インバウンドコラム

第5回 海外に向うオーストリア人

2013.10.02

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オーストラリアからのスキーリゾート誘致で成功したニセコ。さらにハクバにも火がついて別の魅力が人気だという。次にオーストラリア人誘致に成功するのはどこだろうか。シガコーゲンだろうか。パウダースノーハウンドという、オーストラリアのスキーファンのためのWEBでは、日本のそれぞれのスキー場の違いを説明している。例えば、ハクバとシガコーゲンの地形の違いとか、アフタースキーの魅力とか。
ニセコとハクバの成功への要因を、実体験をもとに今後の可能性を追った。

目次:
●芸者、フジヤマ以外の日本を発見
●スキーは、金持ちだけのスポーツだった
●庶民もスキー目的で日本にやってくる。もちろんセレブも
●Why ニセコ?
●ニセコからハクバへ
●ホテルを買いたい?
●ニセコ、ハクバ、そして次ぎは?
●投資家を呼ぶことの重要性
●日本は世界のスキーリゾートになりうる!

 

芸者、フジヤマ以外の日本を発見

面白い調査がある。
ロイモーガン調査会社によれば、2001年、スキーホリデーを楽しむ人たちの79%は、オーストラリア国内のスキーリゾートに行き、21%が海外に出かけた。
その数が少しずつ変化を示してきて、2011年12月からは、国内でスキーをする人たちと海外でする人たちの割合がほぼ同じになったという調査である。
昨年2012年の調べでは、国内が51%、海外が49%となったことだ。

 

img01-3数年前、私がオーストラリアから日本に行く飛行機の中で、オーストラリア人の家族連れと一緒になった。タスマニアに住むというその家族に話を聞くと、日本には、スキーに行くのだと答えた。
彼ら一家はスキー好きで、これまで、一年に一回は海外でスキーをしていた。ヨーロッパにも行ったし、日本を「発見」するまでは、カナダにも出かけていたという。

日本のスキー場は、雪の質も素晴らしいし、オーストラリアとの時差も少なく、何よりも「近い」のがいい。他にも、旅の魅力もあって、ホリデーとしても楽しんでいると語ってくれた。そのときの私は、「へえ、そうなんだぁ。オーストラリア人がスキーにねぇ」という感じだったが、そのうち、他の仕事で北海道に出かけたときに、千歳空港にはオーストラリア人がウヨウヨいるではないか。
さらにビックリしたのはラーメン屋でのこと。やっぱり、北海道にスキーに来たというKIWI(ニュージーランド人の愛称)も見かけたこと。

 

スキーは、金持ちだけのスポーツだった

熱帯や亜熱帯地帯が多いオーストラリアでは、雪が降る地帯が限られていて、スキーというと庶民には手の届かない特別なスポーツであった。シドニーのあるニューサウスウエールズ州と、メルボルンのあるビクトリア州の州境に存在するアルパインエリヤにしかスキー場がない。
一年のうちわずかな期間しか使わないスキー板やスキー用具、用品は価格も高い。
スキーは金持ちだけのスポーツであり、スキーホリデーに行くのは金持ちしか行かなかった。
まして、海外にスキーに出かけられるのは、ある意味でかなり「エクスクルーシブ(上流階級)」な人たちしかいなかった。よほどホリデーの予算がないと、なかなか実現しにくかったのだ。

だから、若者達で、どうしても海外にスキーに行きたいと思ったら、ワーキングとホリデーを一緒にして、スキー場で働きながら、アメリカやカナダなどに行っていた。私の主人側の甥も、若い頃コロラドに数ヵ月仕事を求めて行き、スキーをしてきた経験がある。

 

庶民もスキー目的で日本にやってくる。もちろんセレブも

クインズランド州のブリスベンでテレビの取材の仕事をしていたときに、道路の補修をしている男性に「日本から来たのか」と聞かれて、「ええ、まあ(正確にはちょっと違うけれど!)」と答えたら、「来月、3週間日本にスキーに行くんだよね。楽しみなんだ」と言っていた。
ゴールドコーストのタクシーの運転手も、「3週間日本にスキーに行ってきたんだ」と言っていた。

私が、そのときに感じた事は、「最近はオーストラリアの一般庶民も、スキーをするようになり、さらに、海外、しかも日本にスキーに行くんだなぁ」ということだった。

img02-3
 
オーストラリアの飛行機の機内誌の広告を見て驚いた。
ニセコの不動産を売っている広告。価格も、億に近かった。

北海道にいる友人が、北海道のニセコから少し離れた地区では、数百万円で買える中古家屋もあると聞いて、それも同時に驚いた記憶がある。
いずれにしても、日本にスキーに行くのは、「庶民」だけではないようだ。
もちろん、リッチもセレブも……。

これも、他の仕事で、北海道に行ったときの話。オーストラリアで一番の金持ちを、当時4歳以下のカテゴリーで、千歳で行われたサラブレッドセールに連れていった。彼は、プライベートジェットも持っていたが、すぐには千歳に下りる書類がもらえないとのことで、「しかたなく」(?)カンタス航空のビジネスクラスで日本に行った。
彼に「日本には初めてか?」と聞いたら「前にスキーで北海道のどこかに来たことがある」と答えた。また、彼の友人がニセコにマンションを持っているとも言った。

ニセコにはオーストラリアを代表する金持ちも、一般の庶民や若者達もスキーにくるようになった。

 

 

Why ニセコ?

