第41回 通訳案内士インタビュー 河野貴代美氏

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第41回 通訳案内士インタビュー 河野貴代美氏

Q2.最初に通訳案内士の仕事を受けたときには、不安で受けたことを後悔したそうですね。

最初の仕事は前日にエージェントさんからいただいたため、下見する時間もありませんでした。そのうえ、都庁と六本木を案内するはずの予定が、当日になってお客様の希望で浜離宮とお台場に変更になりました。こうした事情で私自身が生まれて初めて行った浜離宮をご案内することになったのです。
今思うと無謀な初仕事ではありましたが、終わってみるととても楽しかったのです。最初に仕事を受けたちきには、泣きたい気持ちで不安がいっぱいでしたが、今では仕事を受けるたびに喜びを感じています。

通訳案内士にとって下見はとても大切なので、私も受けたツアーは必ず下見をするようにしています。けれども、この仕事は実際には当日何が起きるかわかりません。ですからたとえ下見していない所を突然リクエストされても断らずにお連れするべきです。ツアーはガイドが完璧な説明をするためにあるのではないので、お客様が行きたいのであればご案内して喜んでいただくことが大切だと考えています。

 

Q3.これまでで印象に残っているツアーにはどんなものがありますか?

最近では、東日本大震災の被災地である宮城県を訪れた団体ツアーがあります。仮設住宅を訪問したほか、実際に被災したドライバーさんやガイドさんに何が起きたのかを聞いて通訳しました。こうしたお話を直接聞くのは辛かったですが、貴重な経験でもありました。
このときも自分がいい仕事をしようなんて考えてはいけないと思いました。被災地の方々の気持ちを真心でお伝えすることに集中しました。

このほか、ご両親が沖縄から移民したハワイの日系2世の方のツアーも強く印象に残っています。エージェントさんや現地の役場の方などの助けを借りて、14日間のツアー中に、かつてその方のご両親の家のあった場所やご先祖の墓を探し出すことができました。30年ぶりに親戚の方と巡り合うこともでき、涙の再会を果たしたときには本当に感動的でした。

けれども、こうした印象のよいツアーばかりではありません。ガイドとして雇われている身の厳しさを切実に感じたこともありました。

カナダ人夫婦2組の16日間のツアーでは、食事をしに行ったレストランが貸し切りだったため空席があるのに食事をさせて貰えないことがありました。また、予約を入れるとセットメニューしか選べないというレストランもありました。ツアー中にこのような日本の融通のきかない場面にたびたび遭遇し、お客様のひとりがすっかり気分を害してしまったのです。

そのツアー後半では、宿泊する地方の観光旅館の部屋がタバコ臭いのを理由にお客様が旅館への滞在を拒否する事件がありました。クレジットカード番号をまだ提出していなかったのをいいことに、お客様のひとりが「キャンセル料は取られないで済むから、ここはやめて他のホテルに泊まろう」と同行者たちと話しているのが聞こえてきました。観光旅館は食事付きのため当日キャンセルは100%のチャージが掛かるのを承知で、それを踏み倒そうとするとは! 国家資格を持つ通訳案内士として私はそんなことを許すことはできません。もしお客様がそんなことを強行したら、私はこのツアーを降りようとまで考えました。
幸いホテル側が消臭スプレーを撒くことでお客様は納得しましたが、何かにつけて怒りを露わにするお客様を案内するのは、私にとって非常に厳しいものでした。

このツアー中、私は常にその不機嫌な方の隣にいることを自分に課しました。「私は平気」ということをパフォーマンスでもよいから見せなくてはと思ったのです。そのお客様が一番機嫌の悪いときにも、敢えて身を切る思いで隣の席に座りました。
本当は近寄りたくもないのですが、ここで逃げてはいけないと挑む気持ちでした。
こうした努力が相手に通じたようです。ふたりになったときにカナダでのご自分の仕事について詳しく話してくださったばかりでなく、後日知りあいの方が訪日する際には、ガイドとして私を紹介してくださいました。

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