インバウンドコラム

アフターコロナの観光・インバウンドを考えるVol.6 復興に向けリーダーシップをとるアメリカのDMOから学べること

2020.05.29

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新型コロナウィルスによる大きな打撃を受けているアメリカ。一部エリアで段階的に経済活動が再開される中、観光業の現状はどうなっているのか。今回はフロリダ州オレンジ郡にあるセントラルフロリダ大学ローゼン・ホスピタリティ経営学部で長年教鞭をとり、観光ホスピタリティの分野で世界的に活躍する原忠之氏(以下、原)をゲストに招き、フロリダのDMOの取り組みと消費者ニーズの変化など具体的に話を伺った。モデレーターはやまとごころ代表取締役の村山慶輔(以下、村山)が務めた。

 

1)コロナショックを受けた米国観光業の現状

地域の事業者がいち早く感染症対策に動いた

村山:コロナ発生後、米国ではどのような動きがありましたか。

原:私の勤める大学では3/16からオンライン授業に切り替え、3/26には大学のあるオレンジ郡から自宅待機令と夜間外出禁止令が出されました。フロリダ州が自宅待機令を出したのは4/1でした。つまり、州政府よりも郡、地域の事業者のほうが先に感染症対策に動きました。

村山:米国ならではですね。観光業におけるダメージはどれくらいでしょうか。

原:4/26~5/2におけるフロリダ州オレンジ郡地区のホテル稼働率は20%でした。平均客室単価は前年同月比45%減と低調でした。3月の月間宿泊税収も前年比56.5%減の13.6百万ドルに留まり、2013年9月以来の落ち込みでした。

 

Visit Orlandoの取り組み デジタルマーケティングとエンゲージメント

村山:フロリダのDMOであるVisit Orlandoは今、どのような取り組みをしているのでしょうか。

原:4月のMICE実績はゼロで国際会議場も閉鎖されていましたが、そこの駐車場を簡易検査のドライブスルーに利用するなど地域のために観光施設を活用しています。

短期的な取り組みとしては、潜在的な訪問客にオーランドを意識させるデジタルマーケティングを行ない、ファンに対してはオンライン上で直接交流することでエンゲージメントを高めています。また米国では旅行先の安全確認にはDMOが発信する情報に対して信頼度が高いとされているので、DMO主導で地域の感染症対策を可視化し、懸念解消と信用構築に努めています。

 

DMOが経済復興委員会のリーダーに、地元産業界を牽引

原:3月下旬にはDMOのトップを共同議長とする総勢50名の経済復興委員会が発足しました。ホテル、空港、テーマパーク、航空会社だけでなく、飲食店や医療関係事業者、ガソリンスタンドからサッカー・バスケットボールのチーム、町の床屋まで多種多様な業種で構成されています。

フロリダ州オレンジ郡の人口は約140万人(京都市と同等)で、そのうち観光による雇用が全体の約22~25%を占めます。4人に一人が観光に携わるわけですから、観光業の回復が地域経済の回復に大きくつながっています。町の床屋などといった地域の中小企業も入って復興委員会を組織し、それをまとめ上げるのがDMOの役割なのです。

村山:復興委員会で作ったアクションプランの一例を教えてください。

原:ロックダウン解除後に店舗を再開する第一フェーズでは、各施設受け入れ可能人数の25%以内に抑えようと足並みを揃えています。経済を再開させるなら、産業界全体の協調が必要です。現地に行ってみたら、空港はやっているけど、飲食店やレンタカーは再開していないという状態では旅行者は動けません。観光に関わる多種多様な業種がみんなで手をつないで一緒のタイミングで再開させると、客を迎えやすいと思います。

 

日米発想の違い 政府に頼らず、産業界自ら再開案を作成

村山:DMOをはじめ事業者も日本と米国ではかなり違う姿勢だということがわかります。

原:日本は休業補償も再開案も政府任せという印象を受けます。一方、米国は政府任せにはしません。産業界が協調して自ら事業再開案を作成し、それを首長に持っていって承認させるという動きを取りました。行政が作る案よりもよっぽど現場に即し実行可能なものが素早く出来上がっています。

 

2)アフターコロナの観光スタイルとは?

世代間での違いが浮き彫りに 若者層ほど旅行に積極的

村山:米国の消費者のニーズ、消費行動はどう変化するでしょうか。

原:旅行市場の調査会社Destination Analystsによると、コロナによってできなくなったことの中で一番やりたいことに関する調査結果、1位がバケーションで68.4%、2位が外食で59.9%、3位が旅行計画で56.1%でした。また世代別に旅行への興味を調査した結果、16~23才のZ世代と24~37才のミレニアル世代は旅行費用が安くなれば旅行に行きたいと46%が答えています。一方で、57~64才のベイビーブーマー世代は23%に過ぎません。

コロナ収束後の旅行に対する姿勢は慎重派が47.1%、非常に慎重派が41.7%、何も考えずにとにかく出かけたい積極派も11.2%います。つまり、若者で旅行の値段に敏感に反応する層はコロナが収束すれば、すぐにでも旅行に出かける可能性があります。そういった層にはデジタルでのアプローチが効果的です。

 

