インバウンドコラム

コロナ禍のいま中国市場向けにできることは? 検索データから分かる中国人のトレンドとSNSを活用したマーケティング戦略

印刷用ページを表示する



中国文化旅行局によると、10月1日〜8日の中国の国慶節連休期間中に、延べ6億3700万人が国内旅行したという。当初の見込み6億人を上回り、中国の国内旅行は急速に回復を見せている。日中間ではビジネス出張への規制緩和が徐々に進む中、訪日旅行ニーズはどのように変化していくだろうか。

一般社団法人日中ツーリズムビジネス協会が主催するオンラインセミナーで、コロナ禍における中国人の検索動向や消費行動の変化について中国マーケットの専門家2名、バイドゥ株式会社の張宇馳氏、株式会社J-GUIDE Marketingの張金氏に話を伺った内容を紹介する。依然として国境を越えた自由な往来ができないなか、効果的なプロモーション方法は何か、中国市場向けに日本の観光事業者が今できることを具体的に提案してもらった。

 

コロナ禍で中国人の注目を集めたのは「教育」

中国でのシェア90%を誇る最大手の検索エンジン、百度(バイドゥ)は月に6億人以上のユーザーが利用し、毎日の検索数は100億回にのぼる。バイドゥ株式会社の張宇馳氏は「インターネットによる検索こそ今のトレンドやユーザーニーズが顕著に表れる」と話す。バイドゥの検索動向をもとに、今回のコロナ禍で伸びた検索ワードをみてみると、全体では教育、健康、ホーム、料理、アニメ、ECの分野が伸びた。なかでも、オンライン学習など教育部門の検索がコロナ前と比べて5~6倍と急増した。

 

コロナ禍でも訪日熱は衰えず、中国人が今一番行きたい場所は日本

訪日旅行分野に絞って検索動向の変化を見てみると、例えば、「上海羽田航空チケット」というキーワードは、コロナ前と比べると約6割減と依然として低く、JAL、ANAの検索数も半減している。「日本旅行に行けるのか」の検索が1~2月に3~4倍に急増、コロナ禍でも訪日したいニーズはあることがうかがえる。7月以降は「日本留学」の検索数も増加しており、来年の留学を見据えて動き出そうとしている様子も見て取れる。

実際に6月16日~22日にヴァリューズ社が実施したWebアンケートによると「いま一番行きたい国は日本」と答えた人が最も多かったという。その一方で旅行先を選ぶ要素として、「中国人に友好的なのか」を挙げた人が55%にのぼり、旅行への不安を感じている様子も見られる。バイドゥ張宇馳氏は「観光地は旅行者を歓迎しているという姿勢を見せることが重要だ」と強調する。

 

メジャーな観光地から密を避けた地方へと興味が移行、ラグジュアリー旅行熱も高まる

続けて張宇馳氏は「安心・安全意識の高まりから公衆衛生対策がしっかりできている高級ホテルの検索も増加傾向にある」という。目的地別では岩手を始めとする東北地方や北海道、沖縄が増加しており、これまでの東京や大阪といったメジャー観光地から地方へ分散化する傾向がうかがえる。もし海外旅行が解禁されれば、温泉やスキーが楽しめる地方の高級旅館やホテルが中国人にとって人気の旅行先となりそうだ。

 

コロナ禍で買い物熱も高まる、越境ECでも日本製が人気

ロックダウンや移動規制がかけられるなかで、ECサイトでのショッピングに注目が集まった。6月にバイドゥが行なったECに関するWebアンケートからは、ロックダウン中は医療品・サプリメントの購入が増え、ロックダウン解除後は服、鞄、靴、日用品の購入が増えたことが分かった。ロックダウン解除後に、実際に購入または購入検討したEC商品の生産国を見てみると、すべてのカテゴリーで中国製が1位だったが、化粧品、育児用品、衣料品、美容家電では日本製が2位だったという。日本製品は安心・安全で高品質というイメージが中国国内でも定着していると言える。

 

人の往来が止まった中でできること、今「動かせるもの」にフォーカス

こうした検索動向を踏まえ、株式会社J-GUIDE Marketingの張金氏は現状を「人の移動はできないが、モノは移動するし、デジタル情報はさらにスピーディーに行き交っている点に注目すべき」と強調する。つまり、売れる商品を持っている事業者が力を入れるべきことは越境ECであり、売る商品がない観光事業者にとっては、デジタルを活用した情報発信こそ今やるべきだと訴えた。

 

デジタルを使ったコミュニケーションに関する3つのアプローチ方法

デジタルでの情報発信についてJ-Guideの張金氏は具体的に3つの手法を挙げた。

1つ目はSNSでの投稿だ。中国市場において今やWeiboやWeChatなどのSNSによる情報発信は強力な影響力を持っている。単なる文字情報だけでは膨大な量が行き交う中で埋没してしまうため、付加価値をつけることが重要だ。文字だけより写真付き、写真よりも動画付き、またはライブ配信のほうが差別化できる。

