インバウンドコラム

withコロナ時代に向けた観光業の取組:安心 安全に向けたオペレーション再構築、富裕層向け事業展開にも好機 —アドベンチャー体験 キャニオンズ

2020.05.13

堀内 祐香

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世界では新型コロナウイルス感染症の拡大が徐々に落ち着きを取り戻し、ロックダウンの解除や規制緩和に動き始めています。しかしながら観光業回復の時期は目途が立たず、旅行業界は依然として苦戦を強いられています。今回取り上げるのは、群馬県みなかみ町を拠点に、自然を活かしたアドベンチャー体験を提供する株式会社キャニオンズのマイク・ハリス氏。現在の状況を客観的に捉え、オペレーションの再構築や新事業の展開など、今できることに焦点を当てた取り組みを紹介します。

 

—株式会社キャニオンズで提供するアドベンチャー体験について教えてください。

夏季のシーズンはみなかみ町と東京の奥多摩エリアでラフティングやキャニオニングなどを、冬季はみなかみ町でスノーシューやスノーキャニオニングなどのスノーアクティビティを提供しています。これ以外にも、冬には妙高高原や野沢温泉などでの英語のスキー教室やバックカントリーツアーも展開しています。

夏のアクティビティは、だいたい70%が日本人、15%が日本在住の外国人、15%が外国人観光客で、在日も含めた国内マーケットが8割超を占めます。一方で、冬はインバウンド比率が95%と非常に高いです。冬は、当初はオーストラリアや欧米圏のお客様が多かったですが、最近は中国、台湾などアジア圏のお客様も増えています。

 

—新型コロナウイルスによる影響について教えてください。

今年は旧正月が1月末だったことから1月は盛況でした。ただ、2月から新型コロナウイルスの影響が出始め、3月の売り上げは数千万円という規模でガクンと落ちました。なお、4月以降は休業しています。当初はゴールデンウィーク明けに再開の予定をしていましたが、緊急事態宣言の延長を受け、休業も5月末まで伸ばしました。

 

—-休業中のいま行っている対策について教えてください。

「無症状の感染者」がいることを想定したオペレーションを準備

仮に5月末に緊急事態宣言解除されたとしても、消費者が観光する機運が高まるには、まだ時間がかかると思っています。一方で、新型コロナウイルスによる自粛規制が長丁場になり消費者もStay Homeに徐々に飽きています。そのため、そんな方たちにアドベンチャー体験を通じて、精神的、肉体的なリフレッシュを提供できればと思っています。

ただ、コロナウイルスは無症状の感染者もいるため「誰かがコロナウイルスを持っているかもしれない」という前提での対応が必要です。参加者へ事前に検温してもらい、熱の有無を確認するだけでは不十分で、最低でも年内は、この想定に基づきオペレーションを変更する必要があります。

これは、何よりも働いているスタッフや観光客を守るためです。新しい運営の基準を作り、安心が証明されれば、V字回復には至らなくても、U字回復のような形で徐々に戻るのではと予測しています。

 

—具体的な、オペレーションの見直しとは、どのようなことですか。

細かいオペレーション一つ一つを丁寧に見直す

体験そのものは三密から遠い印象があるかもしれませんが、繁忙期には1日に300人程度が施設に集まります。チェックインや支払い、事前ブリーフィングや更衣室、アクティビティ開始場所までのバス移動、終了後のシャワーやウェットスーツの洗浄など、細かい部分で三密を避けるためのオペレーション変更や工夫が必要です。

さらに、みなかみ町は同様の体験を提供する会社が30以上あり、100人以上の参加者が同じタイミングに同じ場所に集まるケースも考えられます。その場合に備え、河川でのオペレーションも考えなければいけません。こうしたオペレーション一つ一つの丁寧な見直しの積み重ねで、最適な運用マニュアルを作っています。

もう一つ、スタッフへの衛生面に関する意識向上も高めていく必要があります。

まずは机の上で紙とペンを使ってのシミュレーション、その後はガイドへの研修やトレーニング、そして少人数のお客様に実際に体験してもらいフィードバックもらって、というステップで進める予定です。

 

プライバシーや安全性を配慮したプライベートツアーのチャンスにも

なお今の想定では、定員24人の体験を4人程度まで減らす必要があるかもしれません。

実は昨年から少人数制のハイクオリティなプライベートツアーも考えていたので、今回はそれに挑戦するいいチャンスかもしれません。プライバシーに配慮しつつ安全性を確保できれば、さらにクオリティの高い体験を提供できるのでは、と考えています。

こういったオペレーションの変更に伴うコストなどはこれから見ながら調整していきます。

 

