インバウンドコラム

withコロナ時代の観光戦略vol.6 ~脱観光・脱インバウンド コロナに負けない事業を作る~

2020.09.03

印刷用ページを表示する



長引くコロナ禍で客足が戻らない観光業では、ビジネスモデルの転換に迫られている。ホテルの客室をテレワーク用にしたり、体験ツアーをオンラインツアーとして配信するなど、既存の施設やコンテンツを活用した例が多くあるなか、まったく畑違いの食品ECサイトを立ち上げて新たな活路を見出した観光事業者がいる。

今回はゲストに、金沢を拠点に訪日客向け着地型体験ツアー事業などを手掛ける株式会社こはくの山田滋彦氏をお迎えし、たった1カ月で食品ネット通販事業「イチバのハコ」を立ち上げた経緯や新規事業発想の原点を伺った。コロナによる危機的状況のなかで、現状と将来を客観的に分析する山田氏の言葉には、不確実性が高い環境でも生き残るヒントが散りばめられていた。

 

ニューノーマルを踏まえた中長期的な視点で事業を見直し

インバウンド比率が75~80%を占める日本文化体験ツアーや古民家宿泊施設を運営していたこはくは、多くの観光業者と同様、コロナ禍により予約はすべてキャンセルされ危機的状況に陥っていた。そこで山田氏はインバウンド観光に依存していた事業の抜本的な見直しを決断する。これまでの勝ち筋である特定市場へのリソースの集中、資産保有にこだわらず、ニューノーマルを踏まえた中長期的な視点で勝ち筋を再定義した。これからは資産を抱え過ぎず、初期投資が不要なサービスを活用してライトな事業体質とすること、必要に応じた社外との連携をより積極的に活用することを据えた。

 

脱観光・脱インバウンドでも企業のミッション「地域の魅力発信」は変えない

各種統計やwebメディア、書籍などで情報を収集・分析しながら、資産や在庫を極力持たずにコロナ禍でも伸びるニッチかつ成長市場を探した。そこで目を付けたのが国内食品ECだった。通販は一般的に初期コストがかかるが、単一商品に絞った、小規模通販モデルであれば初期投資が少なく済む。食品通販の市場が約4兆円規模とそもそも大きく、直近5年では年平均成長率が3.6%だった。さらに国内食品のEC化は2018年で2.6%に過ぎず、今後成長の余地が大きいといえる。コロナ禍では非接触で完結できるECの需要はますます高まっている。新規事業候補としてオンラインツアーも候補にあったが、日本人は外国人に比べ、そもそも体験コンテンツに高いお金は払わない傾向があり、食のほうがお金を使うだろうと判断した。しかも金沢には近江町市場という新鮮な魚介や野菜が集まる有名市場が存在し、加賀野菜というブランド力もある。金沢の食文化の魅力をお取り寄せを通じて広めていく。たとえ、観光以外の事業だとしても自社のミッションである「地方の魅力を世界に発信する」ことが実現できるものであれば、取り組む価値があると思ったと山田氏は語る。

 

自社の強みを生かして先行する競合他社との差別化を図る

近江町市場の旬の魚や加賀野菜を詰め合わせたお取り寄せ「イチバのハコ」では、注文を受けてから商品を用意する。在庫を持たないことでリスクを回避した。また、単一商品の通販は初期投資が少なく済むが、その分、小規模でも参入しやすく競争が激しい。既に多くの食品通販サイトが存在するなか、こはくらしさを出すために「ストーリー性」、「提案力」、「デザイン力」で差別化を図った。市場の人や生産者の想いを取材し、自社メディアで発信した。地元在住者によるレシピを同封し、料理の楽しさを提案、顧客の75%が女性であることを意識したロゴ、パッケージデザインで統一した。

 