では、なぜニセコに、オーストラリア人が来るようになったのであろうか。

それは、オーストラリアの弁護士のロジャー・ドノザーン氏と、オーストラリアン・アルパイン・エンタープライズの代表取締役であるコリン・ハックワース氏が、潰れかけたニセコを買ったことが、そもそものはじまり。

ドノザーン氏は当時のカンタス航空の社長であったマーガレット・ジャクソン氏のご主人。カンタス航空がケアンズからの便を日本に飛ばしはじめた。
カンタスはニセコ7日間ツアーを売りはじめ、以来その便はなくなったものの、カンタスの宣伝などを通じて、ニセコは次第にオーストラリア人に知れ渡りはじめた。

ニセコの成功の秘訣は、オーストラリア人による、オーストラリア人のためのスキー場にしたことだ。
ニセコのオーストラリア化。
オーストラリア人を誘致するためには、一体、何が必要なのかを、オーストラリア人自身が知っていたからである。

トイレ? 寝室? 遊び? 食べ物?

日本人が「あれこれ」考えるより、ずっと正しくてアクションが早かった。当然ながら、オーストラリアからは日本に来るほうが、他の海外よりずっと便利だったこともある。

ニセコは、オーストラリア人の誘致に大成功したが、実は最近ニセコよりも“ハクバ”に行きたいと思っているオーストラリア人も増えた。
あるいは、最初はニセコに行くけれども、次ぎは“ハクバ”にというグループもいる。

前述のように、オーストラリア化が、ニセコに成功をもたらしたのだが、今度はそのオーストラリア化が嫌だというオーストラリア人も出てきたということもある。
ニセコはリピーター対策を急ぐべきだ。

つまりニセコではなくハクバ。あるいは他のスキー場に行きたいというオーストラリア人たちは「せっかく日本に行くんだからスキーだけでなく、他の楽しみも欲しいよね」と言う人たちもいる。
私がこの3月に出会ったパースからの若者達のグループは、ニセコに行ったけれど、その帰りに東京に2,3泊して遊ぶのだと語った。

 

ニセコからハクバへ

ハクバは、地の利がいい。東京から長野新幹線ですぐに行ける。スキーの前後に東京でも遊べるし、さらに長野以外の日本のどこかに移動しようと思えば、東京経由でどこにでもいける。

img03-3最近、海外のテレビで有名になった「スノーモンキー」という温泉に入るサル達を見る観光客が増えたこともあり、アクセスが便利なハクバは人気が出てきている。野生の動物に会えるというのは、オーストラリア人にとって大きな魅力だ

昨年長野で「オーストラリアセミナー」を開いたときに、駅でたくさんのオーストラリア人に会った。スキーシーズンではなかったのに……、である。

タクシーに乗ったら運転手さんが、こんなことを話してくれた。「いやあ、先日外人のヒッチハイカーに出会いましてね。どこから来たのかって聞いたら、オーストラリアって言うんですよ。そして、スノーモンキーを見に来たっていうので、だったら乗りなさいって言って、自宅に連れていってホームステイさせました。それから、翌日スノーモンキー見に連れて行ってあげましたよ」。
なんと親切な人なのだろう。オーストラリア人と、ヒッチハイカーに代わって、私は運転手さんに丁寧にお礼を申し上げた(苦笑)。

 

ホテルを買いたい?

やはり、飛行機でのこと。あるオーストラリア人は「僕は若い頃に日本にいてミュージシャンをしていたことがある。その後オーストラリアに戻り、ビジネスに成功したので、そのお金で日本のスキーリゾートのホテルを買おうとしたら、外国人はお断りだと言われた」と言っていた。

どこの場所だったか、うっかり忘れてしまったけれど。外国人に何でも売っていいというわけではないが、オーストラリア人を呼ぼうと思えば、オーストラリア人の投資家を巻き込むのが、最もいい方法なのだが。

その彼は買えなかったが、現在ハクバのホテルやシャレーのいくつかをオーストラリアのスキー専門旅行会社、リクイッドスノーツアー社が所有している。

img04-2オーストラリアの投資家は、日本の各地で投資案件を物色しており、中にはラブホテルチェーンを買った例もある。まあ、これは別にオーストラリア人をここに入れ込もうというのではないらしいのだが……(苦笑)。オーストラリア人がニセコやハクバのように、リゾートやホテルに投資したら、かつて、バブル当時に日本人がオーストラリアにやってきて多くのホテルを買い、日本人を送り込んだように、オーストラリア人が自分達のオーストラリアのネットワークを使って多くのオーストラリア人を送ってくることは、容易に想像できる。

ニセコ、ハクバ、そして次ぎは?

