インバウンドコラム

14回 インバウンドブームに踊らされないために

2016.02.25

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この1年で、日本の各県や地方都市では、地元経済活性化のきっかけづくりや起爆剤として、訪日外国人観光客を受け入れる準備が急激に加速化している。 こうした動きに比例して、弊社でも、日本人ディレクターが外国人スタッフを伴い地方を訪れてフィールディングや取材を行う機会が増えているのだが、実際に現場に足を運んでみて感じるのは、早くからから外国人観光客の受け入れ、いわゆる”インバウンド対策”を進めている地域や企業は別として、ここ1、2年で急に取り組みはじめた自治体などは、世の中の”インバウンドブーム”に乗り遅れてはいけないという焦りだけで、やみくもに何かをしようとしている印象が強いということだ。

目次:

あなたの店(地域)に来ている人は本当に中国人?
他地域を理解することの重要性
海外に積極的に出かける

インバウンドを一過性のブームで終わらせず、施策を成功に導くために、地方自治体や企業は何をすべきなのか。私は、いまこそ、自らが積極的に国内外に出て行き、自分が観光客になってみることが重要だと考える。

 

あなたの店(地域)に来ている人は本当に中国人?

少し辛口になってしまうが、インバウンド関連の仕事で地方を訪れていて、一番危機感を覚えるのは、インバウンド施策の担当者自身が、外国人のことを理解していない点だ。時には、インバウンド施策の専門家を名乗る方の中にも、外国人や海外についての理解が低いと感じる場合さえある。

例えば、「うちの地域には、中国人観光客がたくさん来ているんですよ」と担当者は話すのだが、実際に、その地域に来ている”中国系(にみえる)観光客”に話しかけてみると、中国(大陸)出身ではなく、香港や台湾の人であったり、はたまた、シンガポール人であったりするケースも珍しくない。つまり、中国語を話す台湾人や香港人、シンガポール人と、大陸出身の中国人との区別がついておらず、シンガポールや香港の人の多くは中国語のほかに英語を話すが、彼らのことは一括して”英語が話せる中国人”とみなしている。

本当に効力のあるインバウンド施策を行いたいのであれば、中国大陸、台湾、香港はそれぞれ異なる地域からきた考え方や嗜好性の違う人々であり、さらには、シンガポール、マレーシア、インドネシア、そしてタイにも、華僑と言われる中華系が数多くいることくらい理解しておく必要があると強く言いたい。

さらに付け加えるなら、中華系という共通項はあるが、彼らからすると、一括りにされたくないのが本音であると知ってほしい。また同じ中国語でも繁体字と簡体字があり、繁体字は香港や台湾、簡体字は中国大陸で使用されるが、香港や台湾出身者の中には、簡体字に対して抵抗感を持つ人も少なくないし、併記を嫌がる人も多いのだ。

 

他地域を理解することの重要性

山形県の取材に出かけた時のことである。山形県は、人口に対する蕎麦の店舗数が日本一であり、また、世帯あたりのラーメン消費もダントツ日本一で、麺好き人口が日本一の県として有名だ。確かにいたるところに蕎麦屋を見かけるが、ラーメン消費日本一の割にはラーメン屋が少ないことが気になった。

地元の人にヒアリングしてみたところ、山形ではラーメン専門店は少ないが、その代わり、蕎麦屋に必ずラーメン(または中華麺の鳥そば)のメニューがあるのだそうだ。なるほど数軒回った蕎麦屋には、必ずラーメンのメニューが! これは日本全国でも非常に珍しい例ではないだろうか。そのことを案内してくれた地元の人に告げると、少し驚いたような表情で「地元では当たり前のことなので、気が付かなかった」と言う。

実は、ここに初心者のためのインバウンド施策のヒントが隠れていると私は思っている。

日本の地方は、どこにいっても温泉があり、大自然があり、伝統工芸があり、美味しい食材と郷土料理がある。それぞれが魅力的で甲乙つけがたい。だが、裏を返せば、他地域と似たり寄ったりのアピールとなってしまい、特徴が出しにくいということにもつながる。

また、日本の地方には、古くからの藩制度の確執がいまだに残っている場合があり、同じ県内であっても隣町同士、連携するどころか、互いに批判をしている場面に遭遇して、非常に残念だと感じる。外国人観光客にとっては、地域の呼び名だの地元の歴史的背景より、その地域には今現在どんな魅力があって、何が体験できるのかが重要である。極端な話、地域(県)の名前などは、どうでもよいのである。

例えば、長野県の地獄谷温泉は、いまや世界中から観光客が集まるが、長野県だから行くのではなく、猿が温泉に浸かる地獄谷がある長野県だから足を運ぶのである。もちろん、インバウンド施策が進んでいる長野県としては、地獄谷温泉を餌(?)に、それ以外の多くの長野県の名所もあわせて旅してほしいと考えて、その他のコンテンツ開発やPRにも力を入れているし、また、青森県では、お隣の北海道のニセコに集まる外国人スキーヤーたちに八甲田の魅力を伝え、ニセコ以外のところでもスキーを楽しみたい人々に働きかけており、ぞれぞれ、成果がではじめていると個人的に見ている。

地域の魅力を外国人観光客にアピールし、インバウンド施策を成功に導く上で大切なのは、訪れる外国人がどう感じるのか、外国人目線での地域の魅力(コンテンツ)の掘起しと同時に、他の地域の特性もしっかり把握し、どう差別化を図っていくのかだ。また、場合によっては、自分の地域のみではなく、似たようなコンテツを持っている地域や隣り合っている地域と連携しての情報発信を行うことが重要だ。

 

海外に積極的に出かける

他地域の魅力を理解し、自分の地域コンテンツを冷静に分析することは非常に重要だが、もうひとつ同じくらい大切なことがある。それは自らが外国人観光客になってみることだ。自分自身が外国人観光客となってみることで、海外から来る観光客が求めているものが見えてくることがある。

もちろん、海外とひとことでいっても、国によってそれぞれ文化や歴史、習慣が違うし、価値観も違う。この自分たちの常識とは”違う”ということを自ら体験することで、外国人観光客の気持ちがいくらかでも理解することができるようになるだろう。外国語に自信がなかったとしてもたいした問題ではない。異なる文化に接するなかで、自分が面白いと思ったこと、困ったことなど、自らの体験をもとに見えてくる “おもてなし”の在り方が必ずあるはずだ。

それはつまるところ、インバウンド施策の対象となる相手国の習慣や文化を理解することにつながり、その相手国からの観光客をどうもてなせば喜んでもらえるのかがわかってくるのではないだろうか。

 

今回の第14回のコラムを持ちまして 「アセアンから見たニッポン!リアル現地レポート-和テンション株式会社」は、定期掲載が終了となり、今後は年に数回の不定期での更新になります。

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