インバウンドコラム

アフターコロナの観光・インバウンドを考えるVol.5 アウトドア・アクティビティ再開に向けて必要なこと、サステナビリティの観点から見た可能性

2020.05.22

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新型コロナウイルス感染拡大によって、観光業は大打撃を受けている。世界では感染拡大のピークが過ぎ、ロックダウンの解除や規制緩和が徐々に進んでいるが、先行きは不透明なままだ。今後、新しい観光の形はどのようになるのか。

今回は群馬県みなかみ町を中心に、アウトドア・アクティビティの事業を展開する株式会社キャニオンズのマイク・ハリス氏(以下、ハリス)を招き、アフターコロナのアウトドア・アクティビティの可能性について話を伺った。さらに第1回のウェビナーで登壇した株式会社美ら地球代表の山田拓氏(以下、山田)も交え、サステナブル・ツーリズムのあり方についてもディスカッションをした。モデレーターは株式会社やまとごころ代表取締役の村山慶輔(以下、村山)が務めた。

 

1)コロナショックによるアウトドアアクティビティ キャニオンズの現状と取組

アクティビティ再開に向けた感染対策ガイドライン作りに着手

村山:コロナショックによるキャニオンズの現状はいかがでしょうか。

ハリス:4月から休業に入り、通常約50人いるガイドスタッフは全員休んでおり、今は妻と私を中心に稼働しています。シーズンが終わった冬のアクティビティ・ガイドで本国に帰国できない外国人は地元の農家を手伝ってどうにかしのいでいる人もいます。まずは従業員の休業手当を確保しつつ、地域の観光関連事業者と今後に向け相談も重ねています。本来なら、今は夏シーズンを終えた南半球からアクティビティ・ガイドが来日するはずですが、入国規制があり日本に来られない状況です。

村山:回復期に向けて今、取り組んでいることはありますか。

ハリス:海外のアウトドア業界の動向を把握するようにしています。ヨーロッパのなかには、ロックダウン解除が進み、観光事業再開に向けて動きはじめた国(地域)がみられるので、参考になります。海外の国際機関のガイドラインを入手して、地元みなかみ町のアウトドア協会38社と共にガイドライン作りに着手しています。

村山:海外のガイドラインをいち早く翻訳して、地元に紹介する役目をハリスさんが担っているのですね。

ハリス:そうですね。ただ、海外のガイドラインをそのまま当てはめられないので、日本向けにアレンジが必要です。

 

インバウンド対応見据え、海外ガイドラインを参考に厳しい基準作りが必須

村山:日本向けにアレンジすることで国際標準とのギャップが出てしまうのではないでしょうか。

ハリス:現場経験が少ない人だけでガイドラインを作ると基準が低くなりがちですが、幸い、みなかみ町では30年以上前からキャニオニングが定着しており、外国人ガイドも多く活躍しています。こうした経験豊富なアウトドアガイドと共に厳しい基準でガイドラインを作ろうとしています。

これまで日本は海外に比べてアウトドアの規則が曖昧でした。例えば、ハイシーズンになると、同じ河川に一度にたくさんのツアー参加者が集まってしまうケースがあります。本来、自然には適正なキャパシティがあり、自然を守るための人数制限、法的規制の必要性を感じます。政府には訪日客数といった「数」の目標を追うばかりではなく、環境に配慮した長期的な目標設定を期待したいですね。

山田:同感です。コロナショック関係なく、国、自治体レベルでアウトドアの規則作りは必要です。

 

2)三密回避の潮流でアウトドア分野の成長は期待できるか。

海外ではメンタルヘルスの観点から政府がアウトドアを後押し

村山:三密回避の潮流から今後はアウトドア業界が伸びると予測されていますが、どのようにみていますか。

ハリス:伸びると思います。感染リスクを考えて、消費者も外でのアクティビティを求める傾向が高まるでしょう。

村山:ハリスさんの出身地ニュージーランドやヨーロッパなどグローバル市場ではどのような動きがあるでしょうか。

ハリス:動きが早いヨーロッパの国では5~6月からアウトドアを解禁という動きも見られます。ニュージーランドでは緊急事態レベルが2に引き下げられ、スキー場も解禁になりました。各国政府も自然の中でのアクティビティが身体的な健康だけでなく、メンタルヘルスにも効果があると認識しているので、再開を後押ししています。この5年間でキャンプ市場は世界中で成長しており、今後も世界的潮流として広がると思います。

山田:外国人はアウトドアで有料アクティビティをする文化が定着していますが、日本人には普及するでしょうか。

 

日本の自然の魅力を再発見。今年はローカルで遊ぶ傾向が加速

 ハリス:確かに日本人にはあまり定着していません。ただ、日本では例年、アウトバウンドが約2000万人います。彼らは、今年一気に国内を向きます。もう一度、自分達が住んでいる場所の魅力を再発見したり、ローカルで遊ぼうというニーズが高まるはずです。いつもより少し高い国内旅行でも、有料アクティビティをつける人が増えるでしょう。

村山:都心から自然豊富な地方へ観光客は来ないでという風潮もありますが…。

ハリス:そのために明確な感染防止のガイドライン作りが大切です。アウトドア・アクティビティ事業者だけでなく、飲食店や地域のお店も各自適したガイドラインを作り、それを内外に向けて自治体、DMOがしっかり発信していく。そうすれば地元の住民にも安心してもらえます。

 

3)アフターコロナにおけるアウトドア観光のスタイルとは。

少人数、高単価のプライベートツアーが主流へ

村山:感染防止のため人数に制限をかけると、売上も減ります。それをカバーするためには一人当たりの単価を上げざるを得ませんが、ツアー再開に向け値上げは考えていますか。

