インバウンドコラム

アフターコロナの観光・インバウンドを考える 訪日客9割減のいま観光事業者がとるべき対策は? —セミナーレポート

2020.04.23

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新型コロナウィルスの世界的大流行により、観光業はかつてない大打撃を受けている。特にインバウンド業界では、コロナショックの影響は深刻で、経営破綻する事業者も出てきている。回復の見通しが立たない厳しい状況のなか、現状を切り抜けるべく、どのような対処方法があるのか。
今回は岐阜の飛騨古川地域で体験アクティビティを提供する美ら地球 代表取締役・山田拓氏(以下、山田)と、宿泊施設を経営するFeel Japan 代表取締役・藤田勝光氏(以下、藤田)をゲストに迎え、アフターコロナの観光業の変化をどう捉え、今何を準備すべきなのか、オンラインで対談を行なった。モデレーターはやまとごころ代表取締役の村山慶輔(以下、村山)が務めた。

 

1)新型コロナウイルスによる事業への影響

4月だけで1000万円の売り上げがゼロに、まずは当面の資金繰りに奔走

村山:コロナショックがみなさんの会社や周辺の観光事業者に与えている影響はどうですか?

藤田:私が運営する京都のFUJITAYA旅館はインバウンドをメインにしたゲストハウスで95%が外国人客です。通常なら4月単月で約1000万円の売上がありましたが、今年はほぼ0です。冬はオフシーズンなのでもともと売上は少なく、桜が咲く4月が搔き入れ時だったのですが…、5月も予約がキャンセルになり、この3、4、5月のキャンセルで、2000万程の売上が消えてしまいました。年間で約6500万円の売上実績に対して、今年は、数百万円のみ。今後の売り上げはほぼ見込めません。

村山:具体的な金額を聞くとダメージの大きさがわかります。資金繰りはどうしているのでしょうか?

藤田:コロナウィルスの感染拡大の推移を見ながら、1月末にこれは危機的状況だと感じて、2月頭にすぐに融資相談に行きました。3月中に手続きを進めたので、4月頭の時点で融資を受けることができました。うちの旅館はスタッフ10名以下、正社員は2名と小規模ですが、やはりキャッシュは必要不可欠です。スタッフには副業を認めているので、今は他の場所で働いている人材もいます。そこで異業種の経験を踏んでもらい、いずれは宿にフィードバックしてもらえればいいかなと思っています。

 

売上は対前年比マイナス95%減、スタッフ全員休み役員のみで対応

村山:一大観光地である京都で周辺の宿泊施設の状況はいかがですか?

藤田:京都の簡易宿泊事業者の7割が休業している状態だと聞いています。祇園も嵐山も外国人観光客はほぼ歩いていません。

村山:岐阜の飛騨高山周辺での影響はいかがですか?

山田:飛騨高山や古川はもともと田舎が魅力の場所ですし、我々が提供するサイクリングツアーは3密とは程遠い、言わばゼロ密のアクティビティですが、お客さんはまったく来ていません。弊社でも顧客の95%が欧米豪の外国人客だったので、売上も対前年比95%減、ほぼ0です。

例年なら4月にこの飛騨エリアで高山祭、古川祭といった大きな祭りがあるのですが、今年は中止になりました。弊社のスタッフにも全員休んでもらっています。残った役員2人で分担して1人は直近の資金繰り、もう1人は少し先の将来を見据えた対策に当たっています。

 

2)コロナウイルスによる観光客減を受けての取り組み、そこから学んだこと

コロナショックを受けての学びと取組 1つのマーケットに頼ることの危険性が露呈

藤田:コロナショックを受けて改めて反省した点が2つあります。1つは外国人に頼った集客、もう1つはオンライントラベルエージェント(OTA)に頼った集客です。“海外と日本の国際交流ができる場所”を軸に事業を進めてきましたが、結果的には顧客比率の95%が海外、日本は5%に過ぎません。偏った比率をなんとかしなければと思いつつ、正直なところ、日本人集客はできていませんでした。コロナショック関係なく、日本人の集客に数年前からもっと取り組むべきだったと反省しています。

山田:まったく同意見です。我々も95%が外国人客だったので、1つのマーケットに頼り過ぎると危ないということは定石だとは思いますが、インバウンドについては暫くは問題ないと見通していたところ、想定外の今回の状況が起きてしまいました。小さなグループでも刺さる企画や顧客の多様性と向き合う取組を始めておくべきだったと思いました。