短期間かつ低コストで事業を立ち上げるコツ

 宿泊と体験ツアーを提供する観光事業者が、まったく畑違いの食品EC事業をなぜ、たった1カ月で立ち上げることができたのか。山田氏はポイントを2つ挙げる。

1つ目は他社のホームページ制作無料ツールを導入して内製化で作ることだ。ECサイトは、イスラエルのWix(ウィックス)を使い、山田氏自身がデザイン以外のほぼすべてを制作した。2つ目は完成度60点で走り出すことだ。高い完成度を求めていては時間がかかり過ぎる。60点くらいの段階で、周りの知人やメディア関係者にテストしてもらい、フィードバックを得ることにより短期間で完成度を高めることができたと話す。

 

観光業で培ったネットワークを活かしてメディア露出に成功

新規事業を立ち上げても、お客様に知ってもらわないことには始まらない。そこで立ち上げ当初最も力を入れたのがPRだ。コストをかけずにメディアに露出するために、なぜ、今のコロナ禍で観光事業者がお取り寄せサイトをやるのかについて社会性、新規性を感じられるストーリーで訴えた。地元金沢に密着して体験ツアーをやってきたネットワークをフル活用して、金沢市観光協会の公式サイトや地元の北國新聞、全国の地方新聞社が厳選するお取り寄せサイト47clubにも掲載してもらった。その結果、事業立ち上げ3カ月でNHKを始め新聞、雑誌など15社以上のメディアに掲載され、一気に知名度が上がった。

 

新規事業継続のためには顧客のコミュニティ化が必須

「イチバのハコ」立ち上げから3か月、主力であった体験事業の昨年売上の50%程度まで成長した。しかし、直近の7~8月は少し伸び悩んだという。今後継続していくためには顧客のコミュニティ化が課題だという。利用者は地元在住者や地元にゆかりがある県外客が約8割を占める。これらの顧客の購買データを分析し、今後マーケティングを強化していく。

もう一つの課題である人手不足については、過去勤務していた豊田通商(株)労働組合と連携したプロボノ活動利用することでカバーしている。現在、20~30代の物流、金属、広報等の様々な部署に所属する8名が参加し、リモートワークでイチバのハコのプロモーション等の3つのプロジェクトをスタートさせている。

 

既存事業と連携を強め、相乗効果を狙う

今後の事業展開として考えているのが、体験、宿泊、ECの3本柱を連携させながら、伸ばしていくことだ。体験では、もともとこはくの人気ツアーだった近江町市場ツアーのオンライン化を検討している。通常は非公開の場所が見られたり、市場で働く人と双方向で対話できたり、その場でECでお取り寄せできるといったオンラインだからこそできる付加価値を組み込む。宿泊では国内客向け宿泊プランの多様化、ECでは記念日やイベントに合わせた商品造成でラインナップを増やす予定だ。宿泊中にイチバのハコの食材を試してもらうなど、宿泊とECの連携も強化していく。

最後に山田氏は「新規事業をやろうと決意できた一番の原動力は、地元や観光業界関係者から応援だった」と語る。その土地ごとに独自の食文化がある。その魅力をストーリー性を持ってお客様に伝えるができれば、イチバのハコのような取り組みは日本全国どこでも可能だとメッセージを送った。

 

【登壇者プロフィール】

株式会社こはく 代表取締役 山田 滋彦氏

京都の大学を卒業、総合商社でアフリカ、中近東等の海外の自動車事業開発、管理、米系総合コンサルティングファームで、製造業向けの事業計画立案からトランスフォーメーションの実行を支援に従事。2018年にコンサルティングファームを退職し、インバウンド向けに体験型観光などを手掛ける株式会社こはくを設立。

 

【開催概要】
日時:2020年8月21日(金)15:00~16:00
場所:ZOOMウェブセミナー
主催:株式会社やまとごころ

 


【今後開催予定のセミナー】

withコロナ時代の観光戦略 vol.8 ~海外DMOのコロナ禍対応と未来戦略~

2020年9月3日(金) 16:30~17:30

最新記事