インバウンドコラム

クルーズ船は世界規模のインアウト促進  拠点港、寄港地として選ばれるには

2018.08.23

帆足 千恵

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前回は、クルーズにおける寄港地観光についてレポートした。最後に、様々なクルーズ船の設備や特色と、日本がクルーズの寄港地として選ばれていくためにはどうすればいいのか考察する。

 

ひとつの船で終わりなき旅行商品が連続する

実際に乗船してみて実感したのは、「クルーズが切れ目なく航路をまわり、クルーズ商品は複数できる」ということ。つまり、航空便のツアーのように「出発◯◯、帰着◯◯」ではなく、博多から乗船した人は、博多に戻るまでの旅程であり、舞鶴発は舞鶴に戻るまでの旅程となる。

思えばクルーズ船の旅は、世界規模でみると飛行機で発着港まで行き、クルーズ船に乗船する「フライ&クルーズ」が主流となる。今回では「フライ&クルーズ」として、釜山まで飛行機で訪れ、次に釜山までの航路を楽しむ台湾人旅行者や、福岡まで飛行機で訪問し、博多港から乗船する欧米系旅行者など。

1つの船に、寄港の度に、様々なエリアからの旅行者が集い、ひとときを共にして解散していく。

クルーズ船社は、自社のホームページで1年〜2年先のクルーズ予定を発表し取扱旅行代理店も追って商品を販売する。そのときに重視されるのは、客船の種類と航路である。外国船籍のクルーズ船は、通常カジュアル、プレミアム、ラグジュアリーに分類される(日本船籍には明確な分類基準はない)。中国発、日本発に配船されている2,000名以上の大型船は、ほぼカジュアルクラス。博多港に寄港するロイヤル・カリビアン、コスタ・クルーズ、ノルウェイジャン・クルーズラインもこのクラスである。

 

船によって、メインターゲットによって違う設備、デザイン

カテゴリーによって、船内の設備やサービスは大きく違ってくるが、そのなかでもメインとなる乗客の層によって、デザインやサービスを変えていることがある。「クルーズの旅の魅力」を書いた1回目のコラムでは触れていなかったレストランやスパ、カジノなどの設備について、船ごとの違いについて触れたい。

ここでは、視点をかえて、クルーズ船社側の立場から収益についてみてみよう。旅行代金が安い「カジュアル」なカテゴリーの船では、主に次の5つが収入源となる。

①アルコールなどのドリンク、(旅行代金に含まれない)有料の飲食 ②寄港地ツアー(船側が運営する場合)③カジノ ④スパやエンターテインメント ⑤免税店などの売上

私が乗船したクルーズでは、旅行代金約6万円でも、ビュッフェだけでなく、ランチとディナーは前菜やスープ、メイン、パスタ、デザートなどを選ぶコース料理も選ぶことができる。料理が出てくるのが遅い傾向もあったが、昨年のコスタビクトリアの日本海クルーズに参加した乗客は、「コース料理でもちょうどいいタイミングでサーブされた」との声もあり、オペレーションの問題もその都度あると思う。

欧米系の利用者だと、アルコールなどのドリンク代をよく消費する傾向にある。東アジア、特に家族連れだとそこまでアルコールを注文する人は少ない傾向にある。

3_1ビュッフェレストラン3_2ビュッフェ

寄港地ツアーは船側が主催するものと、チャーターした旅行代理店にまかせているものがある。船側による寄港地ツアーはツアー内容にもよるが一人70$〜100$程度で当然収益があがる。寄港地観光については、2回目のコラムを参照してほしい。

次に収益源として注目したいのはカジノ。現在、日本ではIRリゾートへの関心が高まっているが、やはり中国をはじめとしてカジノに興じる中華圏の旅行者は多い。日本航行中は公海上でしかできないため、時間は限られているし、日本人は楽しむ人が少ない。

7月28日に開催された「クアンタム・オブ・ザ・シーズ」の船内見学会では「中国人が多いとトランプなどのテーブルゲームが多く配置され、その他だとスロットマシーンが多くなる」という説明もあった。その船の雰囲気は、メインのターゲットによって変わってくることも多い。

3_5クアンタムカジノ

その他船内にはさまざまなエンターテインメント施設があり、有料のものもある。私が乗船した「コスタ ネオロマンチカ 日本海クルーズ」は、日本人メインということもあり、スパが充実し、スパサービスの営業も兼ねた美容講座も盛んに行われていた。海をみながらのトリートメントやジャクジー、岩盤浴などのリラックスは実に贅沢な気分が味わえる。水着着用で利用するため、ご夫婦やカップルで楽しむ方も多かった。

3_6クアンタムデッキ 3_7クアンタムスカイダイビング
クアンタム・オブ・ザ・シーズ」では、展望カプセルで洋上を見渡したり、スカイダイビングを疑似体験したり、サーフィン波も楽しめる

 

また、免税店は船により充実度は違うが、私の乗船したクルーズでは、ダンサーがモデルになって行うファッションショーで、サングラスや時計、バッグをPR! 乗客を呼び寄せて、タイムセールで一気に販売をしかけていた。

