を目指した。
平成22年には5万人を超え、平成23年は東日本大震災があったが22年より数字がのびているという。

平成23年7月からは正確なお客さまの動向やそれぞれの国に適したマーケティングを行なうため、海外での事前購入者だけでなく、日本に到着してから駅で購入するお客さまの動きもチェックしている。海外での購入は韓国、駅では台湾からの旅行者が多い。

提携の旅行代理店での直接販売をすすめていて、「北部九州」エリア版が特に人気があり、全体の約9割を占める。
「博多-鹿児島中央」区間の九州新幹線にも乗車できる「全九州」エリア版は、高いイメージがついているうえ、円高によりなかなか売れ行きがのびない。
駅での引き換えで時間がかかるなど課題もあるが、手続きの簡素化をはかっている。
「10万枚までは売れる仕組み、システム開発を行っていきたい」という鄭さん。

韓国以外のエリアでの知名度をいかにあげていくか、「ななつ星in 九州」のPRとともにJR九州の海外への挑戦は、スタートダッシュをかけている。

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