インバウンドコラム

旅行者のニーズに基づく観光DXが成否のカギを握る【日本の旅ナカ市場拡大のヒント】

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これまでで一番思い出深い旅行は、どのようなものでしょうか。多くの方にとって旅行で最も思い出に残っているのは、旅先で「誰」と「どんなこと」をして過ごしたかだと思います。例えば、フランスのモンサンミッシェルを大切なパートナーと訪れた、ルーブル美術館で卒業旅行の友人とモナリザを見たなど。そして、ハワイでサーフィンやダイビングをしたい、エジプトのピラミッドを見たいなど、これからやりたい旅ナカの体験は旅行の大きな目的です。

インターネット上にこれだけ情報が溢れ、スマートフォンなどの便利なツールが存在する現在でも、初めて行く旅先では、言葉が通じない、行きたかった観光施設のチケットが取れない、せっかく参加した現地ツアーが日本人ばかりで旅の風情が楽しめない、目的地までの行き方がわからない、といったトラブルがよく起こります。

ところが、これまで解決が難しかった多くの課題も、テクノロジーを活用することで解消し、満足度と効率をあげていくことができます。また新型コロナウイルス感染症の対策として非接触化などはいままで以上に求められています。そのため、DX(デジタルトランスフォーメーション)は旅行業界でも注目されており、多くの企業で導入が進んでいます。

今回は、旅ナカのDXについての現状や導入のメリットについて紹介します。

前回記事はこちら:【日本の旅ナカ市場拡大のヒント】稼げる旅ナカ体験をつくるために、今だからこそ取り組むべきこと

 

 

旅ナカ市場のオンライン化に関する現状

アトラクションチケットから空港送迎、クッキングクラスまで多種多様なカテゴリーの商品が存在するが故に複雑な構成となっている旅ナカは、デジタル対応が他の旅行領域よりも進んでいない領域といえます。

旅ナカのオンライン化比率を正確に把握することは困難ですが、フォーカスライトが2017年に発表したレポートによると、日帰りツアーやアトラクションチケットなどの世界のオンライン比率は、2019年には26%程度になると予測されており、アトラクションチケット単体でも約3割との予測でした。ただし、世界のレジャーホテルのオンライン化比率は65%なので、それと比べて旅ナカのオンライン化は大きく遅れてきました。

デジタルシフトが進んでいない理由として、旅ナカは中小企業の割合が大きく、デジタルに投資する予算が少ないことや、デジタル対応するほどの規模がないため必要性を感じていなかったという点が挙げられます。

 

コロナ禍で急速に進む旅ナカのオンライン化

しかし新型コロナウイルス感染症により、従来から増えていた直前予約の傾向が加速したことに加えて、一般的な販売経路となっていたトラベルデスクやホテルコンシェルジュなどオフラインでの販売が困難になったこと、そして感染症対策の一環として日時指定入場による混雑緩和や非接触決済の導入などの必要に迫られ、オンライン化は大きく進んでいます。

ゲットユアガイドが展開する欧米市場でも、従来オンライン販売を行ってこなかったヨーロッパの有名な観光施設が積極的なオンライン販売をはじめたり、感染症対策とあわせてチケットカウンターの廃止など踏み込んだ対策を始める企業も増えています。

日本国内においても、コロナ禍で運営を続けるほとんどの美術館や博物館が、入場制限のために日時指定入場を導入するにあたりオンライン予約を開始しました。しかし、入場制限だけでなく日時指定入場にしたことで、柔軟に予定を組みたい旅行者にとっては非常に不便になり、システム導入や感染症対策の追加コストに加えて、売上が減ったため収益は悪化する傾向があります。

こういった背景でDXの導入が進んでいることもあり、感染症対策以外の目的でDXを行う利点について焦点があたりづらいようにも思いますが、実は、DXは利用者にとっても事業者にとってもメリットが非常に多くあります。

 

今取ろうとしている施策が「DX」かどうかを判断する3つのポイント

DXの定義は、2018年に経済産業省がとりまとめた「デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドライン」に掲載されています。

それによると

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

と定義されています。

この中で使われた以下の3つのキーワードに照らし合わせると、企業が取ろうとしている対策がDXなのか否かがわかりやすくなります。

・データとデジタル技術の活用
・顧客や社会のニーズに基づく
競争上の優位性の確立

DXを考えるうえで事業者の効率化などのメリットに注目しがちですが、DXとデジタル化(IT化)の大きな違いはユーザのニーズにフォーカスしたデータやデジタル技術の活用を行い、競争上の優位性につなげられているか、という点だと言えます。

 

DXを考えるにあたって欠かせないタビナカ体験における旅行者のニーズ

それでは旅ナカの体験における旅行者のニーズとはどんなものでしょうか。大きく2つに分けることができます。

1.柔軟な予約体験へのニーズ

旅ナカ体験は冒頭に書いたように旅の主な目的となることが多いです。例えばミラノにあるレオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」を見たい!など、旅の大きな目的の場合、事前に予約することもあります。実際にそういったチケットは数カ月前に予約しないと取れないことも頻繁に起こります。しかし、その他の多くの体験は旅先で過ごし見聞きするなかで予約することが圧倒的に多く、予約から体験までの時間が非常に短いのが特徴です。

従来型の電話やトラベルデスクなどの予約形式だと、営業時間などの制約があるため当日予約はおろか、午前中スタートの体験の場合、前日の午前中や2日前までに予約する必要があり、多くの旅行者が予約したいのにできない状況に陥っています。

