インバウンドコラム

新スタイルのアウトドアやバーチャルツアーなど続々登場、災害やコロナ禍を乗り超えて前を向く九州の観光業のいま

2020.10.30

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全国のみなさんがコロナ禍でもがき、今までの事業や戦略を見つめ直している時期だと思います。加えて、九州では2014年の熊本地震からの徐々に復旧していたところに、コロナ禍、7月の豪雨災害による被害が影を落としています。特に鉄道路線は、7月の豪雨で800件を超す被害があり、全面復旧には長期化が予想されています。2014年の熊本地震で被災した豊肥本線(熊本駅と大分駅を結び、絶景の阿蘇を通る)が8月にやっと全線開通したかと思えば、7月の豪雨で肥薩線は不通、人気の特急「ゆふいんの森号」が走る久大本線は、一部バスによる代替運行を余儀なくされています。

そんな中でも各地では徐々に人出が戻り、実際に9月の連休では多くの賑わいがみられました。また、10月は天候もよく、各地で回復の兆しが感じられました。 今回は九州において、常に前向きな姿勢が光る事例、勢いのあるホットトピックを集めてみました。

▲29台あるうちの10台が豪雨の被害で流されてしまった大分県日田・三隈川沿いの屋形船。所有する宿がお互いに協力しながら営業する

 

通常の顧客サービスが昨年度以上の宿泊実績を呼び込む

「GoToキャンペーンで弾みがつき、週末だけでなく平日も満室」という事例もよく聞くようになりました。九州でも同様で、特に密を避けることができ、GoToの割引率も高い高級宿、露天風呂付き客室、離れなどが好調だといわれます。

今回、紹介する熊本県北・山鹿灯籠まつりで有名な山鹿市の奥座敷と呼ばれる平山温泉の「一木一草」。古い酒蔵を移築して造られ、2003年にオープン。古民家の趣と和モダンが調和した全8室すべてに個室風呂が付き、美人湯とよばれる温泉を楽しめます(一室2名利用時平日1人あたり18,000円〜)。

▲左:平山温泉「一木一草」外観 右:源泉かけ流しの温泉

2021年1月以降の予約受付はまだ開始していないということですが、正月三が日まで、年内は平日も含めてキャンセル待ちの状態。8月から前年対比を超えているという好調ぶりです。その理由と取組について、副社長の吉川哲也さんにお聞きしました。

「新型コロナウイルス感染の疑いからの隔離への備えと3密防止を兼ねて、8部屋中2部屋を稼働させていません。そのため、お迎えするお客様の人数は減っているのですが、スイートルームなど単価が高い部屋から埋まっているので、平均客室単価はあがっています。新型コロナウイルスの影響で、前年対比7割減程度が続きましたが、7月から回復傾向となり、Go Toキャンペーンの効果もあって、8月以降予約が順調に入るようになりました」

「このキャンペーンに際して、以前から導入していた予約管理システムのGo To トラベル向けのオプションのシステムを活用して、お客様は面倒な手続きは必要なくスムーズに予約でき、宿側は直予約や電話予約も管理できる体制を作りました。もともと前職はIT関連であったことと、ネットワークを活用した観光関係者の組織である熊本県観光協会連絡会議などで現状の把握や有益な情報を交換していたので、準備が整えやすかったのが良かったです」

時期を捉えた動きもさることながら、以前から地道に積み重ねてきた取組があることを教えてくれました。

 

来ていただいた方に、宿だけでなくエリア全体の魅力を伝える

「運営を本格的に任された数年前から、当館を含めた旅の顧客満足度を高めていくことに重点を置き、結果的に宿泊予約サイトの評点があがりました。料理も地元の食材を使い地域にも還元。お客様の予約が入った際に、当地での観光計画をオーダーメイドでアドバイス、コンシェルジュのようにお手伝いしてきました。交通案内やどんなところを周りたいのか、個店やスポットの最新情報などを旅マエに相談にのっています」

「例えば、宿のある山鹿市に菊鹿ワイナリーがありますが、新しい品種のワインがいつ発売になるかなど、常にアンテナをはって最新情報をお伝えします。お客様とのコミュニケーション量を多くして、トータルでの滞在満足度をあげていく。宿単体ではなくて、エリアとしての魅力をあげていくように努めました。自分の宿でなくても山鹿温泉、平山温泉にリピートしていただけるといいなという気持ちで。そうしていくとリピーターの比率があがってきていたのです。コロナ禍で、予約が入らなかった4月〜6月は、そんなリピーターや常連のお客様に支えられていました。またチェックアウト時には、御礼のお手紙など再来館につながる施策も行っています。お客様の情報は顧客リストも作成していますが、記憶を社内で共有しながらお客様に接していくことを心がけています」

