インバウンドコラム

withコロナ時代の観光戦略 番外編 ~インバウンドの今後を見据え今やるべきこととは~

2020.08.25

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毎週金曜日に開催しているオンラインセミナー「withコロナ時代の観光戦略」。今回は番外編として、やまとごころ代表の村山慶輔が国内外の事例を交えながら、観光・インバウンドに携わる人が回復に向けて今やるべきことは何かをお話させていただいた。4月以降、30本を超えるオンラインセミナーでモデレーターを務めてきた経験から得られたエッセンス、withコロナ時代の観光を救うキーワードなどわかりやすくお伝えする。

 

不確かなことは継続的に情報収集、確かなことは具体的対策を検討

コロナショック以降、30回を超えるオンラインセミナーで毎回話題に上るのが、「インバウンドはいつ戻るのか」という問いだ。さまざまなアンケート結果や専門家がそれぞれに予測を立てているものの、正直なところ、いつ戻るのかは未だ不透明なままだ。こうした不確かな部分については一喜一憂することなく、継続して情報を追うことで冷静な分析ができるようになる。

一方で、わかってきたこともある。例えば、タイ、ベトナム、中国、香港、台湾、韓国、シンガポールの7つの市場において、現地のアンケート調査によると、依然として日本への訪問意向が高いことが判明した。また、インバウンドが戻るとしたら、ビジネス客から始まって、次に個人客、最後に団体客となることもわかってきている。こうした確かな部分については、具体的な対策を検討する段階にきているといえるだろう。

もう一つ確かな点として、コロナが過ぎた後も5~10年スパンで何かしら観光に打撃を与える事象が起こりうることも忘れてはならない。地震や台風などの自然災害、政治的・経済的な事件、世界規模での変化が再び訪れる可能性は高い。それに向けてしっかり準備しておくことが重要だ。

 

これからは旅行スタイルが確実に変わる

これまでのトークライブで感染拡大防止の観点から共通して認識されたのが、旅行スタイルの変化だ。じゃらんでは以下のように変化すると予測している。

2020年夏休み前:近場で若者層中心、アウトドアやマイクロツーリズム
2020年夏休み中:近隣県で混雑回避、ファミリー層中心
2020年秋~年末:徐々に遠方へシニア層も動き始める
2021年以降  :旅行慎重派も戻り、完全回復期

旅行の移動手段については、不特定多数との同乗を避けるため、しばらくは車が中心となり、その後徐々に飛行機での旅行が戻ってくる見通しだ。

 

衛生対策と柔軟な予約・キャンセルは今すぐ着手

観光・インバウンド事業者が回復に向けて、今できることは何か。直近、短期、中長期に分けて戦略を考えてみよう。まず、直近戦略としては、資金の確保、スタッフのモチベーションの維持、衛生対策、今後のビジョンの明確化、柔軟な予約・キャンセル、非接触型の新規事業の立ち上げが考えられる。

衛生対策では日本国内だけでなく、外国語で公表されているガイドラインも参考にしながら、国際標準に準拠しておくことで将来のインバウンド対応にも生かせる。世界のホテルや航空会社、運輸機関、旅行会社などで構成されるWTTC(World Travel&Tourism Council)では衛生ガイドラインを遵守した企業・団体に対して「Safe Travels Stamp」を付与する取組を実施している。ホームページには業種別に英語のテンプレートも用意されている。国内ではいち早く始めた事例として佐渡クリーン認証がある。

先行き不透明な状況においては、柔軟な予約・キャンセルができることが優位となる。オーストラリア発祥で31年の歴史を誇る世界最大級のアクティビティ提供会社INTREPIDでは、コロナの影響でツアーが催行されない場合、全額返金か110%分のクレジット還元を実施している。次回のツアーで使えるクレジットを10%上乗せして還元するのが特筆すべき点だ。顧客を離さず、また来てもらうための仕掛けとして有効だ。

 

