インバウンドコラム

アフターコロナの観光・インバウンドを考えるVol.10 「オンラインツアーの可能性 リアルへの導線になりうるか」

2020.06.25

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コロナ禍において人の移動が制限される中、Airbnbをはじめ、さまざまな事業者がオンラインによるツアーや体験を提供し始めた。外での感染リスクを気にせず、自宅に居ながらにして旅行気分を味わえるオンラインツアーは新しい旅のカタチとして注目を集めている。

今回は、オンライン宿泊の先駆けWhyKumanoの後呂孝哉氏(以下、後呂)と、日本中の素敵な人に出会う旅「あうたび」事業の一環として各地の生産者に会いに行くオンラインツアーを展開する唐沢雅広氏(以下、唐沢)をゲストに迎え、オンラインツアーのメリットや今後の可能性について話を伺った。モデレーターは株式会社やまとごころ代表取締役の村山慶輔(以下、村山)が務めた。

 

1)泊まらない宿泊「オンライン宿泊」を提唱するWhyKumanoの取り組み

 ゲストハウスを通じて地域と旅行者をつなぐ

後呂:和歌山県の南に位置する熊野は世界遺産の熊野古道、西日本随一の南紀勝浦温泉、日本一の水揚げ高を誇るマグロと観光地に必要な要素が揃った場所です。この地域の魅力を旅行者に実体験してもらうために、ゲストハウスWhyKumanoはあくまで町の玄関口と位置付け、お風呂は地域の天然温泉に、食事は地元の飲食店で獲れたてのマグロを食してもらい、町全体を旅行者が回遊する「まちやど」スタイルで運営しています。

 

オンライン銭湯をヒントにオンライン宿泊にチャレンジ

後呂:2019年7月のオープン以降、世界50カ国から外国人ゲストが泊まりに来ましたが、今回のコロナショック発生後、3月以降の予約は全てキャンセルになりました。周囲の宿泊施設や飲食店も次々と休業するなか、ピンチはチャンスと捉え、単なる休業ではない打開策を模索していたところ、オンライン銭湯の動画が目に留まりました。1時間ずっと湯舟にお湯が流れていく映像のみですが、3月30日公開から2日間で2万回再生されていました。

オンライン銭湯が受け入れられるなら、オンライン宿泊も可能性があると感じ、チャレンジしてみました。

 

行きたくても行けない旅行者のニーズにオンラインツアーで応える

後呂:外出自粛生活が長引く中、旅行したくてもできない、しかし自宅に居ながら少しでも旅行気分を味わいたいという消費者の気持ちに応えるため、オンライン宿泊では実際に現地を訪れたようなリアル感の追求とオンラインならではの交流ができるように作り込みました。

村山:オンライン宿泊とは実際にはどのように進むのでしょうか。

後呂:夜8時にZOOM上で集合し、ライブでチェックインと館内案内をします。その後、それぞれの自宅で飲み物を用意してもらって全員で乾杯、約2時間の交流に入ります。オンライン宿泊はゲスト同士の交流をメインとしているので、全員がビデオオン、音声オンの状態です。夜10時を消灯時間としており、その時間でZOOMでの交流は終了です。翌朝、お見送り用の熊野紹介動画をメールで送付し、これを見ることでチェックアウトとしています。参加費は1人1泊1000円で、実際に宿泊したときに使える1ドリンク券付きです。

 

旅行者の多様性に対応できるオンライン宿泊で客層が広がる

後呂:4月の開始から合計62回実施し、すべて満床、延べ400名弱がオンライン宿泊を体験しました。オンライン宿泊の客層は20~30代をメインに高校生から70代までいて、普段より客層が幅広いのが特徴です。なかには時差の関係で昼夜逆転しているブラジルから参加した人、日本語を勉強したい外国人、ペットや小さな子供がいる人、足が不自由な人など多様なゲストがいました。旅行のハードルが高い人は今までも存在していましたが、オンライン宿泊ではそうした多様なゲストの受け皿にもなり得ます。つまり、オンライン宿泊はコロナショック関係なく、今後もニーズがあると言えます。

 

