インバウンドコラム

インバウンド時代を生き抜くために必要な「創造的おもてなし」とは? 「おもてなしデザイン・パターン」出版記念イベント

2019.03.07

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2月28日に発売された「おもてなしデザイン・パターン:インバウンド時代を生き抜くための『創造的おもてなし』の心得28」の出版記念イベントが2月19日に開催された。「インバウンド時代のビジネス成功のヒントを創造的おもてなしから学ぶ」と題し、書籍の共同著者、慶應義塾大学総合政策学部 教授 井庭崇氏とUDS株式会社 代表取締役社長 中川敬文氏に加え、株式会社やまとごころ 代表取締役 村山慶輔の3名が登壇。従来の日本的おもてなしをアップデートした、これからの時代に求められる「創造的おもてなし」についてそれぞれの立場から議論が交わされた。

20190219おもてなしデザインパターン_PD

 

おもてなしのパターン化で、経験やノウハウを共有

冒頭挨拶に立ったUDS株式会社 代表取締役会長 梶原文生氏は、3年前に出版した『プロジェクト・デザイン・パターン:企画・プロデュース・新規事業に携わる人のための企画のコツ32』に続き、第二弾としておもてなしをパターン化する本を出版したことで、ホテルで働く人だけでなく、様々な業種において、特にマネジメント層の人に共感してもらえる部分が多く含まれる内容になったと紹介した。

続いてイベント主催者であり、今回の本の著者でもある中川氏が登壇し、出版の経緯について触れた。UDSではホテル事業の拡大とともに、携わる人員も増える中、今まで蓄積されてきた経験やノウハウが社内でうまく共有できていないと感じていた。

そこでパターン・ランゲージの世界的研究者である井庭氏の協力を得て、UDSのホテルや飲食店で働くメンバーが日頃実践しているおもてなし例をヒアリング調査、分析し、それらを28のパターンに分類した。

 

先人の成功体験をもとに、自分の頭で考え工夫する余地を残すパターン・ランゲージ

パターン・ランゲージは、経験則を言語化して共有する方法のこと。先人の成功体験に共通するコツや心得を伝え、受け手がこれまでにしてきた経験と照らし合わせ、必要だと感じるものを選択し実践する支援となるものである。その際に気をつけるべきは「押しつけ」にならないこと。そのため、パターン・ランゲージは、理念でもなければマニュアルのような具体的な話でもない、井庭氏が呼ぶところの「中空(ちゅうくう)の言葉」で表現されている。

本書に出てくるおもてなしパターン4「語りたくなる声かけ」を一例にとると、「○○とお客様に話しかける」とマニュアル化するような具体的な言葉は用いず「語りたくなる声かけ」と抽象化して表現している。こうすることで、各人が自分の頭で考え工夫する余地を残す、そういう言葉である。

そして、これは接客業や人材教育など様々なビジネス分野にも当てはめて応用することができる。現在では、よりよい品質の商品やサービスなどを生み出すために、商品開発や教育、組織の分野にも展開されている。

20190219おもてなしデザインパターン_伊庭氏

井庭氏は、「おもてなし」をパターン・ランゲージにした本は世界的にみても例がなく、今回はチャレンジングな取組であったと話す。

特に「“創造的”おもてなし」という言葉は、一人一人が自分らしさを発揮することが求められる時代において、ますます重要視されるとみている。

独創性を持ち、自ら考え行動するという姿勢はあらゆる業種で必要とされる力だ。

 

おもてなしの力をつけるためには、「自分がもてなされる」

やまとごころ村山は、本書を読んで、今まで感覚的・概念的だったおもてなしが言語化されたことに価値があると話す。例えばパターン5「フレンドリー&ポライト」では、これまで説明しづらかったお客様との距離感をうまく言葉で表現できている。28個のパターンを見ていくと、インバウンドビジネスで成功しているゲストハウスや観光スポットなどは必ずどれかのパターンに当てはまっていると感じたという。

