インバウンドコラム

withコロナの観光業を救う10のキーワード vol.3 いま「マイクロモビリティ」に注目が集まる理由

2020.07.15

村山 慶輔

印刷用ページを表示する



今、世界中で「マイクロモビリティ」に注目が集まっている。今般のコロナ禍で加速する3密回避(=快適さ)への追求が後押しとなっているが、本を正せば、観光客と住民の双方における利便性の向上と、環境に配慮した持続可能な乗り物を追求するためのものである。本稿では、電動自転車、電動キックボード、電動バイク、電動小型自動車といった複数の形態を持つ「マイクロモビリティ」が持つ可能性と活用法について、検討していきたい。なお、日本の国土交通省は「超小型モビリティ」と呼んでいる。

 

「マイクロモビリティ」とはなにか?

そもそも「マイクロ(超小型)モビリティ」とはなにか。その答えは簡単ではない。

国土交通省の定義によると「自動車よりコンパクトで小回りが利き、環境性能に優れ、地域の手軽な移動の足となる1人〜2人乗り程度の車両」となっている。同省の「地域から始める超小型モビリティ導入 ガイドブック」を参照すると、利用車両は大きく分けて、超小型自動車(制度に基づく認定車両)と「ミニカー」と呼ばれる原動機付き自転車(3輪または4輪)の2種類からなるようだ。

しかし、世界的な流れでいえば、マイクロモビリティは電動キックボード、電動自転車、電動バイクが主役の座についている。いずれもシェアリングエコノミーの流れをくんだものであるが、なかでも電動キックボードは米国のスタートアップ企業LIMEとBIRDが創出した市場で、欧米の都市圏を中心に広がってきている。

どちらをマイクロモビリティと呼ぶかは問題ではなく、大事なことはそのエリア特性に合ったモビリティを導入することであると私は考えている。

▲Photo by i Stock

 

「電動キックボード」に代表される都市型マイクロモビリティ

都市に合ったモビリティ(ここでは仮に都市型マイクロモビリティと呼ぶ)と言えば、欧米を中心に広がる電動キックボードや電動自転車であろう。都市観光においても、地域住民の足としても利用価値の高い都市型マイクロモビリティであるが、残念ながら、日本では利用しやすい状況にあるとはいえない。

たとえば電動キックボード。日本では道路交通法上、原動機付自転車に類されるため、免許が必要であるうえ、ヘルメットの着用が義務付けられ、ブレーキや方向指示器、バックミラーの取り付け、ナンバープレートの取得などが求められる。また、歩道や公園を走ることも許されない。

ICT分野の急速な技術革新の進展を受けて、産業の生産性向上に必要な支援を行うことを目的に2018年6月に施行された「生産性向上特別措置法」のなかで〝規制のサンドボックス制度〟と呼ばれる、実証実験を行う制度がある。これは、革新的なサービスを事業化させる目的で、地域や期間を限定した形で規制を緩和するものであるが、すでに電動キックボードは2019年11月にモビリティ分野の認定を取得しており、今後の展開が期待される。

もちろん電動自転車で十分という意見もある。しかし、シェア自転車はその大きさから事業化へのハードルは電動キックボードよりも大きい。こうした都市型マイクロモビリティは、利便性が成功の鍵となることから、サイクルポートと呼ばれる保管場所は可能な限り省スペースにできるといいからだ。

 

郊外型マイクロモビリティには、超小型自動車やミニカーが相性がよい

農村部や自然公園、離島といった郊外に合ったモビリティ(ここでは郊外型マイクロモビリティと呼ぶ)は、国交省が推奨する、より機動力のある超小型自動車やミニカーと相性がよいといえる。

自転車も悪くないが、移動距離が10キロを超えてくると、体力に自信のある人やサイクリストを除くと、体力的に厳しくなる。坂道がある場合にはよりハードルが高まるし、悪天候にも弱い。

また、都市型マイクロモビリティは、利便性を考慮するとサイクルポートの数が多いほどよいといえるが、郊外型マイクロモビリティは、そうであるとは限らない。たとえば規模が大きくない離島であれば、フェリー乗り場にあれば十分であろう。自然公園であれば、拠点となる施設にあれば事足りる。

当然、レンタカーやタクシーでよいという意見もある。しかしレンタカーの利用は運転に慣れない観光客、とりわけ外国人客にとってハードルが高い。加えて、従来の自動車を利用したレンタカーやタクシーは、その大きさから維持費もかさむうえ、排気ガスによる大気汚染や野生動物への衝突といった自然への影響も大きい。タクシーに限れば、特に地方エリアではドライバーの人材難や高齢化も叫ばれて久しい。そうした意味でも、郊外型マイクロモビリティは、地域特性に合ったものといえ、持続可能性を持つ。

では、環境意識の高い欧米を中心に世界の動きについて見ていこう。

▲photo by iStock

 

