インバウンドコラム

【コロナの先のインバウンド業界⑤】コロナショックに対峙するための3つのR—JNTO(日本政府観光局)小堀 守氏

2020.04.03

外島 美紀子

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感染の勢いが止まらない新型コロナウイルス、その影響は計り知れません。
先の見えない状況の中で、今何を考え、どう行動したらいいのか。
インバウンド業界の各分野で活躍する方々よりお寄せいただいている応援メッセージ。今回は43年前からインバウンドに携わられているJNTO(日本政府観光局)の小堀守氏が、インバウンド業界の皆様へ向け執筆くださった文章を掲載させていただきます。

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「コロナショックを超えて」

世界的なコロナウイルス感染拡大の直撃を受けて、2月の訪日外国人旅行者数は58.5%減の108万人余に激減しました。3月、4月とさらに大きな減少になると見込まれます。縁起でもなく申し訳ないのですが、私は直近のイタリアやスペインからのニュースを見ていてアルベール・カミュの小説「ペスト」を思い起こしました。今、「不条理」な新型ウイルスの感染拡大が世界や観光産業に働く人々を苦しめています。

WHO(世界保健機関)が3月11日にパンデミック宣言を発表、欧米の主要各国も次々と自国民の出国や外国人の入国を事実上禁止する措置に踏み切るなど、今のところ収束の目途はたっていません。開かれていた世界がたちまち鎖国状態に陥ってしまいました。インバウンド業界に身を置いて43年にもなる小生にとってももちろん初めての事態ですが、海外のテレビ、新聞、ネットのニュースを見ていても「前例のない」、「過去に例を見ない」事態の到来に世界の観光関係者からは悲痛な叫び声が伝わってきます。人の往来の活発化を生業としている世界の観光業界はまさに存亡の淵に立たされている気さえします。さらに、3月24日には東京オリンピック、パラリンピック開催の1年延期も発表され、我が国を取り巻く観光情勢は厳しい状況に置かれています。

先週、とある旅館経営者から1月以来の予約キャンセル表を見せてもらいましたが、世界数十カ国から予約が入っていたものの、キャンセルの連絡が入った顧客の氏名や泊数が数ページ並び、恐らく単月で100万円を超える売上減少と思われました。これまでにお会いした関係者から口を揃えて発せられた質問は、①コロナ禍はいつ収束するか、②今何をすべきか、③終息期に入った段階ではどのように行動すべきか、という3点に尽きるようです。私は、レジリエンス、リテンション、リカバリーという3つのRが鍵になると思っています。拙文では、政府対策本部が立ち上がった3月26日段階での状況を見ながら、考えるところを述べさせて頂きます。

 

1.「サバイバル」:求められるレジリエンス(resilience)

今回のコロナショックの特徴は、海外旅行どころか外出さえ禁止されるという過去のいかなる危機とも異なる異次元の深刻さで先の見通しが見えません。まず、旅行する人々の健康や生命が脅かされる第一の危機が去らなければなりませんし、その後で旅行者個人の失業や生活困難、そして企業の経営破綻からくる旅行需要の減退という第二波の危機が到来することも考えられます。現在の内外の渡航中止勧告発出状況を見ると、今後4週間から8週間程度は国外旅行の需要は発生しないかも知れません。また、航空、宿泊、旅行業や観光関連事業者など旅行インフラを支える企業体の経営悪化による旅行需要創出メカニズムの弱体化の影響も大きいと思われます。訪日インバウンド旅行の成長を支えたプレイヤー達の苦境が市場回復にとって大きな足かせになりかねません。現段階では、一定期間持続する危機に備える「サバイバル」の手立てを考え、復活に向けレジリエンス(復元力)を高めることが喫緊の課題でしょう。

 

2.ビジネス復活の基礎固め:求められるリテンション(retention)

現在の危機を乗り切った先を見据えて現下の時期に取組むべき施策は何でしょうか。まず、最も重要なことですが、訪日旅行への世界的規模の旅行需要は必ず回復、再び成長するという確固とした展望を持つことが出発点になるのではないでしょうか。また、同時にレジリエンスのため、組織とその最大の経営資源である人的資源、顧客、パートナーとの関係の維持、強化(リテンション)を図ることが必要だと思います。

東日本大震災から3週間後、小生の元をカナダ人の旅行会社幹部が訪れてくれたのを思い出します。彼女は、周りから危険な日本に行くなと止められたけど大好きな日本や日本人が心配で矢も楯もたまらず飛んできた、と話してくれました。日本のインバウンドはこのような海外の多くのファン、そしてパートナーに支えられています。観光は国や地域の文化、経済や人の営みの土台に乗って送客側と受入れ側が手を携えて発展していく互恵産業だからです。

また、痛手を受け苦しんでいるのは自分たちだけではありません。現時点で重要なことは、確固とした将来展望に立って多くの関係者と確かなつながりを保ち、意見や情報を交換し、海を越えて互いの苦境を乗り越えるべく共感、励まし合いながら、より強いパートナーシップを構築していくことでしょう。

例えば、このような状況では、リピーターなど長年の顧客、予約をキャンセルした顧客、ビジネスパートナーに対して相手を気遣う見舞いや挨拶を送り、今年実現しなかった訪日旅行への気持ちに感謝し、周囲の状況を簡単に説明し、この危機を乗り越えて整った環境でより熱烈にお迎えしたいという気持ちを示すことが何より大事だと思います。現下の状況を歯を食いしばって辛抱するとともに、海の向こうで同じように喘いでいるに違いない顧客やパートナー(メディアや旅行会社、個人など)にエールを贈る人間的共感力を持つ必要もあります。

 

3.日常の風景や生活の発信:リカバリー(recovery)へのスタート

危機に終息の気配が見えるまでに他に何をしたらいいでしょうか?「観光を考えるどころではない」顧客に対して、身の回りも含めて地域や個人の風景を含めた日常や自然の変化などをネットやSNSなど色々なメディアを使って発信できると思います。日本の中がコロナ禍でどうなっているかなど世界の人々は知る由も余裕もありませんが、息が詰まる閉塞状況の中ではそうした日常のエピソードに触れることは救いです。日本の風景や日本の人々の日常生活の魅力がコロナ禍の下でも失われていないことを静かに品格を持って発信すればきっと素直に受け入れてくれるのではないでしょうか。

9年前の東日本大震災では、東北の人たちが整然と秩序を保って危機に対応していた姿が海外に伝えられました。NBCレポーターが体育館に着の身着のまま避難した住民の様子を伝える映像に地元の中年女性がガラス瓶に花を一輪挿して活けている姿が映し出され、鮮烈な印象と感動を与えました。

 

このような前例のない危機に際しては、国や自治体、関係団体が様々な支援策を講じて下さると思います。しかし、私たちはコロナウイルスという「不条理」の被害者であると同時に、観光業の当事者としてやがて訪れる収束の時に合わせて国や地域経済復興の柱となる観光を回復させるという重要な任務を背負っています。コロナショックを超えて観光業の復活という任務を果たした先で、1年後に延ばされた東京オリンピック開幕という感動の日を共に手を携えて迎えたいと思います。

 

小堀 守氏
1977年 国際観光振興会(現 日本政府観光局)入構。国内各部局やロンドン、ニューヨーク事務所勤務などを経てコンベンション誘致部長、海外プロモーション部長、統括役、理事などを経て退職。現在、日本政府観光局参与などを務める

 

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