インバウンドコラム

国内外の観光客へ高付加価値で満足度の高い旅の提供を目指す。コロナ後のインバウンド回復を見据え動き出す九州の取り組み

2020.12.23

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都市部を中心にGoToトラベルが一時停止した上に、年末年始は全国的にストップしたことで混乱しているのは、九州も例外ではない。首都圏からの訪問客も多い九州の宿では特に大きな打撃を受けている。
そのような状況の中、現在出来ることは、なんとか経営を続けていけるように手を打ちながら、高付加価値で満足度の高い旅を提供することではないか。今回は、九州でインバウンド向けの高付加価値な商品造成など、地道に続けてきた株式会社VISIT九州の取り組みを中心に、現在の状況を追った。

 

いち早く九州の温泉旅館の魅力を発信、富裕層向けの高付加価値な旅を提案

九州は飛行機で約1時間、航路もある韓国からの旅行者がもっとも多く、コロナ以前の日韓関係が冷え込んだ2019年でも外国人入国者数全体の40%を占め「もっとも近い海外・九州」を「手軽な週末旅行地」として、2泊3日程度の旅行を楽しむ韓国人が闊歩する姿が多くみられていた。

コロナ禍で運休となっていた福岡と韓国との直行便も、2020年12月には仁川を結ぶ便が週1で3社ほどで始まったほか、仁川空港を出発して九州上空をフライトする旅行商品も登場している。それほど地理的にも、関係性も深いのが九州と韓国である。

しかし、韓国においても2000年初頭は、九州の温泉や湯布院、黒川温泉などほとんど知られていなかった。この韓国人FITマーケットを九州に呼び込んだ立役者の一人が、株式会社VISIT九州の代表取締役、枌(へぎ)大輔氏だ。2004年から韓国人パートナーとともに、前職(九州電力のIT関連子会社)の新規事業で、韓国FITの旅行予約サイト「KYUSHURO(九州路)」を創設。湯布院、黒川温泉などの温泉旅館を韓国人に対して知らしめたパイオニアである。宿泊施設、旅行者双方の不安を解消すべく、いち早く24時間の多言語コールセンターサービスを提供したり、宿を一軒ずつまわって営業するなど地道な努力を続けていた。(筆者の私も、2001年頃から勉強会などを行い、2005年から「九州路」へのコンテンツ提供などに関わったので、その苦労を垣間見ている)

2017年9月には、韓国だけでなく、広く海外からの富裕層に向けて体験プログラムや旅行商品を販売する株式会社VISIT九州を設立。「九州でしか体験できない特別」な高付加価値の旅を創造してきた。

 

「絶景☓食」のポップアップレストラン

VISIT九州では、2018年から「PREMIUM DINING OUT SERVICE」と銘打って、絶景を愛でる場所で、当日限定の料理に舌鼓を打つポップアップレストランを展開。

熊本県小国町では、日頃はミュージアムとなっている北里柴三郎記念館からの眺望を楽しみながら、地元の誇る食材を特別ランチとして提供したり、長崎県佐世保市では、絶景の棚田で郷土料理や伝統芸能を楽しむツアーなどを企画してきた。

「これらはすべて地元の農家や熱心に関わる人が連携してくれたおかげ」そう語る枌さんは、地域と一体になって、一貫してコンテンツ開拓と磨き上げを行っている。

 

特別仕様のラグジュアリーバスでプレミアムな旅

なお、福岡を中心に日本一ともいわれるバス保有台数を誇る西鉄バス(西日本鉄道株式会社)は、50人乗りの大型バスを12席にリノベーションした豪華バス「GRANDAYS(グランデイズ)」を運行。プライベートスペースを持ち、専属のグランレディがサービスするというラグジュアリーなバスだ。高単価だが、通常では味わえない旅行商品を企画・催行している。

そこで、コロナ禍で密を避けることが求められる中、VISIT九州では国内の富裕層向けツアーの展開も始めた。その一つとして、西鉄バスとの連携で、「GRANDAYSで巡る九州ゴールデンコース~湯布院・阿蘇・黒川温泉を堪能~」を12月4日~5日で実施。宿ごとに宿泊料金は異なるが、一人114,700円〜123,000円のバスツアーに、60代を中心に福岡から6名、山口から2名の合計8名が参加したという。

 

お客様の満足度アップに向けた様々な仕掛け

このツアーで特別に工夫された主要なポイントを挙げてみよう。

1.年間400万人の観光客が訪れる由布院温泉で、ひたすら人のいない場所を巡る「裏道ガイドツアー」。由布院温泉観光協会の会長・太田慎太郎さん自らによるガイド

2.由布院温泉の絶景カフェを貸切利用する「No密カフェ体験」 館内においても、2名一組でお部屋を貸切利用し、ゆったり時間を満喫

3.阿蘇の絶景が味わえる高原も貸切で「あか牛草原BBQランチ(絶景ブランコ乗り放題付き)」 近隣のホテルから出張バーも特設、絶景ブランコに60代マダムも夢中

4.由布院の名旅館・亀の井別荘の食事処「湯の岳庵」のランチでは、通常と異なるコース料理を提供

「何か一つでも記憶に残る『コト』を提供できないかと考え、自分たちでは、なかなかできない体験コンテンツを、地域の熱意ある個性的な人たちに作ってもらいました。地元の人も気合を入れて、色々とサービスしてくれるので、常に満腹状態で旅館の夕食に突入するという事態に。嬉しい反面、改善点も見えてきました。ツアーのなかでバランスよく楽しめるようにしていきたいですね」枌さんは、地元の人によるもてなしにも手応えを感じている。