ハリス:消毒など感染防止策を実行するために手間とコストが相当かかります。だったら休業のほうがましだという事業者も出てくるでしょう。受入人数のキャパシティは以前の4分の1、3分の1になるかもしれません。ただ、再開を心待ちにしてくれているリピーターもいますので、弊社では4人前後の小規模・高単価ツアーから再開しようと考えています。

山田:SATOYAMA EXPERIENCEでも以前から欧米のインバウンド客向けに1組限定のプライベートツアーを強化してきました。1組限定であれば感染防止の面でもケアしやすいのがメリットです。

 

高単価商品はターゲットを絞る リピーターはより付加価値の高いサービスを求める

山田:インバウンド市場では高単価プライベートツアーのニーズは一定量ありますが、日本人向けにどこまで売れるかは未知数です。消費が冷え込むなか、日本人が果たして高単価ツアーを買ってくれるでしょうか。

ハリス:ターゲティングが非常に重要です。弊社の場合だと、40代以上の常連客がターゲットになります。リピーターは、より高単価な商品を望む傾向にあります。逆に23-28才の若いエントリー層は向かないかもしれません。

 

4)サステナブル・ツーリズムに向けて

日本は大きな転換期 事業者と地域が一体となって取り組む

村山: 世界観光機関(UNWTO)が掲げるサステナブル・ツーリズム(持続可能な観光)の定義によると、環境、社会、経済の3つのキーワードがあります。持続可能な観光地になるために取り組んでいることはありますか。

ハリス:日本は今まさに、量より質、持続可能な観光に切り替えるチャンスだと思います。

一事業者としては顧客ごとのカスタマイズとクオリティ保持が重要ですし、より広く捉え1つの地域としては、自然保護とオーバーツーリズム回避のために制限をかけていくことがサステナブルな道につながります。一事業者だけでなく、自治体、国が一体となって取り組む必要があります。

 

国際認証制度は、インバウンド誘致の1つの指標に

山田:世界的潮流になっていたサステナブル・ツーリズムがようやく日本にも入ってきて、今回のコロナショックを機に全国に広まるのではと期待しています。昨年、サステナブル・ツーリズム国際認証を取るための研修会にもハリスさんと共に参加しました。地域全体の評価と事業者ごとの評価と二階層ありますが、まずは事業者認証取得に向け社内に専任者を置いて準備を進めています。

ハリス:国際的には既にサステナブル・ツーリズムの国際認証があるかどうかが旅先決定の大きな指標になっています。インバウンド市場を相手にするのであれば、取得しておいたほうが良いでしょう。

村山:では、アクティビティ事業者として経済のサステナビリティを確保するためにどうしたらいいでしょうか。

ハリス:直近は事業継続に必要な資金を借り入れするしかないです。徐々にU字回復すると思うので、今までと違ったスタイルで事業がやれるか試してみるのも手です。

山田:アウトドアでは小規模事業者が多く、いざ、政府の支援制度を使おうと思っても製造業を軸とした制度が多く、サービス業向けになっていないのが、使いづらい点です。

 

地域経済の活性化という視点でのサステナビリティ

村山:課題もありますが、なんとか事業継続できるよう、中小の事業者も経営の透明化、健全化を今一度見直す必要がありますね。では、地域経済におけるサステナビリティはどのように考えていますか。

ハリス:自分の会社だけでなく、どうやって観光客に地域でお金を落としてもらうかが重要です。

山田:地元の資源の調達、飲食、宿泊、スタッフの雇用などさまざまな角度から地域経済の活性化を目指すことが大切です。

村山:地域の魅力は大手のチェーン店ではなく、地域に密着した中小企業が作り出している面があります。その中小企業にお金が回っていく仕組みを考えないと、地域の魅力が続かないですね。

村山:最後にメッセージをお願いします。

山田:それぞれの会社、地域で踏ん張りの輪を広げて、共に乗り越えましょう。

ハリス:ドイツの哲学者ニーチェの言葉に「What doesn’t kill you it makes you strong.(あなたを殺さないものがあなたを強くする)=“死なずに耐えさえすれば、その苦労はあなたを強くしてくれる”」とあります。日本は耐えることに優れている国です。今回の危機を新しいことにチャレンジする良い機会だと捉え、回復したときにより素晴らしい価値を提供できるようにパワーアップしましょう!

村山:本日はありがとうございました。

 

【登壇者プロフィール】

株式会社キャニオンズ  代表取締役 マイク・ハリス氏

1973年ニュージーランド生まれ。大学にて日本語と会計学を学ぶ。大学在学中に初来日、卒業後、群馬県みなかみ町のアウトドア会社に就職し、社内にキャニオニング部門を創設。その後2004年に独立し株式会社キャニオンズを設立。みなかみDMO理事やアウトドア連合会の会長を務める

株式会社美ら地球 代表取締役 山田拓氏

岐阜県飛騨古川に、インバウンド客をメインターゲットに里山サイクリングや古民家体験を提供する「SATOYAMA EXPERIENCE」をプロデュースする会社を2007年に設立。ガイド人材育成や地域資源を活用したツーリズムを推進。

 

【開催概要】

アフターコロナの観光・インバウンドを考えるVol.5
「アウトドアアクティビティの可能性」
日時:2020年5月15日(金)16:30~17:30
場所:ZOOMオンラインセミナー
主催:株式会社やまとごころ

 

本セミナーのYoutubeアーカイブ配信はこちら

 


【今後開催予定のセミナー】

◆アフターコロナの観光・インバウンドを考えるVol.6「アメリカのDMOは今何を考え、何に取り組んでいるのか。〜日本の観光業が学べることとは〜」

2020年5月22日(金) 11:00~12:00

◆データから読み取るインバウンド入札案件動向

2020年5月26日(火)17:00~17:30

 

 

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