インバウンドコラム

クルーズ船での寄港地観光の魅力! おもてなし側が心がけたいこと

2018.08.22

帆足 千恵

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前回は、クルーズの旅の魅力を中心にレポートをしたが、今回は、クルーズにおける寄港地観光について考察してみたい。

 

クルーズ客への寄港地の観光情報が足りない

1回目のコラムでも触れたが、クルーズ旅の醍醐味は「船内で過ごす」ことにある。欧米系に限らず、クルーズに慣れたリピーターは、寄港地に着いても下船せずに船内を楽しむ人も多い。

中国人をはじめ東アジアの旅行者は、豪華なホテルや街のような船に乗りながら、寄港地での観光を旺盛に楽しむ傾向が強い。つまり、寄港地に到着すると限られた時間を有効に使おうと多くの乗客が下船する。寄港地がどこか、どんな観光ができるのかはかなり重要視されている。

今回の日本海クルーズの寄港地は、博多港発の4泊5日だと次のような寄港地観光の時間となる。

2日目 舞鶴(京都)8:00〜15:30
3日目 金沢(石川)6:30〜13:00
4日目 釜山(韓国)13:30〜21:30

つまり、夜に移動をして、必ず毎日寄港地観光の時間がある。
船が用意した寄港地観光ツアーは、オンラインで事前に申し込むことができるようになっている。寄港地時間にあわせて見どころをまわり、7500円〜8500円という料金帯であった。

私はツアーに参加せず、個人で行ける場所を観光することにした。船内に事前に情報はほぼないし、Wi-Fiは有料でかなり高額となるため、直前には調べにくい。まだ、日本国内であれば調べやすいが、時間内にどのようにまわったらいいのか明確にわかりにくい。

もう10年ほど前、福岡観光コンベンションビューローに勤務していたころに「中国発のクルーズ船社に、ゲストに合わせた言語(中国語)での寄港地ガイドを船内に置くか、船室に配布してくれないか」と頼んだことがある。

「(大事な収入源である)寄港地ツアーが売れなくなる(ツアーに入っていない場所に行きたいという人が出てくる)」「一室ずつ配るオペレーションが大変だ」という2つの理由で断られた。

船内にそんなにペーパーを置く場所はないし、オペレーションが大変なのもよくわかる。ましてや中身が決まっている寄港地ツアーでは、ツアーに含まれないエリアやスポットは絵に描いた餅。行きたくてもいけないところとなる。

でも、個人旅行者やクルーは寄港地で何ができるか端的に知りたい。

福岡の場合は、福岡市の観光サイト「よかなび」を案内しているが、クルーズ専用ではない。そういった意味では、京都舞鶴港クルーズポータルサイト「クルーズに来られる方へ」がわかりやすかった。舞鶴港からのモデルコースも所要時間を入れて提示されている。しかし、残念ながら多言語での情報発信はしていない。

 

寄港地での観光案内、おもてなし体験

いざ、降りてみると舞鶴、金沢、博多は臨時の案內所を設置。日本語だけでなく、英語や多言語で案內できるMAPを用意。英語対応できるスタッフも配置していた。釜山港は国際ターミナルに到着、船の出口からブリッジを使ってそのままターミナルの中へ移動でき、青いベストをつけた案內スタッフが配置されていた。常設の観光案内所もある。ターミナルの充実度はさすが釜山である。

舞鶴ではシャトルバスに乗って舞鶴駅へ。ここでも常設の観光案内所とその横に臨時の案內所が出されていた。西日本豪雨の影響で鉄道網が復旧していないため、常設の観光案内所のスタッフがそれ以外の見どころを教えてくれた。

舞鶴港の案內所

 

田辺城跡、舞鶴駅周辺の商店街、赤れんがパークへ行ったが、やはり外国人向けの説明は少ない。外国人にとってここの魅力が何なのか、外国人目線での説明やストーリーが語られると眼の前の風景が違ってみえる。

これは舞鶴に限らず、どこのエリアでも言えることだ。

舞鶴赤レンガパーク
赤れんがパーク

そして、どこの地域でも、市民が自分たちの住む場所の魅力を把握して、旅人に語ってくれるといいなと痛切に思う。旅行者にとっては何気ない商店街でも、そのすすめによってワンダーランドのように思えてくることがある。

舞鶴では、美味しい海鮮丼とうどんの食事処の気のいいスタッフが「舞鶴ではあんまり観るところないでしょう」と半ば気の毒そうに囁いた。

金沢では、タクシーの運転手さんが「実は冬の雪もそんなにひどくないし、魚も美味しくて、金沢は住んでよし、旅してよしの所ですよ」と謙虚だが、自信満々に話しかける。

観光地として発展しているか否かは大きいと思うが、今は多くの地域で、自分たちのコンテンツを整理して見つめ直す作業にとりかかっている。外国人旅行者の受入には、観光従事者だけではなく、乗客やクルーがまちなかで出会う市民に魅力を語ってもらうことが重要であるが、実は難しい。

金沢21世紀美術館
金沢21世紀美術館 英語表記も過不足なく施されている

金沢まちのり まちのり多言語画面
シェア自転車の「まちのり」 多言語の画面もある

近江町市場のドリンクメニュー
近江町市場では、海鮮の食べ歩きも楽しく、ドリンクメニューも英語で表記

金沢では離岸時にも、「お見送り」が行われた。一般社団法人金沢振興協会が「金沢港クルーズ・ウェルカム・クラブ」を運営、応募した市民がクラブの会員となり、クルーズ船の歓送迎のイベントに携わっている。

私が乗船した船が離岸する当日も、ジャズトリオによる演奏が行われ、船がみえなくなるまで手を振ってくれた。10年前に私が福岡観光コンベンションビューローに在籍していた頃は、お見送りイベントや、手を振って送る側だった。

乗客になると、大変うれしく、心に残るものだなと思う。

2_8金沢のお見送り
金沢港でのお見送り

寄港地として選ばれるかどうかは乗客やクルーの声が大きいという。もちろん大型船を受け入れられるかハード面の条件もあるが、これは日本国内での競争ではなく、世界の中での競争となる。

釜山港のターミナルは機能的で充実しており、案內所も充実していた。釜山では今年6月にできたばかりの「釜山現代美術館」へ行くのに、タクシーの運転手に指示するための韓国語の住所を書いてもらった。女性スタッフは流暢な日本語で「よくここをご存知ですね。できたばかりだから私も行ってみたいと思っていたんですよ。どうして知っているんですか」と尋ねてくれた。「友だちのアートコーディネーターが釜山のアーティストと交流をしていて、福岡や釜山で制作展示をしているんですよ」と答えると「それはいいですね。福岡は知っていますよ」とにっこり。

釜山港観光案內所

釜山在住の友人とでかけた海鮮鍋の店では日本語併記のメニューもあり、帰りのタクシーの運転手も「福岡は2回行ったことがあるよ」と英語で話してくれた。これだけみると完全に釜山の勝利である。

釜山海鮮鍋の店
海鮮鍋の店では、福岡市の高島市長と釜山市市長が来たということを韓国語と日本語で外に張り出している

中国発のクルーズ船の発着が沈静化している中で、日本の各港の寄港地としての魅力を研ぎ澄まし、発信していかないと、世界の中でクルーズ船を配船するエリアとして選ばれないことになる。

「急伸する東アジア市場=中国に近いという地理的な優位性」はいつまでも続くと思ってはいけない。

(最終回へ続く)

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