インバウンドコラム

旅ナカDXの2つの視点、「攻め」と「守り」で旅行者と事業者双方のメリットを生み出す

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前回のコラムでは、旅行の大きな目的である旅ナカの現状、その中で旅行者にどのようなニーズがあり、旅ナカをDX(デジタルトランスフォーメーション)することで、彼らにどのようなメリットがあるのかを紹介しました。
おさらいとなりますが、2018年に経済産業省がとりまとめた「デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドライン」で提言したDXの定義とは

・顧客のニーズに基づき
・データとデジタル技術の活用することで
・競争上の優位性の確立する

という3つのポイントに集約されています。

旅行者のニーズを満たすことが企業の差別化につながるわけですが、具体的に事業者側にどのようなメリットがあるかは、導入を検討する上で気になる点だと思います。

今回はDXを導入するアクティビティ事業者にとってのメリットを紹介していきます。

前回記事はこちら:旅行者のニーズに基づく観光DXが成否のカギを握る【日本の旅ナカ市場拡大のヒント】

 

事業者がDX対応することで得られる「守り」の側面

DX導入のメリットは、費用削減や効率化などの守りの側面と、売上アップや顧客満足度向上などの攻めの側面の2つに大きく分けることができます。

守りのDXの側面として挙げられるのは以下の2つです。

・業務の効率化

DXによって、業務効率があがるという点は良く言われますが、旅ナカにおいてはどういうことを意味するでしょうか?
一番のメリットは予約管理の点だと思います。一般的に、新型コロナウイルス感染症対策として非接触が推奨される中、オンライン予約が増えていますが、オンラインで事前にチケットなどを購入した旅行者の情報を、現地で照合する必要がでてきます。
ツアーの場合、集合場所でのチェックインの際、アトラクションの場合はチケットカウンターでの引き換えの際に発生しますが、DX対応ができていない場合、サービス提供側は、参加者リストをプリントアウトし、その用紙をもとに現地で照合するのが一般的です。当然ながらこの場合、プリントアウトした紙を受付場所まで運ぶ物理的コストや、印刷する機器の購入コストなども発生します。
オンラインで顧客リストを管理すれば、スマートフォンやタブレットといった多くの人が持っている端末からアクセスすればいいので、先述のリストの運搬や印刷機購入のコストは発生しません。また当日受付を担当する人が参加者リストを持参し忘れたり、電車の遅延といった想定外の事情でリストを持って来られないというリスクもなくなります。
加えて、当日集合時間に参加者が現れない場合、参加者リストを見ながら直接電話やメールを送ることもできます。
また急な変更や当日キャンセルも、クラウド上でリストを管理し共有していれば、そのリストを最新の状況にアップデートすることで関係者に共有できるので、都度の連絡など余計な業務が削減できます。

・費用の削減

業務効率という観点でのコスト削減もありますが、アナログ対応はコストもかかる傾向があります。例えば、観光施設や美術館や博物館などの「入場券」をデジタルに移行すれば、紙にかかる費用や印刷、デザインの費用などを削減できます。感染症拡大を期にDXに積極的に取り組んでいるイタリアのミラノ大聖堂ではチケットカウンターを廃止しました。観光客は原則、事前にインターネットでチケットを予約するか、現地の各所に設置されているQRコードを読み取りその場で予約をするかのどちらかです。そうすれば、チケットにかかる諸費用はもとより、カウンターの設置費用や現金の管理にかかる費用も大幅に削減することができています。またDX対応により、カウンター業務をしていた人により大きな付加価値を産む仕事に割り当てるなど、人的リソースの最適配分もできます。

紙への印刷などアナログ対応を続けるリスクは年々高まっていることにも注意が必要です。紙のリストは個人情報の流出リスクと隣り合わせであり、例えば、GDPR(EU一般データ保護規則)による巨額の罰金規程があるEUの顧客を受け入れる場合、大きなリスク要因となります。また環境負荷については、特に先進国を中心に大きな関心ごとになっています。配慮が行き届いていない企業への批判がレビューなどで寄せられ、評価を下げる要因となることも増えています。変化していくことよりも、現状に留まることの方がリスクが高まる状況となりつつあります。

 

DX対応することでタビナカ事業者が得られる「攻め」のメリット

ここまで「守りのDX」について話してきましたが、「攻めのDX」は、どういった点があるのでしょうか?