DMOは財政面、人員面でも独立性の確保を

村山:アフターコロナの時代に向け、DMOや観光事業者はどう変化していくべきでしょうか。

原:日本のDMOは基本的なビジネスモデルを転換する時期に直面しています。米国DMOの例をみると、宿泊税徴収などによる自主財源の確保、地方自治体からの人員を入れない独立組織、MICE対応、観光客のデータ分析と満足度向上などを既に実践しています。特に宿泊税導入による持続性ある自主財源確保や使い道に関しては、40年先行する米国DMOの事例が参考になると思います。

 

3)米国からみた日本のコロナ対応と訪日ニーズ

安心、安全、清潔は行き先を選ぶ際にますます重要に

原:これまで安心、安全、清潔の3つは観光地選択時に水準以下だと足を引っ張るものの、水準以上でもプラス要因にならない「Hygiene Factor(衛生要因)」とされてきました。しかし、アフターコロナでは安心、安全、清潔はもはやHygiene Factorではなく、最重要視される要因となるでしょう。

 

イノベーター、アーリー・アダプターは早期に旅行市場に戻ってくる

原:コロナ回復時期は18カ月後との予想も聞こえてきますが、18カ月の間、誰も旅行市場に戻って来ないわけではありません。統計学に当てはめて予測すると、5月から4カ月後の9月には、まず2.5%のイノベーターが戻ります。その後13.5%のアーリー・アダプターが続き、18カ月後には34%のアーリー・マジョリティが市場に戻ってきます。

では、どうやったら早期旅行者たちに選ばれる観光地になれるでしょうか。やはり、ここでも安心、安全、清潔がしっかり担保されているかが決め手になると思います。旅行者の行動パターンやリスク許容度、価格弾力性はさまざまで、セグメント別にしっかり戦略を立てておくことが重要です。

 

米国の夏の予約状況 クルーズ船は前年比2倍、RV業界も好調

村山:米国のクルーズ業界、アウトドア業界の今後の見通しはいかがでしょうか。

原:先日、米国のクルーズ会社が8月以降の予約を再開したところ、前年同月比2倍の予約が集まったという記事が出ました。熱烈なリピーターが存在する産業だからでしょう。また、オンラインでRV車のシェアサービスを提供する企業、RV Shareによるとアメリカ中西部エリアのRV車の予約は5月第2週に前年同月期より30%増加したとの記事も出ました。ちなみに、オーランド地区の夏休みの宿泊予約状況は6月が-52.5%、7月が-37.2%、8月は-22.5%となっています。

 

消費者の嗜好変化とセグメント別マーケティング戦略

原:インターネットでは9月の訪日旅行商品を売り始めたところも出てきました。13日間往復航空券・ホテル代。JRパス、入場券等込みで約20万円強と格安で、いかなる理由でもキャンセル料が無料となっています。地元客、国内客から戻るから、外国人客は後回しでいいというのは誤解です。先ほどもお話したように、価格に敏感で早く戻ってくるイノベーターや日本ファンのリピーター層は一定数います。そういった人々がSNSに旅行体験を投稿し、その後に続く慎重な多数派を誘発する宣伝効果があるので、取り込めるようにしたいですね。

村山:米国からみて、アジアに位置する日本は今後、敬遠されるでしょうか。

原:そうは思いません。今回、一連のコロナ対応で日本は独自路線をとり、米国人はアジアの中でも際立った結果を出していると見ています。。一方、中国に対しては、世論調査を見る限り過半数の米国人は人権・自由・香港問題や経済摩擦で異質だと感じ、敬遠する傾向にあります。今後、11月の大統領選挙までは与野党共に強硬な態度しか示せない故の米中対立が続くと、外交政策も一般消費者も相対的には共通の価値観を共有する日本への安心感・親近感が増す一方、恐らく中国政府も西側諸国から孤立した際には日本との対話を目指すので、既に存在する日本ファンを中心に中国個人客も日本を海外旅行復活の目的地にする可能性があります。

村山:最後に日本の観光事業者にメッセージお願いします。

原:「インバウンドなんてほら、みたことか」と批判の声が聞こえることもあるかもしれませんが、ブレる必要はありません。短期的には国内客需要を取り込むと同時にインバウンド向けマーケテイングは怠りなく実施すべきです。国内観光は国内の富の移動に過ぎませんが、インバウンドは外貨獲得による国富増大が見込め、地域及び日本経済にもたらす経済効果が決定的に異なります。COVID-19後の安心安全清潔感維持は、インバウンド客と日本人双方の安心確保に繋がります。 かつて明治時代には外貨獲得のため地方のリゾート地にも国際標準のグランドホテルができました。初心忘れるべからず、これからも成長産業セクターであるインバウンド需要復興を世界のどの国よりも早く安全に獲得出来るように一緒に力を入れていきましょう

【登壇者プロフィール】

原 忠之氏

セントラルフロリダ大学 ローゼン・ホスピタリテイ経営学部テニュア付准教授。日本興業銀行、外務省を経て、米国コーネル大学ホテル経営学部博士号取得。他にホテル経営、経営、地域科学の3修士号を米英の大学で取得。米国観光ホスピタリテイ経営分野で正規教員職、テニュア(研究者終身身分保障)を持つ唯一の日本人。米国フロリダ州オーランド在住。

 

【開催概要】
アフターコロナの観光・インバウンドを考えるVol.6
「アメリカのDMOは今何を考え、何に取り組んでいるのか? 〜日本の観光業が学べることとは?〜」
日時:2020年5月22日(金)11:00~12:00
場所:ZOOMオンラインセミナー
主催:株式会社やまとごころ

 

 

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