藤田:さらに踏み込むと、どういう日本人客層に来てもらうかも重要です。
2017年にオープンしたBnBは「バイク&ヨガ」をコンセプトにした宿ですが、それ以外のターゲット取り込みも模索しています。例えば、京都マラソンの時期にランニング合宿として泊まってもらい、プロのコーチによるレッスンが付いているプランや、京野菜など食をキーワードにした集客などです。また、地元の人に対し、テレワーク用のオフィスとして宿泊施設を提供する取組も始めました。

 

地域の異業種プレイヤーとの連携や事業の多角化を検討

藤田:今は、京都の宿に泊まりに来てと言ってもお客さんは来ませんし、しばらくこの状況は続くでしょう。そこで宿の周辺のプレイヤーとつながって何かできないかと考えています。具体的にはブランド野菜の一つとして知られる京野菜の生産者と連携し、畑を訪ねるツアーなどを構想しています。地域にある異業種のプレイヤーと組めば新しい切り口で観光客を呼び込めるのではないかと期待しています。

山田:確かに日本人のどの層を狙うかは見極めが必要です。我々も10年間、里山サイクリングツアーを提供してきましたが、日本人観光客の利用はなかなか伸びません。そこで各地域のガイド人材育成や地域コンサルティング、またインターンシップや地域おこし協力隊など受け容れるなど、SATOYAMA EXPERIENCE事業で養った知見を活かした教育研修などのB to B事業を今後より強化していく必要があると考えています。

村山:なるほど、偏った顧客比率を変え、地域との連携で新しい誘客の切り口を見つけるということですね。さらにBtoBではガイド人材育成や教育研修などの取組もありますが、BtoCという観点では、在日外国人はターゲットになりえますか?

山田:ぜひ岐阜に来てもらいたいですね。国内の身近なところで戻ってきやすい在日外国人から着手し、リピーターになってもらうのも手だと思います。

 

観光ビジネスの継続性に大切なのは、顧客との信頼関係構築

村山:お客様に戻ってきてほしいというのはインバウンド業界にいるみんなの願いだと思いますが、呼び戻すためにはそれまでの顧客との関係性がどうだったのかが重要だと感じています。顧客とのコミュニケーションという視点で、改めて気付いたことはありますか?

藤田:ゲストハウスはもともとお客さんと宿の距離が近いのが特徴で、リピーターの方と友達になり、海外で研修を行う際には自宅に泊まらせてもらったこともあります。宿泊客が忘れたスニーカーを届けるためにオランダまで行ったこともあります!笑 ちょうど今、以前利用したことがあるお客さんとオンラインでたこやきパーティーをやってみようかなと計画中です。直接の交流はできませんが、オンラインを活用し、これまでのゲストとの繋がりを強くすることで、事態が収束した後、戻ってきてくれることを期待しています。

また、先ほど反省点の2つ目に挙げたとおり、Booking.comやExpediaなどのOTAでの集客に頼り過ぎていたことも見直すべきだったと思います。自社で魅力的なプランを企画して、自社HP経由などで予約客をとる取り組みを定期的にやるべきだったと反省しています。

なお、今は顧客とのつながりの観点から、初めてのクラウドファンディングをやろうと計画中です。支援してくださった方に将来利用できる宿泊チケットを提供します。単に支援金を集めるだけじゃなく、どんな宿なのか知ってもらうPR効果も期待できると考えています。

山田:顧客との関係性がどこまで構築できているかで、事態収束後の戻りが違うと思います。3.11の時も同様の議論がありました。先日、ビジネスパートナーである日本特化型エージェントのひとつ、IJT(Inside Japan Tours)から一緒に頑張ろうと励ましのハガキが届いたのは、嬉しかったですね。直接・間接を含めてビジネスパートナーや顧客と信頼関係やコミュニティを作れるかが、その後の回復力につながると思います。

 

