インバウンド特集レポート
国土交通省によると、2017年にクルーズ船で入国した外国人数は253.3万人と過去最高を記録。外航クルーズ船の寄航回数は2014回で、港湾別では博多港が4年連続で1位(309回)。年間を通じてほぼ毎日のように数千人の上陸客が来るのに、地元の関心は低いという。いま日本のインバウンド・クルーズ旅行の現場で何が起きているのか。状況を改善するには、どんな取り組みが求められているのか。
日本のインバウンド・クルーズ市場は特異な発展をしてしまっている。誰のためのクルーズ船誘致なのか。そこに地元市民の支持が得られないようでは、健全なものとは言えない。欧米のクルーズ市場とも比較しながら、読み解いていこう。
1月下旬の早朝8時半。寒風吹き抜ける博多港国際ターミナルにロイヤルカリビアン社の巨大なクルーズ船「クァンタム・オブ・ザ・シーズ」が着岸していた。
博多港国際ターミナルの周辺に隊列するバス群と巨大なクルーズ客船
その日、福岡市内に上陸する中国からのクルーズ客は約4700人。昨年5月に大型客船の寄港に対応できるよう拡張工事を完成させた中央ふ頭の周辺には111台のバスが整列している。博多港では、冬場のこの時期も含め、これが1年中を通した日常的な光景だという。昨年の博多港の外航クルーズ客船の寄港回数は309回で、4 年連続全国一である。
だが、福岡市民のクルーズ船への関心は低いという。ヨーロッパやカリブ海など海外の人気クルーズ寄港地ではクルーズ客と地元住民が交流する姿を目にするが、福岡ではほとんどない。
なぜこんなことになってしまったのだろうか。
統計からみるクルーズ市場
国土交通省の集計によると、2017年にクルーズ船で入国した外国人数は253.3万人と過去最高を記録。外航クルーズ船の寄航回数は2014回で、港湾別では1位博多港(309回)、2位長崎港(197回)、3位那覇港(193回)と九州・沖縄方面に大きく偏っている。
日本に寄港するクルーズ船の多くが東シナ海を周遊する中国発であるためだ。2008年に初めて中国発のクルーズ船が博多港に寄港して以降、この10年間でその数は右肩上がりに上昇した。中国発のクルーズ客の急増は、これまで低迷していた日本のクルーズ市場に強いインパクトを与え、西日本を中心にした各港湾でクルーズ船誘致の機運が高まった。
もっとも、全国的な寄航回数の増加にも関わらず、2017年の博多港への寄港回数は前年をわずかに下回っている。その理由はあとで述べるとして、クルーズ船で入国する外国客の4割(2016年)が博多港であり、いまや福岡は日本一のクルーズ拠点となっている。
1月31日、その福岡で海外の船会社や全国の港湾関係者らを集めた会議(福岡クルーズ会議)が開かれた。今日の外航クルーズ市場の動向を知るうえで貴重な場であり、まずその概要をお伝えしたい。
東アジアのクルーズ市場は順風満帆?
第4回目となる会議の冒頭では、高島宗一郎福岡市長から博多港の現状をめぐる報告があった。
博多港にこれほど多くのクルーズ船が寄港するに至ったのは、成長する東アジアのクルーズ市場において福岡が絶好のロケーションにあることから有力な寄港地として選ばれたことにある。半径2.5km圏内の都心部に陸・海・空の玄関口がコンパクトに集積することも、クルーズ市場の場合、とりわけ優位性が高い。
その一方、中国発のクルーズ船でにぎわう博多港は、高まる需要の中ですでに供給力不足にあり、年間130件の寄航をお断りしているとのこと。年々大型化する中国発のクルーズ船の来航に対して岸壁延長の不足(ただし、2018年内にさらなる岸壁の延伸工事も進展中)や、もともと物流港をにわか仕立てで代用した経緯もあり、コンテナの並ぶ殺風景な港湾施設の受入環境の未整備を指摘された。
左:大型客船クァンタム・オブ・ザ・シーズと釜山との定期フェリーのカメリア号が博多港国際ターミナルに隊列している
右:クルーズ船の寄港するふ頭の周辺はコンテナの並ぶ蕪雑な環境だ
さらに、ロイヤルカリビアン社の関係者から東アジアクルーズ市場の現状と今後の見通しについての報告があった。それによると、クルーズ寄港地として日本に上陸した乗客数は2016年、17年ともに域内でも著しく伸びたこと。寄航先もベトナムやフィリピンに広がり、コースも多様化していることなどが話された。
ここまでの報告を聞くかぎり、西日本を中心に起きているインバウンド・クルーズ市場は順風満帆にみえるが、実際にはそうではないことが、その後の船会社の関係者が登壇して行われたパネルディスカッションで明かされることになる。その具体的な内容とは…
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