インバウンドコラム

第1回 「中国発クルーズ客船」による大航海時代の到来!

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目次
1.博多港 九州に大量に寄港する中国発クルーズ客船
2.中国人旅行者にとってのクルーズ船旅行とは
3.どうして博多港・九州への寄港が多いのか?
4.最初の課題だった入国審査の簡素化
5.受け入れ・おもてなし体制の課題
6.経済波及効果はいかに? 現地ツアー ショッピングにおける課題

 

1.博多港&九州に大量に寄港する中国発クルーズ客船

大きな船からどんどんあふれてくるように下船する中国人旅行者。ツアーバスに乗り込み観光ツアーへ。昼過ぎに福岡市中心部・天神では、百貨店の広場や店頭に中国語が飛び交う。平成20年から始まった中国発大型クルーズ客船の博多港寄港により、こんな風景はよく見られるようになった。
平成22年は博多港61回を含め九州全体で152回、震災の影響を受けて4月からの寄港開始が8月からとなった平成23年でも九州で55回、平成24年は179回が予定されている。まさにインバウンドの「黒船来航」といった様相で、さまざまな影響を及ぼしている。

年を重ねるごとに大型化している中国発クルーズ船は、以下の3船がメイン。
平成20年から中国発を開始したコスタ・クルーズ社の「コスタ・ビクトリア」、ロイヤル・カリビアン社の「レジェンド・オブ・ザ・シーズ」、そして今年寄港を開始した3840人乗客定員の「ボイジャー・オブ・ザ・シーズ」が、クルーズシーズンの夏季は週に数回寄港している。

 

「コスタ・ビクトリア」(コスタ・クルーズ社)総乗客定員2,394人

「ボイジャー・オブ・ザ・シーズ」(ロイヤル・カリビアン社)総乗客定員3,840人

 

 

 

 

 

 

 

2.中国人旅行者にとってのクルーズ船旅行とは

受け入れ側として感心するのは、毎回総乗客定員に近い人数を乗せてやってくること。
平成20年当初は欧米の乗客も多かったが、今では8〜9割が中国人である。船会社は、中国国内の旅行代理店に必死のプロモーション攻勢をかけて販売をしている。そのおかげで中国人の新中間層にとって、このクルーズが「格安で手軽にできる海外旅行」として認知されつつある。
船会社によっても異なるが、平均価格帯は1人1泊100ドル以下で、宿泊はすべて船内。

船の中はプールやジャグジー、スパ、ショップなど施設も充実し、「街」ごと移動しているといえるほど大きく豪華で、セレブ感を味わえる。通常の食事は料金に含まれ、おしゃれなレストランで楽しめるし、またエンターテインメントショー、さらに公海上ではカジノもできる。

ボイジャー・オブ・ザ・シーズのメインストリート

夜間に移動し、明るい時間は韓国や日本の都市の半日観光、買い物荷物の超過料金を心配する必要もない(部屋に入ればOK)。

実際の客層を見てみると、三世代や若いカップルと子どもなどの家族旅行、大型インセンティブ旅行などが多い。ほとんどが団体ビザ利用、出発地の上海やその近郊、天津近郊からの乗客だ。

実際に日本人向けでも、博多港発でも4泊5日3万6000円~という手ごろな料金でコースが設定されており、満室の日程も出ているほど。
(西鉄旅行クルーズhttp://www.nishitetsutravel.jp/cruise-tour/costa_asia.htm

海外での観光もでき、船の中も楽しい「カジュアルクルーズ」は中国人を中心に急速に広まりつつあるというわけだ。

「ボイジャー・オブ・ザ・シーズ」のレストランのひとつ。クラシカルでタイタニックのよう

「コスタ・ビクトリア」のプール。ジャクジーもある

 

 

 

 

 

 

 

3.どうして博多港・九州への寄港が多いのか?

