インバウンドコラム

withコロナの観光業を救う10のキーワード vol.4 ビジネスの目的から考える「オンライン/バーチャルツアー」成功の秘訣(前編)

2020.07.29

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新型コロナウイルスの収束に見通しが立たない中、旅行業界ではオンラインツアーやバーチャルツアーなど新たな試みが活発になってきている。特に、その土地での“旅のシミュレーション”を可能にするバーチャル・リアリティの活用は過去数年間、世界中の観光地で急速に増加している。本稿では「オンライン/バーチャルツアー」の国内外の事例とともに、その成功の秘訣に迫りたい。

 ▲photo by i Stock

 

“オンライン体験がリアルでのデスティネーションを左右する時代

ここ数年、技術の発展のみならず汎用性の向上に伴って裾野が広がっているバーチャル・テクノロジーは、目的地やホテルを探索するユニークでイマーシブ(没入型)な体験を可能にしている。こうした革新技術は、アクセシビリティが低い文化遺産や、一般公開されていない、あるいはできない保存文化財へのアクセスも可能にする。

観光地側とりわけマーケティング担当者は、インターネットを通じて潜在的な旅行者に無形の観光体験を伝えることができる。重要なのは、リアルな旅の目的地を決める際、オンラインでの体験が決定打となり得ることだ。

そんなオンライン/バーチャルツアーであるが、今般のコロナ禍でより注目度が高まっている理由は「“3密”が避けられる」「移動が不要」「遊休施設・人材が活用可能」といったメリットがあるからだ。しかし、コロナ禍における一過性の取り組みだと効果は薄い。世界の観光業に打撃を与えているこのパンデミックに関係なく、いかに継続的な事業として行うかが求められるだろう。

継続的な事業として行うために考えるべきは、「集客の方法」「課金のしくみ」「他者との差別化」などである。さらに、どのテクノロジーを採用するか、どのような商品やサービスと組み合わせるかなど、それぞれのビジネスの目的に合ったやり方を選択することが重要なポイントとなる。

 

オンライン宿泊はコロナショックに関係なく、今後もニーズあり

2020年6月に開催した当社セミナーに登壇いただいた、オンライン宿泊の先駆け後呂(うしろ)孝哉氏のゲストハウスWhyKumanoの取り組みや、唐沢雅広氏の「あうたび」が主催したオンラインツアーのように、ZOOMを使用したオンライン宿泊やツアーは主催者と参加者、また参加者同士のリアルタイムでの交流(インタラクティブコミュニケーション)が可能になるという点でメリットがある。

さらに動画やクーポン、特産品などの物販を組み合わせることで「収益確保」や「他者との差別化」につなげることも可能である。

WhyKumanoのオンライン宿泊は、20~30代をメインに高校生から70代まで、また外国人、足が不自由な方など幅広い層の利用があったという。「旅行のハードルが高いゲストの受け皿にもなり得ることを考えると、オンライン宿泊はコロナショックに関係なく、今後もニーズがある」と後呂氏は述べている。

 

オンラインサービスが、低リスクでの新事業立ち上げのきっかけに

さらに同氏は、先のセミナーで次のような印象的なコメントもしている。

「もし、これから観光で起業を考えている人がいれば、まずは無料でできるオンライン店を開くことをおすすめします。事前にお店のイメージを映像で伝えたり、接客の練習やファンをつくる場として有効です。下準備でオンライン店があれば、実店舗がオープンしたときにスタートダッシュしやすいと思います」

オンライン/バーチャルツアーでコロナ以前の収益を取り戻すことが難しいとしても、プロモーションとしての効果は大いに期待できる。既存の集客方法よりも、費用対効果が高いのならば、コロナ収束後も継続する価値があるといえるだろう。また、最近では、投銭制度機能も整ってきている。たとえば従来は広告収入が主だったYouTuberも、「スーパーチャット(スパチャ)」と呼ばれるこの機能で、ファン(視聴者)からの支援を得るという流れもある。