旧細川藩由来の茶室を移築して改装した特別室「草庵」

顧客の満足度をあげることに努力し、リピーターを確実に増やしていく。さらに近隣エリアからの直行バス運行、地元のアクティビティ、コンテンツの発掘などを行いながら、宿の枠を超えて、エリアにリピートしてもらう。一見当たり前のことを地道にすることが、この宿が人気を集めている秘訣だと思います。

 

海外に向けたオンラインツアー花盛り

「オンラインでつながる」バーチャルツアーは、九州でもたくさん見られるようになりました。ここでは、海外に向けてバーチャルツアーに取り組んでいる九州の事例を紹介します。

鹿児島の体験・ツアーを外国人旅行者向けに販売しているプラットフオーム「TABITTO」では、9月から英語でのバーチャルツアーを実施。「鹿児島県奄美大島の特産品である大島紬を着たガイドが鹿児島市内を人力車に乗ってガイド」「焼酎蔵をめぐる旅」「知覧茶の里を訪ね、日本茶に触れる」など続々と開催しています。

「最初に開催したバーチャルツアー『Explore the city of the last samurai』は、今まで取引や交流のあった日本、アメリカ、カナダ、イギリス、イタリア、オーストラリア、ベルギー、香港、台湾の10社を招待、その後、オンラインでフォローアップし、渡航再開後の送客について面談しました。いつ来ていただけるか見通せませんが、鹿児島の魅力を感じてもらい、忘れないでいてもらうことにつながっていると思います」と代表の柿元よしえさん。

実際に、鹿児島県南九州市の知覧茶特産品協会から「海外との茶の商談会」の実施の相談があるなど、バーチャルツアーのテーマである茶や焼酎を海外のバイヤーとつなぐバーチャル商談会について問合せが数件あるそう。また、シンガポールのとあるコンサルティング会社より、ネットワーキングイベントのコンテンツとして、カスタマイズしたバーチャルウイスキー蒸溜所ツアーの申し込みがあったりと、様々な反響が寄せられています。

LIVE配信を行うバーチャルツアーにつきものの時差の問題に関しては、「テーマとして取り上げる茶や焼酎の提携先が、北米をターゲットにしているなら日本時間の午前中、ヨーロッパなら夕方という設定で、試行錯誤で行っています」とガイドの堀切美貴子さん。「Wi-Fi環境が不安定でライブの際に突然止まる」など、課題はいろいろとあるそうですが、着実に経験を積んでクオリティがあがっており、回を重ねるごとに視聴者をひきつける内容、ポイントを盛り込み、鹿児島の魅力を発信しています。

 

「日台交流バーチャル茶話会」は大盛り上がり

ところで、少し、いやかなり手前味噌ですが、私自身は福岡の企業と協力して、福岡と台湾の参加者がインタラクティブに交流する「日台交流バーチャル茶話会」を9月20日に実施しました。通常はあるエリアから一方的に動画やLIVEなど情報を配信するバーチャルツアーがほとんどですが、今回は、福岡の参加者には台湾の参加者から台湾の情報を、反対に台湾からの参加者には、福岡の情報を配信し、グループセッションで日本人、台湾人が双方向で交流するバーチャルな茶話会です。

20数年前には、海外旅行情報誌を制作・発行していた私は、世界60エリアを訪問。「福岡からアジアは東京から行くよりも約1時間フライト時間が短い!直行便も20路線以上」そんな恵まれた福岡からの海外旅行を促進したいと2020年4月から「Fly from Fukuoka」という福岡発海外旅行サイトを運営しています。

▲左が福岡在住台湾人のサイ・ペイキンさん、右が私・帆足

かねてから「日本に来て来て」と請うばかりでなく、インバウンドもアウトバウンドも相互に行き来するテーマ旅行をしていたいと思っていたところ、このコロナ禍では「バーチャルでできる」と思ったわけです。お互いの近況報告は通訳なしで、英語やイラストや片言の言葉などで言葉の壁もこえてグループセッションもやってみました。最後には、コロナ収束後にはお互いのエリアを訪ねる、リアルなツアーを企画・実施しようと大盛り上がり。いつの日か必ずリアルツアーを実現します。(詳細はこちら

 

新スタイルのアウトドアニューウェーブ

3密を避け、自然の中でのんびりと過ごす「アウトドア」がキーワードのツーリズムは九州でも増えています。

すでにテレビやメディアで話題になっているのが、宮崎県日南市の「山丸ごと貸切施設Rental Mountain YAMA」です。一日一組限定で、山をまるごと貸し切って贅沢に自然の空間を楽しむというもの。運営する株式会社KING TOURISM JAPANの代表・外山泰祐さんは、東京生まれ、東京育ち。