また、おもてなしの力をつけるためには、まず自分がもてなされることが一番だと強調した。ユーザー側に立場を変えることで初めて見えてくる部分があり、提供できる価値も変わるという。一例として、インバウンド分野で中国マーケット担当になった場合、実際に中国に足を運び、現地の人が普段使っているツールや持っているニーズを知るべき。そうしないと、その国の人が持つ感覚などとの距離はいつまでも埋まらないと指摘した。

 

「チームごと」の実践で、ホテルスタッフ全員がおもてなし

続いて、UDSのホテルの現場での実例が紹介された。当日会場にきていた京都のホテルアンテルームの支配人の上田氏が実践したのは、パターン10「チームごと」。

ホテルアンテルームは、ギャラリーも備える複合文化宿泊施設。アートキュレーター出身の支配人上田氏は、自身だけでなくホテルスタッフ全員が絵についてお客様に説明できる態勢を整える必要があると感じた。そこで、お客様の立場になってホテルスタッフと共に企画展を一緒に見て回り、絵についての説明を一問一答形式でまとめ、他のホテルスタッフ全員にメールで共有することで、「チームごと」を実践したという。

おもてなしデザインパターン_中川氏

28個のパターンのうち、中川氏は特に重要だと感じたものとして、パターン25「価値の増築」を挙げた。UDSが日本各地でまちづくりや地域活性化に取り組むにあたり、地域外から魅力を持ち込むのではなく、もともとその地域に根付いている魅力を見つけ出し、さらに魅力を乗せていくという手法をとっているという。

地元の人は「自分たちの地域には何も魅力的なものはない」と否定的なケースが多いが、外部の人間が客観的にみると、その地域に根差した食文化や風習など魅力はたくさんある。地元の人が今まで気づかなかった魅力を再発見し、様々な立場の人から見た地元の良さを持ち寄ることで、地域全体が盛り上がっていく。このように価値の増築には24「外から見た良さ」や26「魅力の持ち寄り」も連動して作用してくるという。

 

お互いの経験の共有で、おもてなしパターンを緩やかに継承

全体を通して、井庭氏はパターン・ランゲージの良いところは正解がないところだと強調した。

1つの中空の概念に対して、各人が経験したことはそれぞれ違う。28個のパターンに沿ってお互いの体験談を話し合うことで、自分が経験してこなかったものに気づき、「この発想いいな」「そうだよね」と緩やかに共有、継承していければよいと訴えた。

最後に中川氏は、おもてなしは日本の強みだとし、インバウンド4000万人時代を目前に一人一人がどう対応するか? ホテルや旅行会社、交通機関だけでなく、今や百貨店もドラッグストアも観光産業になってきている。

相手が外国人だけでなく、日本人も含めて自分たちの地域を訪れてくれたすべての人に、どうしたら喜んでもらえるのか。もはや観光産業だけではなく、あらゆる業種におもてなしの視点が必要な時代である。この本をみんなで新しい日本のおもてなしを創造するきっかけにしてもらいたいと結んだ。

トークセッション後は「おもてなしデザイン・パターン・カード」を使ったワークショップが実施された。セミナー参加者は1チーム5~6人のグループに分かれ、手元に配られたカードに沿って、それぞれがおもてなしの体験談や様々なエピソードを披露。活発な言葉が飛び交う会となった。

 

【開催概要】
インバウンド時代のビジネス成功のヒントを「創造的おもてなし」から学ぶ 『おもてなしデザイン・パターン』出版記念イベント

日時:2019年2月19日(火)19:00~21:00
会場:INBOUND LEAGUE
主催:UDS株式会社
登壇者:
慶應義塾大学総合政策学部 教授 井庭崇 氏
株式会社やまとごころ 代表取締役 村山慶輔
UDS株式会社 代表取締役 中川敬文 氏

 

【書籍情報】
おもてなしデザイン・パターン インバウンド時代を生き抜くための「創造的おもてなし」の心得28

著者:井庭崇・中川敬文
翔泳社出版
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