・競合との差別化で予約数の増加

前回のコラムで紹介した通り、旅行者のニーズである「直前の予約対応」にDXによって寄り添うことができれば、必然的に競合他社がリーチできない顧客にアプローチでき、予約数を伸ばすことができます。
例えば富士山へのデイトリップや景観を楽しむ展望台を訪れるツアーの場合、旅行者にとって天気が良いかどうかは、体験そのものの満足度を左右するので、非常に重要な要素となります。
実際、日本でインバウンド客に人気の富士山への日帰りツアーや、オーロラ観賞のような、当日の天候に左右されるアクティビティの評価を下げる大きな要因は「悪天候」です。
天候の良い日に行きたいという旅行者のニーズを満たすために、テクノロジーを駆使して予約者が出発の直前まで予約できるようにした場合、DXをしていない競合企業がアプローチできない予約を独占できます。また、そのことで参加者の満足度も高まり、評価の良いレビューが集まりやすいので、商品やサービス自体が選ばれやすくなります。

・高付加価値化への対応が、少ないコストで容易に

どの業界においてもデジタル対応の大きなメリットはデータが取得可能なことと、変更コストが最低限に抑えられるため様々な取り組みを実験的に行うことができる点です。例えば、ファミリー層の取り込みを強化するためにファミリーディスカウントを導入する際、デジタル対応していれば、画面上のシステム変更のみとなるため比較的安価に取り組むことができます。また、ディスカウントの設定を備えているOTAを利用すれば、かかる時間も変更作業の数分間だけに抑えることが可能です。
また、デジタル対応していれば、チケット購入者数だけでなく、Webサイトやページを訪れた「購入を検討した人の数」に関するデータも取得できるので、より効果的な施策への改善を効果的に行うことが可能になります。
これが、アナログな手法をとっていれば、例えばチラシの作成などコストもかかる上に、データの取得も難しいので、施策に対する効果検証も難しくなります。


(提供:ゲットユアガイド・ジャパン株式会社)

 

柔軟な対応と効果検証の繰り返しで、旅行者から選ばれるサービスに

旅ナカのようなデジタルにおける歴史が浅い分野では、まだ見つかっていない成功法則が多く存在する可能性があります。世界で成功している旅ナカ事業者の特徴は常に、データを活用して付加価値をあげる努力をしています。
こうした取り組みによって、データに基づいた柔軟な商品変更や、変更後の効果を計測できるようになります。ヨーロッパからの旅行者に一番人気のドバイのツアー会社であるオーシャンエアーでは創業からお客様のレビューなどのデータを元にツアーの改善を繰り返しており、それによって大手企業よりも多くの旅行者を引き付けています。
また入場時間ごとの料金変更や季節ごとの料金設定などのダイナミックプライシングも、紙のチラシなどのオフライン対応の場合は、変更に時間を要したり変更の度にかかる印刷コストなどの制約がありますが、デジタルであれば柔軟に対応を行うことで来場者の満足度を維持しながら最大限の収益をあげることが可能になります。日本では東京スカイツリーなどが平日と週末など繁閑に応じた料金変更や水族館とのバンドルチケットの取り組みを積極的に進めています。

DXの定義の通り、顧客のニーズに寄り添うことがDXの肝となります。それによって企業としての優位性を確立することが可能になり、収益の向上につなげることが可能になります。
旅ナカの領域は、まだまだ市場規模が伸びていく領域です。そのなかでお客様に満足いただきながら大きなシェアを取っていくためにはデジタル技術の活用は不可欠だと言えます。

 

筆者プロフィール:

ゲットユアガイド・ジャパン株式会社 日本オフィス代表
仁科 貴生

英国高校留学を経て米国カリフォルニア州立大学を卒業。楽天株式会社に入社後、楽天トラベルで主に北関東エリアでオンライン集客支援を行い、東日本大震災を契機に楽天社内でエネルギー事業の立ち上げに取り組む、その後メタサーチ大手KAYAKの日本事業の立ち上げやホテル予約サイトAgodaにて首都圏・東日本エリアでのインバウンド集客支援を経て2018年よりゲットユアガイドにて日本法人の立ち上げに従事。

 

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