第54回 通訳案内士インタビュー 嶋田明子氏

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第54回 通訳案内士インタビュー 嶋田明子氏 英語通訳案内士

Q2. 外国人訪日客が急増していますが、通訳案内士の仕事にはどんな変化が見られますか?

最近では、趣味や興味に合わせて訪問先を決めるお客様が増えています。美術や建築、庭園、アウトドア、オタク文化など、ひとつのテーマに特化したツアーを希望する方もいらっしゃいます。また、茶の湯、座禅、着付け、料理、農作業といった体験プログラムにご案内することもあります。

お客様の数が増えるにつれてニーズやリクエストが多様化しているので、ガイドは外国人観光客が興味を示すモノやコトに普段からアンテナを張り巡らせ、情報の引き出しをたくさん持っていなければならないと思います。

 

Q3. 既に通訳をしていたにもかかわらず、なぜ通訳案内士を始めたのですか。

性格的に通訳案内士に向いているのではないかと感じたためです。

通訳を始めたのは1990年です。日米両国で経験を積み、日本ではディズニー・シーの工事現場やシルク・ド・ソレイユの舞台設営のほか、国際交流事業、視察や商談にも立ち会いました。

けれども商談などで通訳をしていて話が先に進まなくなると、通訳は黒子に徹していなければならないのに、私は司会進行やまとめ役に回ってしまう傾向にあるようです。

私は旅行も好きですし、お客様の国の文化や習慣についてお話を聞くことができるのも通訳案内士の仕事の楽しみのひとつだと思います。

通訳学校には5年ほど通いましたが、集中してリスニングをしたり、クイックリスポンスをしたり、はっきりと明確にアウトプットする訓練はガイドの仕事に役立っています。

 

能の幽玄な雰囲気を楽しんで

Q4.能の魅力は何だと思いますか。

謡を習い始めて発見したのですが、能の魅力のひとつは、美しい日本語との出会いだと思います。曲のあちこちに万葉集や古今集などの和歌が散りばめられていて、優雅な言葉使いには感動します。

能には三保の松原や琵琶湖の竹生島などの観光名所が出てくるので、まだ行ったことのない場所に連れて行ってもらえるような面白さも感じられます。
また、例えば、小野小町や平知盛というような歴史上の人物が登場し、そうした人たちの思いや生涯を身近に感じることができます。演じる人もそれを見る人も、物語の場所や時代へと空間や時間の旅ができることもまた、能の魅力ではないかと思います。

ほとんどの場合、シテは面(おもて)をつけていますが、面の角度や扇の持ち方、足の運び等、ひとつひとつに人間的な感情を表現します。六メートル四方の舞台に最小限の演出といった制約の中で、能を楽しむには、見ている人が想像力を働かせる必要があります。

これまでにお客様を能楽鑑賞にご案内したことは数回ほどしかありませんが、物語の理解よりも舞台全体に漂う幽玄な雰囲気を楽しんでいただきたいと思っています。笛の音が橋掛りの向こうから聞こえてくると、現実とは異なる世界に誘われたような気分になります。謡の独特な節回しも浮遊感を感じさせてくれます。

外国人のお客様にとって能を見た感想は言葉にしにくいのかもしれません。手放しに喜ぶと言うよりも静かに「ビューティフル」と言う方が多く、雰囲気を楽しんだうえで面白かったと感じておられるようです。

 

Q5. 日本の伝統文化を外国人に説明する時、難しいのはどんな点ですか。うまく伝えるために、どのような工夫をしているのですか。

「百聞は一見にしかず」という通り、言葉だけで理解していただくのは難しいので、お客様に実体験をしていただくことを心がけています。

ガイドとして日本の伝統文化を説明するには、実際に自分が体験して感じたことをお客様に伝えたいと思っています。
そこで、8年ほど前に茶道を習い始めました。予算や日程の都合で茶道の体験プログラムをツアーに組み込むことが難しい場合は、バスの中で私が茶道の歴史や抹茶のいただき方を説明します。そして、茶道に由来する「一期一会」という言葉を紙に書いてお見せし、「お客様が日本に来て出会う人たちも体験することも一度きりです。一度きりのことを大切にしてください」と言い添えることにしています。

茶道以外では、宴会の席に着物を持ち込んで、着付けや季節ごとの着物の特徴などを説明することもあります。
また、時には懇意にしている旅館のロビーをお借りして書道教室を開き、お客様に筆と墨で漢字や仮名を書いていただきます。

日本の伝統文化を外国の方に説明するには、背景にある考え方をお伝えすると受け入れていただきやすいのではないかと感じています。
屋内で靴を脱ぐ日本の習慣を面倒くさいと感じる外国の方は少なくありませんが、座禅体験の時にご住職から教えていただいた「脚下照顧(きゃっかしょうこ)」という「脚元を見て自らの内面に向き合う」という意味の、禅の言葉を引用して説明したことがあります。すると、お客様全員が靴のつま先をこちら側に向けてきれいに下駄箱に並べてくださったのには、とても驚きました。

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