短期戦略では高付加価値商品の造成や観光+αの取組を

次に短期戦略としては、売上減でも回る経営体質作り、高付加価値商品の造成、新しい客層の獲得、顧客の囲い込み、オンライン化とデジタル化、観光+αの取組が挙げられる。

withコロナで団体から個人へ移行するなか、少人数でも高単価で売上を確保できる高付加価値商品の造成は不可欠だ。リピーターへのオプション提示などは群馬県水上町のアウトドアツアー会社キャニオンズの例が参考になる。また、宿泊プランに高級食材を使った料理や送迎車を高級車にすることで単価アップを狙ったホテルの例もある。TripAdvisorの最近の調査では、プライベートツアーのニーズも急増していることがわかった。インバウンドに取り組む事業者にとって、TripAdvisorの6カ国比較アンケート調査は非常に参考になるので、ぜひ継続的にチェックしてほしい。

 

ワーケーションで新しい客層を獲得

新しい客層の獲得では、オンラインを活用した若年層、約280万人の在日外国人、ワーケーションによるデジタルノマドと法人へのアプローチが考えられる。

海外では金融、IT、翻訳の業種を中心にデジタルノマドが浸透してきている。Nomadlist.comでは世界の都市をランキングしているが、TOP100に日本の都市は一つもない。もし、このランキングの上位に日本の観光地が入ることができれば、世界中のノマド=インバウンド客を誘致することができるだろう。

ただ、ワーケーションを誘致する場合、オンラインミーティングがスムーズにできるかなどWi-Fi環境についてエリアや施設ごとにより詳細な情報発信が必要だ。

 

今後、重要性を増す顧客とのつながり

コロナ禍で改めて重要だと感じたのが、顧客とのつながりだ。気仙沼観光推進機構が発行する「気仙沼クルーカード」は観光地のファン作りを目的にした取組で、顧客ごとの購買データまで管理・分析できている好事例だ。コロナショックによる損失をカバーしようとクラウドファンディングやオンラインツアーを実施する自治体や観光施設は多いが、顧客との強いつながりがあるところ程、うまくいっている。Go toトラベルキャンペーンも一時的な売上にとどめることなく、これを機会に顧客の囲い込みができるよう仕掛けができるかが鍵となる。

観光+αの取組では、台湾の旅行会社が日本産の果物を通販する事業を始めて売上を伸ばしている事例がある。外国人が多く働く旅行会社なら、オンラインで外国語レッスンを開催するなど自社の強みを生かせる事業分野で、非接触型であることが観光+αのポイントになるだろう。

中長期戦略としては、改めてビジョンを決める、誰に来てもらいたいかターゲットを絞る、それをどう実現するかの3点だ。国内客とインバウンドの比率を今後どうしていきたいか明確にして、ターゲットに絞った戦略を立てるのが効果的だ。

最後に「今こそ海外メディアは日本の情報を欲している」ということを伝えたい。香港在住のメディア関係者に話を聞いたところ、コロナ禍で情報発信を控えている日本企業や自治体が多いが、ライバルが少ない今のうちに、情報発信をしておくことで他の観光地と差別化できる可能性がある。

 

【登壇者プロフィール】

株式会社やまとごころ 代表取締役 村山 慶輔

神戸市出身。米国ウィスコンシン大学マディソン校卒。経営コンサルティングファーム「アクセンチュア」を経て、2007年に日本初インバウンド観光に特化したBtoBサイト「やまとごころ.jp」を立ち上げる。インバウンドの専門家として、2019年内閣府 観光戦略実行推進有識者会議メンバーを始め、各省庁の委員・プロデューサーを歴任。2020年3月には自身7冊目となる「インバウンド対応実践講座(翔泳社)」を上梓。村山慶輔オフィシャルサイトはこちら

 

【開催概要】
日時:2020年8月14日(金)15:00~16:00
場所:ZOOMウェブセミナー
主催:株式会社やまとごころ

 

本セミナーのYoutubeアーカイブ配信はこちら

 


【今後開催予定のセミナー】

◆withコロナ時代の観光戦略 vol.7 ~ポストコロナにおける中国人訪日意識の最新動向~

2020年8月28日(金) 15:00~16:00

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