なお、こうしたオンラインツアーは、ライブ配信によるものがほとんどである。ライブ配信では、リアルタイムならではの特別感や臨場感、そして緊張感を伝えられることに加え、最新情報を届けられることなどにメリットがある。

 

コロナ以前からあった動画配信の流れ

一方、録画した動画を提供するという方法もある。そのメリットは、編集によって質の高い映像を提供できる、繰り返しでの視聴が可能といった利点がある。このパンデミックを機に独自のYouTubeチャンネルを開設した事業者も少なくない。

その一つ、東京のスタジオジブリ美術館は3月からYouTubeチャンネルをスタートさせている。同館の閉鎖中、スタジオジブリのファンに美術館を体験してもらうのが主な目的だ。

通常、スタジオジブリ美術館へのビジターは展示の写真を撮ることが禁止されている。繁忙期を中心に、チケットが手に入りにくい状況もあったことを考えれば、ライブ配信ではないものの、動画の配信もファンにとって特別感があるといえる。

国連世界観光機構(UNWTO)をはじめ世界中の観光協会が動画を用いたデジタルキャンペーンで、その土地の美しい映像と未来への希望のメッセージを公開している。コロナ以前からあった動画配信の流れは、コロナ発生後も続いており、もう一度旅行に誘う強力なマーケティングツールとして重宝されている。

 

海外の美術館や博物館で広がるバーチャルツアーとは

もちろんこの動画配信においても、バーチャル・テクノロジーを用いる例が増えている。

その筆頭に挙げられるのが、コロナ禍によって一時閉館、あるいは一定の制限を強いられている美術館や博物館、ギャラリーであり、少なくない数の施設がバーチャルツアーを取り入れている。

たとえば英国・ロンドンにある「大英博物館」は、ロックダウン中の3月に同館のウェブサイト上で「自宅で博物館を体験できる11の方法」を紹介している。その中で最も人気があるのは、Googleストリートビューツアーであるという。もちろん、大英博物館の代表的な展示物、ロゼッタストーンや黄金のミイラの棺、モアイ像なども見ることができる。

この世界最大級の博物館に限ったことではないが、訪れたユーザーをさらに施設内部へと引き込むには、「没入感」が必要である。詳しくは後述するが、この「没入感」を与えるイマーシブ・テクノロジー(没入型技術)こそ、ポストコロナ観光の成功の鍵となると予測する専門家もいる。

ところで、先のGoogleストリートビューツアーには、ポップアップや追加の情報は含まれない。そのため、展示内容を理解するのは簡単なことではない。そこで利用されているのが、Google Arts and Cultureというサービスである。

同サービスは、展示の詳細に迫るために、画面下部のプレイス・カードから簡単にスキップして特定の作品の前までダイレクトに移動したり、美術品をクリックすることでより詳細に鑑賞したりすることができるため、アートを肌で感じるのに有効だといえる。

大英博物館でもGoogle Arts and Cultureは利用されているが、他の施設でも活用しているところは少なくない。アメリカ・マンハッタン島にあるソロモンR.グッゲンハイム美術館も、このGoogle Arts and Cultureを利用している。

▲大英博物館のGoogle Arts & Culture

 

成功の秘訣①「没入感」

ここで、前章で言及した斬新なイマーシブ・テクノロジー(没入型技術)について説明していきたい。

イマーシブ・テクノロジー(immersive technology)とは、3D、インタラクティブ機能、シームレス、グラフィックやアニメーション、音響効果などを用いて視覚・聴覚の連動をはかり、ユーザーに「没入感」を与える体験を提供する技術で、「拡張現実(AR)」「仮想現実(VR)」「複合現実(MR)」などとも呼ばれる。