ウェブ予約や即時予約確定を直前まで可能にすれば、旅行者はやりたいと思った体験をいつでも予約することができるようになるため、旅先を十分に満喫することが可能になります。

2.トラブルの無い快適な旅行へのニーズ

チケットを紛失する、道に迷う、言葉が通じない、カードが使えない、現金が足りない、予約時間を間違うなど多くの旅行者にとって、不慣れな旅先は常に不安とトラブルがつきまといます。

こうした不安を解決する上で、テクノロジーは欠かせない存在になってきています。旅ナカがDXすることによって、紙などの細々した持ち物が減る以外にも、地図アプリを使って迷わずに観光施設やツアーなどの集合場所に自力でたどり着けたり、何か不測の自体が起こった際に、より簡単にサポートを得ることができるようになります。DXの大きなメリットは、アプリやシステムを接続することでお互いの機能を利用する「API」という仕組みを使い、既存のサービスを拡張的に活用してこういった課題を解決していくことが可能な点です。

APIという仕組みによって、ユーザーは、既存のアプリ上で他の優れたシステムを利用することができるようになります。例えばサービスの会員登録を既存のFacebookなどのソーシャルメディアを利用して行ったり、アプリの地図情報にGoogleマップを利用したりすることはAPIの存在なくしては成り立ちません。このほかにも非常に多くのサービスがAPIを活用しています。

(提供:ゲットユアガイド・ジャパン株式会社)

 

旅行者のニーズを満たすために、旅ナカ体験事業者ができるDX

このように、旅行者のニーズはテクノロジーを駆使して大幅に改善することが可能です。ここではどのように実現できるのかを説明していきます。

1.即時予約・直前予約にあたって大切なDXとは?

ゲットユアガイドでは即時予約や直前予約は常に提案していますが、事業者の方から、

「直前の予約を現場が把握できない」

という声をよく聞きます。対応にあたって事業者の方がの悩むポイントのひとつがこの点にあります。

予約の把握については、非常に多くの企業が従来「エクセル」でリストを作成し、現場にファイルや紙で顧客リストを渡すため、これが直前までの予約受付の妨げになっていることが多々あります。

エクセルはデジタルではありますが、データをスマートフォンやPCなどの端末に落とすため実際のデータはオフラインに移行しています。これをクラウド上でグーグルシートなどオンラインに留めると、リアルタイムの情報に基づいて現場と顧客リストの共有ができるため、事実上、ツアー開始時間の直前まで、空き状況に応じて予約を受け付けることができます。

DXを実現するポイントは、情報をオフラインに降ろすことなく全てインターネット上で完結することです。デジタル化したプロセスのどこかで、本来は必要のないオフラインへのデータ移行することなくオンラインで完結すれば、DXのメリットを最大限に得ることができます。ただ、ここで注意しなければいけないのは、オフライン作業に慣れ親しんだ関係者からは強い反発に合う可能性がある点です。データを紙などオフラインに落とすプロセスを挟むと、顧客へのメリットが薄れ、競争優位性が失われるだけでなく、オフラインで加えられた変更などの情報(来場状況、キャンセル情報など)を改めてオンラインに移行する作業が発生するため効率も悪くなる。安易にオフラインのプロセスを挟まないように、こうした点を納得してもらう必要があります。

2.トラブルのない快適な旅行の実現に欠かせないDX

トラブルの無い快適な旅行の実現については、ゲットユアガイドでも力を入れています。ゲットユアガイドの旅ナカ体験を予約し、私たちが用意する旅行者向けのアプリを使うと、予約詳細などの情報の他に下記のような機能がモバイルバウチャーに実装されており、予約情報から利用することができるようになっています。

・集合場所への行き方を地図アプリなどで調べる
・現地体験事業者への電話やメール、メッセージなどでの問い合わせ
・スマートフォンなどのカレンダーへの予定の追加
・同行者へのバウチャーの共有
・iPhoneの場合、Walletなど簡単にアクセスできる場所へのバウチャーの登録

海外旅行では特に、言語や住所表記、交通システムやインターネット環境などが自分の住んでいる国と大きく異なるため、迷わずに集合場所にたどり着くことすら大きなハードルとなります。

自社独自で上記のようなシステムを導入するのは難しいのでOTA等を利用するのも手段として有効ですが、自社でも簡単にできることがあります。例えばサイトやバウチャー上に地図や路線図を載せるのではなく、オンライン地図サービスへのリンクを載せたり、QRコード等を掲示することで、情報を入力せずとも簡単にアクセスできるようにすることが挙げられます。これだけでも、旅行者の利便性は格段にあがります。ここでも重要なことは、今現在のやり方に拘らずに顧客目線でテクノロジーを活用してより良い体験にすることです。

(提供:ゲットユアガイド・ジャパン株式会社)

DXにおいて大事な考え方は、単純に既存の物をそのままデジタル化するだけでなく、旅行者にどのようなニーズがあり、どのように解決できるかを考えて極力すべてのプロセスをオンラインに移行することだと言えます。

 

筆者プロフィール:

ゲットユアガイド・ジャパン株式会社 日本オフィス代表
仁科 貴生

英国高校留学を経て米国カリフォルニア州立大学を卒業。楽天株式会社に入社後、楽天トラベルで主に北関東エリアでオンライン集客支援を行い、東日本大震災を契機に楽天社内でエネルギー事業の立ち上げに取り組む、その後メタサーチ大手KAYAKの日本事業の立ち上げやホテル予約サイトAgodaにて首都圏・東日本エリアでのインバウンド集客支援を経て2018年よりゲットユアガイドにて日本法人の立ち上げに従事。

 

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