今後のオンライン宿泊の可能性 オフライン店舗との両立で相乗効果

後呂:7月から実店舗を再開する予定ですが、オンライン宿泊は継続していこうと考えています。実店舗であるオフライン店とオンライン店の2つを持つことで、相乗効果が生まれるのではないかと期待しています。例えば、実店舗に宿泊予約をしてくれたお客様に対して、1週間前にオンライン宿泊に参加してもらい、お互いに交流しておくことで、「1週間後にゲストハウスで会いましょう」という関係になれたらいいなと考えています。お店側もどんなお客様がくるのか事前にわかりますし、お客様も相性が合う者同士で泊まりに行ける安心感が生まれます。

後呂:もし、これから観光業で起業を考えている人がいれば、まずは無料でできるオンライン店を開くことをおすすめします。事前にお店のイメージを映像で伝えたり、接客の練習やファンを作る場として有効です。下準備でオンライン店があれば、実店舗がオープンしたときにスタートダッシュしやすいと思います。

 

2)地域の生産者が登場する「あうたび」オンラインツアーの取り組み

「人に会いに行く旅」のテーマは変えずにオンラインツアーを立ち上げ

村山:人に会いに行く旅をテーマに「あうたび」事業を展開されていますが、今回のコロナ禍では、どのようなオンラインツアーを実施していますか。

唐沢:私たちツアー事業者だけでなく、普段、ツアーでお世話になっている酒蔵や農業、漁業の生産者の皆さんも出荷・生産量が激減し、苦しい状況が続いていました。そこで、各地のお酒とおつまみなどを組み合わせた特産品セットを事前に購入してもらい、ツアー当日は生産者と直接お話しながら交流できるオンラインツアーを実施しました。5000円、7000円、1万円など該当する特産品セットを購入すれば、ツアー参加費は無料です。

第1回は4月18日に長野県佐久穂町の酒蔵と組んで実施しました。準備期間は約2週間しかなかったのですが、予想以上に反響があり50人の予約がありました。ツアー当日までにひとり2本ずつ日本酒が自宅に届くので、オンラインツアーを1回開催すれば酒蔵としては100本売れることになります。珍しいお酒を手にできるツアー参加者だけでなく、地域の生産者にも貢献できるオンラインツアーを目指しました。「茨城の酒蔵とあんこうつるし切り」「新潟県のクラフトビールとジビエの達人」など生産者本人が登場し手を動かすシーンを映すことで、現場の臨場感が伝わるように工夫しています。

村山:ツアー参加費無料とのことですが、どのように事業継続しているのでしょうか?

唐沢:特産品セットの売上から数パーセントの手数料だけいただいています。

村山:物販をメインにしていると自社の商品にばかり目がいきがちですが、あうたびのオンラインツアーでは地元の人が登場することで立体的に商品を捉えることができ、その結果地域への興味も湧きますね。

 

アフターコロナを見据え、リアルとオンラインの連携

唐沢:コロナが収束したときに島根県に行きたくなるようなプロモーションの一環として、島根県と共同企画で全5回のオンラインツアーを実施しています。参加者アンケートで将来、現地に行ってみたいですかと聞いたところ、出雲のツアーで84%、松江のツアーで97.3%が行ってみたいと回答がありました。オンラインツアーをきっかけに現地に行くというリアルへの誘導に有効だとわかります。

村山:あうたびのオンラインツアーに出てくる人はユニークな人ばかりですが、どうやって見つけているのですか。

唐沢:人は基本的に全員おもしろいものです。最初は出演したくない、しゃべりたくないという人も多いですが、こだわりを持っている生産者や職人の方々は本業のことになると面白い話がどんどん出てきます。そこを上手く引き出せるように気を配っています。

 

3)これからオンラインツアーを始めるなら

オンラインツアーでは通信環境と沈黙に要注意

村山:オンラインツアーでの失敗談はありますか。

後呂:以前、日本全国で同時にZOOMが立ち上がらないときがありました。オンラインツアーのツールとしてZOOMに頼り過ぎていたと感じました。

唐沢:オンラインツアー中に電波が届かない酒蔵の部屋があって、画像や音声がストップしたときがありました。通信環境の確認は重要です。

村山:オンラインツアーで気を付けていることはありますか。

後呂:沈黙が長いとお客さんが不安になるので、ツアー中は無言にならないように心がけています。

唐沢:私もオンラインツアーで6時間しゃべりっぱなしの時もありました(笑)。

 

オンラインツアーは売上よりプロモーション効果大

村山:普段のツアーや宿泊費と比べるとオンラインツアーは安いイメージがありますが、ビジネスの観点からオンラインツアーをやるメリットはありますか?

