インバウンドコラム

ツアーの未来を考える~感動を生みだすために必要な要素とは~/withコロナ時代の観光戦略 vol.13

2020.10.21

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新型コロナウイルス感染症拡大の影響で旅行スタイルが一変し、体験事業者においてもオンラインツアーの動きが一気に加速した。自宅に居ながらにして参加できるオンラインツアーは新たなビジネスチャンスとなった一方で、オンラインならではの難しさもあるようだ。今回は日本初となるオンラインバスツアーを展開して注目を集めた、香川県の琴平バス株式会社 楠木泰二朗氏と、広島を拠点に地域の歴史や文化などのストーリーを活かしたサイクリングツアーsokoiko!を展開する株式会社mint 石飛聡司氏を招き、オンラインツアー成功の秘訣やリアルへの誘客についてお話を伺った。香川県、広島県それぞれの地域を知り尽くしたプロの視点から、これからのツアーの役割や提供できる価値について考えていく。モデレーターは株式会社やまとごころの堀内祐香が務めた。

 

コトバスのファン、四国地域のファン作りを目指してきた

琴平バスでは高松空港と観光名所を結ぶバス事業のほか、オリジナルのバスツアーや香川名物のうどん店を巡るうどんタクシーなどを展開している。近年はインバウンド市場にも力を入れ、外国人向けツーリストインフォメーションを自社で運営し、瀬戸内国際芸術祭のオフィシャルツアーでは世界20カ国からの参加があった。

今回のコロナ禍ではいち早く5月からオンラインバスツアーをスタート。着想から実施まで約3週間という短期間で実現できたのは、普段からリアルのバスツアーで培ってきた企画力とコミュニケーション力があるからだ。

 

有料でオンラインツアーを展開するために必要なこと

無料のオンラインツアーも多く存在するなか、琴平バスでは事業を継続させるために、オンラインツアーを有料サービスとして実施することを決めた。有料とするからには、お客様に参加して良かったと思ってもらえる価値を提供する必要がある。事前に自宅へ地域の特産品を届けてツアー中に一緒に味わったり、生中継により地元ガイドさんのお話を最前列で聞けたり、オンラインツアーの世界観に参加してもらう仕掛けとして参加者みんなで歌うなどエンターテイメント性も織り込んだ。ツアー90分間のうち、最後の30分は交流会として双方向コミュニケーションを図っている。また、定員15名と少人数にあえて絞ることで、一人一人との関係性を深めるようにしている。

 

顧客との関係性を築き、将来のリアル誘客へつなげる

その結果、既にオンラインツアーのリピーターも獲得し、「あのガイドさんに会い行きたい」という声が多く寄せられるという。オンラインツアーを通じて、ガイドのファン、コトバスのリピーターを作ることが将来のリアルへの誘客につながると楠木氏は強調する。

10月3日には米国の旅行会社と連携して、コトバス初のインバウンド向けオンラインバスツアーも実施した。香川名物のうどんを始め、愛媛の道後温泉、徳島の吊り橋・かずら橋、高知県のうなぎと日本酒など四国の美味巡りをテーマに全編英語で紹介した。米国の西海岸、東海岸エリアから合計20~30人の参加があり、今は行けないが、いつか四国に行ってみたいとの声が寄せられた。

 

地元目線でストーリーを語ることで感動を生むサイクリングツアー

広島でサイクリングツアーsokoiko!を展開する石飛氏は、地元広島を訪れる外国人観光客が平和記念公園と宮島など有名な観光地だけ見て帰る現実を知ってもったいないと強く感じ、異業種から観光業への参入を決意した。本当の広島の魅力を伝えるため、プラス3時間滞在を伸ばすコンテンツ作りを目指し、サイクリングツアーを始めた。

sokoiko!が提供するツアーの特徴は、地元の人が案内する完全ローカルという点と、起承転結のストーリー性を持たせた内容であることだ。例えば、平和公園など主要観光地を単に案内するだけではなく、地元の人しか知らないエピソードを織り込むことで共感・感動してもらえるツアーなどを提供している。石飛氏自身がアパレル業で培った接客経験を活かし、一人一人のお客様に合った柔軟なおもてなしをすることで、海外の観光客にも支持を広げた。年間ツアー参加者数は創業1年目は60人程度だったが、3年後には1000人まで増加。2019年にはトリップアドバイザーのエクセレンス認証、2020年にはトリップアドバイザートラベラーズチョイスの認定も受けた。

 