2つ目はIP(Interllectual Propery知的財産権)コンテンツの活用だ。コロナ禍でもアニメ、マンガの検索は伸びている。バイドゥの検索動向をみても、例えばアニメ「Re:ゼロから始める異世界生活」はコロナ前と比べて検索数が約5倍に伸びて、月間50万回の検索数にのぼっている。IPコンテンツを活用するメリットは、こうした既存のコアユーザーを取り込むことができる点だ。J-GUIDE張金氏によると、聖地巡礼は未だに中国国内でも人気で、巡礼したい目的地として日本は常に1位だ。20~30代のユーザーは約6割が旅行中に聖地巡礼をしたことがあると回答しており、中国人観光客にとって聖地巡礼は新しい旅行形態として定着している。

3つ目はKOLを活用した情報発信だ。中国市場においてはKOL(Key Opinion Leader)がSNS上で大きな影響力を持っている。中国から日本へ来てもらうのが難しい今は、在日のKOLを活用した情報発信も一つの有効な手段といえる。

 

アニメを活用したデジタルマーケティングで成果を出した立川市の取組

IPコンテンツを生かした観光地のマーケティング成功事例として、J-Guide張金氏は立川市の取組を挙げた。人気アニメの舞台となった立川市の各スポットを在日KOLである中国人リポーターが紹介する動画を作成し、Weiboで動画配信することでアニメファンに向けて聖地・立川をアピールしたという。アニメに出演している人気声優のナレーション付きで、中国語のほかにも英語、韓国語など多言語字幕にも対応した。数十万円の動画拡散費用でPV数743万回、動画再生数98万回を獲得し、立川市の認知度UPに大きく貢献した。

コロナ禍で人の流れが止まった今、認知拡大、興味喚起の点では大きなチャンスといえる。

出典:Weibo 日本Newtyleアニメマガジン公式アカウントより アニメ「とある科学の超電磁砲」の舞台

 

今できることは地域が持っているものを磨き上げて発信すること

では、IPコンテンツが特にない地域はどうすればいいか。

J-Guide張金氏は温泉、スキーといった観光素材がある地域は中国人に刺さるように磨き上げが必要だとアドバイスした。また、宿泊施設や飲食店など観光事業者が今すぐにできることとして、中国人が日常的に接触するWeChatやWeiboのアカウントを開設し、自分たちの施設における感染予防策や消毒方法について随時情報発信することを挙げた。SNSを使った継続的な情報発信が安心・安全につながり、いざ旅行に行けるようになったときに選んでもらえる施設となる可能性が高くなる。

 

中国向けにデジタルで情報発信する際に気をつけるべきこととは

なお、自治体や観光地のホームページで、クリックから表示までの反応が遅い場合は、今のうちに改善すべきとバイドゥの宇馳氏は指摘した。一般的にWebサイトをクリックしてから開くまでの間に3秒以上かかると離脱率が50%になるという。サイトにYouTubeやGoogleマップが組み込まれていると中国では表示されないため、WeChatやWeibo、バイドゥマップに対応した表示ができると良い。そもそものサイト設計や決済サービスが中国で一般的に使われているものを組み込んだチャイナフレンドリーなサイトになっているかどうかも売り上げを大きく左右する。中国人観光客が少ない今のうちに、こうしたインフラをしっかり整備しておくことが重要だ。

 

旅行再開時には、地方の観光地にこそ大きなチャンスあり

最後に、バイドゥの張宇馳氏とJ-GUIDEの張金氏は、今回のコロナショックは認知度などの面で差がついている中小の観光地や事業者にとって、大手企業や有名な観光地に近づくチャンスだと口を揃えた。

例えば、バイドゥの検索エンジンでは、今まで検索数少なかった東北地方、特に岩手が急増した。コロナウイルス感染者数が0だったことから、感染症患者がいない最後の地ということで注目されたという。海外旅行が解禁されれば、中国人は東京、大阪といった主要都市ではなく、密の少ないディープな地方を求めてくるだろう。今のうちに自分たちの地域の魅力を再発掘し、もし魅力に乏しいと感じるならば、周辺地域と連携して広域で魅力の訴求を図ることだ。

今後は、地域のブランディング、広域連携旅行商品の造成、Web環境の整備の3点をしっかりしておくことが重要になる。特に地域ブランディングについて、インバウンド客から注目を集めたように、わかりやすく地域の魅力だと言えるものを訴求することがポイントで、コロナに関係なく、観光地が取り組むべき本質として、今こそ改めて見つめ直しておきたい。

 

専門家プロフィール:

バイドゥ株式会社(百度日本法人)事業企画営業本部 百度広告マネージャー 張 宇馳 氏(Zhang Yuchi)

2015年にバイドゥ株式会社入社、中国Webマーケティングを中心に、越境EC、インバウンド、日系企業の中国ビジネス支援などの業務に従事。

 

株式会社J-GUIDE Marketing(KADOKAWAグループ)チャイナコンサルティング部 マネージャー 張金 氏

KADOKAWAの一員として、自社グループ各企業の対中国向け展開に参与。市場調査・KOL拡散・広告展開・アカウント運用・EC立ち上げ・現地リアルイベント運営など、お客様のニーズに応じた最適なソリューションを提供。

 

セミナー主催団体紹介:

一般社団法人日中ツーリズムビジネス協会 (CJTC)

「日中共創」をミッションに、日中ツーリズムビジネスに関する有益な情報配信ビジネスマッチングイベントなど、日中企業間の橋渡しに取組んでいます。現在は、「Afterコロナ中国」に関する市場レポートの公開や、オンライン勉強会を毎月開催。

 

最新記事