世界の動き1:フランス・パリで盛り上がる電動キックボード

フランス・パリでは、2018年ごろからシェア電動キックボードが広まってきている。米国発のLIMEやBIRDはもちろん、追随する新興勢力も含め、十数社が進出しており、パリに暮らす住民や観光客により幅広く利用されている。

当初は法整備が整っておらず、縦横無尽に走り回ることができたが、2019年10月にフランス政府が法律を制定し、いくつかの規制をかけている。

運転可能なのは12歳以上とし、2人乗りは禁止。市街地では自転車専用レーンに限って走ることが許され、専用レーンがない場合は時速50キロ以内に制限されている車道であれば走行が認められているようだ。また、電動キックボードの最高速度は時速25キロ以下に制限されている必要があり、2020年7月1日以降はライトやブレーキなどの装備も義務付けられた。

なお、パリでは、国の規制に先立ち、独自の対策として規定の駐車スペース以外の駐車を禁止に。最高時速度を20キロ、混雑している箇所では時速8キロに制限しているようだ。

電動キックボード利用の仕組みはこうだ。あらかじめ個人情報を登録したアプリを開くと、GPSが内蔵された電動キックボードの位置情報が地図上に現れるので選択する。選択した本体を見つけたらQRコードをスマホで読み込めば解錠され、乗ることが可能になる。

パリでの最高速度は先述のとおり、20キロであるが、場所によってはより厳しい時速制限をかけている。そのエリアに入ると、自動的に最高速度が制限される。返却にあたっては、駐車禁止エリアが定められており、これもGPSによって制御されている。料金は利用時間に応じて、アプリに登録したクレジットカードを通じて支払う形になっている。

 

世界の動き2:エコ先進国・ニュージーランドにおける2つの取り組み

環境保全の先進国であるニュージーランドでは、エコツーリズムに対応したマイクロモビリティが広がっている。ここでは2つの事例を紹介したい。

1.自然エネルギーを利用した電動バイクをエコツーリズムに活用@グレートバリア島

ニュージーランド最大の都市オークランド北東100キロに位置するグレートバリア島は、手付かずの自然が残る285平方キロメートルの島で、隠れた観光スポットとして国内外に知られている。つくば市ほどの広さを持つこの島は、自然エネルギーを利用した電動バイクをエコツーリズムに活用している。

電動バイクは、土地や他の旅行者の邪魔をせずに、自然の美しいエリアを探索するのに最適な方法であるとして、ニュージーランドの新しいツアー会社Motubikesは、前後輪駆動のオフロード用電動バイクUBCO「2X2」のレンタル事業を行っている。重要な点は、この電動バイクを「ソーラー充電ステーション」によって充電しているところである。自然エネルギーを活用したモビリティは、島を訪れた観光客が持続可能な方法で探索するのに最適であるといえる。

というのも、グレートバリア島は、オークランドからボートで3〜4時間、または飛行機で30分というアクセスの良さをもつ一方で、完全にオフグリッド(電力会社の送電網につながっていない状態)の島であるからだ。

 

電動バイクの充電を自然エネルギーが担う

同社は、輸送用コンテナを太陽光発電の基地局として再利用している。屋根に16枚のソーラーパネルを設置し、9台の電動バイクの充電をすべてまかなっているという。

見た目もクールなUBCO「2X2」は、省エネ機能に優れていることに加え、アウトドア仕様(大型のタイヤ、デュアルサスペンション、2輪駆動の牽引力など)を持ち合わせている。これらの機能により、島の細く曲がりくねった道路やさまざまな路面や地形を探検するのに最適だといえる。

オーナー兼オペレーターSeagar Clarkson氏は、2020年のはじめにMotubikesを設立し、当初は世界中の観光客にサービスを提供することを目的としていたという。しかし、周知のようにCOVID-19が発生し、ニュージーランドも例に漏れず、世界の他の地域からの出入国を閉鎖したため、地元のキーウィ(ニュージーランド人)たちを主要な顧客と見立てているようだ。

同氏は、ウェブメディア「Electrek」に対して、次のようなコメントを発している。「正直なところ、この夏はかなり忙しくなりそう。グレートバリア島は、まだ行っていない楽園の一角として、多くのキーウィたちのディスティネーション候補にあがっている。今の制限された旅の中、この島は非常に魅力的だからね。冒険心さえあれば、美しいビーチ、森、海で特別な時間を過ごせるよ」

2.家族経営のサステナブルなツアー@セントラル・オタゴ

もう一つの事例は、ニュージーランド南島にあるセントラル・オタゴのスタートアップによる取り組みである。興味深いのは、このサステナブルな試みが家族経営であるという点だ。

LandEscapeは、セントラル・オタゴの素晴らしい景観と農場、電動自転車(80台のスイス製YouMo)の機動性、薪を利用した露天風呂を組み合わせたツアーを実施している。