日南市在住の友人のもとへ遊びにきたときに、日南の南郷はフィリピンのセブ島、北郷はラオスに似ていると感じたそう。「ラオスは、世界の中で僕がもっとも好きな国のひとつ。日南はとてもポテンシャルがあるのに、観光がまだまだ盛り上がっていない。ここで自分がやれる可能性は大きいのはないか」と考えていたんです。

その後、2018年の秋に前職での転勤辞令も出て、このタイミングで辞めないと、一生勤め人を続けることになると思い、辞職して日南市への移住を決意。2019年度の一年間は日南市の地域おこし協力隊として、地元の温泉宿泊施設の指定管理を担った。地元での茶畑ツアーなど体験コンテンツの開発なども行い、ネットワークを作ることができたといいます。2020年4月に旅行会社を作って起業することは決まっていましたが、2019年の秋に、農家民泊のような宿泊施設を売るか貸すかしたいという相談があったのが今回の事業のきっかけになったそうです。

「日南に人を呼ぶフックがほしい。それだったら何でもできる山まるごとレンタルだ」と、8月にグランドオープン。地元九州だけでなく、全国のメディアに多くとりあげられました。新型コロナウイルスの影響で、一年くらいは我慢の年にするつもりだったそうですが、週末を中心にぼちぼちと集客できているとのこと。九州をメインに1グループ10名程度のゲストが楽しんでいるそうです。

「施設としては、大きな目玉、キラーコンテンツを作りたい。例えば、日本一大きいブランコを作る、ツリーハウスを作る、山の上でふもとからあげた花火を山上で間近にみるとか。ここはもともと宿側がおもてなしをするという施設ではなく、自分で遊びを考えて、提案してほしいんです。幹事役の人にワクワクしてもらえるような、それに応えていきたい」と外山さん。

海外からメールで「こんなことができる?」という相談も寄せられているそうです。もし、外国人旅行者がこの地を訪れることができる日がきたら、どんな斬新なアイデアで遊んでくれるのか楽しみです。

 

収益を地域に還元するグランピング施設

次は、西伊豆で一日一組限定のプライベートキャンプ場などを運営するVILLAGE INC.と、福岡・九州を圏域とする西日本新聞社との合同会社「西日本VILLAGE」による「唐泊(からどまり)VILLAGE」というアウトドアフィールドのシステムがとにかくユニークなので、紹介します。

福岡市西部唐泊、全国的に人気の糸島に隣接する2haの耕作放棄地に10月17日グランピング施設がプレオープンしました。もともとVILLAGE INC.は、「#何もないけど何でもある」をモットーに、山間の遊休地や無人駅、廃屋など無価値の場所を人々が集う場所に変貌させていった企業。九州では、佐賀県波戸岬キャンプ場を見事に活性化させた実績があります。

2018年から糸島や隣接エリアでの事業を模索していた西日本新聞社の新規事業部門との提携の話がすすむなか、西日本新聞社の担当スタッフがグーグルマップをみながら、地図上に何も記されていないこの浜辺の耕作放棄地に気づいたのが2019年初頭。2019年4月から地権者や自治会、漁協など地元の住民に粘り強く説明を繰り返し、許可を得た2020年5月から高く生い茂った草を刈ることから始まったそうです。

歴史を遡ると、九州北部は唐など中国へ派遣される対外航路の拠点になってたところ。この唐泊も奈良時代から現存する日本最古の漁港のひとつとして存在し、後には「遣唐使が宿泊する場所」としてこの名がついたと言われています。山手の眼下に漁港が広がる風光明媚なこの地は、住民の高齢化もすすみ、福岡市最後の秘境ともいわれています。

ユニークな点の一つ目は、この施設であげた収益を地域に還元していくという地域連携協定を北崎校区自治会や町内会と締結し、「ネクスト自治会」と称して運営する意向であること。さらに、「顧客協同型ローカルビジネス」と称し、利用者を「村民」として、「新しい村」を作るという作業を行っていく日本初のシステムをとっているのです。年内の仮営業中は、利用するだけの人は「ネイバーフッド」として1泊2万円、月1000円の会費を払い、何らか村のためにできることを行う個人を「クラフトマン」として一泊15,000円+作業をしてもらうという仕組みをとっています。つまり、宿泊代を払いながら村作りの作業にかかわっていくのです。私が思うにここはリアルな「あつまれ!どうぶつの森」。グランドオープンは2021年1月、今後もこのシステムの施設を各地で展開していくそうで、目が離せません。

地元の人が地域の魅力をみつめなおし、来るべき時に備えて、バーチャルツアーやコンテンツ開発などの今やれること、未来に続く一歩を続けている九州の動きをこれからも追いたいと思います。

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