3)コロナ収束後の観光、インバウンド業界はどうなるか。

収束には1年との見方も、ライフスタイルやインバウンド観光へのニーズの変化

村山:先ほど参加者を対象に実施したアンケート「コロナの収束はいつになるか」では、来年の春と予測する人が多いですね。

山田:収束しても、元通りの姿にもう戻ることはないと思っています。人間も環境も強制的に何かしらの変化を受けているからです。例えばL.A.の空が綺麗になった、インドではヒマラヤが遠くからも見えるようになったという話を聞きます。本来なら時間をかけて少しずつ変わることが、コロナウイルスによる外出制限で、かなり早送りをされたように短時間に変化したということではないでしょうか。環境に配慮した持続可能な観光という意味では、劇的に加速したという感じがします。

藤田:ライフスタイルの観点からすると、衛生面を気にする人が世界中に増えたので、安全でおいしい日本の食は注目されると思います。農家を訪ねたり、地元野菜を使った料理教室など食をフックにした観光はニーズが高まるかもしれません。

村山:ソーシャル・ディスタンスが叫ばれるなか、今後の観光業では何か変わるでしょうか。例えば、飲食店では席の配置を大きく空けるなど対策を迫られているようですが。

山田:社会の仕組み全体が高効率に回っていた状況から、人の移動が制限される、経済的に消費が抑制されるなど、非効率な状況になってくれば、その分単価を上げるなど、様々な対策を打つ必要が出てきますね。体験ツアーの分野だと、少人数かつ高単価でガイドするプランも出てくるでしょう。

藤田:反対に、もっと親しく交流したいという人も出てくるかもしれませんね。そうなれば自分たちの出番です。国際交流ができるゲストハウスFUJITAYAにぜひ来てください(笑)。

村山:VR、ARといったデジタルシフトは一層進むでしょうか?

山田:技術の進歩は確かにあります。今よりもかゆいところに手が届くようなウエアラブルガイド技術が出てくれば、中途半端な人によるガイドは不要になってくるかもしれません。ただ、ツアーガイド事業者としては人間にしかできないことをずっと追求してきたので…デジタルと人の両方を注視していく必要ありますね。

 

苦しい状況だからこそ皆で連携して危機的状況を乗り越える

村山:最後に日本の観光事業者に向けて一言メッセージをお願いします。

藤田:苦しい状況だからこそ、落ち着いて一歩引いた目線で今できることをコツコツとやるしかない。3年後振り返ったときに、「あのとき、これをやっておいて良かった」と思えるように、みなさん一緒に頑張りましょう!

山田:踏ん張ろう!踏ん張らなかったらそこで終わり。いつの時代も人間が旅をしなくなることはありません。様々なデータや情報をオープン&シェアすることで、見通しが立てやすくなると実感できるので、我が社でもどんどん情報をオープンにしていこうと思っています。

村山:やまとごころでもインバウンド事業者向けにコロナサポートセンター立ち上げました。専門家をはじめ、多くの人の意見や取組事例を参考にしながら、自分の地域や会社に活かせるものはないか判断して取り入れてもらえればと思います。

本日はありがとうございました。

 

【登壇者プロフィール】

株式会社美ら地球 代表取締役 山田拓氏
岐阜県飛騨古川に、インバウンド客をメインターゲットに里山サイクリングや古民家体験を提供する「SATOYAMA EXPERIENCE」をプロデュースする会社を2007年に設立。ガイド人材育成や地域資源を活用したツーリズムを推進。

株式会社Feel Japan 代表取締役・藤田勝光氏
京都でインバウンド向けのゲストハウス「FUJITAYA」を経営。国際交流を軸に日本文化を体験できる宿として人気が高い。2017年にはバイク&ヨガをコンセプトにしたFUJITAYA BnBをオープン。

 

【開催概要】

「アフターコロナの観光・インバウンドを考える」
日時:2020年4月16日(木)16:00~17:00
開催場所:ZOOMオンラインセミナー
主催:株式会社やまとごころ

 

本セミナーのYoutubeアーカイブ配信はこちら

 


【今後のやまとごころオンラインセミナー情報】
■【GW直前緊急企画】
独立系宿泊施設の経営者対象/ コロナショックで倒産させないために、経営者が今やるべきこと
日時:4月27日(月) 16:00〜17:00

データから読み取るインバウンド入札案件動向
日時:4月28日(火) 15:00〜15:30

■アフターコロナの観光・インバウンドを考えるVol.3
「緊急調査結果発表 新型コロナ対策の優等生「台湾」から見た今後の訪日旅行」
日時:5月1日(金) 16:00〜17:00

 

 

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