中国発クルーズ客船が博多港および九州への寄港が多い理由は、なんといっても地理的に近いことがあげられる。中国の港を出て、韓国~日本といくときに行程が組みやすい。

次に、博多港では定期船もあるためCIQ(注1)が充実も理由のひとつ。

そして、九州の港は概して都心部に近く、観光ツアーの際に移動が簡単である。
特に中国人が観光とあわせて楽しみにしている「ショッピング」は、天神~博多駅の2キロ圏内の都心部で何でも揃う福岡は、効率的に短時間でまわれるので現地ツアーも使いやすくなっている。

注1:Customs(税関)、Immigration(出入国審査)、Quarantine(検疫)の頭文字

4.最初の課題だった入国審査の簡素化

中国発クルーズ客船受け入れの最初の課題は入国審査時間の短縮だった。

船が港に着岸して下船の準備が8時ころ完了、順次乗客が下船して出てくるまで1500人規模でも2時間以上かかっていたこともある。平成21年当時の溝畑観光庁長官もたびたび福岡を訪れ、現状を視察。入国審査の簡略化・時間の短縮を法務省に要請していた。

平成24年6月21日の「ボイジャー・オブ・ザ・シーズ」(3840人乗客定員)の初寄港から簡略化した入国審査を実施。
着岸後船内のダイニングで顔写真撮影を省き、指紋採取に絞り、40人の入国審査官で行った。約1時間40分で終了できる快挙だった。

次の試金石は6月30日の2隻同時入港。ここは60人の入国審査官を配した。
3700人の乗客が乗った「ボイジャー・オブ・ザ・シーズ」では、入国審査官40人、船内に25ブースを設置し、1時間30分で終了。2100人を乗せた「コスタ・ビクトリア」は、20人で13ブースを用意、2時間とどちらも比較的スムーズに入国審査は終了できた。簡素化できなかったらどんなことになっているか恐ろしいばかりだ。

5.受け入れ・おもてなし体制の課題

筆者は福岡観光コンベンションビューローの職員であった平成21年からクルーズ客船にかかわってきたが、まさに官民協力して、この3年で急速に整えてきたという感がある。その結果が以下の5つだ。

①ウェルカム・サポーターによる案内

(公財)福岡観光コンベンションビューローで管理する語学ボランティア(福岡在住の留学生が多い)を港や案内所、商業施設に派遣して案内をする。多いときには30人ほどが活動に従事している。黄色いジャケットがウェルカム・サポーター。中国語が話せることを目立たせている。

 

②ストリートサインやウェルカムボード

中心部の天神のストリートには簡体字をメインにしたサインを掲示。また天神の各商業施設ではフロア表示や、ウェルカムボードを設置。

 

 

 

 

③ガイドブック、ショッピングマップの配布

福岡市観光ガイドブックやマップ、ショッピングガイドをセットにして下船時に乗客に手渡しをしている。

 

 

④歓迎演出でお出迎え、お見送り

歓迎幕でのお出迎えや、和太鼓などで出港時にお見送りをするなどの演出を行っている。
写真撮影をする乗客も多い。

 

船からみたゲート

 

⑤ウェルカムゲート

博多港では平成23年からウェルカムゲートを設置。
案内所機能とクルーが、自由にメールなどができる『Wi-Fiフリースポット』と、『お土産物の販売所』の2スポットからなる。

 

 

実は、乗客数が多い船ほどクルーも大量に勤務していて、「ボイジャー・オブ・ザ・シーズ」は、1000人以上とも言われている。交代シフトで休みをとるので、彼らがゆっくりできるところが必要ということで、Wi-Fiフリースポットとした。

Wi-Fiフリースポット

 

また、ツアーを終わって船に乗り込む直前にも買い物ができるようにしたのがお土産販売。
炊飯器や電化製品、チョコレートやお菓子類、珍味や爪きりなど、さまざまなものが揃っている。ここは福岡観光コンベンションビューローが管理し、業者に委託している。

 

ごった返すお土産販売所

 

 

もちろん中国語スタッフを数多くおいて積極的に接客にあたり、その日に売れ筋のものやセールストークなどを共有し、すぐに売り場のレイアウトを変更して売り上げの増加につなげている。
この柔軟性とスピードこそが、中国人旅行者を相手にするときに大切なことだと痛感する。まさに相手目線をすばやく実現することだ。

 

6.経済波及効果はいかに? 現地ツアー&ショッピングにおける課題

中国発クルーズ船の乗客のほとんどは団体ビザの中国人なので、船で販売されるオフィシャルツアーや乗客がチケット購入した旅行代理店のツアーに参加しないと現地観光に出られない。
福岡を例にとると、朝に着岸し10時ころには観光へ出発、大宰府参拝や福岡タワー、アサヒビール園などをまわり、天神やキャナルシティ、博多駅などの商業地区で2時間ほど自由時間を過ごすのが一般的なツアーだ。