数歩先を行くスイスでの基準を参考に

4月末に、スイス政府がアウトドアアクティビティ再開のためのコロナに対する安全基準を発表しました。それをドイツ語から日本語、英語に翻訳しています。その基準を使い、キャニオンズではどういうオペレーションができるかをシミュレーションし、再開する予定です。

 

—-冬のアクティビティはインバウンド比率が9割以上とのことで、より大きな影響が出ることも考えられますが、どう予測を立て準備しているのでしょうか。

インバウンド回復は日本次第、まずは隣国との観光交流がカギ

国内市場は、状況が落ち着けば徐々に回復に向かうと思いますが、インバウンド市場はまだ先ですね。ベストケースであれば、秋ごろから徐々に戻ってくるかもしれませんが、正直言うとあまり期待していません。

台湾や中国、シンガポール、オーストラリアなど、いち早く措置を講じたり、ロックダウンで厳しい行動制限を行った地域では、拡大の封じ込めに一定の成果を出しています。その流れで、例えばオーストラリアとニュージーランドなどでは、少しずつロックダウン緩めたうえで、その次のステップとしては隣国同士での旅行の動きという話もあります。日本の場合も同様に、中国や台湾などの隣国や地域との観光交流から始まるかもしれません。

ただし、インバウンド回復のカギは日本の感染症の状況次第とみています。日本での対策は「自粛要請」にとどまり、厳しい措置ができていません。感染症拡大の第二波が起こる可能性も否めず、今は何ともいえません。

 

移動から体験まで、全プロセスでの安全対策が必要に

また、国境を越えた観光については、飛行機でどの程度安全対策が採れるかにも注視しています。空港からスキー場などへの送迎は以前から行っているので、今後はニーズが高まるかもしれません。いずれにせよ、消費者が納得するレベルの安全対策次第だと思います。

また、冬シーズンはスキー場でも安全面での対策が必要でしょう。特に野沢など人気のスキー場は混雑しています。ゴンドラ待ちの列でソーシャルディスタンスを保ったり、ゴンドラに乗る人数を絞る必要も出てくるかと。リフト券の販売枚数の制限などで混雑緩和するぶん、価値を高めて値上げということもあり得ます。今後は、こういった検討も必要と考えています。

なお、冬のアクティビティのオペレーション面での一番の課題は、ガイドの採用です。例年、冬シーズンのガイドは5月から夏の終わりまでの間リクルーティングします。海外からの採用もしますが、現在は外国人の渡航や入国制限があり、例年通りに進めるのは難しいです。今後は、回復へのシナリオを複数パターン用意し、いつまでに何を決めるのかの期限とその判断基準を決め、それをもとに一つ一つ決めていく予定です。

 

—旅行客の回復に時間がかかることが予測されるなかで、新事業の展開などの新しい取り組みがあれば教えてください。

グランピングを通じ、ラグジュアリー層向けに新たな価値を提案

以前からキャンピングやグランピングには注目していて、特にこれまでの日本にはない新しいスタイルのものにも着手し始めています。

例えば、日本では登山と言えば山小屋ですが、快適な山小屋もある一方で、多くの場合、最低限の設備しかありません。ただ、1ランク2ランク、あるいはさらにランクの高い宿に泊まりたい人もいます。こういった層にグランピングを通じてラグジュアリーな空間を提供できれば、富裕層の集客にもつながると考えています。

特にグランピングは建物ではないので、規制が厳しい国立公園でも進めやすいです。他の企業と連携し、日本に適した形にカスタマイズして、国立公園にとどまらず日本全国に広げていきます。

 

— 最後に同じような状況にある観光事業者の方にメッセージをお願いします。

今こそマーケットの変化を見越したプランニングの時期

しばらくの間、日本はもちろん世界中のすべての国や地域にとって、国内観光がカギになります。大変な時期ではありますが、時間ができる分、勉強や事業のプランニングなどこれまで出来なかった部分を見直すタイミングです。

お客さんが戻るタイミングに、地域がどんなブランドで売り出せるのか、また消費者がどのようなサービスを求めるのか。団体旅行よりも、FITやスモールグループでの旅行が主流になるなど、マーケットは変化すると思います。こういった変化にどう対応するかのプラン二ングするなど、今だからこそやるべきことはたくさんあるので、皆で取り組んでいきましょう!

(取材 執筆:堀内祐香)

 

マイク・ハリス氏 株式会社キャニオンズ 代表取締役

1973年ニュージーランド生まれ。ニュージーランドの大学で日本語と会計学を学ぶ。大学在学中に初来日。1995年群馬県みなかみ町のアウトドア会社に就職し、1998年に社内にキャニオニング部門を設立。2004年独立し「株式会社キャニオンズ」を設立。みなかみDMO理事やアウトドア連合会の会長を務めるなど、みなかみの自然の素晴らしさを地元の人に訴え、同町が進めるサステイナブルなインバウンド推進に取り組む。

 


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