 

ナイトタイムエコノミー活性化に向け、重要文化財を活用

ナイトタイムエコノミー活性化に向けて12月3日、国指定重要文化財「八千代座」を貸し切った「演舞鑑賞付きプレミアム・ディナー」が国内在住のインフルエンサーを招待して開催された。

これは、観光庁による「夜間・早朝の活用による新たな時間市場の創出事業」を受託した熊本県北サスティナブル・ツーリズム協議会が、平山温泉・山鹿温泉を舞台に実施。九州電力とVISIT九州が事務局となり、2020年夏ごろから準備をすすめてきた。

八千代座は1910年に開業した芝居小屋で、現在は内部の見学、歌舞伎や山鹿市のシンボルである「山鹿灯籠踊り」公演などが開催されている。美しい空間と舞台裏を見学できるということもあり、外国人にも大変評価が高い。インスタ映えする場所として、コロナ以前は多くの外国人旅行者も訪問していた。

今回は、このプレミアムな空間の中で、特別演出による地元の音楽演奏や山鹿灯籠踊りを鑑賞しながら、「ミシュランガイド熊本・大分版2018」で一つ星を獲得した熊本県・杖立温泉の和風オーベルジュ「米屋別荘」のオーナーシェフによる地元食材を使った特別ディナーコースを堪能した。

▲食材の宝庫・山鹿の郷土食が集結した前菜6種と、創業約190年の麹専門店「木屋本店」の、麹に漬けた地元のブランド豚を柿渋を塗った奉書で包み蒸し焼にしたもの

「昨今の少子高齢化などにより、地域の素晴らしい文化財の保護・維持が困難な状況が散見されます。一方で、長年に渡る先人たちの努力で維持されてきた文化財は、少し手を加えるだけで、日本を代表する観光コンテンツとして有効活用できます。文化財の価値を損なわないように留意しつつ、高付加価値の観光コンテンツとして新たな収益源を確保すれば、修繕費用の一部を自ら賄うこともできる。こうした工夫は、文化財の保護・発展にも寄与できると考えています」と枌さんは話す。

「今回は、その実証実験(調査事業)ということで、今後の商品化に向けた評価・課題抽出を行いました。専門家やインフルエンサーからは大変好評でしたが、まずは第一歩を踏み出したというところ。地域の方々と連携しながら、今後もやっていきたいですね」

更なる高付加価値化に向けて、今回実現がかなわなかった地酒とのペアリングなど、一歩ずつ改善していきたいと意欲を燃やしている。

 

温泉敷地内でのプレミアム夜市、夜に食事やお酒が楽しめる機会を創出

今回実施した事業では、毎週土日の15時~21時に、山鹿市の平山温泉にある家族湯「湯の川」の敷地内にて「プレミアム夜市」も開催。美肌の湯として人気が高い平山温泉だが、旅館以外の食事処が少ないとの声を受けて、夜市では、地元の美酒と食事が用意され、夜でも楽しめる仕掛けがなされている。

VISIT九州の取組は常に、日本各地域の伝統文化や歴史、食などに興味を持つ海外の旅慣れた富裕層の誘客も念頭にある。

「近年、アドベンチャー・ツーリズムが注目され始めたように、既存の地域資源を活かした少人数の高付加価値ツアーは、これからの旅の主流の一つになると思います。また、やる気さえあれば、誰でもどこでも仕掛けられるし、九州をはじめとする地方はその資源の宝庫」

「これからも『九州でしか体験できないプレミアムな旅』を地域の人と作って発信し、世界の方が九州を目指してこられるように仕掛けていきたい」今後の展望について枌さんはそう語った。

 

本物の九州を味わえる旅を伝える英語のオンラインツアーもスタート

なお、VISIT九州が関わる、九州電力の地方創生プラットフォーム「reQreateプロジェクト」では「本物の九州にふれる旅 Authentic Japan, True Kyushu」をコンセプトに、2021年から英語のオンラインツアーを実施。コロナ終息後、このプラットフォームで英語ガイド付のFITツアー商品を販売することを目指し、まずはオンラインで九州の魅力を伝えていく。

このツアーは、(一社)九州通訳・翻訳者・ガイド協会が共同で制作・運営しており、ガイド協会に所属する筆者の私もみっちり取材制作しているので、今後の展開をお楽しみに!

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