インバウンドコラム

【いま学ぶ・富裕層】1回の海外旅行で1人100万円以上を使う富裕層とは一体どんな人たちなのか?(後編)

2020.04.07

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コロナ回復時に向け“いま学ぶ”富裕層。
JNTOが膨大なリサーチをして捉えた世界の富裕層の姿、行動の実態から、JNTOの小林大祐氏に伺ったお話を前、後編でお届けしている。前編は、JNTOがターゲットとしている富裕旅行者の定義づけと分類について。後編となる今回は、世界の富裕層が具体的に何を求めて旅行をしているのかについてご紹介していく。

 

富裕旅行者が求めているのは「本物の体験」

—富裕層の方たちは旅行先にどのようなことを求めているのでしょうか?

最近のトレンドとしては、「本物の体験」を求める方が多いです。インバウンド業界でよく話題に上っている「モノ消費からコト消費」という傾向が、富裕層マーケットではより顕著に出てきます。お金を持っているので欲しいものは何でも手に入るわけですが、体験となるとその場所に行かないとできないからです。これまで富裕層に人気だったのは、イタリアやフランスといった誰もが知る観光地でしたが、最近ではキューバやアイスランド、クロアチアなど、これまで注目を集めてこなかった国の人気が上昇しています。富裕旅行者の間では、行ったことのない、何があるかもわからない国で新しい体験を求める傾向が強くなってきていて、日本も富裕層に人気上昇中の旅行先にランクインしています。

 

[富裕旅行市場の最新トレンド]

 

—では、旅行先としての日本に求めているものは何でしょうか?

富裕層が日本旅行に求めているのは食や文化、ホスピタリティなどです。訪日旅行をした富裕層に日本旅行を選んだ理由を尋ねたところ、「本物の日本文化・伝統に触れたい」「日本人のライフスタイルに触れたい」「日本食を楽しみたい」といったものが上位に入っていました。そのため、日本ならではの魅力や日本でしか体験できないことを打ち出していくことが重要なのです。私が中東に行った時に聞いた話では、現地では日本のことを「Planet Japan」と称することがあるようです。中東の人たちは日本に対して、地球外の別の惑星のように未知なる国だというイメージを持っているそうです。日本はすごく神秘的で興味があるし、極東の小さな国なのに独特な文化や歴史を持っているからすごいという見方をされています。一方で遠すぎてよくわからないため、旅行先として考えるのは難しいと考える人たちも多い。だからこそいかに魅力的な形でわかりやすく紹介するのかがポイントだと思います。

 

富裕層に刺さる魅力的なコンテンツとは?

—どんな観光コンテンツであれば富裕層の方たちに来てもらえるのでしょうか?

通常のインバウンド旅行者であれば、日本に来たからこそできる、価値のある観光コンテンツがあれば来てもらえます。ただ、富裕層はそれだけではダメで、価値を提供する際に工夫が必要とされます。どんなにいい食材があっても料理人が下手であれば美味しくないのと同じで、どんなに価値のあるコンテンツでも、提供の仕方が悪いとその価値をちゃんとわかってはもらえません。例えば各地域の工房で伝統工芸品を実際に作って体験するというコンテンツがありますが、お弟子さんや一般の人が教えることが多いと思います。ところが、富裕層は本物のプロから教わりたいという気持ちが強いので、例えば人間国宝から直接手ほどきを受けて作るなど、値段は高くても一歩踏み込んだ特別なサービスの提供が必要になります。次に、「融通のきく体制」もポイントになります。富裕層は、貸し切りたいとか、普段は非公開になっているところに入りたいなどの要求が強く、特別感を大事にしています。一般の旅行者と同じものを見るのではなく、自分だけのために開けてほしい。そういった高い要求のオーダーがあるので、柔軟に対応できるような体制を整えておくことも重要です。

 

—お金を出すからこそ、本物で特別感のある体験をしたいという人が多いのですね。

あるホテルのコンシェルジュの方は、富裕層のお客様から「東京大学の〇〇先生が万葉集を研究していると聞いた。うちの娘が大学で日本文化を勉強していて、今日その教授から直接レクチャーを受けたいと言っている」といったオーダーを受けたこともあるそうです。そういったオーダーに対していかに柔軟な対応ができるのかというところで、ビジネスが左右されるということです。さらに言えば商品性、つまり商品としてきちんと完成されているのか、たやすく手に入らない稀少性があるのかという点が重視されます。「1日1人限定」とか「高価である」ということが重要で、日本人は安くサービスをしたがる傾向にあるのですが、価値に見合ったお金をつけるというのが実は大事なのです。富裕層の方は価値のあるものに対してはいくらでもお金を払うので、決して安売りをする必要はなく、自信を持って値段をつけてもらうことが大切です。こうしたことを念頭に置きながら観光コンテンツを磨き上げていってほしいですね。

 

—富裕層に向けてうまく価値を提供しているコンテンツの具体例はありますか?

先ほどの話にもありましたが、通常の陶芸工房ではお弟子さんや一般の方がグループ単位で決まった時間に伝統工芸について教え、体験してもらうというコンテンツが多いのですが、それでは富裕層の方は満足しません。それと比較して、富裕層向けの取り組みをされている岐阜県の加治田刀剣さんでは、刀匠自らがマンツーマンで教えるというスタイルを取っています。そうなると付加価値が出て、誰にでもできる体験ではないのでお金が取れます。この体験コンテンツは1人10万円近い料金設定ですが、外国人が殺到しているそうです。

 

[富裕旅行向けコンテンツ磨き上げの視点]

 

—実際に日本を訪れた富裕層は満足していると感じますか?

昨今の傾向として、旅行の目的や興味関心は多様化してきています。日本には、日本ならではの魅力や日本でしか得られない特別な体験など、多様な観光コンテンツが一定程度揃っているため、満足していただいていると認識しています。一方で、今後はより幅広いコンテンツ(日本の伝統文化以外にも、自然や食、モダンアートなど)の造成や整備も進めていくことが課題ですね。

 

—最後に、富裕層向けのコンテンツ開発を進めている人たちに一言アドバイスをお願いします。

 

▲JNTO小林大祐氏。4月1日より海外プロモーション部 欧米豪・中東グループ 欧州・中東チームリーダーを担当されている

これは富裕層に限った話ではないのですが、地域のブランドを作っていくにあたり、まずは地域の観光資源についてしっかりと把握する必要があります。実は今あるもので十分だということをお伝えしたいですね。大事なのはそれをインバウンドの方、あるいは富裕層の方に刺さるように磨き上げていくことです。また、点だけで旅行する人はいませんので広域で連携することが大切です。何かひとつフックになるようなコンテンツをもちながら、広域で連携してルートを作り、シェアしていく必要がある。さらには、ストーリー性やその土地に根付いた歴史や文化をしっかりと伝えていくことで、日本ならでは、その土地ならではの魅力が生まれます。テクニカルな部分ではしっかりとターゲットを絞り込んだプロモーションを実施していくことも大切ですね。

 

 

 

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