インバウンドコラム

【ポストコロナのインバウンド業界⑩】海外からの旅行者がいない今こそ、じっくり取り組むべき課題とは—ザ・リョカンコレクション 福永浩貴氏

2020.06.02

外島 美紀子

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インバウンド業界の各分野で活躍する方々より、お寄せいただいている応援メッセージ。今回は「日本旅館を、世界のRYOKANヘ」スローガンに、海外富裕層マーケットをターゲットとした日本旅館、小規模ホテルに特化した国際ホテルコンソーシアムをザ・リョカンコレクションを運営されている株式会社アール・プロジェクト・インコーポレイテッドの福永浩貴氏です。外国人宿泊客が姿を消した宿泊業にとって厳しい状況の中、今どんなことに取り組むべきと考えていらっしゃるのかを教えてくださいました。

 

ザ・リョカンコレクションは2004年発足の日本初、海外市場をターゲットにした日本旅館コンソーシアムです。厳格な審査をクリアした全国44軒の日本を代表する上質な日本旅館、小規模ホテルが加盟し、海外会員約6万人。創業時から世界各国約15万人の海外富裕層客をお迎えし、日本旅館文化の維持継承、地域経済の活性化をブランドミッションに掲げ、海外主要ターゲット国では一定の認知度を獲得、多くのお客様をお迎えすることで日本文化の本物、素晴らしさ、地域文化の価値をお伝えしてきました。

しかしながら、この新型コロナ感染症の影響で、ほぼ全ての加盟施設から外国人宿泊客が姿を消しました。この結果4月、5月と44軒中約半数の施設において売上8割減、弊社においても売上9割減、業界は未だかつてない危機に瀕していると言えます。

しかし、この歴史的パンデミックは我々に、そして世界の旅行業界に大きな「気づき」を与えました。世界の主要国諸国の厳しいロックダウンの中、人が移動しないというだけで世界の自然環境は劇的に改善し、地球本来の美しい姿が垣間見れました。そして家に籠ることで家族や大切な人との絆、また社会との繋がりの根本的価値を見直したのではないでしょうか。

この「気づき」によりコロナ収束後の世界の旅行業界、旅行者のニーズは大きく変貌し、旅の意義も明確になっていくことでしょう。そして世界のホテル、旅行業界はこれを牽引しなければならない責務があります。

 

インバウンド需要回復への道のり~

ザ・リョカンコレクションでは現在、海外6万人の会員や約1000名の主要国富裕層旅行バイヤーへのアンケートやオンラインフォーラムなどを行い、海外からの需要回復時期を見定め、タイムリーなマーケティング活動を行っていきますが、インバウンド需要の完全回復までには多少の時間を要することでしょう。

ではそれまでに何をするべきか。宿においては一日も早い経営の安定化を図るため、地元需要の回復、県外需要の回復、の順で、まずは国内需要の回復に努めることが必須でしょう。

そしてその活動を通じ、自らの宿、またそれを取り巻く地域の魅力を見直し、発信する。国内のお客様に新たな魅力を発信することは、その後の海外旅行者の集客にも大きく影響してきます。

海外旅行者、特に富裕層旅行者は世界でそこにしかない体験、価値、本物、非日常を求めて旅をします。そして日本人から人気を集める素晴らしい体験、場所は世界中の人々も注目します。それこそが彼らにとっての本物であり、価値であり、非日常であるからです。

我々日本人が海外を旅行するとき、旅行者だけの為に作られた旅行者ばかりのスポットと、地元の人たちが多く集まる人気スポットとどちらが旅の醍醐味、本物さを感じますか? 

地域の日本旅館がこのグローバル市場で存在感を発揮できる要素に「地域との連携」があります。そしてそこにある永続性に、世界が注目しています。地域の人々との出会い、食、伝統工芸、自然、様々な地域産業、文化との出会い、これこそがグローバル社会で日本旅館が世界の有力ホテルチェーン、デスティネーションと対等に戦える重要な要素なのです。

日本旅館は地域を支え、支えられ、世界のホテル業界が真似できない歴史と時間を重ねてきました。地域、地元の人が愛する宿、日本人が愛する宿や地域を実現する為のコンテンツは豊富にあります。この海外旅行者がいないこの時間に、じっくりと、魅力ある宿、地域づくりに取り組むべきと考えます。そしてそれはインバウンドビジネス成功への一番の近道になります。

 