オーナーのRik Deaton氏は、政治・社会問題やポップカルチャーなどを扱うニュージーランドのオンラインメディア「THE SPINOFF」上で、「提供したいのは、管理された団体旅行ではなく真の旅行体験。e-バイクとe-ビークルは、交通手段を永遠に変えようとしている」と語っている。

今の自分たちの生活を見直すきっかけにもなるようなエコツーリズム、すなわち同社のような再生可能エネルギーをベースとした田舎暮らしの醍醐味を味わえるコンテンツは、今後より注目度が高まるだろう。

 

日本国内の動き:十数台の超小型電動自動車でエコツーリズムを推進する大分・姫島

国土交通省が2020年3月に発表した「超小型モビリティの導入事例」では、43ものプロジェクトが紹介されている。そのなかで、観光目線で注目したい取り組みを紹介する。

瀬戸内海に浮かぶ大分県の姫島は、漁業および観光業が主要産業の人口約2000人の村である。約50年前からワークシェアリングを実施したり〝HIMESHIMA IT ISLAND〟と称しリモートワークができるようコワーキングスペースをつくったりするなど、先端的な取り組みを行う離島としても知られる。

そんな姫島では、地域活性化プロジェクトの一環として、マイクロモビリティによるエコツーリズムを推進している。姫島エコツーリズム推進協議会は、3台のトヨタ「コムス」(1人乗り)、7台の日産「New Mobility Concept」(2人乗り)、4台のヤマハ「ランドカー」(4人乗り:3台、7人乗り:1台)を所有し、公共交通機関のない島内における観光客の周遊性を向上させている。

姫島にはフェリーを使えば自家用車での訪問も可能だが、その運搬には多大なエネルギーが必要である。2013年に日本ジオパークネットワークにより認定された「姫島ジオパーク」が持つ豊かな自然資源を守りながら、観光振興を進めるためには、あまり得策とはいえない。

姫島のマイクロモビリティはすべて電動であるが、商用電力を用いていない。太陽光発電を用いた自然エネルギーによる充電を可能にする充電ステーションを設置しているからだ。

ちなみに同島の取り組みは、2019年3月に「低炭素杯2019」で環境大臣賞グランプリも受賞している。

 

エリア特性に合ったマイクロモビリティを選ぶことが重要

冒頭でも書いたように、一口にマイクロモビリティといっても、その形態は一つではない。具体的には、電動キックボード、電動自転車、超小型電動自動車、電動バイクなどがあり、それぞれにメリット・デメリットがあるため、いかにエリア特性に合ったものを選べるかがレンタル事業の成否をわけるといえる。

本稿では、大きく都市型と郊外型で分けて説明をしたが、考慮すべきことはほかにも複数ある。たとえば既存の交通事業者との事前協議や折衝は、地域全体の良好な関係性を保つために不可欠だ。エネルギーを太陽光発電に頼るのであれば天候も気になるだろう(日本一晴れの日が多い香川県は、年間平均約250日が好天だといわれるが、日本一晴れの日が少ない秋田県では、好天は年間平均約159日しかない)。

ただ、新型コロナウイルスの影響もあり、3密を避ける乗り物であるマイクロモビリティへの注目度は、今後高まっていくことが予想される。であるならば、いかに事業として成り立つのか、すなわちさまざまな補助金や助成金に頼ることなく継続できる取り組みにしていくのかも検討していくべきだろう。

たとえばマイクロモビリティに内蔵したGPSによって得られる移動データの二次利用、三次利用を考えていく。ユーザビリティの向上はもちろん、観光マーケティングや広告に活用することで、収益力を上げることもできるだろう。利用するためのアプリと連動させることで、プッシュ型の広告(地域の体験アクティビティや地域特有の食べ物屋や民芸品店など)を打つような事業モデルも考えられる。

日本の地方の観光エリアには、広義の「車」がなければ周遊できないようなところも少なくない。一方、日本の若者の間では〝車離れ〟が進んでいる。したがって、外国人観光客だけでなく、日本の若者にとってもマイクロモビリティは有用性があるといえ、withコロナの観光を進めていくうえでは検討の余地があるだろう。

 

筆者プロフィール:

株式会社やまとごころ 代表取締役 村山慶輔

神戸市出身。米国ウィスコンシン大学マディソン校卒。経営コンサルティングファーム「アクセンチュア」を経て、2007年に日本初インバウンド観光に特化したBtoBサイト「やまとごころ.jp」を立ち上げる。インバウンドの専門家として、2019年内閣府 観光戦略実行推進有識者会議メンバーを始め、各省庁の委員・プロデューサーを歴任。2020年3月には自身7冊目となる「インバウンド対応実践講座(翔泳社)」を上梓。

最新記事