インバウンドコラム

第9回 「舌で味わう幸せ-『食』のはずせないポイント」

2013.04.16

帆足 千恵

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九州のみならず全国で「食」のプロモーションに熱心に取り組む自治体が多い。
旅において「食事」は、主たる目的でなくても1日に数回チャンスがある身近な楽しみであり、リピーター獲得にもつながる。
今回は、情報発信&環境整備のステップを整理、他国の事例も参考にして、外国人旅行者に効くポイントを探ってみた。

目次:
1.福岡で飲食店も紹介するガイドブックを制作
2.ご当地の推したいポイントとニーズとのマッチング
3.本当に喜ばれるサービスとは

 

1.福岡で飲食店も紹介するガイドブックを制作

私はもともと編集者であり、その関連の仕事として、“福岡に滞在する個人旅行者”=韓国、台湾・香港の2国を対象にしたガイドブック作成に携わった。
旧正月がスタートする直前の2月8日にリリース。福岡市の観光サイト「よかなび」にコーナーがあり、ガイドブックもダウンロードできる。

韓国語/http://www.yokanavi.com/bestdishes/kr/
繁体字/http://yokanavi.com/bestdishes/tw/index.html

通常このようなガイドブックは、下記のような流れを経て作成をすることが多い。

①志向性調査アンケート調査、ヒアリング(旅行者、観光案内所、対象国の地元在住外国人など)。

②対象国籍のアドバイザーなどを入れて編集内容を決定①の分析結果を踏まえて、さらに制作側が出したい内容を協議していく。
飲食店個店を入れる場合は、その店が外国人おもてなしに積極的かどうかをヒアリング。

③取材&編集  1:紹介データの項目は事前に整理(例:クレジットカードが利用可能かなど)。
2:日本語で確認が必要なことが多いため、初校は日本語と外国語を入れるところを  指定。
 →翻訳後の原稿量が言語により異なるためデザインを計算する。
 英語、韓国語/日本語原稿の125%増しといわれている。
 簡体字、繁体字/日本語原稿の85%~90%にあたるほど文字量は減少。
3:飲食店など確認がすべて終わった原稿で翻訳へ。
4:最低限、地図は日本語と各言語の併記が好ましい。
 →日本人にたずねる場合、日本語がないとわからない。

④翻訳&レイアウト1:意味が伝わるようネイティブによる意訳が必要。
2:デザインも現地の外国人に聞くなどネイティブの意見を大事にする。

⑤印刷・そのほか1:現地で配布・流通させるものであれば、現地で印刷した方が運送料はかからない。
2:配布箇所、配布部数を確認してから印刷部数を決定する。
3:HPにPDFなどでダウンロードできるようにする。

 

2.ご当地の推したいポイントとニーズとのマッチング

昨年から今年にかけて、このようなご当地の食の魅力を外国人旅行者に紹介するガイドブックが鹿児島市(英・韓・簡体字・繁体字)や金沢市(英語)などで作成された。
これは観光庁の訪日外国人旅行者受入環境整備事業において戦略拠点、地方拠点に指定された都市が、対象国別のニーズや嗜好にあわせて環境整備をして、テーマを「食」に的を絞ったことも影響している(事業内容には冊子制作だけでなく、環境整備にかかるさまざまな事柄が含まれる)。

東京や関西などに居住している方は、「外国人向けフリーペーパーがあるじゃないか?」と思われるかもしれない。飲食店が広告出稿することで成立するフリーペーパーの収益モデルは、やはり来訪(居住)外国人の数が多いエリアでないと成り立たない。地方都市では、民間企業による食をメインにした広告媒体は収益をあげられない場合がほとんどなのだ。それなのに、自治体によるオンラインやガイドブックでは、おいしそうな名物料理は紹介されていても、どこで食べられるのか、個店が掲載されていない場合が多い(地域の観光協会主導で会員を中心に掲載するガイドもあるが)。

そこで、自治体主導で、当地のグルメをPRしつつ、ターゲットのニーズにあわせた食のガイドこそが、地域の環境整備につながると考えられるようになっている。

今回の福岡の食ガイドでは、おすすめの名物料理と対象国のニーズをマッチさせていくことに最大限の努力を払った。

まず、旅行者や在住外国人にヒアリングしただけでは、福岡だけでなく日本で食べたい日本食、チェーン店のカレーやトンカツなどの要望が出てきて多岐にわたる。そこを、福岡のイチオシの料理にテーマを絞って、ニーズとすり合わせていく過程に注力をした。

例えば、福岡への外国人旅行者の7割をしめる韓国。

若い個人旅行者が多く、トンコツラーメンが大変人気があることは既にわかっていた。「一風堂」、「一蘭」といった福岡発祥の有名店は経験があるので、ほかのおいしい店を知りたいとの問い合わせが観光案内所へも多い。そこで、地元の人が愛する「うどん」やご当地麺を入れて、そのバリエーションの豊富さを見せていくことにした。

そのほか「新鮮な海の幸」、韓国人に人気のある「もつ鍋」を中心とした鍋、観光案内所に問い合わせの多い「カフェ&スイーツ」の4大テーマに絞り、福岡名物の「屋台」をコラムとして紹介することに決定。台湾・香港向けには、台湾に多いベジタリアンを対象にしたページを作成した。

 
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企画当初から韓国人、中国人スタッフが入り、ヒアリングをまとめるだけでなく、よく見られている福岡情報のブログをチェックするなどして飲食店をセレクト。デザインを現地の友人、知人にチェックしてもらい、好みや改善点をきいて決定をしていった。翻訳を丁寧にチェックするのは言うまでもない。

ほかには、日本の居酒屋特有の「付け出し(お通し)」システムの説明を入れたり(韓国では同じく“つけだし”で、無料でつく惣菜のことを指す)、まだ知られていない「飲み放題」を詳細に説明するようにした。

リピーターが多い韓国、台湾・香港マーケットでは、パワーブロガーの情報は大きな影響力を持つ。しかし、今、現地の日本人に流行っているもの、その季節にしか得られないものは、現地側から情報発信しないとわからないことが多い。対して、ターゲットのニーズも刻々と変わっていく。食情報に限らず、スピード感と状況に即座に対応する柔軟性こそがインバウンドにおけるターニングポイントなのだと感じる。

 

3.本当に喜ばれるサービスとは

img03-8インバウンドに携わっている方は、他国でなされているサービスを“あわせ鏡”のように見ることが多いと思う。

例えば、メニュー表。写真はタイ・バンコクのサイアムのレストランで出されたもの。
写真にタイ語、英語、日本語が併記されている。これは、完璧に嬉しいサービスだと感じた。ここで、日本語だけのメニューが出てきても興ざめする場合が多い。このメニュー表だと、タイ人にも、そのほか外国人にも人気がある店だと納得する。

“相手の立場にたって”というのはたやすいが、それが核心をついているのかどうかは、トライ&エラーを繰り返すしかないと思う。インバウンドには『継続』の強い意志も必要だ。

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