この大量の半日観光ツアーを催行するにあたり、さまざまな課題が生じている。

通常2000人規模でも50台近くのバスと添乗する通訳者が必要となる。船会社から指定を受けたランドオペレーターは寄港前夜の間に手配やスケジュールを管理する神業的な慌ただしさをこなさなければならない。

6月30日の市役所の中央公園側のロータリー。3台が限界か

先述の6月30日の2隻寄港の際には「ボイジャー~」80台、「コスタ~」50台とあわせて130台のバスが稼動し、その多くが天神~博多駅のどこかでフリータイムを過ごし、中国人が街にあふれる。

 

 

 

 

議会側のバスの運行

都心部に大きな駐車場がない福岡市ではバスの駐停車も問題になる。
中心部・天神は市役所ロータリーがフル稼動。公園側を「コスタ・ビクトリア」、議会棟側を「ボイジャー~」の公式ツアーバスが運行できるようにした。道路に待機したりすると警察からの指導も入る。市役所1階のロビーでメンバーを集めて、バスがくると一気に乗降してロータリーから出すというオペレートが繰り返される。特に博多駅では商業施設近くに大きな駐車場がなく、順序よくまわしていく作業をしなければならない。

また、ツアーの中身について「本当に日本・福岡らしい体験、食事ができているのか」という検討課題はいつも出るが、例えば2000人がオフィシャルツアーに参加するのであれば、オペレートの都合上バリエーションは3コースくらい。また、食事は同じ食事処でないといけない! ということになる。そこで、焼肉も寿司もスイーツもあるビュッフェ形式の郊外型バイキングレストランでのランチをとりこんでいる。
そこが、訪日リピーターの人、また日本らしい食事をしたい人にとって満足できる内容になるのか疑問が残る。

そもそも今のクルーズのツアーは、船会社も利益をとらなければいけないため周遊するタイプのフルプランが多い。

「もっとゆっくりとショッピングしたいのに、2時間じゃ足りない」

という声もあり、自由時間を多く取れないか販売の旅行社に提案してみた。しかし、

「それでは”高価格ツアー”にならないので難しい」

との回答だった。やはりいろんなアイテムを加える必要があり、今はまだ売り手が強いのがクルーズの現場だ。

それでも経済効果は確かにある。2011年のアジア都市研究所の調査では、1人平均4.4万円という消費額が出ている。昔のように1人数十万円ほど消費するのはほとんどなく、電化製品、カウンセリング化粧品、ドラッグストアなどでのお土産になるようなものを買う人が多い。
2年前は「時間がない」と焦っている人も多かったが今ではそこまで見られない。「どうせ時間がないから」「また来られるから」「通販でも購入できるから」と理由はさまざまだ。

指摘があるように、商業施設での中国語通訳が多ければもっと消費額は増えることは確実だ。

2012年にオープンしたキャナルシティ博多の「Laox」では1グループに1人接客できるほど中国語など外国語スタッフを充実させている。天神の商業施設には、ウェルカムサポーター(語学ボランティア)をビューローの管理から派遣するようにしているが、現状の1施設3人程度では到底足りないのは事実。しかし、スタッフや店員の言語がわからなくても一生懸命な対応こそが旅行者の記憶に残るのではないだろうか?

私たちは、短い滞在でも「日本らしさ、福岡らしさ」を感じて、船やリピーターになってまた福岡・九州にきてもらいたいと思っておもてなしに取り組んでいる。「宿泊がない」といって嘆くのではなく、1人でも多くのファンを作ることができるよう動いている。

しかし、それはかかわる人だけでなく、市民や街全体がクルーズ船乗客を歓迎する雰囲気、おもてなしマインドの醸成が不可欠で、それが一番旅行者に伝わるのではないか。

市役所1階の案内所で「和食が食べたい」と希望で案内をした90歳の上海女性は、お礼を言いに訪れてくれた。
そして80歳からはじめたブログで『福岡はいい街だ。人が親切と書くわ」とおっしゃっていた。こんなことの積み重ねからしか、おもてなしの盛り上がりは作れないと思う。

韓国のカジュアルクルーズ「クラブハーモニー」も今年から寄港した。来年以降はさらに大型船が続々と入ってくる予定だ。世はまさに東アジアの大航海時代。真に喜ばれる寄港地になるために挑戦の日々は続く。

博多港寄港予定
http://port-of-hakata.city.fukuoka.lg.jp/guide/cruise/index.html

 

 

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