インバウンドコラム

第30回 「微信」閲覧による中国人読書事情の変化

2015.07.14

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中国新聞出版研究院は4月20日、第12回全国国民閲読調査の結果を発表した。調査項目に今回初めて無料メッセンジャー「微信(WeChat)」の閲読が盛り込まれた。調査結果によると、中国の成人のうち、携帯を使って文章などを閲覧している人は、1日に2度微信を閲覧し、その長さは1日平均約40分だった。

目次:
成人6割が微信を閲覧
読書のソーシャル化が進む
微信に依存すると 深く考えることをしなくなる

 

成人6割が微信を閲覧

調査では、成人の6割以上が、微信の閲覧を行っていた。

微信の閲覧の長さは、1日当たり40.98分。同分野における、都市部と農村部の差はほとんどなく、男女差もあまりなかった。

微信閲覧の主な目的はチャットやモーメンツのチェックで、共に80%以上。その他、「ニュースを読む」72.9%、「モーメンツに投稿された文章を読む」67.1%、「各種公式アカウントから定期的に送られる文章を読む」が20.9%だった。

img01 (1)微信の他の機能では、「二次元コードのスキャン」(27.2%)が、「QQメール」(19.6%)、「シェイクして、近くにいる人を探す」(19.0%)、「決済サービス」(15.3%)などが人気となっていた。また、「飛行機や列車のチケット予約」や「タクシー配車アプリ」、「食事予約」などを選ぶ人も7.0%いた。

 

読書のソーシャル化が進む

同調査結果に、関連の専門家は、微信が読書の主要な手段となっているのを背景に、読書のソーシャル化が新たな動向となっていると見ている。

清華大学の「新メディア指数」研究チームの追跡調査では、微信の投稿の内容は、手軽で、シンプルで、短いという特徴があり、短い動画や、音楽付きの文章など、そのスタイルは多元化されていることが分かっている。

全体的に見て、浅く、軽く、広く読むというのが主体となっている。同チームの責任者によると、「微信のパブリックアカウントのうち、70%が趣味用のもので、そのうち文化のジャンルは15%となっている」。

一方、中国新聞出版研究院出版研究所の徐昇国所長は、「微信において、特集も増加し、網羅的な内容を系統立てて読むという種類のものも登場している。伝統ある雑誌の公式アカウントでは、何万字にも至る研究分析報告も投稿されている」とする。「新メディア指数」チームの責任者も、「現在、比較的人気となっている公式アカウントは、独特の観点を有していたり、なにかを深く分析したりするアカウントで、世間で話題になっていることをテーマに、的をついた文章で、ユーモアを混ぜながら紹介している」と分析している。

北京大学情報管理学部の王余光教授は、「世界の図書館は以前、『世界の至る所に本がある』という理想を掲げていた。しかし、その理想は21世紀になっても完全には実現していない。現実はというと、携帯の普及率が書籍を上回っている。そのため、携帯を利用した読書や微信の閲覧などを通して、その理想を実現するほうが容易だろう。図書館の普及率が依然として非常に低いという現状において、このような方法が、図書館不足をある程度補ってくれる」との見方を示す。

 

微信に依存すると、深く考えることをしなくなる

王教授は、「私の観点からすると、微信は我々の時間を奪いすぎている。若い学生は多くの時間を微信に使い、過度に依存してしまっている」と懸念する。

中国新聞出版研究院の魏玉山院長は、「微信の閲覧は断片的なもので、不確実なものが多く、間違っている場合さえ存在する」とし、「現状では、微信だけを通して知識を得るというのは絶対に不可能」と警笛を鳴らす。「新メディア指数」の研究でも、微信に投稿されている内容は雑駁で、非科学的なものやデマ、コピペ作品などが出回っている。

同研究チームの責任者は、「このような状態が続くと、オリジナル作品や科学普及のコストが増大し、微信の公式アカウントのオリジナルコンテンツが減少し、微信のコンテンツの価値も下がってしまう」との懸念を示す。

王教授は、「児童の読書や学術書、伝統的な書籍などは、やはり紙の本を読んだほうがいい」とし、「微信の主な機能は娯楽、閲覧。児童は、微信を利用した読書を出発点にしてはいけないと思う。子供は、微信を通して何かを読んでも、集中して読むことができず、良い読書習慣を身につけることができない」と指摘している。

また、「学術上の著作や伝統的な著作なども紙の本で読んだほうがいい。紙の本でなければ、読みながら、考えるということができない。断片化されたものを読んでも、浅く考えることしかできない。そうなると、人は怠惰になり、深く何かを考えることを避けるようになる。特に、専門的な研究を行っている人にとっては、非常に悪い習慣」との見方を示している。

実際には、微信の閲覧に関する研究は今のところそれほど進んでおらず、王教授は、「読書心理学をもっと研究しなければならない。読書の方法が変わっている状況下で、他にどのような変化が起きているのか、微信という環境で、どうすれば有益な読書ができるのかを研究しなければならない」としている。

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