コロナ禍で国内市場強化に、オンラインツアーは第4の広告

これまで参加者の95%が外国人観光客だったsokoiko!では、コロナ禍で4月以降の客数が0となったが、今こそ真の意味で世界中の旅行者に向けて事業を発展させる好機と捉え、これまで手薄だった日本人マーケットの開拓に注力した。その一環で始めたのが、修学旅行のオンラインツアーだ。今後はsokoiko!で培ったガイド力、ツアー商品造成力を生かしたフランチャイズ展開も見据え、複数の自治体と連携を進めている。

そんな石飛氏はオンラインツアーを、チラシ、ホームページ、YouTube動画に次ぐ、第4の広告として捉えている。オンラインツアーとは、言わば「会えるパンフレット」の役目を果たしていると強調する。さらにYouTubeとの違いは「双方向で会話ができる点」だと指摘する。

 

コロナ関係なく、価値を提供できるオンラインツアーは残る

オンラインツアーの今後について、リアルが動き出しても残ると二人とも口を揃える。リアルの場合、安全性や人数制限からNGになるコンテンツも、オンラインならOKが出るケースがある。オンラインでしか実現できない価値をしっかり組み込むことで有料コンテンツとして今後も成立する。また、小さな子供連れや足腰が弱った高齢者など旅行に行きたくても行けない人にとってオンラインツアーは参加しやすい旅行体験だ。コロナに関係なく、幅広い層の顧客獲得ができる新たな収益源として可能性は広がる。

 

ガイドに求められるものは語学力や知識量よりも「楽しませ力」

また、AIとガイドの役割については、知識だけならAIで済むが、ガイドの役目はまずお客様を楽しませることが優先で、一人一人のお客様に目を向けて柔軟に対応することは人にしかできない価値だとの認識で共通していた。

石飛氏は「AIは常に最適な答えを出してくれるかもしれないが、予期しない新たな発見があるからこそ、また旅に出たくなる」と話す。楠木氏も「何回も行きたい場所とは、突き詰めると人に会いに行っている。コトバスでもお客様と名前で呼び合える、相手の懐に飛び込んでいけるガイドはお客様からも愛されている」と話す。

最後に視聴者へのメッセージとして、楠木氏は「明るく、ポジティブに頑張りましょう」、石飛氏は「厳しい状況でもお客様に楽しんでいただくという気持ちを忘れず取り組んでいきたい」と語ってくれた。

 


【登壇者プロフィール】

琴平バス株式会社 代表取締役 楠木 泰二朗氏

香川県生まれ。地元大学を卒業して家業である新日本ツーリストへ入社。キャブステーション(東京)への出向を経て現在に至る。“Something New!” “Smile & Hospitality”をコアバリューとし、うどん型行灯が特徴のうどんタクシー、囲炉裏を搭載したKOTOBUS IYA VALLEY号、四国88ヵ所を完全踏破する歩き遍路ツアー、瀬戸内国際芸術祭オフィシャルツアーなどを企画・運営。日本初のオンラインバスツアーが大ヒットし、メディアでも多数紹介される。日本ご当地タクシー協会理事長。

 

株式会社mint 代表取締役社長 石飛 聡司氏

広島市出身。アパレル会社から独立して㈱mintを創業。地域に貢献できる業界として観光の世界に入り、様々な企画に取り組む中で自社事業のsokoiko!を立ち上げ。地域の歴史や文化のストーリーを活かしてツアー造成。観光地だけではなくローカルな良さをポイントにしている点などが外国人観光客からの高評価を受け、現在東京、江田島など他地域での展開も行っている。

 

【モデレーター】

株式会社やまとごころ やまとごころ.jp 編集部 堀内 祐香

兵庫県出身。大学卒業後、大手メーカーの海外営業を経て、2015年に入社。百貨店や商業施設のインバウンド対応支援及びインバウンド戦略立案のコンサルティング事業を経て、2017年よりやまとごころ.jp編集部へ。ポータルサイト中心だったやまとごころjpのオリジナルニュースやデータインバウンド、インバウンド事業者向けインタビューなどコンテンツの充実化を進める。現在は新しい動きをする観光事業者向け取材とインタビューを中心に手掛ける。

 

【開催概要】
日時:2020年10月9日(金)11:00~12:00
場所:ZOOMウェブセミナー
主催:株式会社やまとごころ

 

本セミナーのYouTubeアーカイブ配信はこちら


【今後開催予定のセミナー】

世界を知る、海外超富裕層の心を掴むおもてなしとは?/withコロナ時代の観光戦略 vol.14
2020年10月23日(金)15:00~16:00

サステナブルツーリズムの潮流と今後求められる対応/withコロナ時代の観光戦略 vol.15
2020年10月30日(金)10:30~11:30

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