後呂:売上ではなく、プロモーションとしての効果が高いと感じています。日本人の中でも熊野エリアをよく知らない人もまだまだ多いので、まずはオンライン宿泊を入口として、どんな場所か知ってもらい、参加したら実際に熊野に行きたくなったという出口につながるといいなと思っています。

唐沢:オンラインツアーを開始した当初は、とにかく何か打開策をと思い、マネタイズまで描けていませんでした。小さな会社だからこそ、アイデアをすぐに実行できた面があります。継続していく中で自治体や行政のバックアップが出てきたので、、今後リアルツアーを再開できるようになった際には、観光客誘致に向けて自治体との連携を強化できればと考えています。

 

集客はSNSだけで充分、リピーター率も高い

村山:オンラインツアーへの集客方法は何ですか

後呂、唐沢:facebook、インスタグラムなどSNSと口コミです。

村山:参加者はリピーターが多いですか。

唐沢:全体の約半数がリピーターです。リピーターのうち、約50%はリアルツアーの参加経験がありますが、残りの半数はオンラインツアーのみのリピーターです。

村山:最後に観光事業者にメッセージをお願いします。

唐沢:リアルの旅とオンラインツアーをリンクさせることができる時代になったと感じています。事前にツアー客がオンライン上で交流し、そのあと、現地で実際に会えば、本当の友達みたいな関係性が生まれ、もっと楽しい体験になると期待しています。

後呂:オンラインツアーの可能性は今後ますます広がると感じていますが、やはり最終的には多くのお客さんに実際に熊野に来てもらいという気持ちは変わりません。オンラインで熊野を予習してもらい、その後現地に来ていただくパターンや、ゲストハウスで仲良くなった宿泊者同士がオンラインで再会するパターンなど、オンラインとオフラインを交互に繰り返したら面白いかもしれません。僕自身もオンライン宿泊で出会ったお客様の地元に熊野の特産品を持って会いに行くオフ会もしてみたいです。コロナ収束後には、みなさんの地域でもお会いしましょう!

【登壇者プロフィール】

WhyKumano Hostel&Cafe Bar オーナー 後呂(うしろ)孝哉氏

1989年和歌山県新宮市生まれ。大学・就職で約10年間関東で過ごし、「地元、熊野の魅力を世界へ広めたい」想いから新宮市へUターン。2019年7月、和歌山県の那智勝浦町にホステル・カフェバー「WhyKumano(ワイクマノ)Hostel&Cafe Bar」を開業。新型コロナウイルス感染拡大の影響で実店舗は休業中。代わりにオンラインを活用した仮想宿泊体験を提供する「オンライン宿泊」をスタート。新しい宿泊の概念を提案する取り組みとして、予約が殺到し、多くのメディアでも取り上げられている。

あうたび合同会社 代表社員兼CEO 唐沢 雅広氏

1973年生まれ。旅行業界歴20年。都内旅行会社にて、海外旅行の企画・販売を経て、2011年取締役に就任。自然食などの新規事業を立ち上げ、ECサイトでの店舗運営に携わる。独立後、全国を旅するなかで人との出会いに癒しを見出し、2016年、人に会いに行く旅をメインにした「あうたび」合同会社を設立。趣味では全国100以上の温泉を巡り、美味いものと地酒をこよなく愛する。

 

【開催概要】

日時:2020年6月19日(金)15:00~16:15
場所:ZOOMウェブセミナー
主催:株式会社やまとごころ

 

本セミナーのYoutubeアーカイブ配信はこちら

 


【今後開催予定のセミナー】

◆アフターコロナの観光・インバウンドを考える 総括編「県境越え移動解禁!withコロナ時代をどう乗り切るか?」〜過去10回のオンラインセミナーから見えてきた、観光業ニューノーマルのあり方〜

2020年6月26日(金) 15:00~16:00

◆コロナショック後のインバウンド入札案件の変化と今後

<応札経験者対象>
■2020年6月25日(木) 14:00〜14:30

<応札未経験者対象>
■2020年6月30日(火) 14:00〜14:30

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