3_8コスタファッションショー
「コスタ ネオロマンチカ」でのファッションショー

 

「人との出会い」もクルーズの魅力

これまでは、船の設備やサービスについて総括してきたが、実は何ものにも代えがたいクルーズの旅の魅力がある。それは、「人との出会い」である。明るくて親切なクルー(スタッフ)とのふれあいは心から楽しかった。

私の担当のインドネシア人のDadangさんは、日本語も上手で、格式ばらずに素朴な優しさがにじみ出る人だった。

乗客同士も、パーティーや船内でのときを過ごす中で友だちになることも多い。私は一人だったこともあり、実に多くの日本人や韓国人の乗客と話しをした。特に、夜22時以降に開かれるディスコでは、日本人と韓国人、40代以上が多かったが、若い人も含めて、一緒になって踊っていた。「日本人ってよく踊るんだね」と韓国人ゲストも驚いていた。私は、釜山港から両親と乗船していた韓国人姉妹とディスコで仲良くなり、夜な夜な遊んだ。写真(右)のパーティーやディスコでDJをしていたイタリア人のジョゼッペさんや、仲間のイタリア人クルーとも、船内の生活について語り合ったりした。

 

3_9datangさん 3_10DJ
左:私のコンシェルジュのDatangさん           右:仲良くなった韓国人とDJとイタリア人スタッフ

 

「クルーズ」を日本人にとって身近なものに

今回乗船してわかったことは、日本人、韓国人、台湾人問わず、クルーズ客はリピーターが多いことだ。私が聞いただけでも、1年前に催行されたコスタビクトリアの日本海クルーズに乗ったという人が10名ほどおり、リピートした理由に「クルーズ旅のコストパフォーマンスの良さ」「船内にいるだけでも楽しい」という意見が多かった。高齢でも、幼児でも、船内でゆったり過ごせることもあり、幅広い世代が利用しやすいことも一因でもある。

中国発のクルーズでは、インセンティブ旅行が多いというのは知っていたが、日本でも「80名の社員旅行で、半分ずつに分かれて乗船しています」という20代の会社員グループもいた。レストランを貸し切ってのパーティーなどもできるので、クルーズ旅は団体、インセンティブ旅行に向いている。

 

アウトバウンドも増やして選ばれる寄港地に

今回の3回にわたるクルーズレポートの主題は、「中国発の日本寄港クルーズが落ち着いたこれからこそ日本の成長段階」ということだった。博多港をはじめ、九州、日本の港湾が大型クルーズ船を受け入れようと港湾の整備を行っている。せっかくハードを整備したのに、我が港湾に、日本にクルーズ船が来なくなる事態も予測される。現に、博多港で7月に見学会を行った「クアンタム・オブ・ザ・シーズ」は2019年11月〜2020年4月は、シンガポールを拠点とした4〜5泊のショートクルーズ、7泊クルーズに配船される。世界的には、カリブ海、地中海地域のクルーズが人気を博し、オーストラリアやアラスカも注目され、大型のカジュアルクルーズ船もそのエリアに配されている状況だという。

今こそ寄港地としての魅力をPRし、環境を整え、経験豊富なクルーズリピーターが寄りたい場所として選ばれる努力をしないといけない。また、航空路線と同様で、インバウンド客で好調なときはいいが、減少や停滞の傾向が見られるとすぐに路線を打ち切られてしまう。日本人のアウトバウンドが活況で、乗客の数割を占めていないと、直行便もクルーズ船も、もっと利益率が高い路線や航路に切り替えられてしまう。インバウンドを促進するにはアウトバウンドの活性化が不可欠。ツーウェイツーリズムを促進するしかないのである。

 

博多港の試み

福岡市は、2018年1月に締結した博多港と上海呉淞口国際クルーズ港との友好交流の覚書に基づき、「定期定点クルーズ」という国内初の新たな取り組みを始める。2018年9月から上海発着のクルーズ船を活用して、片道フライ・片道クルーズのコースや、福岡発着のクルーズコースなどを試験的に運用する。このことにより、これまで博多港から乗船する機会がなかった超大型クルーズ船のMSCスプレンディダとノルウェージャン・ジョイに乗ることができる。

なお、試験的に運用するクルーズコースは、以下の3パターンとなる。

【Aパターン】
往路:航空機,上海1泊,復路:クルーズ(3泊4日)

【Bパターン】
往復クルーズ(4泊5日)

【Cパターン】
往路:クルーズ上海1泊,復路:航空機(3泊4日)

参考:福岡市港湾空港局クルーズ支援課 平成30年8月1日発表報道資料

船での往復だけではなく、「フライ&クルーズ」で多様な旅行商品ができるのもクルーズ旅の魅力!

インバウンドに偏りがちだった博多港へのクルーズ船が、どちらの港からでも気軽に利用でき、博多港からクルーズ船に乗船する機会が増え、アウトバウンドの振興につながる。このツーウェイを実現できるか試金石でもある。このトライアルにも乗船して取材してみたいと思う。

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