Commitment to Hygiene and Wellness ~

ザ・リョカンコレクションでは新たな取り組みとして、加盟44施設と連携のもと、Commitment to Hygiene and Wellness(仮名)を立ち上げ、新たなブランドステートメントを発信します。

現在世界のホテルチェーンが躍起になって衛生管理への取り組みやプログラムを発表するように、衛生管理への取り組みは、少なくともこの先5年は旅先や宿泊先を選択する上で最も重要な要素の一つとなるでしょう。

そしてこの分野において諸外国に比較すると我々は大きなアドバンテージを持ちます。そもそも清潔、衛生的として世界に認められる国になったのは何故なのか、その背景に日本文化はどのように作用してきたのか。また、人と人との「ディスタンス」を敬い大切にしてきた我々の文化には、歴史を超え、様々な思慮を重ねられてきた、繊細かつ洗練された客人をもてなす文化があるのです。

この機会に日本文化の新たな価値の発信と、感染リスクが極めて少ない国、地域、宿であること、つまり日本人の生活習慣、高い社会的モラル、そういったメッセージを、新たにザ・リョカンコレクションのブランドステートメントに加え、世界に発信していくつもりです。

 

更なる世界的危機を乗り超えるために~

今後の観光グローバル化を考えると、将来こういった疫病や戦乱の影響リスクを回避する備えも必要と考えます。まず一つは、今後この国の外国人旅行者が更に増加する中で、宿泊客の国籍におけるマーケットミックスの考え方です。今回実証されたように一国からの需要に経営を委ねることへは大きなリスクが伴います。

余談ですが、過去、私が海外数カ国のホテルに勤めていた中で、国籍別マーケットミックスを「国内」と「インバウンド」の2つのみで管理している国はこの日本だけでした。勿論、従来インバウンド需要が少なかった業界ですのでそれで良いのですが、本来ならば「国内」は、数ある国籍の1つである「日本人」とするべきで、他の国々もしっかり国籍別に統計し、割合を把握、意図的にバランスを保つ、そして一定の国や地域から需要が減少した時のリスクヘッジへ繋げ、更に、日本人も含めた世界の人々が愛する宿づくりへの指標とするべきです。

2つ目に、経営基盤の安定化。つまりインバウンドビジネスを、より儲かるものとしていくことです。例えばレベニューマネージメント導入に至らないまでも、多様化していく世界の旅行者、訪日パターンに基づき、最大限に利益を出せる料金体系の構築も必要です。更に、海外旅行会社との直接取引における手数料率も、部屋のみの海外ホテルと同じ料率を払う必要はないでしょう。1泊2食料金の部屋料金分をブレイクダウンしそれに対する料率をかけた手数料であるべきと考えます。

実際ザ・リョカンコレクションでは、昨年、海外旅行会社との直接取引への手数料を、従来の10%から一律5%に引き下げました。つまり食事には手数料は支払わないという理屈です。小さなことかもしれませんが、今後ますます増加するインバウンド需要に向け、正当な利益を獲得し、経営基盤を強く保ち、いかなる困難が襲ってこようとも、一切ぶれない体制づくりを構築していくべきです。

それこそがこの国の旅館文化、地域文化を発展させ、文化国日本としての国益に資する原動力になります。ザ・リョカンコレクションではその実現を目指し、100年ブランドを約束、この先長きに渡り加盟施設、地域に寄り添いながら、インバウンドを通じた旅館文化、地域文化の更なる繁栄を目指していきます。

極めて厳しい日々が続いていますが、この長いトンネルを抜けた先には、大きな希望と可能性が待っています。今こそ産業を超えた連携を行い、チームジャパンとして魅力ある日本を創っていこうではありませんか。

 

福永浩貴氏 株式会社アール・プロジェクト・インコーポレイテッド代表
約15年に渡り英国の高級ホテルチェーンで勤務。2004年「ザ・リョカンコレクション」の立ち上げを機に起業、株式会社アールプロジェクトインコーポレイテッドを発足、主事業である「ザ・リョカンコレクション」の運営の他、海外高級ホテルチェーン、エキシビジョン、メディア、高級ショッピングモールなどへのレップ事業を行う。2007年、経済産業省内に立ち上がったラグジュアリトラベルマーケット研究会の立ち上げに尽力。その後、経済産業省ラグジュアリーマーケット委員会、クールジャパン官民有識者会議委員として業界振興を行う。また伝産品を中心とした伝統産業の海外富裕層に特化したマーケティングサービスも提供、旅館+地域+伝統文化の世界発信を行っている

 

 

 

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