最近では、アート集団・チームラボの視覚的なプロジェクションと物理的なインスタレーションを組み合わせたイマーシブな空間演出が人気を博している。

また、空間全体を作り上げるクリエイティブ・カンパニーとして注目を集めるNAKED,INC.は、2020年3月に新型コロナウイルス感染防止のため1週間で中止となった「FLOWERS BY NAKED -桜- 世界遺産・二条城」を自宅でも楽しむための、VRコンテンツとスマホゴーグルのセット販売を実施したり、温泉地とコラボした『オンライン温泉体験!』(入浴剤と360度VRのヴァーチャル星空ツアー、防水クリアケースのセット販売)を実施したりするなど、事業継続に向けた収益確保に、いち早くイマーシブ・テクノロジーを取り入れることで成果を上げており、話題となっている。

次に、イマーシブ・テクノロジーを利用した海外の観光事例もいくつか紹介しよう。

 

リアルRPG!? フェロー諸島で行われた“リモートツーリズム”とは?

ライブストリーミングとオンライン上のコントローラーを用い、独自性の高い「リモート・ツーリズム」を試みたのは、デンマークの自治領であるフェロー諸島である(※6/17に終了)。

フェロー諸島自治政府は、新型コロナウイルス感染の広がりを避けるため島外からの訪問を3月から禁止した。そこで同諸島観光局は、オンラインで世界中からこの諸島の魅力を体験できる「リモート・ツーリズム」を始めた。

観光客が、スマートフォンやパソコンで無料参加できるバーチャルツアーでは、ツアーが始まる時間になると、カメラを頭につけたガイドが歩く・走るはもちろん、カヤック、乗馬、ハイキングなどのアクティビティにも参加し、現地からリアルタイムで紹介する素晴らしい景色を、自分の住む街(家)から出ることなく楽しむことができる。

興味深いのは、「観光客」が画面上のコントローラーでジャンプボタンを押すとガイドが実際にその場でジャンプしてくれたり、行ってほしい方角を1分間「操作」することもできる点だ。さながら“リアルRPG”であり、イマーシブなコンテンツだといえる。オンライン上で、現地ガイドを遠隔操作するという世界初の試みが注目を集めた一例である。

 

エジプト、スペイン、バチカンの没入感あふれるバーチャルツアー

観光収入に大きく依存するエジプトでも、政府観光局による3Dバーチャルツアーが公開されている。遺跡の中を歩けるだけでなく、360度回転させて天井に描かれた壁画も見ることができ、ファラオ・ラムセス6世の墓の奥深くまで非常に詳細に視聴者を案内する見事な「没入型」ツアーである。

スペイン・バルセロナのピカソ美術館のHP上でも、印象的な建築物を360度見学できる。このバーチャルツアーは自動で動くしくみになっているが、ユーザーは自由にスクロールして好きな場所を見ることもできる。さらに、そのナレーションが素晴らしく、「没入感」を高める効果の一つとなっているといえよう。

▲ピカソ美術館の360度バーチャルツアー

バチカン市国のバーチャルツアーは、技術的にピカソ美術館に似ており、7つのスペースを360度見渡すことができるようになっている。画面からバチカンの壮大さを100%で感じることは困難かもしれないが、この体験の後、多くの人々がこの場所を訪れたいと思うようになるだろう。

日本政府による「Go To キャンペーン」に対する世論などから察するに、コロナの蔓延が収まりつつあったとしても、市井の人々の旅行へのモチベーションを高めるためには、特段のきっかけが必要そうである。それは、旅行代金の割引などの金銭的な優遇以外にも、旅行意欲を掻き立てることが挙げられる。そのためにも、より一層デスティネーションの魅力をしっかりと伝えることが重要だが、その実現の一つとして“イマーシブ・テクノロジー”は一役買ってくれるだろう。

 

ここまで、没入感を演出するテクノロジーについて事例と共に紹介してきたが、オンライン/バーチャルツアーを成功に導くにあたってもう一つ大切なことに「企画力」が挙げられる。

(後編へ続く)

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