ニセコ、ハクバ、シガコーゲン、ザオー?

さて、ニセコ、ハクバに次いで、次にオーストラリア人誘致に成功するのはどこだろうか。
“シガコーゲン”だろうか。
パウダースノーハウンドという、オーストラリアのスキーファンのためのWEBでは、日本のそれぞれのスキー場の違いを説明している。例えば、ハクバとシガコーゲンの地形の違いとか、アフタースキーの魅力とか。
彼らのアドバイスでは、アフタースキーで、ナイトライフを楽しむのならハクバだが、小さい村などの観光をするならシガコーゲンがいいと言っている。

また、まだ“ザオー”については、オーストラリアでは知られていないが、このWEBでは、「オーストラリア人を避けるのならここがいい。また、平日は誰もいない」という説明がついていた。ザオーには、ニセコやハクバにはない、大きな魅力がある。
宮城県出身で、かつて若い時代にザオーで遊んだことある筆者は、ぜひザオーにオーストラリア人を連れて行きたいという気持ちがある。

オーストラリア人なら、ニセコを、ニセーコと呼び、ハクバをハクーバと呼ぶ。英語の読み方である。それを、無理やり日本人の読み方で教えようとすると無理がある。外国人はトーキョーと発音しにくく、トキオと呼ぶのと一緒だ。

例えば、ザオーと、読ませようとすると、ZAOは、ザオーと読まれない。これはオーストラリア人が読むとすれば、ゼーオーと読むのではないだろうか。ザオーと読ませたければ、ZAH OHなどと表記する必要がある。ZAH OH!!などと表記したら、結構目に留まるかも知れない。

 

投資家を呼ぶことの重要性

オーストラリア人を呼び込むとすればニセコの例から学び、インバウンド観光業よりも、オーストラリア人の投資家を誘致することが必要だ。
さらに、単なる金だけの投資ではなく、ハクバで実現したようにオーストラリアの市場をよく知る旅行業などのオーストラリアビジネスとのジョイントベンチャー形式で、発展させるのが大切であると私は考える。

オーストラリア人であれば、野生の動物や他のアトラクションなどを誘致の鍵にするのもいいかも知れないし、食べ物や温泉、ボランティアなど参加型のアトラクションを考えてみてもいいかも知れない。
ただし、金持ちを誘致するのであれば、それなりのもてなしができる宿泊施設が必要だし、若いオーストラリア人を誘致したいのであれば、バジェットタイプの宿泊施設を用意することも必要だ。

もっとも、それをオーストラリアの文化や人に疎い日本人があれこれ考えるより、まずはオーストラリア人自身に考えさせて作るのが重要なことである。
オーストラリア人は何が好きで、何が嫌いなのかを。

近年、オーストラリアの観光局が「世界で最も素晴らしい仕事」キャンペーンを行い、話題になったのを覚えているだろうか。まずは無料でオーストラリア人の若者を招待したり、それを話題にしたりして、調査とPRを同時に行うのも手かも知れない。

オーストラリア人が、一旦日本のスキーの魅力に取りつかれたら、毎年日本に来させる事は難しくはない。
来はじめたら、今度は彼らをリピートさせることが重要である。

だから、シャレーなどを購入させるのは重要なのだが、シャレーを所有しているいないに関わらず、そのスキー場あるいは近辺に何か特別な楽しみが存在し、あるいはスキー場とスキー客との何か絆になるようなものを作れば、客は必ず「浮気」をせずにリピートするだろう。
あるいは、「浮気」しても、また戻ってくることだろう。

 

日本は世界のスキーリゾートになりうる!

2年前の東日本大震災の年には前年比30%減だったオーストラリア人スキー客が、翌年には400%増になったという衝撃の結果が出ている。そして、アメリカやカナダは今、日本のスキーリゾートを、大の競争相手として戦々恐々と事態を見守っているという。
最後になったが、オーストラリアのスキー客は、一般観光客よりも一人当たりの出費価格が大きいとも言われている。円安、豪ドル高。日本食ブーム。オーストラリアからのインバウンドは今、上向きである。

さらに、新しい日本の旅の魅力作りや、オーストラリアとの絆を作り、日本はオーストラリア人スキー客の心を掴み、その弾みで他の海外からもスキー客を誘致することができる。
つまり、日本が世界のスキーリゾート地になることは、十分可能なのだ。
頑張れ、日本!

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